藤本一馬さん3rdアルバム『My Native Land』リリース。日本的旋律から砂漠の旅まで、藤本一馬さんは新しいステージへ。

(2014.07.14)
  • Photo by Ryo Mitamura
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ここ数年、一聴して日本人アーティストの作品かどうかわからないインストゥルメンタル作品が増えているような気がします。なかでも伊藤ゴローさんの『GLASHAUS』、『POSTLUDIUM』は驚くほどセンセーショナルでしたが、今回の藤本一馬さんの新作『My Native Land』も、4曲目の聴き覚えのあるメロディにたどりつくまで、いったい誰の作品を聴いているのかと、ふと考えてしまうほどの無国籍感が漂っています。

一馬さんの中でなにか大きな変化が起きているのでしょうか? ご本人に作品についてのお話を伺いました。

-1作目、2作目ともに口ずさみたくなるような印象的なメロディに乗ったサウンドが魅力的な作品が多かったのが、『My Native Land』では、まるで南米か中東・ヨーロッパ出身のギタリストが即興で奏でるような、ややメロディレスなギター演奏とセッションが多いですね?

一馬:ぼくはそれほど意識していないんですけど、何か新しい変化があるのかもしれないですね。2作目のリリース以降、さまざまな素晴らしい音楽家の方々とライブセッションやレコーディングを通じて交流をさせて頂き、それはとても大きいかもしれませんね。

-どんなミュージシャンと交流したのですか? 

一馬:まずカルロス・アギーレさんやヘナート・モタ&パトリシア・ロバートさん、北村聡くんとの共演があった前作のレコーディング、そして今作で新たに参加頂いたアンドレ・メマーリさん、金子飛鳥さん、佐藤芳明さん、沢田穣治さんはまた大きく音楽を広げてくださいました。岡部洋一さんと工藤精くんは一作目からずっと参加頂いていますね。

そして、昨年のアントニオ・ロウレイロ、ギジェルモ・リソットの来日での共演も素晴らしい経験でした。また伊藤志宏くんとのデュオはパーマネントな活動に、そして林正樹くんとのデュオやQuiet Dawn、吉澤はじめさんはデュオからorange pekoeでも、中島ノブユキさんは畠山美由紀さんをはじめボーカリストの方々も通じてのセッション等ピアニストの方々との共演も大きいですね。その他ギタリストの宮野弘紀さん、小沼ようすけくん、鬼怒無月さん、サイゲンジさん、またアルゼンチンの楽器ケーナの岩川光くん、タンゴユニットのトリオ・セレステなどなど。全員のお名前を挙げたいのですが、ちょっとここではおさまりきらない…。

皆さん素晴らしい独自の音楽世界を持っている方々ばかりで、共演するたびに新しい何かをもらっているような気がしています。

 
  • アントニオ・ロウレイロ(key.vo)、林正樹(p)、 沢田穣治(b)、田中徳崇(ds)と共演(以下敬称略)Photo by Ryo Mitamura
    アントニオ・ロウレイロ(key.vo)、林正樹(p)、 沢田穣治(b)、田中徳崇(ds)と共演(以下敬称略) Photo by Ryo Mitamura
  • 小沼ようすけ(g)と共演
    小沼ようすけ(g)と共演
  • 吉澤はじめ(p)と共演
    吉澤はじめ(p)と共演
  • 中島ノブユキ(p)と共演
    中島ノブユキ(p)と共演
  • 林正樹(p)、北村聡(bandoneon)、サイゲンジ(g.vo.fl)と共演
    林正樹(p)、北村聡(bandoneon)、サイゲンジ(g.vo.fl)と共演
  • ギジェルモ・リソット(g)と共演 Photo by Ryo Mitamura
    ギジェルモ・リソット(g)と共演 Photo by Ryo Mitamura
  • アンダーシュ・ヨルミン(b)、林正樹(pf)と共演 Photo by Ryo Mitamura
    アンダーシュ・ヨルミン(b)、林正樹(pf)と共演 Photo by Ryo Mitamura
-Moon Danceはかなりプログレッシブですが、佐藤さんと共演するために書いた曲ですか?

