Another Quiet Corner Vol. 29『音楽のある風景』の特別版は、
過ぎゆく一日に寄り添う音楽。

(2013.11.06)

2009年、橋本徹さんとの出会い。

橋本徹さんが監修を務めるアプレミディ・レコーズの中でも、ロングセラー・アイテムとされる『音楽のある風景』の四季シリーズ。今回なんとそのシリーズの一環として、HMV独占盤のスペシャル・エディションの発売が実現しました! テーマは“Sunlight to Moonlight”。過ぎゆく一日の流れにそって、メロウ・グル―ヴやサロン・ジャズ、ブラジリアン・ブリーズなどが収録された、橋本さんの選曲が光る一枚です。

僕にとって『音楽のある風景』の四季シリーズはとても思い入れの深い作品です。2009年、HMV渋谷店の8年間の勤務を終えて本部へと異動になり、はじめてのビジネス・ミーティングがアプレミディ・レコーズの第一弾『音楽のある風景~春から夏へ~』でした。インパートメントのディレクター稲葉さんからいただいたリリース・インフォメーションを見て、すぐに「やりましょう!」と返事したのを覚えています。僕は学生の頃から、ずっとフリー・ソウルやアプレミディ・コンピといったサバービア・アイテムを愛聴してきたので、橋本さん監修のレーベルがはじまるのはもちろんのこと、その名刺代わりとなるコンピレイションの選曲にも胸が高鳴ったのです。なぜなら僕の愛読書「音楽のある風景」(橋本さんが監修するUSENのチャンネル“usen for Cafe Apres-midi”の5周年を記念して発行された小冊子)に掲載されていた作品の中からも、たくさん収録されていたからです。それは2000年代以降のジャズを中心としながらも、ブラジル音楽やSSW、ネオアコなどジャンルを超えた眩しすぎるセレクション。そして洗練された色合いが印象的なジャケット・デザイン。そう、2000年にカフェ・アプレミディ・シリーズがスタートした時のような、幸せな気分の高揚感が伝わってきたのです。

『音楽のる風景』の対談を通じて。

『音楽のある風景』は新作が発売されるたびに、HMVのWEBサイト用に、橋本さん、ライナーを手掛ける吉本宏さん、稲葉さんをまじえて対談を行いました。また『音楽のある風景~秋から冬へ~』ではHMVオリジナル特典として、橋本さん選曲のCDサンプラー『公園通りの秋~Café Après-midi meets Rip Curl Recordings』を用意していただきました。また『音楽のある風景~冬から春へ~』では、今までの対談、書き下ろしエッセイ、架空スペシャル盤『音楽のある風景』ディスクガイドを掲載した、オリジナル読本“『音楽のある風景』の愛聴者のために”も制作しました。このように『音楽のある風景』は、形に残していく、ある意味“ハンドメイド感”を大切にしたシリーズであると思います。

この四季シリーズ以降も、アプレミディ・レコーズはたくさんの素敵なコンピレイションを発表していきます。どの作品も、今でも耳にすれば、発売当時の思い出がふと甦ります。『音楽のある風景~春から夏へ~』の発売の際、はじめて橋本さんのインタヴューをした時に、「音楽は一瞬にして思い出とか記憶にタイムスリップできる存在。『音楽のある風景』も多くの人たちに思い出と一緒に聴いてもらえたら嬉しい」という言葉が印象的でした。僕にとって音楽とは、“新しい刺激”というよりも、“切ない追憶”の方が強い存在であり、でも決してそれはネガティヴな意味ではありません。そうした心の隙間をそっと埋めてくれるからこそ前を向ける、そんなポジティヴな気持ちに満たされるのです。だから『音楽のある風景』シリーズも、発売された当時よりも今の方がもっと好き、そう断言できます。

