『Naissance』Francois Morin by bar buenos aires label is released!ドラムで美旋律を奏でるリオのフランス人フランソワ・モラン、誕生。

(2014.05.21)
ブラジルで誕生したフランス人ドラマーによる話題作が日本盤として登場。

タイトルの「Naissance」はフランス語で“誕生”、名前もフランソワ、なのにブラジルからリリースされている…。聞いたことのないアーティストによるサバンナの写真のジャケットのオリジナルアルバムを聴いたとき、「ああこの人もジャンルや国境を軽々と飛び越えて、美しい音楽をつくるアーティストのひとりだ」と思った。

美しい旋律をキラキラと流れるようなピアノで奏でるのはアンドレ・メマーリ。アフリカの大地や自然をイメージさせるスキャットはタチアナ・パーハ。そのボーカルとピアノにそっと寄り添う優しいドラムを“弾いて”いるのがこのアルバムのアーティスト、フランソワ・モラン。その演奏は打楽器とは言うにはあまりに繊細でメロディアス、「ドラムを弾いている」という言葉がぴったりです。

同時期に話題になっていたミナスの新鋭たちのプログレッシブで前衛的な音楽とは違うタイプの音楽で、軽やかさと躍動感、優雅さをまとった美しい音の世界。どこかドキュメンタリー映画のオープニングのようなドラマティックな楽曲に、ちょっとアーシーなボーカルがアクセントをつけ、ヨーロッパとブラジル、中でもミナスのエッセンスが感じられ、美しいピアノと繊細なドラム、そして声が見事に調和していました。まるでコルクを抜いてしばらくするとえも言えぬ芳醇な香りが立ちのぼる、華やかでバランスのいいナチュラルワインのようです。

輸入盤として一部のファンに人気のあったこのアルバムから、昨秋リリースされた2枚のコンピレーション『音楽のある風景』と『bar buenos aires Estrella』に1曲ずつ収録されました。そして今回、全曲リマスターして、ナンド・ローリアをボーカルに迎えたボーナストラックを新しく収録、新しいカヴァーをまとった日本盤『Naissance』がリリースされることになりました。

日本でも新しく「誕生」したばかりのフランソワ・モラン。ドラマーで作曲家のフランソワっていったいどんな人なんでしょう。聞きたいことがいっぱい。フランス・ブルゴーニュで生まれ育ち、パリでドラマーとして活躍した後、リオ・デジャネイロのイパネマ海岸に移り住んだフランソワに、『ネッサンス』をはじめ彼の音楽についていろんなことをたずねました。

 
フランソワ・モラン・インタビュー
Q1 あなたのアイドルは誰?
André Ceccarelli(アンドレ・チェカレッリ)、 Steve Gadd(スティーヴ・ガッド)、 Brian Blade(ブライアン・ブレード)。

なかでもアンドレ・チェカレッリは特別。なぜならぼくがドラマーになるきっかけをくれたから。

Q2 それはいつのことですか?
5歳のとき、両親が「子どもの音楽への目覚め」コースに登録しようとしたら、パーカッションとフルートの2つしかコースがなかったんだ。ぼくはすかさずパーカッションを選んで、わりと早い段階でドラムスティックでの演奏を見せていたみたいだよ。

そのころぼくはブルゴーニュの小さな村に住んでいて、あるときそのドラムの学校で小さな張り紙を見つけたんだ。そこには、自分の村から30kmほどの町でアンドレ・チェカレッリ、ティエリー・エリス、ジャンマルク・ジャフェのトリオのライブがあると書いてあった。ぼくは父に連れていってくれるように頼んだんだ。そしてライブのあいだ中アンドレ・チェカレッリの演奏に釘付けになっていたよ。そのとき、ドラマーになろう!と決めたんだ。

Q3 躍動感と繊細さがミックスされたあなたの音楽はどうやってつくられているのでしょう?
ぼくの音楽は日々の感情を「シンプルなメロディ」に写し換えたもの。曲づくりはいつも自分の頭の中で歌うメロディから始まる。そのメロディを元にピアノやドラムを使って曲へと発展させていくよ。

ぼくのドラムはとても“音楽的”だと思う。どういうことかと言えば、ぼくにとってドラムは、リズムを刻む楽器としてでなく、メロディを奏でる楽器という意味の方が大きいんだ。

