Another Quiet Corner Vol. 33「ECM For Tomorrow」。
いま聴きたいECMの名作たち。
(2014.05.26)
ヨーロッパを代表ジャズ・レーベルのECMが今年で45周年を迎えます。昨年、創設者のマンフレート・アイヒャーが来日するということで(残念ながら体調不良で中止になりましたが)、Another Quiet Cornerで取りあげたり、クワイエット・コーナーの紙面でも特集を組んだりしました。そんな中、先日ユニバーサルミュージックから「ECM For Tomorrow」というリイシュー・シリーズが発売されました。
ラインナップは「ECMの今聴くべき名盤20タイトル」、「ECMをこよなく愛する目利きたちによるテーマ別セレクション20タイトル」、「ECM New Seriesの今聴くべき名盤 10タイトル」の合計50枚です。その中の「ECMをこよなく愛する目利き~」に、なんとクワイエット・コーナーもセレクターとして参加しているのです。ほかには青野賢一さん、伊藤ゴローさん、intoxicateさん、JAZZ PERSPECTIVEさんという豪華な面々。昨年、ドイツでアイヒャーにクワイエット・コーナーを渡してくださったユニバーサルの斉藤さんからこの企画のお誘いをいただきました。もちろん二つ返事で承諾。こんな素晴らしい企画に参加できるなんて夢にも思いませんでした。今回は “クワイエット” というテーマで、渾身の4枚を選びました。
クワイエット・コーナーが選んだ4枚のデュオ作品
まずはギタリストのラルフ・タウナーと、ヴィブラフォン奏者のゲイリー・バートンが1975年に発表した『Matchbook』です。どちらもECMを代表するベテラン・プレイヤー。ギターとヴィブラフォンのデュオ演奏は、ギターとピアノのデュオ演奏同様に難しいと聞いたことがあります。特にゲイリー・バートンは4本のマレットを使って演奏するわけですから、互いのコードやハーモニーのセンスが重要な鍵です。ただこの2人の音楽は、そんな障害などものともしません。むしろ居心地がいいくらいの相性の良さを感じさせます。
3枚目に選んだのはピアニストのスティーヴ・キューンが2004年に発表した『Promises Kept』です。これはキューンがストリングス・アンサンブルと共演した作品なのですが、キューンとストリングスの共演といえば、ゲイリー・マクファーランドがアレンジを手掛けた『The October Suite』や『The Early 70’s』を思い出します。ゆったりと幻想的な雰囲気を持ったゲイリーのアレンジは、リリカルで音数の少ないキューンのピアノにとって理想でした。しかしゲイリーが1971年に亡くなってからは、長らくキューンはストリングスとの録音はしておらず、この『Promises Kept』は待望の作品だったのです。アレンジを務めたのはカルロス・フランゼッティ。彼はピアニストでもありアレンジャーでもあるマルチな才能をもった音楽です。彼との出会いが新しい名作を生みだしました。
そして最後はやっぱりピアノ・トリオにしたいと思い、悩んだ末にボボ・ステンソン・トリオが2004年に発表した『Goodbye』を選びました。ボボ・ステンソンはノルウェイ出身の、いわゆるビル・エヴァンス系のピアニストで、よくキース・ジャレットとも比較されたりします。演奏はとてもメロディアスで柔らかく、個人的にはキースよりも聴きやすいと思います。この『Goodbye』は、はじめてECMを聴くリスナーにもおすすめの一枚です。また彼の演奏は牧歌的な雰囲気があります。風に吹かれる草木や流れる川のせせらぎ、そういったどこかノスタルジックで美しい情景が浮かんできます。多くの人がECMサウンドに惹かれる魅力がこの音楽に詰まっているといっても過言ではないでしょう。ちなみにこの作品、ベースは北欧随一と言われるスウェーデン出身のアンデルス・ヨルミン、そしてドラムはビル・エヴァンス~キース・ジャレット~エンリコ・ピエラヌンツィなど数多くのピアニストたちのトリオに参加したポール・モチアンです。
ECM作品が今回のように新しいアプローチでリイシューされることは素晴らしいアイデアだと思います。聴き継がれた名作ももちろん素晴らしいのですが、紹介される機会を逃しているたくさんの隠れた名作たちがECMには数多く存在します。今回のラインナップはどれを選んでも、ECMの揺るぎない美学に触れるとともに、いつもと違った角度からECMの魅力を眺めることができると思います。今回のラインナップを見て、僕もまだ聴いていない作品がいくつかあったので、改めて聴き直したいとも感じました。マンフレート・アイヒャーの来日がいつか実現されることを願いつつ、今はじっくりとこれらの音楽に耳を傾けていようと思います。