ピアニスト林正樹のこと。 〜林正樹 STEWMAHNアルバム『Crossmodal』リリースによせて〜

(2011.02.21)

現在、東京の音楽シーンを中心に活動しているピアニストで林正樹という人物がいます。年齢は32歳と、いわゆる演奏家としてはまだ若手の部類に入るのですが、彼のスケジュールをみると毎日のようにいろいろな所で演奏の仕事がはいっています。内容も多岐に渡っていてジャズ、歌手の伴奏、クラシック奏者との演奏、タンゴバンドに演劇の伴奏とさまざまです。コンサートの依頼もあればレコーディングの参加依頼も多く、これまでのリーダーアルバムや参加作品はホームページに載っているのはごく一部で、掲載されてないタイトルも含めれば相当な数にのぼります。ファンの人たちが彼を知るきっかけは「菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール」の活動だったり、超絶技巧のプログレタンゴバンド「Salle Gaveau」だったり、あるいは中西俊博氏とのヴァイオリンとピアノのデュオだったり、あるいはもっと意外な所かもしれません。前述したとおりいろいろなジャンルの音楽をやっているので、彼を知る機会はたくさんあります。

林正樹さん

さて、そんな多彩なジャンルを越境するピアニスト林正樹とはどんな人か、彼のプロフィールを紹介しましょう。

1978年東京生まれ。

ピアノを始めたのは5歳から。その時はあまり好きではなく、テレビゲームにはまり一度ピアノは辞めてしまいます。しかし、小学校の高学年になってからピアノがまた好きになり、歌詞やコードが載っている歌謡曲雑誌を買っては独学でコードなどを勉強して弾いていました。中学生になっても休み時間によく音楽室のピアノを弾いたりしていて、それを見ていた音楽の先生が、授業の最後には同級生たちの前で林さんがピアノを演奏する時間を設けていたそうです。恥ずかしさもありましたが、人前で演奏する喜びや楽しさを最初に知ったのはこの中学生時代だったと彼は振返っています。

高校生になったある日、近所の図書館でビル・エヴァンスが演奏する「いつか王子さまが」のCDを聴き衝撃を受けジャズをやる事を決意します。「自分が知っている曲がこんなにかっこよくなるなんて!」。その時の衝撃は今でも忘れられないそうです。すぐにヤマハの音楽教室でジャズピアノを教わるようになり、さらに高校3年生の頃にはメーザーハウスという音楽学校へ通うようになります。高校卒業後も慶応義塾大学に入学しながら平行してメーザーハウスに通い、メーザーハウス入学2年目からは日本ジャズ界の大御所ピアニスト佐藤允彦氏に師事し、現在に至るまでの演奏家、作曲家としての多くの重要な事を学びました。

メーザーハウスと大学に通いながら演奏活動を行っていたのですが、プロとしての一番最初の仕事は、18歳の時に民謡歌手の伊藤多喜雄氏のバンドにピアニストとして抜擢され南米ツアーを回った事でした。ここで、日本の音楽、そして南米の音楽などの様々なワールドミュージックに触れたことが、ジャズだけにこだわらないいろいろなジャンルの音楽をやりたいと思ったきっかけだったと言います。

メーザーハウスは3年で卒業し、大学も無事に卒業し(在学中も演奏活動は活発でしたが)いよいよ音楽一本で生きて行くようになります。卒業後あたりから、小松亮太氏、中西俊博氏など著名な音楽家との共演も増えていき、それに伴いスタジオミュージシャンとしてのレコーディング参加、サイドマンとしてのバンドへの参加も増えていきます。2007年にSalle Gaveau、2008年には菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラールへ参加。そして、古澤巌、ROLLY、中川英二郎などさまざまなジャンルや楽器のミュージシャンと共演し現在に至る、と冒頭に申し上げたとおりとなります。

多くのミュージシャンから重用される一方、彼のリーダーとしてのバンドやプロジェクトはどうなのかというと勿論あります。2008年に『Flight For The 21st』というソロピアノのアルバムをリリースしていますが、現在もピアノソロでのコンサートは頻繁に行っています。

彼のリーダーバンドは、林正樹 STEWMAHN(ストゥーマン)というカルテットです。

サックス、ディジュリドゥーなどあらゆる吹奏楽器を操るオーストラリア出身のアンディ・ベヴァン、ジャズだけではなく邦楽界にも精通する打楽器奏者・堀越彰、クラシックからクラブミュージックまで幅広い音楽を網羅するコントラバスの西嶋徹の4人が集まり2001年に結成されました。気心の知れていて、しかもそれぞれが熟練のミュージシャンであり、リーダーの林さん本人が最高の人選だと絶賛するメンバーです。結成以来なかなか演奏活動がレギュラー化しなかったのですが、2008年頃からツアーなどの定期的な演奏活動が軌道にのり、2010年にレコーディング、結成10年目の今年2011年にファーストアルバム『Crossmodal』がリリースされることとなりました。

林正樹 STEWMAHN(ストゥーマン) 左から、林正樹 Masaki Hayashi : piano、アンディ・ベヴァン Andy Bevan : sax, flute, didgeridoo、西嶋徹 Toru Nishijima :contrabass、堀越彰 Akira Horikoshi :drums

音楽を言葉で伝えることは非常に難しいのですが、世界中のいろいろな音楽に接し自分の音楽性の中に吸収していった林正樹の世界観をそのままバンドアンサンブルで拡張し、とても雄大な音世界を表現しています。その音楽に触れたら、絵本を1ページずつめくるような、何が起きるのだろうというわくわくした気持ちから、うっとりとする瞬間、切なくなる瞬間、優しい気持ちになる瞬間、そしてつい微笑んでしまうような楽しい瞬間が訪れるのではないでしょうか。

彼のプロフィールはざっと紹介しましたが、おそらくこのアルバムを聴くとどんな人なのか少し分かると思います。そして、ライブに来てしまえばもっと分かるでしょう。3月14日(月)のアルバムリリースに先駆けて、3月4日(金)に『南青山マンダラ』で林正樹 STEWMAHNのレコ発ライブがあります。彼の演奏を聴いて林正樹という人物にふれてもらえたらいいなと思います。

もしこのライブは逃しても、アルバムを聴いてふと目の前で林正樹のピアノを聴きたいなと思ったら、ぜひ演奏スケジュールをチェックしてください。おそらく彼は今夜もどこかでピアノを弾いていますよ。

林正樹ホームページ

 

『Crossmodal』

林正樹 STEWMAHN(ストゥーマン)
2011年3月14日発売 2,500円(税込) APX1006
★ 予告動画はこちらから

【Track List】
1. Stewmahn
2. れろ
3. Robotmahn
4. Flight For The 21st
5. Spirit Of The Forest
6. Somewhere In Time
7. キキキ
8. Zephyr
9. Cluster Trip
10. ソたち