ソロピアノ『ヴィジオネール』発売&ツアー開催ピアノマン伊藤志宏が奏でる
ソロピアノは大人のための子守唄。

(2013.03.29)

写真提供/中村信彦『HUMMOCK Cafe』 

『ヴィジオネール』で生まれた新たな感覚。

—— 今回のソロピアノ『ヴィジオネール』はいつごろから構想していたのでしょうか?

昨年4つのレコーディングに参加しました。そして青木カレンや一青窈など10名のボーカリストを迎えての初リーダー&プロデュース作品『ladies & pianoman』を制作し、CDとして作品を残す喜びを実感しました。いい音楽をもっと多くの人に届けたいと素直に感じるようになってきました。3年ほど前からライブでソロピアノを演奏する機会が増え、ピアニストとして、また作曲家として、もっともシンプルなフォーマットでCDを作りたいと考えるようになっていました。「ヴィジオネール=幻を視るもの」、「大人に聞かせる子守唄」をテーマに、自分の審美感で聴こえている音を、そしてホールの臨場感を伝えたいと大切に演奏しました。

—— 『ヴィジオネール』発売記念の全国ツアーが始まっていますが、ファンの反応はいかがですか?

どの会場でも深々と聴き入っていただき大変愉しく弾けています。これまで2回ほどソロピアノ・ツアーをしましたが、今までに無いほど集中できたような気がしています。初めての方も多かったんですけど、初志貫徹ということでオリジナル曲を中心に弾いたのですが、興味を持っていただけてよかったと思っています。会場のみなさんと一緒に音を作っている感覚を実感できるツアーが続いています。これを機にソロピアノ・ツアーも定期的に行っていきたいと思っているところです。

長く伊藤志宏というピアニストを追いかけているが、この1年の充実ぶりは目を見張るものがある。繊細でしなやかなその音色、ときに情熱的、ときにはかなげな旋律にいつしか引き込まれる。『ヴィジオネール』はそんな魅力が凝縮した作品になっている。

クラシックとヨーロピアン・ジャズ。

—— 5歳でピアノを始め、14歳のとき東京交響楽団と共演されています。志宏さんにとってクラシックとは? そしてジャズとの出会いは?

小さいころはクラシックというより、ピアノを弾くことが本当に楽しかったです。音楽はクラシック以外に接することはありませんでした。

ジャズを初めて聞いたのは大学時代に偶然買ったセロニアス・モンクのソロピアノでした。今まで聴いたことのない演奏表現に惹かれジャズ研究会に入りました。ウィントン・ケリーやトミー・フラナガンなどを聴き、独学でジャズを弾き始めました。そしてミシェル・ペトルチアーニのCDを聞いたときに衝撃を受けました。

クラシックの要素も強いヨーロッパのジャズ・スタイルはとても新鮮でした。そのころに出会ったクラリネット奏者の北田学の影響もあり、リタ・マルコチューリ、ボヤンZ、ステファン・オリヴァなど民族音楽、そしてクラシックなどさまざまな音楽要素を持ったヨーロピアン・ジャズに熱中していきました。

同世代ミュージシャンとの化学反応。

—— 共演されている島祐介さん、北田学さん、藤本一馬さんなど同世代の個性的なアーティストが多いですが、どんな刺激を受けていますか?

Shima&Shikouの島祐介はジャズ研究会の先輩。万人がいいと感じる楽曲のセンスを持っていてうらやましいです。「audace」の北田学もジャズ研究会からのつきあいになりますが、好きな音楽をマニアックに追求できる貴重なパートナーですね。

昨年初めて共演した藤本一馬からは2人とは違った刺激を受けています。ギタリストとしても一流ですが、楽曲をはじめアーティストとしての表現力に驚かされています。彼とはもっと共演を重ね、じっくりと作品をつくっていきたいと考えています。

今後の活動について。

—— 今後、どのような音楽活動をしていこうと考えていますか?

昨年からスタートしたプロジェクト3チェロはとても可能性を感じています。最初はちょっとした洒落で「チェロが3台あったらどうなるのだろう」という実験のような発想で始めましたが、いざやってみたら愉しくてしょうがなくなってしまいました。このプロジェクト用に曲もたくさん書いています。

将来的には大編成のアレンジにもチャレンジしていきたいと考えています。今考えているのはフルート、クラリネット、トロンボーン、バイオリン2、チェロ2、パーカッション、ヴォイス2人などイメージ。

伊藤志宏のサウンドは、ヨーロッパのミュージシャンのように弦楽器、管楽器のアレンジが独創的。個性的なミュージシャンとの共演ほどその魅力が際立つ。Shima&Shikouやaudaceはセカンド・ステージに入っていくプロジェクト。さらに新しくスタートした3チェロ・プロジェクトや藤本一馬とのデュオは更にプラッシュアップされていくハズだ。楽しみでならない。

【Live information】
4/21(日)伊藤志宏(p)& 3 cello variation 会場:SARAVAH東京 17:00 Open / 18:00 Start

ヴィジオネール / 伊藤志宏
2013年1月23日発売 2,500円 (税込) RBCP-2668
レーベル:ランブリング・レコーズ

【Track List】
01. 卯月
02. 遠雷
03. 神無月
04. 月光残舞
05. 水無月
06. 浮雲
07. 睦月
08. 足音
09. 暁に奏でる
10. セラフィータの夢
11. 長月

伊藤志宏(いとう・しこう)

5歳の頃より祖父の岸川基彦にクラシックピアノを師事する。14歳の時、東京交響楽団とベートヴェンピアノコンチェルト第3番を共演し、好評を博す。慶応義塾大学経済学部入学後にセロニアス・モンクのソロピアノのCDを聴いて「ジャズもいいかも」と思い独学で始める。23歳頃から、ライブを始めるようになりプロ活動を開始。島裕介とのデュオ“Shima&ShikouDUO”、アコーディオン奏者として北田学と組んだ“audace”にてCDデビュー。更には、UAのアルバム『SUN』に参加したり、ジャズ界だけにとどまらず多くのアーティストのライブをサポートするなど、多方面で活動している。