独特のミニマリズムと神秘性に満ちた美しいハーモニー12弦ギターを操る若き才能
ジェームス・ブラックショウ来日。

(2012.10.15)

James Blackshaw ロングインタビュー

先日旅行でひと足先に日本に到着したJames Blackshaw(ジェームス・ブラックショウ)とレコードショップを訪れたときのこと。ジェームスのアルバムが陳列されている棚の隣には、Jim O’Rourke(ジム・オルーク)とJohn Fahey(ジョン・フェイヒー)が並んでいました(そしてその隣にはJoanna Newsome(ジョアンナ・ニューサム)も!)。 なんとも面白い偶然ではありますが、ジェームスもまた二人と同じ偉大なるギタリストへの階段を、一歩一歩着実に上っている才能あふれるアーティストです。

『ピッチフォーク』や『ニューヨークタイムズ』のような辛口メディアからも圧倒的な評価を受けるジェームス・ブラックショウ。一般的には知られていない12弦ギターという特殊な楽器を使い、豊かな倍音の響きを最大限に生かした美しく個性的な演奏で知られていますが、そもそもの音楽との出会いはピアノだったそうです。

ジェームス:僕はロンドン郊外の小さな町Bromley(ブロムリー)の出身。ブロムリーは特にすることが何もないような町で、とてもシャイな子供だったと思う。だから読書をたくさんして、映画もたくさん観て、テレビゲームもたくさんしたよ。家族の中には絵描きだった叔母さん以外に音楽家とか芸術家という経歴のある人は誰もいなかった。

僕の母はピアノを習いたがっていて、ある日中古のアップライトピアノを買ったんだ。結局母がピアノを習うことは一度も無かったんだけど、僕はそのピアノを弾くのが好きで、ちょっとしたシンプルなメロディを作ってみたりしていたよ。母は僕にピアノのレッスンを受けさせようとして、3回ほど受けたんだけど、その時はそれが本当につまらなくって、すぐに辞めてしまったんだ。

楽譜の読み方とか音階を学ぶことが、どう実際に音楽を作ることと繋がりがあるのか理解できていなかったんだと思う。それはまるで僕にとっては数学みたいなもので、僕は数学が苦手だったから。

ピアノを弾くことで始まったジェームスの音楽人生ですが、10代の頃はロックバンドを組んで、ありとあらゆるパート(ボーカルも!)を担当していたそうです。そんな典型的ロック少年に転機が訪れたのはジョン・フェイヒーとの出会いでした。

ジェームス:16歳の時に友達に教えてもらったジョン・フェイヒーを聴いてすぐにとても気に入ったよ。当時はたくさんのインディーミュージックとかパンクロックのような音楽に、それはもう没頭していたんだ。

21歳の時にレコード屋でバイトを始めて、さらににRobbie Basho(ロビー・バショー)やLeo Kottke(レオ・コッケ)、Bola Sete(ボラ・セチ)など探せる限りのソロギター音楽にのめり込み、同時にドローン、クラシック、実験的音楽、フリージャズ、インドや日本や中国やインドネシアの伝統音楽とかもね。様々な種類の音楽を新たに発見、再発見していったんだ。

最初は古い6弦ギターを持っていて、ジョン・フェイヒーのレコードに合わせて演奏したり、彼がしていることをコピーしていたよ。

そんなある日、12弦ギターを楽器店で見つけて、興味本位で手に取ってみた。そのとき、これでオリジナルの何か――僕が影響を受けていたいろんな異なるものたちを融合した“何か”ができるかもしれないって思ったんだ。

家族や友達が応援してくれて、まずはデモづくりを始めたよ。そんなとき、友達のジョーンが無料でスタジオ・レコーディングに誘ってくれて、収録後に僕のデモを4枚のCD-Rに焼いてとあるアンダーグラウンド・ミュージックのレコード会社に送ったんだ。それが『Celeste』、僕のファーストアルバム。

