Fukuoka RePublik: Vol.2
アンダー・ザ・ムーンライト マテオ・ストーンマン・ジャパンツアー
ラジオの時代の想像力をくれる
ノスタルジックを超えるマテオの声。

(2014.02.10)

All photos by Seth Cuddeback

「ラジオって素敵だな」と改めて思った一夜。

あわい月の光がさしこむ窓から虫の音が聴こえ、どこからともなくラジオの音楽が風にのって流れてくる。中性的な声で語りかける甘くせつないラヴ・ソングにうっとりしながら、私が想いを寄せるかもしれないまだ見ぬ人も、どこかで同じ月を見ながらこの音楽を聴いているかしらと想像したりする….。

そんなロマンティック夜が訪れたのは、NHKの深夜ラジオ番組『小西康陽 これからの人生。』に、来日中だったマテオが初の海外からのゲスト・アーティストとして招かれ彼の音楽が全篇にわたり特集されたときだった。

「コレ〜カラ〜ノ・ジンセ〜イ」とマテオがアクセントたっぷりに語り、2nd アルバムのオープニング曲「Alma con Alma」の柔らかく語りかけるようなピアノが流れ、小西氏の「マエストロ、マテオ・ストーンマン!」という最大の賛辞とともに1時間の番組は幕を明けた。

特別にNHKのスタジオで録音されたマテオのピアノの弾き語りを、息をひそめるように聴きながら、遠くにいる友人たちもきっと一緒に聴いているに違いない、とネットやSNSではけっして感じることができない静かでロマンティックな共有感をおぼえ「ラジオって素敵だな。」と、あらためて思った。

夢中で聞いていた乾さんのラジオ番組。

この夜は、大好きだったラジオ番組のことを思い出させてくれた。その番組は、ぼくがまだ駆け出しのピアノ弾き語り奏者だったころ、70年代後半から80年代はじめに欠かさず聴いていた。わずか15分の番組で、福岡では毎週木曜日午後9時半からの放送だったと記憶している。乾信夫さんが毎回 2曲だけピアノ弾き語りを聴かせ、演奏される曲のほどんどが旧き良きアメリカのスタンダード・ナンバー。

テディ・ウィルソンのピアノ、それもビリー・ホリディのヴォーカルにそっと寄りそうときのようなまろやかなタッチのピアノを弾きながら、乾さんの歌声は、甘くそして優しかった。曲間に綴られる乾さんの語りの多くは恋の話。軽妙でありながらも落ち着いていて、とても大人で、そしてどこまでもお洒落でロマンティックだった。

そのころはインターネットというものはなく、乾さんは東京のクラブに出演するピアノ弾き語り奏者であり、雑誌や新聞に出てくるようなスターでもなかったので、乾さんの顔はラジオを聴きながら想像するしかなかった。いまだに僕は乾さんの顔を知らないでいる。

番組提供はヤナセで、流れるコマーシャルは車ではなくウェスティング・ハウスの電器製品。この番組を聴きながら、いつもぼくはアメリカのこと、アメリカの生活のことを想像し、福岡にいながらお洒落でスタイリッシュな東京の大人たちのことを想像していた。そして、この番組はより生活に密着している AMラジオの放送だった。マテオ・ストーンマンの声と音楽は、AMラジオが似合うとおもう。そうおもいませんか?

ノスタルジックなだけの音楽は好きでない人をも引きずり込むマテオの魅力。

マテオ・ストーンマンは、かの「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」のメンバーたちを交えてキューバで吹き込まれたアルバム『Mateo』で2004年にデビュー。2nd アルバム『Mi Linda Havana』を経て、新作『Under the Moonlight』を今回発表した。デビュー作と前作では、20年代から40年代のボレロの名曲たちをスペイン語で披露してくれたが、新作では、2曲のオリジナルを除き、すべて20年代から40年代のアメリカのスタンダード曲を唄っている。この新作を聴いたとき、ぼくはこれが『小西康陽 これからの人生。』での出演と放送の延長線上にあると感じた。
 
ラジオが本格的に世界に広まったのが、20年代から40年代にかけて。こんな時代の曲ばかりを唄うマテオのスタイルは、ノスタルジックなだけの音楽と思われるかもしれない。
 
ぼくは本来ノスタルジックなだけの音楽や聴き方は好きではないのだが、そんな嗜好などあっさり覆されてしまったマテオ・ストーンマンの魅力。それはいったい何だろうと自分に問いかけたとき、取り上げられた曲たちとラジオとの時代性のリンクに思い当たった。
 
いまや娯楽の中心はネットへとうつり、画像や動画をいつでもどこでも見ることができ、想像することが失われつつある。テレビが娯楽の中心になる前、家族は居間にあるラジオに耳をそばだて、想像力をフルにかきたてる。オクラホマにいながらまだ見ぬニューヨークの摩天楼を想像したり、ベーブ・ルースのホームランを想像したりと…..。聴くものに「想像する」というロマンティックな行動をとらせてしまう―—それこそがマテオの音楽の魅力なのではないか。

3月、マテオ・ストーンマンが再来日。

2014年3月、マテオはこの新作とともに再来日し、福岡公演を皮切りにツアーを行う。色あせてところどころに亀裂まである経年感をもったギターをレフティに高くかまえ、抑制がきいたファルセットに限りなくちかい歌声に包まれる独特の世界に再び触れることができるとは、まるで夢のようだ。
 
前回の来日時には、マテオの波乱に満ちた人生を描いたドキュメンタリー・フィルムの撮影のためにフィルム・メイカー、セス・キュードバックが帯同していた。このフィルムは、昨年秋に完成し、すでに全米各地のフィルム・フェスティバルで上映されている。今回の来日ツアーではそのドキュメンタリーのショート・バージョンがいくつかの会場で上映される予定らしく、とても楽しみなトピックだ。
 
ツアーが始まるころは、ちょうど月が満ちていくとき。ラジオに耳をかたむけるように、想像力をかきたてながら、月の下でロマンティックな夜に浸ってみませんか?