『音楽のある風景』の四季シリーズへのオマージュがカタチになった特別版

そんな『音楽のある風景』の四季シリーズの発売から4年余り、そろそろ新作が聴きたいと思い立ち、稲葉さんに「HMVで特別版を作ってほしいです」とリクエストしたところ、橋本さんからも快く承諾していただき発売へと至りました。当初は「オリジナル読本“『音楽のある風景』の愛聴者のために”」に掲載された、架空のコンピ『音楽のある風景~めぐる季節の中で~』の内容を踏襲する予定でしたが、橋本さんが選曲していく中で「“Sunlight to Moonlight”の方がいい形になりそうだけど、どうでしょう?」という提案があり、僕も80分の選曲ならこちらの方がよりリスナーにも伝えやすいですし、日常の生活にも自然に寄り添ってくれそうだと考え、結果的にそのテーマに落ち着きました。ジャケットのアート・ワークは四季シリーズの流れを汲み、そしてブックレットにはおなじみの吉本宏さんによるエッセイも掲載されています。こうしてシリーズ5枚を並べるとなんとも壮観な眺めです。

さて収録内容は、女性たちが笑顔になりそうなエレガントなサロン・ジャズ・ヴォーカルから、フリー・ソウル・ファンも歓喜の声をあげそうな絶品のメロウ・グル―ヴ、そして熱心な中南米音楽ファンの方にもチェックしてほしいブラジル~アルゼンチンの知る人ぞ知る名曲まで、橋本さんのとっておきの曲が集められています。それにエリス・レジーナ、ジャヴァン、ジョー・ジャクソン、ミニー・リパートン、バート・バカラックといった名曲のカヴァー・ヴァージョンにも注目です。一人で聴いてもよし、みんなで聴いてもよし、そしてこれから年末に向けて、パーティーやクリスマスのBGMで流したら、絶対に雰囲気よく盛り上がると思います。そうそう、こうした楽曲についての詳しい対談がHMVのWEBサイトにもアップされていますので、ぜひご覧ください。僕自身がリスナーとしても嬉しかった、今回の『音楽のある風景』の特別版。今後も一年に一枚はこのような形で発売できればいいなと夢見ております。とはいえまずはこの作品を、僕のような音楽好きの方や、何か素敵な音楽を探している方など、一人でも多くの人に届けられればと願っています。

音楽のある風景 ~Sunlight to Moonlight~
2013年10月31日発売 2,400 円(税込)
監修・選曲:橋本徹(SUBURBIA)ライナー:吉本宏
レーベル:アプレミディ・レコーズ

【Track List】
01.Lo Que Mas Me Gusta / Francesca Ancarola
02.Long Days, Short Nights / Kwesi K
03.I’d Rather Be Flying / Jerome Olds
04.Start Up A Family / Josh Rouse
05.Make Someone Happy / Angela Galuppo
06.La Que Me Gusta / Los Amigos Invisibles
07.Early Autumn / Clare Foster
08.Corrida De Jangada / Jennifer Scott & Brasileira
09.Flor De Lis / Melanie Dahan
10.Naissance / Francois Morin
11.Ondas Sonoras / Ed Motta
12.Viajante / Fabio Cadore
13.Steppin’ Out / Chris Schlarb
14.Marinheiro So (DJ Mitsu the Beats Remix) / Frankie Valentine feat.Monika Vasconselos
15.Lovin’ You / Fabiana Passoni
16.Close To You / Yusa
17.Woyzeck / Lucas Nikotian – Sebastian Macchi
18.A Smile Will Take You Far / Johan Christher Schutz

Another Quiet Cornerとは

このコラムはHMVフリーペーパー『Quiet Corner』編集長・山本勇樹さんが、『Quiet Corner』で書ききれなかった音楽を伝えてくれる連載です。2009年HMV渋谷店にできた「心を静かに鎮めてくれる豊潤な音楽」をジャンルや国籍に関係なくセレクトした伝説の売り場「素晴らしきメランコリーの世界」が、アルゼンチンの音楽家カルロス・アギーレと共鳴する音楽を聴くというbar buenos aires選曲イベントへと繋がり、ライヴ運営やコンピレイションの制作、レーベルの設立というように活動の幅を広げています。イベントごとにつくられた幻のフリーペーパー『素晴らしきメランコリーの世界』が、2011年春「Quiet Corner」と名前を変え、同じコンセプトで静かだけではない豊かでQuietな音楽を紹介し続けています。