10年後にもまだ音楽を作り続けてるなんて、そのときは全く考えなかったよ。

ジェームス・ブラックショウの音楽の代名詞的な存在となった12弦ギター、一般的にはあまり馴染みのないこの楽器をどうして使おうと思ったのだろうか。

ジェームス:ロビー・バショーの音楽からは大きな影響を受けたよ。フィンガーピッキング奏法による12弦ギターの演奏を聴いたのは、彼の演奏が最初だと思う。とても美しいと感じたよ。

ある日自分で試してみて、“これだ!”って思ったんだ。

壮大なオーケストラの音調が、至ってシンプルなパターンやコードから表現するようにね。僕の演奏スタイルはがらりと変わってしまって、それからは長い間6弦ギターを手にする事ができなかった。

12弦ギターを手にしたことで独自の音楽性を発展させることになったジェームス。その音楽は、特殊な楽器の使用だけに収まらない様々な音楽のエッセンスを蓄えたものです。(かくいう私も、ジェイムスが『Self-Titled Magazine』に提供したミックステープで、マーゴ・ガーヤンを始め、たくさんの未知の音楽を教えてもらいました。)

ジェームス:ギターを演奏すればするほど、僕のギターがギターっぽく聴こえてほしくないと思うんだ。もしもそれで筋が通るならね。

Charlemagne Palestine(シャルルマーニュ・パレスティン)やLubomyr Melnyk(ルボミル・メルニク)、Philip Glass(フィリップ・グラス)などのミニマリスト作曲家や、ドビュッシーやサティ、ラヴェルなどの空想的、印象派のクラシック音楽が僕にとってもっと重要になってきたんだ。

そして、一般的にギタリストたちに影響力があると言われるカントリー・ブルースとかインディアン・ラーガとかが僕にとってはてそんなに重要じゃなくなったんだ。さらに自分の感情をさらけ出すのとか、自分に正直であることをそんなに恐れなくなったんだ。

***

アルバム『The Cloud of Unknowing』『Litany of Echoes』で世界的な評価を獲得、30代はじめにしてソロギタリストとしての確固たる地位を築きあげたジェームスですが、独特の世界観は音楽だけではなく、文学作品の題名から取られたアルバム・タイトルにも見ることができます。

ジェームス:一時的に読書に夢中になる時期はあるよ。すごくたくさんの本を読むときもあれば、全く読まないときもある。なぜかアルバムレーコーディングのときに読書に耽ることがしばしばあるね。文学は何らかの影響を持ってるんだ。本の中の言葉を抽象的にとらえてタイトルに転化させるアイディアが好きなんだ。ちょっとしたディテールとか、読んでる本に関する何かが僕の心をつかむという感じかな。

すでに10を越えるオリジナル作品をリリース、早熟の才能は今後どのような作品を作っていきたいのでしょうか。

ジェームス:ポップ・アルバムを作りたい。そのアルバムが有名になってほしいとかお金儲けしたいという意味でじゃないよ。60年代、70年代にはさながら狂気と思えるほどの熟練や細部への知的な注意力に満ちたポップミュージックが、ものすごくたくさん生まれたと思うんだ。無意識に鼻歌を歌わせて、僕の足をタップさせちゃうような音楽を聴くのが本当は好きなんだ。

ポップミュージックを作ることはすごいチャレンジだし、それを簡単とか単純って考える人は大きな思い違いをしているのさ。作るのも聴くのも明確なルールの無い実験的音楽って、そう言う意味では簡単なものだよ。出来の良いポップミュージックを作るには、少なくともリスナーがその曲を自然に思い出さなきゃいけないと思うしね。

日本でのツアーは2006年以来、6年ぶりとなる。日本についての印象を聞いてみました。

ジェームス:僕は日本が大好き。世界中のどこの食べ物より日本食が好きなんだ。西洋人として、日本に対して文化的にとても通ずる部分を感じると同時に全くの異国だっていう気持ちが混在している。でも日本には本当に引きつけられるよ。僕が大好きな人たちも日本にはいるしね。日本は僕にとって大切な場所なんだ。

