Another Quiet Corner Vol. 27
ULISES CONTI Japan Tour 2013 2013.10.30-11.7
独創的音楽世界を展開する、
ウリセス・コンティが初来日。

(2013.10.04)

アルゼンチン音響派か、ポストクラシカルか、独自の世界を創造するピアニスト&作曲家。

ウリセス・コンティのことを初めて知ったのは2010年ごろ。夢中になっていたアルゼンチン音楽に、より深くのめり込んでいった時期でもあります。bar buenos aires(以下bba)の吉本宏さんからある時「これいいよ」と教えてもらったことを覚えています。

音響系の流れを感じさせながら、ブライアン・イーノやエリック・サティのようなアンビエントでクラシカルな趣で、いわゆるネオフォルクロリック・シーン(カルロス・アギーレやルス・デ・アグアなど)とは違う魅力にすぐに虜になりました。シンプルでいながらいろいろな音楽的背景を感じることができます。それからはウリセスの音楽はbbaの選曲会に欠かせない存在になっていきました。いつの日か彼の演奏をステージで見てみたいと密かに想いを募らせていたところ、なんとそれが現実に! ウリセスは新作を携えて初来日することになったのです。

ウリセス・コンティはブエノスアイレス出身、1975年生まれの38歳。現在までに7枚のオリジナル・アルバムを発表しています。ファースト・アルバム『Iluminaciones』(2003年)は、鍵盤楽器をメインにクラシカルな旋律とアンビエントな音響が印象的で、アレハンドロ・フラノフも参加した作品です。2枚目となる『Pacifico』(2005年)は前作のテイストを踏襲しながらも、より実験的でエレクトロな仕上がり。3枚目となる『Los Paseantes』は、壮大なオーケストレイションや緻密なブラス・アンサンブルを配して映画音楽のような世界観を作り上げています。4枚目の『El Amor Es Un Francotirador』(2008年)は舞台女優/劇作家のローラ・アリアスとのコラボレーション作品。ここではサイケデリック・フォークやノイジーなサウンドに、ローラの気だるいヴォーカルが溶けあう新たな表情を見せ、いうなればアルゼンチン・ポスト・ロックのような作品。5作目の『Posters Privados』は、ソロピアノ作品で静かなトーンがアレハンドロ・フラノフのMDRレーベルに残したソロピアノ作品にも通じます。6枚目の『Los Que No Duerman』は再びローラ・アリアスをパートナーに迎え、ロック、フォーク、ブルース、ジャズなど幻想的なヴィンテージ・サウンドが織りなす独特の世界です。ちなみローラ・アリアスは現在開催中の京都国際舞台芸術祭に出演するため来日するそうですので、そちらもチェックです。そして7枚目の『Los Acantilados』(2012年)はフォークと室内楽の融合を試みたコンセプト色の強い作品です。

以上のようにウリセスは10年にわたり多彩な音楽性に基づいたクオリティの高い作品を残してきました。あまりにジャンルレスな音楽性であるがゆえに、彼の作品は熱心な音楽ファンのみを中心に話題にされてきたのです。そんな彼の音楽がもっと広がるきっかけとなる『Atlas』という作品がflauレーベルから発売されることになりました。これはウリセスがこれまでに発表した5枚のソロ・アルバムからの14曲と新曲で構成されたアルバムで、ウリセスの名曲集といえる作品です。振り幅の広いウリセスの音楽の中から、彼の「繊細でメランコリックな表情」を見事に切りとっています。心に静けさを与えてくれるようなピアノとギターの響き、目を閉じればそこにモノクロームの映像が浮かんできそうな感覚を覚えます。ウリセスを知るためにもってこいの作品と言えるでしょう。

今回の来日ツアーの中では、11/3の東京・渋谷公演がbbaとflauのコラボレーション・イヴェントになります。flauといえばヘニング・シュミートやジャン=フィリップ・コラール=ネヴェンなどきれいな音色をもったピアノ作品を、bbaではずっと前からレパートリーとしていましたので、今回のコラボは待望のものでした。しかも僕たちはこの日のためにスペシャルな特典を用意する予定ですので、ぜひお楽しみに! 最後に今回の来日のために、ウリセスにメール・インタビューを行いました。とても興味深い話をいろいろ聞くことが出来ましたでのお楽しみください。

ウリセス・コンティ・スペシャルインタビュー

Q1.どうして音楽の道に進もうと決めたのですか?

