料理レシピをラップする小さな巨人
DJみそしるとMCごはん。

(2012.12.01)

この秋のイベント『THE TOKYO ART BOOK FAIR』、『シブカル祭。2012』の会場などでのパフォーマンスで話題のラッパー DJみそしるとMCごはんさん。DJみそしるとMCごはんって、ふたりのユニットみたいな名前ですが、実はひとりのカワイイ女子による音楽活動。アルバム『Mother’s Food』やそのメッセージなどについてお話をおうかがいしました。

■DJみそしるとMCごはんプロフィール

「おいしいものは人類の奇跡だ」がキャッチフレーズのラッパー。女子栄養大学 栄養学部 食文化栄養学科 在学中に卒業論文として架空のラップユニット『DJみそしるとMCごはん – くいしんぼうHIPHOP – 』を発表、2012年8月にはOTOTOYからDJみそしるとMCごはんのアルバム『Mother’s Food』としてリリース。この秋の『THE TOKYO ART BOOK FAIR』、『シブカル祭。2012』『YOAKE -MUSIC SCENE 2013- 』などのイベントに出演、料理レシピでライムする今までにないスタイルのラップとほっこりキャラクターで話題を呼ぶ。10月の東京コレクションでは『THEATRE PRODUCTS』の2013年春夏コレクション “THEATRE, yours”の音楽を、DJ PATCH & MC MACHINE (DJパッチとMCミシン )a.k.a DJみそしるとMCごはんとして手がけた小さな巨人。
http://misosiru.com/

レシピを歌えば
料理はいっそう楽しくなる。

ー『THE TOKYO ART BOOK FAIR』ではじめて、「マカロニ、うまかろーに」というDJみそしるとMCごはんさんのラップを聞いてびっくりしました。料理のレシピをラップするスタイルですね。OTOTOY配信限定で今年の8月に発売されたアルバム『Mother’s Food』の制作のきっかけは?

DJみそしるとMCごはん: 『Mother’s Food』が完成したのは去年の12月です。大学4年の時の卒業論文です。大学では栄養学のほか食料問題とか、食のメディア、ムービーや写真、編集、農業などを勉強しました。卒業論文では何をやろうかと考えた時にできたのが架空のHIPHOPユニット『DJみそしるとMCごはん - くいしんぼうHIPHOP -』で、『Mother’s Food』はその時のアルバムです。

ー『DJみそしるとMCごはん  – くいしんぼうHIPHOP -』でのメッセージ、伝えたかったことは?

DJみそしるとMCごはん: なんというか、既存の料理レシピだとちょっと不便なことがいくつかあると思うんです。レシピの本は料理している間に汚れちゃったり、料理の手順の項目を順番に追っているはずが飛ばしちゃったり、レシピをちょっと離れた場所に置くと、行ったり来たりせわしないことに……。テレビの料理番組も、実際に再現性が高いかというと、最後に言ってくれる材料の説明はほんの一瞬でメモをとる時間がないし、番組の時間にテレビの前にいないといけないし。もっと、自分の中にレシピを取り込んで楽しく料理しよう、という気持ちになるものを作りかったんです。

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ーレシピがメッセージなんですね。

DJみそしるとMCごはん: みんなが歌いながら料理を作る、作ってほしい、それがメッセージです。歌いながら料理すると、いいことがすごくいっぱいあるんです。例えば、レシピを歌で覚えているとすべての工程が頭に入るので、ひとつの動作をしている間はそれに集中できます。野菜をまじまじと見たり、野菜の手触りを感じたりとか。料理自体のいろんな面白さを感じながら、おいしいものができるんじゃないかと思います。

ー『Mother’s Food』は『スクランブルエッグ』、『白和え』、『五目ご飯』、『ピーマンの肉詰め』など全9曲、料理メニューのタイトルのナンバーが並びます。これらは実際の得意料理なんですか? 