 

【『アンダー・ザ・ムーンライト〜月夜の下で』マテオ・ストーンマン・ジャパンツアー】

2014.03.14.Fri 『papparayray (パッパライライ)』(福岡)
開場:19:00 / 開演 20:00 前売:3,500円(別途1オーダー) /当日 4,000円(別途1オーダー)
オンライン予約 : http://republik.jp/reservation

2014.03.15.Sat 『SOLE CAFE』(京都)
開場:13:30 / 開演 14:00 前売:3,500円(別途1オーダー) /当日 4,000円(別途1オーダー)
メールフォーム予約 : http://solecafe.jp/inquiry/

2014.03.16.Sun 『ミリバール』(大阪)
開場:17:00 / 開演 17:30 前売:3,500円(別途1オーダー) /当日 4,000円(別途1オーダー) 
・共演:ほざきまゆみ / コウノトリ
予約受付:ミリバール (millibar@artniks.jp / 06-6531-7811)

2014.03.17.Mon 『旧グッゲンハイム邸』(神戸・垂水)
開場:19:30 / 開演 20:00 前売:3,500円 /当日 4,000円 全席自由席
・共演:コウノトリ
予約受付:旧グッゲンハイム邸 (guggenheim2007@gmail.com / 078-220-3924)

2014.03.19.Wed 『new port (ニューポート)』(富山)
開場 19:00 / 開演 19:30
・前売 3,500円(1ドリンク付き) /当日 4,000円(1ドリンク付き) 全席自由席 
予約受付:new port / ニューポート (newport-info.jugem.jp / 076-423-5557)  CIBO / チーボ (http://cibo1995.com / 076-422-5516)

2014.03.20.Thu 『カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ』(鎌倉)
開場 19:00 / 開演 19:30 前売/当日共に 3,500円(1ドリンク付)
予約受付:カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ (0467-23-9952) *2/17(月) 10:00より予約受付開始

2014.03.21.Fri 『サラヴァ東京』(東京・渋谷)
開場 19:00 開演 19:30 前売:4,500円 (1ドリンク付) 当日 5,000円 (1ドリンク付)
・共演:Sawaka Katalyna w/下田 雄人 (Gt.)
予約受付:サラヴァ東京 (03-6427-8886)

2014.03.22.Sat 『Weekend Garage Tokyo – Cafe & Dining -』(東京・代官山)
開場 19:00 開演 19:30 前売:3,500円 (別途1オーダー) 当日 4,000円(別途1オーダー)
・共演:Sawaka Katalyna w/下田 雄人 (Gt.)
予約受付:Weekend Garage Tokyo (03-5428-5751)

2014.03.23.Sun 『アークヒルズカフェ (ARK HiLLS CAFE)』(東京・六本木一丁目)
・開場 18:30 開演 19:00 前売:3,000円 当日 3,500円 (別途1ドリンク1フード以上のオーダーをお願いします)
・共演:Sawaka Katalyna w/下田 雄人 (Gt.)
予約受付:アークヒルズカフェ (03-6229-2666)

2014.03.24.Mon 『ロマンレコーズカフェ (ROMAN RECORDS CAFE)』(東京・学芸大学)
・開場:19:00 / 開演 20:00 前売:3,000円 (1ドリンク付) 当日 3,500円 (1ドリンク付)
予約受付:ロマンレコーズカフェ (03-6412-8841)

『Under The Moonlight(アンダー・ザ・ムーンライト)』
Mateo Stoneman(マテオ・ストーンマン)
2013年12月18日発売 2,300円(税別)VSCD-9461 / PDCD-130
レーベル:production dessinee

【Track List】
01. Dream a Little Dream of Me
02. I’ve Got a Crush On You
03. Tip-Toe Thru the Tulips with Me
04. Under the Moonlight
05. Until the Real Thing Comes Along
06. I Can’t Give You Anything But Love
07. Deep Purple
08. Harvest Moon
09. Little White Lies
10. The Very Thought of You
11. Nice Work if You Can Get It
12. It Had To Be You
13. Moonlight in Vermont
14. Your My Kind [Bonus song]
15. La Puerta [Bonus song]

2014年3月中旬リリース予定!
『Mateo en Vivo! (マテオ・エン・ビボ! )』

Mateo Stoneman( マテオ・ストーンマン)
2,300円(税別)レーベル:production dessinée

【Track List】
01. Los Aretes
02. Cuando Vuelva a tu Lado
03. Si llego a Besarte
04. Todo Me Gusto de Ti
05. Andando por el Malecon
06. Reflorecen
07. Sabor a Mi
08. Llamame
09. Bésame Mucho
10. La Gloria eres tu
11. As Time Goes By
12. Aquella Boca
13. Quiereme Mucho
14. Voy a Pagar la Luz
15. Cuando Vuelva a tu Lado
16. Unforgettable
17. Guantanamera
18. El Bodeguero
19. Amapola
20. Dulce Maria
21. La Virtud de Cuba
22. Como Fue
23. Smile
24. Piensa en Mi
25. Alma con Alma
26. Sentimental reason

マテオ・ストーンマン2作目『Mi Linda Havana / マイ・ビューティフル・ハバナ』の紹介記事を見る