一馬:作曲全体としてはそのためというわけではなかったのですが、佐藤さんに参加して頂きリハーサル初日の一回目からほぼ完璧なほどバッチリでした。もしかしたら無意識にイメージしていたのかもしれませんね、笑。

最終で追加したパートがいくつかあって、楽曲の完成自体は直前でしたしね。

-「鴇色」がとってもステキですね。

一馬:いままでぼくは自然讃歌というテーマで曲づくりが多かったんですが、このアルバムで初めて女性讃歌という意味で作曲しました。

-とても美しい曲ですね。まるでラブレターのような。

一馬:ありがとうございます。ラブレターといえばそうなるのかもしれないですが…、そういった曲はソロでは初めてかもしれないですね。「鴇色」は女性の顔色や着物の振袖の淡い紫みの赤色などの色ということで、この曲にぴったりのように思ったんです。

-「My Native Land」というのは、どういう意味ですか?

一馬:自分は小さく見れば関西生まれの日本人、けれど大きく見れば世界を旅する地球人でもあると。そして、現在活動拠点となっている「東京」という街は世界でいちばん多様な音楽と触れあえる街だと思うんです。ここで暮らしていると世界のあらゆる情報が手に入り、自分の中には日本的なこともはもちろん、いろいろな世界の音楽が当たり前のようにミックスされて存在しています。そういう意味で、ぼくの故郷My Native Landは、日本であって世界であるというような意味を込めています。

実は前作の「Dialogues」の最後に”My Native Land”という曲をソロギターで収録しました。これはプロデューサーの成田氏に後日聞いたのですが、その曲を聴いたヘナート・モタ&パトリシア・ロバートさんが「My Native Landが素晴らしく、このコンセプトでアルバムを聴きたい」と言ってくれたそうなのす。それがとても嬉しかったことを思い出しました。今考えると今回のアルバムに収録した”My Native LandⅡ”作る動機のひとつにもなっていたのかもしれないですね。この曲はコンセプトを先に考えてからつくった作品なんです。

* * *

-この無国籍感は一馬さんの気持ちがそのまま音楽になったからなんですね。1曲目の「My Native Land Ⅱ」には、童謡のようなとても日本的なメロディがありますが、あれは作曲したものですか?

一馬:そうです。アンドレ・メマーリさんのピアノとユニゾンしています。

今から2年前、カルロス・アギーレさんと丸2日間レコーディングのために一緒に過ごす機会がありました。そのときにアギーレさんが「ぼくは音楽を始めたときからフォルクローレを取り入れていたわけではない。もともとはジャズやアメリカの音楽から影響を受けて演奏していたんだ。けれどもう少し近年になって自分のルーツや自分たちの周りに根ざす音楽を意識するようになり、そこからいまの音楽の世界を作り出していったんだよ」と話してくれたんです。
そんなお話を聴けたことは大きかったと思います。

ぼく自身も父親の影響もあり海外の音楽を聴いて育ち、日本の音楽に親しむ機会はあまりなかったんだけれど、あるときから、あらためて日本的な音楽、邦楽と呼ばれる尺八や民謡、わらべうたや日本人作家による伝統的な曲などを意識して聴くようになりました。ある種の再発見でもあり、もともとあったものでもあり、和の旋律が自分の中の琴線に響くんですね。それが自分のいろいろな国の音楽があたりまえにある感覚のなかで昇華されて、1曲目のMy Native Land Ⅱへと繋がったように思います。

  • 藤本一馬
    藤本一馬
  • 岡部洋一 Photo by Ryo Mitamura
    岡部洋一 Photo by Ryo Mitamura
  • 工藤精 Photo by Ryo Mitamura
    工藤精 Photo by Ryo Mitamura
  • アンドレ・メマーリ Photo by Ryo Mitamura
    アンドレ・メマーリ Photo by Ryo Mitamura

-そうだったんですか。ただその一部を除いては本当に無国籍ですね。とくに組曲「ナイト・スピリット」は、とてもエキゾティックですがどこの国の音楽なんでしょう。

一馬:「ナイト・スピリット」は4章からなる組曲のようになっています。中東から北アフリカ、そしてまたアジアまで巡る旅のような。いちおう各楽章ごとに名前をつけていました。第1章「砂漠の夜」でアラブの砂漠から旅がスタートします。第2章「スピリチュアル・ダンス」では砂漠の過酷な状況の中で一体化し神聖をみるような。この曲で初めてバイオリニストの金子飛鳥さんと共演させていただきましたが、飛鳥さんの持っている世界感が素晴らしく、鬼気迫る演奏が強力ですね。
-「スピリチュアル・ダンス」ロマ系の音楽ですか? 不思議な響きを持っていますね。

一馬:北アフリカ(マグリブ)のほうの音楽を意識しています。

-そして第3章では、ついに「声」デビュー!?