DJみそしるとMCごはん: アルバムを作るにあたって、(レシピを歌うので)料理の作業(炒める、煮るなど)がかぶらないように、それから主菜、副菜、おやつと分かれるようにメニュー(タイトル)を決めました。中でも、外で食べるメニューというよりも家庭で作れるものを選びました。レストランでピーマンの肉詰めはあんまり食べないなーとか、そういうもの。

レストランや外食は、流行りすたりがあるものがあります。家庭料理にも流行がありますが、今も変わらず作られている永遠のロングセラー料理は、人生のうち何度も登場するのでレシピを覚えておくと便利だと思ったんです。だから、定番的な家庭料理を選びました。変わった料理にしちゃうと登場する頻度が少なくなって忘れちゃうから……。

楽曲、PVのアプローチは
料理の個性を考えて。

ー卒論でもあった『Mother’s Food』がはじめての音楽制作ですか?

DJみそしるとMCごはん: ……そうですね、ちゃんと曲を作って自分が歌うみたいなところまでやったのははじめてです。HIPHOPもそれまでちゃんと聞いたこともなくって、卒論をこのテーマでやると決まってからたくさんきいて勉強しました。一所懸命、近づこうと。

ー音源はどうやって作っているのですか?

DJみそしるとMCごはん: Macに最初から入っているGarageBandを使って、サンプリングのようなことをやってみたり、自分で打ち込んだり、コーラスを入れてみたりと、アレコレやってみています。

ーもともと音楽好きだったのですか?

DJみそしるとMCごはん: はい、音楽は好きで、楽器をやったり、ライブをたくさん見に行ったりしてました。弾いて、吹いて、叩いて、楽器が好きでいろいろ触りました。

ーHIPHOPを選んだのは?

DJみそしるとMCごはん: HIPHOPは元々メッセージ性が強い音楽ですし、ラップで韻を踏んだりすることで、耳に残りやすく、覚えやすいと思ったんです。それに、言葉も沢山入れられるので、レシピを伝えるのに最も適していると思いました。

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ー歌詞、言葉の使い方、つなぎ方やポーズの入れ方、ライムがとっても面白いですよね。『マカロニグラタン』だったら「ただ ひた すら 炒(いた) めーる」と「彼女から いたずらメール」と韻を踏んでいる。そういうのは書く時に自然に浮かんで来るのでしょうか?

DJみそしるとMCごはん: 歌詞を書く時には「歌詞を書くぞっ。」という気持ちを持って机に向かいます。でも自然には浮かんで来なくって。一所懸命考えて。あのー、料理ばっかりだと、やっぱりつまらないというか、聞く人も面白くないと思うのでレシピ以外の要素も入れたり。

料理番組が面白いのって、料理の得意じゃない女子アナがかわいいとか、トークとか料理だけじゃない小ネタが入るからだと思うんです。例えば『マカロニグラタン』という曲は恋の歌という設定なのですが、微妙な三角関係だからいたずらメールが来る……。

ーこれは〜、料理メディアに対する意見、批判も入っているんですね。

DJみそしるとMCごはん: 批判、というか提案です。レシピの新しい形の提案だと思います。

料理、絵、音楽、詩を作ることが大好き。
好きなことの集大成がDJみそしるとMCごはん。

ー人の意表をつく、発想の裏をかいた音楽ということではなく真摯な食についてのメッセージですね。

DJみそしるとMCごはん: いろんな音楽の隙間を狙って、とかではないつもりです。卒論で何をしようかと考えた時、今まで22年間生きてきて、大学も行かせてもらって、音楽が好きで、絵を描くのも好きだったので、自分の出来ることを全部使ってやってみたのが、これでした。集大成というか、自分の知識や経験を全部つぎ込んだので、出来上がった時には、自分を出し尽くしてしぼみそうでした。ない知識を引っ張ってきていろいろ勉強して。……当時は精一杯でした。

