Lampの新たなる冒険が生んだ、
ニュー・アルバム『ゆめ』の世界。

(2014.02.24)

ブラジル音楽やビートルズ、サイケデリック・ロック、シティ・ポップなど、
様々な音楽的要素を丁寧かつ大胆なセンスで独自の音楽へと凝縮し、
コアな音楽ファンを唸らせ続けた三人組ポップバンド、Lamp。
2月5日にリリースされた彼らの最新アルバム『ゆめ』は、
新たに大きな第一歩を踏み出したことを十分に感じさせる、
独創的で素晴らしい一枚です。
胸がドキドキする、未体験の音楽。

天候や季節や情景に溶け込み、私たちに癒しや安らぎを与え、それでもなお独自の色を持ち続け、存在感が消えない静謐な音。あるいはクラブやバーやイベント会場で、その空間にうねりを生み、居合わせる人々の体を揺らすサウンド。あるいはラジオやカーステレオやパソコンに繋がれたスピーカーから流れては、聴く者の遠い思い出を呼び覚まし、心をくすぐるメロディ。

私にとって、好きで何度も繰り返し聴きたくなり、声を大にして誰かにその素晴らしさを伝えたくなるものには、それがどんな種類の音楽であっても、一つの共通点があります。それは、聴いた途端に体の中に電流が駆け巡り、胸がドキドキし、しばらくその体験が記憶として脳裏から離れない、“未体験の音楽”です。

リリースを何度重ねても、Lampの作品は必ずいつも、そんな“未体験”を私にもたらしてくれます。それまでに数え切れないほど彼らの音楽を聴いているにも拘らず、まるで初めてLampの音楽に触れたかのような新鮮な感動を、新作が出るたびに感じてきました。

例えば2011年に発表された前作『東京ユウトピア通信』。南米音楽特有のリズムアレンジや、ブラジルのミナス・ジェライスの音楽を彷彿とさせる澄んだ空気感、60年代後半のサイケデリック・ロックに通じる実験性などが、複雑なコード進行と高密度な情報量(楽器の数)の波の中で驚くほど立体的かつコンセプチュアルに構築され、しかも高純度なポップスとして昇華された作品でした。質・量ともに一切妥協のないこのアルバムの完成度に対して、日増しにコアな音楽ファンの評価が高まっていったのは記憶に新しいところです。

そして、3年振りに発表された彼らのニュー・アルバム『ゆめ』もやはり、過去に体験したことのない、新たなLampの音楽が満ちていて、つまりは良い意味で期待は裏切られたのです。今の私の気分はこうです。“またしても、新しいLampに出会った”。

より磨きのかかった、豊かで自由な音作り。

ダイナミックでスペイシーなシンセサイザーと、それに呼応するように溢れ出すストリングス。アルバム冒頭を飾る「シンフォニー」は、驚くほど圧倒的なインパクトと色鮮やかなサウンドスケープで幕を開けます。そして壮大なイントロの余韻の中から、堰を切ったように零れ落ちる黄昏のメロディ。あまりに劇的な『ゆめ』の世界の始まりに、私は思わず息を呑み、胸がいっぱいになりました。

20代の若き音楽家、北園みなみが数曲参加していることも、今作の大きな変化の一つといえます。彼は数々の楽器をこなし、様々なジャンルを横断する天才肌の若きポップ職人。特に北園色が強く表れていると感じたのは、彼がアレンジを担当した2曲目の「A都市の秋」です。ベーシックトラックや主旋律の間を縫うように顔を出すストリングスとブラスセクション。そのクールで引き締まったプレイは、全く新しいというよりも、ありそうでなかったLampサウンドを生み出しています。さらに「ため息の行方」ではシンガー・ソングライター新川忠が、続く「6号室」ではダニエル・クオンが、それぞれリード・ボーカルと途中で挟まれるモノローグで起用されています。いずれもLampならではの個性的な顔ぶれといえ、無くてはならない大事なエッセンスとして、各曲の中でぴたりとフィットしています。