ぼくはシンバルのすべての「音のパレット」を使うことが大好きで、その音の色にインスパイアされて曲づくりをするよ。だからシンプルなメロディとオープンなハーモニーを使った作曲をするんだ。

Q4 ブラジルの音楽に接してどんな印象を持ちましたか?
ブラジルは素晴らしい国だよ。いつも伝統と創造がミックスしている。音楽家としてブラジルに住むことは簡単ではないけれど、びっくりするほどすばらしいアイデアの泉が尽きることなくあふれてくるんだ。

  • ©Gerard Nataf
    ©Gerard Nataf
  • ©Gerard Nataf
    ©Gerard Nataf
『ネッサンス』について

Q5 音楽的なコンセプトは何ですか?
『ネッサンス』は自分の名義で発表する最初のアルバム。だから作曲家としての自分の誕生を象徴しているよ。

音楽的なコンセプトは、「ぼくががどのように音楽を理解し、音楽を見つめているか」ということ。まずは声とシンプルなメロディありきだった。なぜならそれがもっともぼくをインスパイアしてくれるし、国境を越えたコミュニケーションの最良の手段だと思うからなんだ。「楽器としての声」にずっと惹かれ続けてきたし、自分の作品でも、世界を旅し演奏して得た色々な音楽や人生の経験を伝えてきたんだ。

Q6 どんなモチーフやインスピレーションから楽曲が生まれたのですか?

全ての曲に共通しているのは、ぼくの日々の暮らしから産まれるアイデアだと思う。さらに、それぞれの曲はその時々の状況や感情にインスパイアされている。例えば「07. Night in Dakar」は、アフリカ・ツアーの間のさまざまな感情が混ざり合っている。そこで出会った人々の寛容さや「生の喜び」を凝縮していると同時に、彼らの瞳の中の虚無・空虚も表現しているよ。

そしてぼくは歌うことができる音楽が好きだから、「ドラムで歌う」ことを心掛けているよ。

***

Q7 『ネッサンス』に参加したアーティストたちのことを教えてください。
ルイス・ヒベイロのことは、彼がイヴァン・リンスと共演してギターを弾いたり歌っている映像を見て知り、マイスペースを通じてコンタクトをとった。当時マイスペースは世界中のミュージシャンとコミュニケーションをとれる素晴らしい道具だった。ぼくがブラジルへの移住の準備をしている半年間に、ぼくらはメールで音楽のアイデアを交換するようになったんだ。彼のような、同じ音楽的素養を持つミュージシャンに出会うことができたのは素晴らしいことだったよ。ぼくがサンパウロに到着して間もなく、ぼくらは実際に会って、『ネッサンス』の制作に取りかかったんだ。

彼との関係を通じて、このアルバムに参加してくれたミュージシャンとも知り合えたんだ。それは長い道のりだったけど、素晴らしい結果をもたらしてくれたね。

そしてとても重要なのがアンドレ・メマーリ。彼がいなければこの作品はまったく違うものになっていたと思う。まず彼はレコーディングの間スタジオで、ほかのミュージシャンに対してもいろいろな楽曲のアレンジや解釈のアイデアを提示して、ぼくのドラムやアレンジの魅力を引き出し、活かすようにしてくれたんだ。彼は即座にぼくのドラミングのリズムやメロディ面での特徴をつかんでくれ、それ以降、ぼくらは自分の演奏がお互いを引き立て合うことに気づいたんだ。初めて一緒に演奏するのに、事前に何も話すこともなく、音楽的な意思疎通ができたのは少し不思議だったし、まるで魔法のようだったよ。その後、「08. Esperança」をレコーディングするにあたって、最適な共演者としてセルジオ・サントスを紹介してくれたんだ。

2日間のレコーディングの締めくくりに、アンドレに一緒に即興演奏を録音してみないかと提案したところ、彼は即承諾してくれた。スタジオの構造上お互いが見えない状態でのレコーディングだったけれど、続けて10曲分の即興演奏を録音したんだ! それはまるで、ブラジルからアフリカへの、山々からミナス・ジェライスの美しい小さな教会への、45分間の音楽旅行だったよ。録音直後のプレイバックを聴いているときの、お互いの驚きと喜びの表情は忘れられないね!