ー好きな料理についてその魅力を音楽や映像で伝える、メディア・アーティストという感じもします。

DJみそしるとMCごはん: ミュージシャンと言ってもらうのもなんか違うなーと思っていて……。なんというか、肩書きがわからないで今もやっています。料理もプロではないし、音楽もプロではなく、ぜんぜん普通の人で。なんというか、ただ、ごはんと音楽が好きな人、みたいな感じです。

ーYOU TUBEにアップされているプロモーションビデオ(PV)がとっても面白いですよね。手作り感覚満載のアートワークがとってもカワイイです。

DJみそしるとMCごはん: 卒論の発表の時にこのPVを流しました。PVはレシピのイメージの補足として作りました。『ピーマンの肉詰め』のPVには私も出演してますが、あとの楽曲のPVでは監督をしました。絵コンテを描いて、尺を考え、撮影もして。編集はMacのFinalCutでやったんですが、素人なりに自分のできる範囲で一生懸命やったという感じです、大学で映像を勉強する時間も少しあったので。

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ー『スクランブルエッグ』のPVも映像がとってもカワイイです。わずか1分あまりの楽曲ですが、アルバムの最初の曲であるにもかかわらず、その歌詞は「スクランブルエッグ、作らんでええ」と言っちゃうもので、驚きました。

DJみそしるとMCごはん: 家庭料理をテーマにしたので、家庭料理はなんか適当に作ったり、感覚でやる部分もあるのでそういうところも外せない、と。……なくてもいいような歌なんですけど。

ーたしかに「チャッチャカ チャッチャカ チャッチャカ ジュー」の歌詞でスクランブルエッグの作り方すべてを表してますね。

DJみそしるとMCごはん: そうなんです、料理って面白いです。

ー『五目ご飯』のPVは時間も手間もかかってますよね、4組の人たちが五目ご飯を作っている様子がパラレルして進んでいきます。

DJみそしるとMCごはん: DJみそしるとMCごはんの歌で実際に料理が作れるんだよ、ということを証明をしないと歌だけ作っていても意味がない。というか、それでは論文としてはダメだということで実際に4組の人に作ってもらいました。はい、1回目に作ったPVはダメ出しされて、なかなかこう、映像のリズムがないっ、ていわれて……。タイミングの合わせ方とか、音楽とか、そうですね、料理の展開と映像の展開がいいリズムになるようにがんばったんですね。難しかったです。

料理レシピは無限にある、
だから歌も無限……

ー今後もずっとレシピの歌を歌ってほしいですが、何か他にやってみたいことなども?

DJみそしるとMCごはん: まだはじまったばかりで、将来のことをあまり考えてなくて……。料理は無限にあるので、歌もそれに合わせて無限に作れるとは思うんですけど、歌なんかそんなにいっぱいあってもどうなるのかなーって思います。いかんせん、料理の作り方って、どこかでかぶったりとかするので、わかんないです、みんなが飽きたら終わりかなー。でも、新曲は作りたいです。

この前『シアタープロダクツ(THEATRE PRODUCTS)』さんからお話をいただいて、「THEATRE, yours」というショーの音楽を作らせていただきました。そのショーのテーマのひとつとして、型紙を販売して、買った人が自分で服を作る、というものがあったんです。それで、デザイナーの方と話している中で、服の作り方を料理のレシピのように紹介して欲しい、ということになったので、DJみそしるとMCごはんと同じコンセプトの「洋服バージョン」のような形でやらせていただきました。

ーその時のアーティスト名はDJ PATCH & MC MACHINE ( DJパッチとMCミシン ) a.k.a DJみそしるとMCごはんなんですね。

DJみそしるとMCごはん: 歌の内容で名前が変わります。他にも、自動車免許の合宿に行った時に作った曲は、DJハンドルとMCブレーキという名前だったり。基本的に、具体的なことや身近なこと、しか歌えないんです。

