Another Quiet Corner Vol. 14 降っても晴れても、
どんな時でもそばにいるよ。

(2012.09.03)

MUZAKとコンピレーションを作る。

Vol. 11のコラムの終わりに「この夏にMUZAKからコンピを発売する予定です」と書きました。Another Quiet Cornerでも度々登場しているMUZAKは、すでに読者の皆さんにはお馴染みの音楽レーベルかもしれません。ジャズ、ボサノヴァ、ソフトロックなど古い音源から新しい音源まで幅広く紹介しながら、それら作品は音楽ファンのツボを突く魅力的なセレクションです。僕の大好きなアーティストや作品がいくつもあるので「いつかMUZAKの音源を集めてコンピが出来ればいいな」とずっと考えていました。そこで意を決して、プロデューサーの福井さんに提案したところ、「いいですね。作りましょう」と快諾いただきました。

まずミーティングを行いました。「どんなコンピにするか」「何をテーマにするか」、僕と福井さんとレーベル・スタッフの土田さんを含め3人でいろんな意見を出し合いました。その中では、「ワインに合うコンピ」、「日曜日の夕方に聴くコンピ」、「一日24時間を描いたコンピ」などなど色んなアイデアが出ましたが、どれもしっくりこなくてその日は何も決めずに終わってしまいました。

スタンダード曲「Come Rain Or Come Shine」から。

その後、福井さんから「カム・レイン・オア・カム・シャインって曲がありますよね。これをテーマにしませんか?」と連絡が。「Come Rain Or Come Shine」とはジャズのスタンダード曲で、「雨が降っても晴れても、どんな時でもそばにいるよ」という歌詞のラブ・ソング。つまりコンピには「悲しい時も楽しい時も、どんな時でも音楽がそばにあります」という意味を込めてはどうだろうという提案です。僕は迷わず賛成しました。それはすぐに選曲のイメージが浮かんだからです。

雨は静かでメランコリックな曲、晴れは軽やかでハッピーな曲…。MUZAKの幅広い音源を使えばこの「雨と晴れ」というテーマはやすやすとクリアできそうです。しかし、1枚のCDの中に「雨と晴れ」をイメージした楽曲を同時に収録し、ジャケットに両方を想像できるデザインをするのはとても難しく、リスナーにも伝わりにくいのではという不安が浮かんできました。そこで「だったら雨と晴れの盤を分けて2枚組にしてしまおう!」と決めたのです。2枚組にすれば、聴く時間や気分に合わせてCDを選べ、曲もたくさん収録できます。また「雨」の盤には穏やかな曲を収録することで「クワイエット・コーナー」とリンクもできます。

レイニー・サイドとサニー・サイド

こうして雨は「レイニー・サイド」、晴れは「サニー・サイド」とそれぞれ名付けて選曲を行いました。「レイニー・サイド」には、アン・バートンによるカーペンターズの「雨の日と月曜日」や、リンカーン・ブライニーによるバート・バカラックの「雨に濡れても」、リサ・ヴァーラントのリアーナの「Umbrella」といった雨にまつわるカヴァー曲を選んだり夜にも聴いてほしい気持ちを込めてプリシラ・パリスの「Moonglow」やメリッサ・カラードの「Stardust」といった月や星にまつわる曲を入れ込みました。寝る前にひとときや、読書のお供にぴったりな選曲だと思っています。

「サニー・サイド」はアイリーン・クラールによるスティーヴィー・ワンダーの「You Are The Sunshine Of My Life」や、ダイアナ・パントンによるアントニオ・カルロス・ジョビンの「This Happy Madness」といった多幸感に満ちたカヴァー曲をメインに、エイブラムス先生とストロベリー・ポイント小学校4年生の「Mill Valley」の子どもたちの可愛い歌声のような、みんなが笑顔になれるような曲をセレクトしました。また60年代伝説のSKYEレーベルから、カル・ジェイダーやゲイリー・マクファーランドを選んだので熱心な音楽ファンの方にも楽しんでもらえると思います。全体的にはとても耳馴染みのよい2枚組となりましたので、心地よいBGMを探している方にも気軽に手にとってもらえたらうれしいです。


左・アン・バートン
右・プリシラ・パリス

左・ダイアナ・パントン
右・エイブラムス先生とストロベリー・ポイント小学校4年生
パッケージ・デザインに託した思い

ジャケットやブックレットにもこだわりがあります。なんと両面表紙というめずらしいジャケット・デザインです。雨はちょっぴり悲しそうな男の子、晴れは笑顔の女の子、それぞれりんごを持った写真を選んでデザインしています。絵本のような温もりのあるジャケットなので、その日の天気に合わせてどちらかを飾ってもらえれば…。

またブックレットには、今回の収録曲のオリジナル・ジャケットが全てカラーで掲載されています。これは当時のA&MやSKYEのレコードの内袋にジャケットがたくさん掲載されていることが福井さんも僕も好きで、せっかくならブックレットを開いた時にも楽しいパッケージにしたかったらです。また気に入った演奏があればチェックできるように、楽曲ごとに参加ミュージシャンのクレジットも載せています。さらにプレゼントとしてもいい作品になったので、ジャケット・デザインをあしらったメッセージ・カードを特典として付けることになりました。ぜひメッセージを添えて大切な人へお贈りください。

改めてMUZAKの作品を聴き直しながら選曲をするのはとても楽しい作業でした。ひとつのジャンルに収まらないこだわりと情熱をもったセレクション。その音楽たちはけっして難しいものではないけれど、中身はスゴい本格派といった感じでしょうか。いつの日か福井さんがこんなことを言っていたのを思い出しました。「やっぱり目指しているのはSKYEの世界観なんですよ。音楽性は幅広いけど、ちゃんと筋が通っているような……」。この『カム・レイン・オア・カム・シャイン』のコンピを聴いて、MUZAK独特の素敵な魅力を感じて取っていただければこの上なく幸せです。

Come Rain or Come Shine 降っても晴れても

2012年08月29日 2,500円(税込)MZCD1254
レーベル:MUZAK

Another Quiet Cornerとは

このコラムはHMVが季刊で発行するフリーペーパー「Quiet Corner」の編集長・山本勇樹さんが、「Quiet Corner」で書ききれなかったアルバムやアーティストにまつわる話しを伝えてくれるコラムです。2009年10月、HMV渋谷店に伝説の売り場「素晴らしきメランコリーの世界」が誕生しました。この売り場は「心を静かに鎮めてくれる豊潤な音楽」をジャンルや国籍に関係なくセレクトするものでした。2010年1月に、bar buenos airesという選曲会で、その売り場の中心的な存在であるアルゼンチンの音楽家カルロス・アギーレと共鳴する音楽をかけて聴くというシンプルなイベントがスタート。イベントごとに制作、配られたフリーペーパー「素晴らしきメランコリーの世界」はHMV渋谷店閉店と同時に終了、2011年春「Quiet Corner」と名前を変え、まったく同じコンセプト&選曲者によって静かだけではない豊かでQuietな音楽を紹介し続けています。