また、一枚を通して終始緊張感が漂っていた過去数作とは異なり、後半に向かうにつれ、より柔軟で活き活きとしたサウンドアプローチが随所に感じられます。例を挙げると、「渚アラモード」でのシンセサイザーの音色や、「二人のいた風景」におけるニューソウルテイストのカッティングギターなど。Lampの音楽に初めて触れるリスナーも、その親しみやすくバリエーション豊かな楽曲の虜になるはずです。


右:榊原香保里

左:染谷大陽
右:永井祐介
「さち子」がもたらした相乗効果。

今作におけるLampの新たな試みや前作までとの差異を可能にしたのは、やはりアルバムの最後に収録されている「さち子」(染谷作曲・榊原作詞)の存在が大きいのではないかと思います。

彼らとしては珍しく三拍子を基調としたナンバーで、二度と戻らない青い季節の光景と、甘く切ないメロディが胸を焦がす名曲です。その歌詞と旋律は、まるで同時に生まれてきたかのように美しく調和しています。2年前、深夜のラジオ番組で彼らはこの曲をアコースティックバージョンで演奏しました。私はそれを録音していたので今回聴き返してみたのですが、色褪せることのないポップスとしての力、すなわち詞とメロディの普遍的な素晴らしさは、シンプルな構成の中でも十分に伝わってくるものでした。

そしてこの「さち子」に触発されて生まれたのが先述の「シンフォニー」(永井作詞・作曲)です。デビュー当時からLampの曲に宿っていた煌めきや切なさや青さ、作品を重ねるごとに増し続けた冒険心と好奇心、そして常に真摯に音楽に向き合うひたむきな姿勢。どちらも、それら全ての要素が高い次元で見事に結実した、まさにLampの真骨頂といえるナンバーです。

ある友人が、この2曲について口にした言葉がとても印象的でした。「アルバムの最初と最後にあるから一番離れているけど、全体をリピートして聴くと隣同士だね」。

この二曲の完成度は、残りの曲にさらなる自由を与え、その結果、彼らにしか生み出せない唯一無二の世界観が紡がれています。メンバーそれぞれが切磋琢磨し、影響し合い、曲が曲を生み、それが作品全体に良いヴァイブレーションをもたらしているアルバム『ゆめ』。バンドという形態の最も理想的な姿を、Lampは今作で体現したと言って良いでしょう。

壮大な幕開け、若い才能の起用、サウンド面での新たな試み、キーとなる曲の存在、そして三人のグッドヴァイブレーション。これまで以上の柔軟性を纏った彼らが描いた『ゆめ』の世界から、私はもうしばらく抜け出せそうにありません。

『ゆめ』
Lamp
2014年2月5日発売 3,000円(税別) UVCA-3019
レーベル: ポリスター

【Track List】
1. シンフォニー
2. A都市の秋
3. ため息の行方
4. 6号室
5. 空はグレー
6. 渚アラモード
7. 残像のスケッチ
8. 二人のいた風景
9. 静かに朝は
10. さち子

【Lamp Biography】

染谷大陽、永井祐介、榊原香保里により、2000年の冬に結成される。曲作りや録音方法だけでなく、言葉の世界やコンセプト、さらにはアートワークまで、時間を掛け徹底的に拘り抜く制作姿勢とその濃密な作品内容から、リリースの度に多くの熱心なファンを獲得してきた。70年代~80年代のブラジル音楽や60年代後半のサイケデリック・ミュージック等に影響を受けつつも、それをワールドミュージック的な観点や洋楽至上主義的な観点からではなく、今の日本人、今の東京の音楽として創作されている。懐古趣味や耽美的な面を感じる一方、音楽に対する自由な発想が唯一無二の世界観を生んでいる。現在まで6枚のアルバムをリリースしている。

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