Rachael Dadd + Rozi Plain + Ichi Triangle Tour Japan 2011 レイチェル・ダッドに恋して。

(2011.01.28)
Triangle Tour Japan 2011のフライヤー。

音があふれた現代。街を歩けば否応なしに飛び込んでくる音、音、音……。特に都会暮らしにおいては、ときに暴力的でさえあるその響きに「いっそ無音になればいいのに……」と思うことも少なくありません。そんな気分の中、ふとしたきっかけで出会ったのがイギリスはブリストルという町から届けられた1枚のCD。それはちょっと不思議なイラストが印象的なレイチェル・ダッド2008年リリースのアルバム『The World Outside is in a Cupboard』でした。

ギター、バンジョー、ピアノ……、必要最小限の音で紡がれたシンプルでアコースティックな音楽。都会の喧騒にうんざりしていた私が、彼女の音楽に恋に落ちるにはそれほど時間がかかりませんでした。そして、そんな思いはもちろん私だけでは無かったようで、まったくの無名であった彼女は日本でCDをリリースし、全国津々浦々を音楽巡礼の旅に出かけ、日本各地で確実にそのファンを増やしたのでした。

元々は観光船の仕事をしながら、地道に音楽活動を続けていたレイチェル。日本で彼女の音楽が紹介されたのも、ブリストルを訪れたとある日本のインディレーベルのオーナーが偶然彼女の音楽に出会い、深い感銘を受けたことがきっかけだったようです。

しばしの空白の時を経て、そんなレイチェルのことを再び思い出したのは昨年末、盛岡のお店『carta』の店主ご夫妻との出会いからでした。音楽が縁で知り合ったご夫妻から「以前レイチェルさんのコンサートをうちのイベントスペースでやってもらったことがあるんです」とのお話をうかがい、彼女の音楽との思わぬ再開を果たしたのでした。

1年の約半分を日本に滞在し、インディペンデントな活動をしている彼女は、友人の力を借りながら自力でコンサートをブッキングして日本全国を回っていました。「10月に盛岡でまたコンサートがありますよ」なんて話を聞いてしまったが最後、気付いた時には私は盛岡~秋田~青森と東京から往復1,000キロ以上の道のりの追っかけを決行していたのです。

そして2011年2月、レイチェルと旦那さまでもある音楽家のIchiさん、そして今回ブリストルから来日するレイチェルの盟友:ロジー・プレインの3人による日本ツアー「Triangle Tour 2011」が開催されることになりました。

『The World Outside is in a Cupboard』
レイチェルの音楽の魅力。

日々移り変わる流行や慌ただしい日常の喧騒から一定の距離を保ちながら、心の深い所に染み込んでくる彼女の音楽。イギリスの伝統的なフォーク・ミュージックを根っこに持ちながらも、学術的な古臭さとは無縁の時代を飛び越えた本物の響き。ヴァシュティ・バニヤン、ブリジット・セント・ジョンやジョニ・ミッチェル、リッキー・リー・ジョーンズの魅力を併せ持ったような……、なんて小難しい説明さえ必要ない、聞いた瞬間に不思議な懐かしさを感じさせる、柔らかで瑞々しさに溢れた彼女の音楽。色んな音楽が溢れる現代、潜在的に多くの人が探しているにも関わらず見つけることが出来ないでいる、日常生活に寄り添うような静かな音楽。……どこにでもありそうでなかなか無い、そんな音楽がここにはあったのです。

ギター、バンジョー、ピアノ、そして足に付けた鈴でリズムを刻みながら、マイクもなしで行われることも多い彼女のライブ。普段こういうアコースティックな音楽は、マイクやアンプを使って音を増幅させ、音の弱さを補うような事も多いのですが、彼女の場合はむしろ逆。マイクを使わないことによって、その場の空気や風景さえも震わせる、その力強い静けさに圧倒されるのでした。

時には鳥のさえずりや虫の鳴き声、さまざまな自然音も自身のCDに取り込む彼女。自然や空間と共鳴しながら、時に朝日のように穏やかに、時に凍てつく冬の夜のように鋭利に紡がれるうたの数々。その一方で、虫や動物の話しを、あっけらかんと楽しそうな笑顔で語る天真爛漫な彼女。まったく肩に力の入っていない隣のおねえさん的な佇まいは、より彼女の音楽を魅力的なものにしています。

Rachael Dadd 英国ファーナム出身、ブリストル在住。ギター、バンジョー、ピアノを演奏。17歳でファーストアルバムをリリースし、音楽活動を開始。04年からブリストルに移り、Whalebone PollyやThe Handなどのサイドプロジェクトも始動。音楽のほか、MAGPIEとして 古い布を使った刺繍の手作り作品のブランドも立ち上げて、ワークショップなども開催。