一馬:はい。ヴォーカルというよりはスキャット的な感じなんですけどね……第3章「オアシス」では、金子飛鳥さんとふたりでスキャットしています。神と出会うダンスの後、オアシスにたどりつき癒しの喜びのイメージを、声による倍音を使って表現したかったんです。初めての自分の声なのでどうなることかと思いましたが、笑、わりとうまくいってほっとしています。

第4章「砂漠の夜〜Reprise」で、ふたたび元の砂漠に戻って組曲が完成です。オアシス以外の3曲は以前からライブでもよく演奏していたもので新しくないのですが、今回新しく「オアシス」をつくって組曲にしたことで、自分のなかでようやく「ナイト・スピリット」が完成しました。

  • 伊藤志宏(p)さんとのデュオアルバムをリリース予定
    伊藤志宏(p)さんとのデュオアルバムをリリース予定

  • 伊藤志宏(p)さんとのデュオアルバムをリリース予定
    伊藤志宏(p)さんとのデュオアルバムをリリース予定

-そしてファーストアルバムへ入れることも考えていた2曲「光りに包まれて」「宇宙への翼」が収録されていますね。

一馬:この2曲を収録できてとてもうれしいです。ライブで演奏を重ねるうちに4年前の演奏とはスタイルからどんどん変化していった曲ですね。いまの自分の演奏スタイルで録音できたことはよかったです。

「光りに包まれて」は、9月にリリースを予定しているピアニスト伊藤志宏くんとのデュオアルバム『Wavenir』にも収録予定なので、同じ曲がどれだけ違う印象になるかをぜひ聴き比べていただけるとうれいしいです。

藤本一馬さんはギター&ヴォーカル・デュオ「orange pekoe」のギタリスト&作曲家として大学生のころから15年以上に渡り活躍してこられた音楽家ですが、ここ数年のさまざまな音楽家との交流に触発されてさらに進化し、自分のルーツである日本の伝統音楽というものを見つめ直し、2011年のソロ活動で始まった新しいステージから、さらに別の新ステージへの階段をどんどんと上り続けているような印象を受けました。

9月に発売される伊藤志宏さんとのピアノとギターのデュオアルバムではまた違う輝きを見せてくれそう。作曲とギター演奏の天才的な才能と柔らかなマインドと感受性を備えた音楽家がこれからどんな道を進んでいくのか、ずっと見守っていきたいと思います。

藤本一馬 『My Native Land』
2014年7月9日発売 2,916(税込)KICJ-674
レーベル:キングレコード

【Track List】

1. My Native Land II (5:49)
2. Moon Dance (5:56)
3. 鴇 色 -Tokiiro- (4:28)
4. El Corazón (10:49)
5. Night Spirit (12:38)
6. 光に包まれて –Embraced by Light- (7:44)
7. 宇 宙 へ の 翼 -Wings of Ascension- (9:23)
8. My Native Heart (2:50)

Personnel:
藤本一馬 / Kazuma Fujimoto AcousticGuitar [SteelString (ontracks-1,5,6&8), NylonString (ontracks-2,3,4&7)] & Voice (on track-5)
岡部洋一 / Yoichi Okabe Percussions (except track-3)
沢田穣治 / Jyoji Sawada Contrabass (ontracks-1,6&7)
工藤精 / Show Kudo Contrabass (ontracks-2,3,4,5&8)
Andre´ Mehmari Piano (ontracks-1&7)
金子飛鳥 / Aska Kaneko Violin & Voice (on track-5)
佐藤芳明 / Yoshiaki Sato Accordion (on track-2)