子どものころはバスケットボールの選手になりたかったんだ。でも学校を卒業するとき、なぜか音楽を勉強することになり……。たぶん、無意識の感覚に従ったんだと思う。

Q2.幼少の頃の音楽体験は?

音楽が好きな少年でもなかったと思う。ただ「サウンド(音/響き)」にはすごく惹かれたんだ。洗濯機が回る音、ラジオの音、電話の呼び出し音、ドアベル、水の音などなど。でもそのころのぼくには、音楽をつくるために一番いい楽器を見つけるのが難しかった。まずカシオトーン、そしてギター、同時にバロック音楽を勉強し始め、マンドリンも弾き始めたりしたんだ。最終的に一番ぴったりきたのがピアノだった。ピアノはほかの楽器と違って、ぼくを守ってくれているような気がしたんだ。

Q3.あなたの音楽スタイルが作品ごとに色々と変化する理由は?

もし答えがわかったら、ぜひ答えたいんだけど……。ぼくは自分の中の“悪魔”を追い払うために音楽をつくっているだけで、ほかのことはあまり意識していないんだよ。

Q4.あなたの作品はどれも映像的ですが、想像力はどのようにして起こりますか?

飾り立てられたアーティストはあまり信じられない。ぼくはただ毎日の生活の中でベストを尽くそうと思っているだけ。ぼくらはみんな映像的な世界に住んでいるので、聴いているものが自分自身だと思う。サウンドは空間についてとても多くのことを伝え、より良き社会についても語ることができると思う、ほかのどんなものより。

Q5.あなたの作品のジャケットデザインがとても好きです。芸術的なアートワークはどうやって決めているのですか?

アルバムジャケットは、ひとつのアートだと思う。だから「アート」であるジャケットデザインのことを考えたり、制作に関わることが、音楽をつくることと同じぐらい大好きなんだ。ブエノスアイレスのヴィジュアル・デザイナー、Jazmin Berakhaと長いあいだずっと一緒に仕事をしているよ。

Q6.あなたの音楽にクラシックやヨーロッパの伝統的な音楽の要素を感じることができます。そのような古い音楽の魅力はどのように感じていますか?

歴史的な音楽家にはとても興味があって、もっと勉強したいと思っているところなんだ。何人かの作曲家は、ぼくの人生を変えたよ! ブラームス、ラヴェル、ドビュッシー、ベンジャミン・ブリテン…。

Q7. モノ・フォンタナやアレハンドロ・フラノフ、リサンドロ・アリスティムーニョの作る音楽も古いものと新しいものが混在していて、あなたの音楽にも通じるところがあると思います。彼らの活動をどう思いますか?

アレハンドロ・フラノフとは長い間一緒に活動しているよ! ぼくらはとっても近い友だちなんだ。彼は一緒に演奏したミュージシャンのなかでも最も大切な音楽家のひとりだよ。そしてモノ・フォンタナは素晴らしいサウンドと個性を持っているね。リサンドロはアレハンドロやモノより若い音楽家だけど、最近とても注目されているね。

Q8. フランスにチリー・ゴンザレスというピアニストがいます、とても繊細で映像的な音楽を作るところが似ていると思いました。彼を知っていますか?

チリーは誇大な妄想者で偉大な音楽家だと思う。ベルリンでリリースされたいくつかのアルバムに一緒に参加しているんだよ。ぼくらはベルリンのクロイツベルクでたまたま向かい同士に住んでいたこともあったよ。

Q09.ここ数年、日本にはカルロス・アギーレやキケ・シネシ、マリアナ・バラフといった多くのアルゼンチンの音楽家が来日して公演を行っています。アルゼンチンの音楽が日本で受け入れられていることについてどう思いますか?

どこの国の人間であるかということが音楽を左右するとは思わない。けれど同時に、もっと世界に知られるべき多くの音楽家がブエノスアイレスに埋もれていることは確か。だから日本でのアルゼンチン音楽ブームが、アルゼンチンの音楽シーンをもっともっと成長させることに繋がると信じているよ。

Q10.今回あなたの音楽が日本のレーベルから発売されることを知ってどう思いましたか?

flauから10年間の楽曲をあつめた『Atlas』が、日本と世界に向けて発売されることは、ぼくにとってとても重要なこと。僕の音楽をもっと多くの人とシェアできるいい機会だと思う。

Q11.Manuelの動画は、さながらショートフィルムのようですが、どこで撮影されたんですか?