ーその身近で具体的なところがすごく現実感や説得力があるし、ポエジーもありますよね。

DJみそしるとMCごはん: ありがとうございます。そうですね、身近なことは大事ですね。

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ーアーティストとして、考え方が似てるかな、とかリスペクトしているアーティストっていますか? 今までにないことをやってらっしゃるので名前を上げるのは難しいとは思うのですが。

DJみそしるとMCごはん: 私が料理に関して「料理って表現できるものなんだ!」と思ったきっかけは野村友里さん、映画『イートリップ(eatrip)』を撮ったフードディレクターさんです。大学で料理や栄養学を勉強していましたが、そこで勉強する料理はごく基本的な料理。お洒落なフードを作るケータリングユニットや、食べ物のいろんな見せ方を研究している方を知っていく中で、野村友里さんを知ったのですが、野村さんは映画を作ったり、コンセプトを持ってプロジェクトを進めたりしていて、とにかくかっこよく。『eatrip』をはじめて見た時に野菜とかが、なんというか、あんなにきれいで、なんだろうなぁ……

ー感動した?

DJみそしるとMCごはん: あ、はい、感動したんですね。なんか涙が出てきちゃって。その後、野村友里さんの料理教室にも行ったり、ファンレターも書いたりしました。

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ーお店やケータリングユニットをやるなど、自分で料理を作ることは考えないのですか?

DJみそしるとMCごはん: あ、料理、作りたいです! でもそのためには修業が必要だから、DJみそしるをやめたら修行して職人になりたいです、自分の腕をたよりに生きていきたいです。

ー「DJみそしるとMCごはん」も職業にしてほしいと思いますが。

DJみそしるとMCごはん: ケータリングのお話しもあって、色々と考えているところです。DJみそしるとMCごはんなりの料理を出せるといいなぁと思ってるんですが、フードの世界には巨匠がいっぱいいるので、私みたいな素人が入っていくには気が引けてならないです。胃が痛いです。

ー自分で料理も作って、音も作って、歌って、たいへんそうですが、楽しそうです。その他の予定は?

DJみそしるとMCごはん: 12月の8日に京都造形大学の学生さんたちとワークショップがあります。工房での道具の使い方を自分の覚書みたいにラップにしちゃおうというワークショップです。実際に自分がその工房を使う時にここが重要で忘れちゃいけない、というポイントをラップにします。

12月22日にはギャラリー『ロケット(ROCKET)』を一日お借りして、料理と音楽とを絡めた企画をやらせていただく予定です。

私ができることは限られているのですが、色んな方が面白がってくれて、音楽だけじゃなくて様々な方向に活動が広がっていけているので、すごく有難いです。

『Mother’s Food』

DJみそしるとMCごはん
※配信価格は、1人前の材料費(2012年8月)となっております。
※材料費は時価により今後変動する可能性がありますが、配信価格は変わりません。
レーベル:OTOTOY
販売:OTOTOY

アルバム価格 : 880円
※『Mother’s Food』ということで、母なる食物に感謝の気持ちを込めて。
※アルバムのまとめ購入をした方には、手書きの歌詞レシピが付いてきます!
聴いて、読んで、歌って、作れる!
 

DJみそしるとMCごはんクルー
Real Designer : saori sugiyama
Digital Designer : hiroka hasegawa
A&R : taiga fujimori

Special Supporter : sister K

【Track List】
01. スクランブルエッグ (ダウンロード価格: 50円)
02. 白和え (ダウンロード価格: 78円)
03. 五目ご飯 (ダウンロード価格: 124円)
04. 大学芋(ダウンロード価格: 84円)
05. ピーマンの肉詰め (ダウンロード価格: 130円)
06. ブリ大根 (ダウンロード価格: 177円)
07. マカロニグラタン (ダウンロード価格: 175円)
08. 牛乳かん (ダウンロード価格: 77円)
09. えびちり(ダウンロード価格: 186円)