*この即興を主体にしたアンドレ・メマーリとフランソワ・モランの両名義によるアルバム『アラポラン』も後日リリース予定。
Q8 日本盤は全曲リマスターということですが、輸入盤とどう違うのですか?
日本盤の『ネッサンス』はボーナストラックとして新曲「Canto das arvores」を収録することになったので、その曲がアルバムにフィットするように全体の音量レベルやダイナミクスを調整するマスタリング作業を、改めてやる必要があったんだ。そういった技術的な調整に加えて、アンドレとぼくは、残響(リヴァーブ)を新たに加えることで、音にさらなる深みと特別な響きをもたらそうと試みたよ。

bar buenos airesレーベルのディレクター稲葉さんから『ネッサンス』を日本でリリースしたいと言われて、ぼくはとても光栄に思い、新曲を用意して日本盤に収録できないかと、彼とbar buenos airesという素晴らしいレーベルに提案しようとすぐに思ったんだ。ぼくの音楽への信頼と関心に対する、ぼくなりの感謝の印としてね。ほどなく主旋律やハーモニーをぼくのキーボードで作り始めたら、即座に、この曲がぼくの最良の音楽的パートナーであるアンドレ・メマーリと、友人のナンド・ローリアとの「ドリーム・チーム」によって演奏されている様子が浮かんできたんだ! この曲の出来映えは想像以上だったことを心からうれしく思っているよ。

ドラマー、フランソワ・モランの音楽とは
Q9 普段はどのように作曲するのでしょうか?
新しいメロディはいつも、感情や経験、風景や想像から生まれるんだ。実際の作曲には2つの方法があって、ひとつはドラムをたたいているときにメロディが浮かび、それを頭の中で自分のドラムと調和させて楽曲にしていくという方法。もうひとつはピアノを弾きながら(ぼくはピアノも弾くんだ)、メロディとハーモニーをイメージした通りに作り上げていく方法。

Q10 あなたの音楽の中にミナス音楽のエスプリを感じるのですが。
フランスにいるころからブラジル音楽が好きだった。それもミナス音楽は特別。クルビ・ダ・エスキーナの音楽シーンからは、音楽だけでなく精神的な影響も受けていると思う。ミナス音楽、それはぼくにとって寛容であり、山の神々や詩なんだ。

Q11 あなたのドラムの演奏はほかのドラマーとずいぶん違うと思うのですが。
ドラマーはみなオリジナルスタイルを持っていると思う。ぼくは繊細に演奏するのが好き。ただ、大方のドラマーはドラムをリズム楽器として演奏していると思うけれど、ぼくはドラムでメロディを弾いているんだ。

Q12 ブラジルの同世代の音楽家たちの印象派は?
サンパウロは偉大なる音楽家たちのるつぼだね。かれらはみんなとてつもなくクリエイティブで才能があり、しかもオープンマインド! 幸運なことにかれらはみなぼくとフィーリングがぴったりなんだ。これからもみんなとたくさんのプロジェクトを起こせることを祈っているよ。

Q13 最後に日本のリスナーへのメッセージを。
みなさん!『ネッサンス』日本盤がリリースされることを本当に名誉なことだと思っています。このようなインストゥルメンタル音楽を心に留めてくれる日本のリスナーの方々を尊敬し、敬服しています。いつの日か、日本でみなさんに会えることを楽しみにしています。

  • ©Gerard Nataf
    ©Gerard Nataf
  • ©Gerard Nataf
    ©Gerard Nataf

『Naissance(ネッサンス)』
François Morin (フランソワ・モラン)

2014年5月22日発売 2,300円(税別):RCIP-0206
レーベル:bar buenos aires

【Track List】

01. Joburg
02. Cachoeira
03. Naissance
04. Café da manhã
05. Caminhando no calçadão
06. Improviso
07. Night in Dakar

08. Esperança
09. Lua Soberana
10. Querida
11. Duerme negrito
12. Querida (Piano solo)
13. Canto das árvores

《演奏》フランソワ・モラン:ドラム、アンドレ・メマーリ:ピアノ、ネイマール・ヂアス:ベース、ルイス・ヒベイロ:ギター 《ゲスト》ナンド・ローリア(13)、イヴァン・リンス(9)、タチアナ・パーハ(1,3,7)、 セルジオ・サントス(8)、マリーナ・クルス(11)、レア・フレイリ(7) etc.

bar buenos airesレーベル作品一覧を見る