全6都市7公演を廻る今回のツアー。その共演者の多くはジェームス本人も大好きな女性アーティストたち。

ジェームス:僕はずっと長い間石橋英子の大ファンなんだ。彼女と共演できるというのは本当に光栄だよ。彼女は素晴らしい作詞/作曲家であり音楽家だよ。僕は既に2006年に大阪のなんばで山本精一と一緒にVampillia(大阪公演のオーガナイズを担当)のメンバーと即興で一緒に演奏した事があるんだ。すごく楽しかったし、僕はVampelliaが大好きだよ。同様に、ぼくは加藤りまの音楽の大ファンなんだ。あと、本当つい最近なんだけどausとRayonのことを聞いてね、感動したよ! Rayonsは新しい僕のフェイバリットだよ、本当!

ちょっとはっきりさせたいことがあって…僕はそれほど多くの音楽が好きではない非常にシニカルな人間なんだ。はっきり言うと、大半の音楽がキラいなんだ。でも日本のアンダーグラウンド・ミュージックに関しては少し違うんだ。僕は日本で一緒に演奏する全てのミュージシャンが大好きだし、共演できることを光栄に思っているよ。前回はテニスコーツのさやと、High Riseの成田宗弘と共演したんだ。僕は本当に運がいいよ。

実際に会ってみると、爪の長さにさえ気づかなければ凄腕ギタリストとは見えないごく普通のイギリスの若者といった印象のジェームス。最後にアーティストらしいこんなことも話してくれました。

ジェームス:僕はもっといいピアノ奏者になりたいんだ。もっといいドラマーに、もっといい作詞家に。僕とは全く違う感受性を持った人たちと、もっともっとコラボレーションしてみたいし、実際にコラボをしてどれだけ新しいものを生み出せるのか試してみたい。何もかも、もっともっと上手になりたいんだ、心からそう思っているよ。

James Blackshaw Japan Tour 2012

10/20 (土) 奈良 ギャラリーカフェ・タケノ
open 16:30 / start 17:00
adv.3,000円 / door 3,500円
共演:minakumari

10/21 (日) 東京 VACANT
open 16:30 / start 17:00
adv.3,000円 /door 3,500円
共演:石橋英子, 青葉市子

10/23 (火) 岡山 城下公会堂
open 19:00 / start 19:30
adv.2,800円 / door: 3,300円
共演:小西康寛×田中恵一

10/26 (金) 富山 nowhere
open/start 19:00 / 20:00
adv. 2,500円 / door 2,800円
共演:aus

10/27 (土) 金沢 アートグミ
open 18:30 /start 19:00
door 2,000円 (学生・アートグミ会員 1,500円)
共演:加藤りま, ミニコ(アキツユコ+まついいっぺい+アスナ)

10/28 (日) 東京 富士見丘教会
open 16:00 / start 17:00
adv. 3,000円 /door 3,500円
共演:Rayons

10/29(月)大阪 CONPASS
open 19:00 / start 19:30
adv.2,500円 / door 3,000円
共演:Apsu and more

お問い合わせ:flau www.flau.jp event@flau.jp

James Blackshaw (ジェームス・ブラックショウ)

1981年生まれ、ロンドン出身の12弦ギター奏者/作曲家。Michael Gira主宰のカリスマ的レーベルYoung GodやImportant, Tompkins Squareなどからのリリースで注目を集めるアーティスト。ドローン、倍音、パターンリピート奏法による表現にフィンガーピッキングを用い、催眠的でありながらエモーショナル、また豊富な実験性と美しいメロディが同居するインストゥルメンタル・ミュージックを生み出している。アメリカーナ~ミニマル、サイケデリックを取り込んだ個性溢れるコンポジション、圧倒的な演奏力は各方面から高い評価を得ており、Spin Magazineは歴史上最も優れた100人のギタリストの一人に彼の名を挙げ、これまでにリリースされたアルバムはPitchfork, New York Times, Rolling Stone, Wireなどでベストアルバムの1枚に選出。近年ではピアノやストリングス、ボーカルも取り入れた楽曲も発表するなど、作曲家としても類まれな才能を開花させている。


The Cloud of Unknowing

Glass Bead Game