これは「in the roof」というブエノスアイレスで活動する音楽家にフォーカスした番組で、何人もの才能のあるアーティストによってディレクションされているんだ。ちなみにこの動画は僕の家で撮ったもの。テラスに自分のピアノを運び出して撮影したんだ。よく晴れた日の、クールなセッションだった。

Q.12.あなたの来日を楽しみにしているファンに向けてメッセージをお願いします。

長くツアーをしてきたけれど日本に行ったことはなかった。日本で演奏することをとてもとても長い間待ち望んでいた。本当に楽しみにしています!

ATLAS / Ulises Conti
2013年10月6日発売 2,100円(税込)/ flau

【Track List】
01 Cañones ocultos entre las flores
02 Budapest
03 El chico de la moto
04 Manuel
05 West Hollywood
06 La sed
07 Canción de despedida
08 Museo de la tentación
09 Playa nevada
10 Extrañas luces caen del cielo
11 Adivinación en lagos
12 Cuarto suspendido
13 Luz de un cuerpo
14 Preludio
15 Distancias olvidadas

ULISES CONTI Japan Tour 2013
10/30 (水) 東京 CROSSS:Ulises Conti x Jo Mango
会場:山羊、に聞く?
open 19:00 / start 19:30 adv.¥3,000 / door¥3,500 (ドリンク代別途)
共演:Jo Mango, 惑星のかぞえかた
チケット予約・問い合わせ:flau 山羊、に聞く?予約フォームまで

11/1 (金) 福岡 Ulises Conti x Jo Mango
会場:日本福音ルーテル博多教会
open 18:00 / start 19:00 adv.¥3,500 / door¥4,000
共演:Jo Mango
お問い合わせ:Republik / info@republik.jp オンライン予約:Republik予約フォーム メール予約 : reservation@republik.jp

11/2 (土) 熊本 Pavao 5th anniversary LIVE :ULISES CONTI Japan Tour 2013
会場:Sazae (熊本市中央区南坪井町3-7 宮野ビル2F)
open 19:00 / start 20:30 adv.¥3,000 / door¥3,500(ドリンク代別途)
前売りチケット取扱い:Pavao /Sazae
チケットWEB予約:LONGSIXBRIDGE お問い合わせ :Pavao Tel.096-351-1158 LONGSIXBRIDGE] Tel.096-342-4976

11/3 (日) 東京 bar buenos aires x flau
会場:7th Floor
open 18:00 / start 19:00 adv.¥3,000 / door¥3,500 (ドリンク代別途)
共演:Kanazu Tomoyuki (with Kimura Keitaro) , Rayons
food:totosk kitchen
選曲:吉本宏、山本勇樹、河野洋志 (bar buenos aires)
ご予約・お問合せ: flau

11/4 (月・祝) 姫路
会場:ハンモックカフェ
open 18:30 / start 19:30 adv.¥3,500 / door¥4,000 (1ドリンク込み・先着自由席)
選曲:吉本宏(bar buenos aires)
ご予約・お問合せ: ハンモックカフェ TEL 079-254-1400

11/5(火)倉敷 くらしき南米音楽会
〜Concierto de la Música Sudamericana en Kurashiki〜
会場:倉敷アイビー・スクエア オルゴールミュゼ・メタセコイア
open 19:00 / start 19:30 adv.¥4,500 / door¥5,000
共演:Vinicius Cantuaria
ご予約・お問い合わせ:moderado music

11/7 (木) 札幌 Nocturne feat. Ulises Conti
会場:PROVO open 20:00 adv. ¥2,500 / door ¥3,000
DJs: KEI, GAK, DAISAKU, IGA
ご予約・お問い合わせ:PROVO:Tel.011-211-4821

Another Quiet Cornerとは

このコラムはHMVフリーペーパー『Quiet Corner』編集長・山本勇樹さんが、『Quiet Corner』で書ききれなかった音楽を伝えてくれる連載です。2009年HMV渋谷店にできた「心を静かに鎮めてくれる豊潤な音楽」をジャンルや国籍に関係なくセレクトした伝説の売り場「素晴らしきメランコリーの世界」が、アルゼンチンの音楽家カルロス・アギーレと共鳴する音楽を聴くというbar buenos aires選曲イベントへと繋がり、ライヴ運営やコンピレイションの制作、レーベルの設立というように活動の幅を広げています。イベントごとにつくられた幻のフリーペーパー『素晴らしきメランコリーの世界』が、2011年春「Quiet Corner」と名前を変え、同じコンセプトで静かだけではない豊かでQuietな音楽を紹介し続けています。

★ウリセス・コンティと共演するジョー・マンゴーの記事はこちら