『アデュー世界戦争』6月6日発売 世界へ向けて音を放つ準備は万端。
ミュージシャン 世武裕子。

(2012.06.15)

6月6日、3rdアルバム『アデュー世界戦争』をリリースしたミュージシャン、世武裕子さん。
留学先のパリから帰国後、やっと自分がやりたい音楽を突き詰めるシフト、
リズムが作れるようになってきたといいます。
最新作について、音楽家としての原点、音作りについてお話していただきました。

やりたい音楽をやりきった
『アデュー世界戦争』

ー6/6発売の『アデュー世界戦争』聞かせていただきました。久々に音楽の CDが出た、という印象です。アーティストがストレートにがやりたいこと100%やっている、というパワーを感じました。構想にはどれくらいの時間をかけたのでしょうか?

世武 『アデュー世界戦争』3枚目のアルバムになります。構想は、2年半前に2枚目のアルバム『Lili』を作った時から考え初めていました。『Lili』も一生懸命作ったアルバムでしたが「私が本当にやるべき形は本当にこれなのか?」という疑問がありました。自分で歌ったのですが、ピアノに比べて、歌うことの技術が追いついていないことでフラストレーションもあった。レーベルの方からは「次のアルバム(3枚目)も歌った方がよいのでは」と言われていたのですが、それは違う、ということで、自主レーベルから発売になりました。

ーご自身の出演もあった Google Chromeの CM 曲で使われた1st シングル『Good Morning World!』は、世武さんがやりたいことがギュッと凝縮されていた感じですが、あの方向ではなくて、もう一歩、世武裕子さんがやりたい方向に上手くステップアップした感じがあります。

世武 『Good Morning World!』のような方向の方が、幅広く受け入れられやすいとは思います。今回も葛藤しながら作りましたが、幅広く受けるものをみんなが目指してしまうと、どんどん面白くない世界に行ってしまう。受け入れられやすい音楽というのは言ってみれば、1~10までの受け入れられやすいパターンがあって、その1~10の中でやるようなもので、そんなお決まりの世界は面白くない。それは、そういうのが得意な人に任せたいです。

「1~10の中でやらないと、よくわからないし売れない。」と言ってしまう音楽業界の中の人に対しては「そうは言わずに〜」と思うし、「もうちょっと元気にやろうよ!」とも思います。

ー売れる音楽、売れない音楽、という言い方そのものが、リスナーをバカにしていると僕は思います。リスナーはよい音楽を聞き分ける耳を持っているし、リスナーがアーティスト、楽曲を選ぶのが本来のあるべき形です。そのアーティストのパワーが、充分に出ているものが少ないから売れないし、受け入れられないのじゃないか、と思います。売るためのジャンル分けという弊害もありますね。

世武 CDを大手音楽ショップに卸す時の書類で、該当ジャンルに◯をする欄があるのですが、本当に困りますね。「世武裕子さんの CD は、現代音楽? J-POP?」とか言われると、そのふたつだけしかないのか、と思います。

ー例えば坂本龍一さんは、もう坂本龍一というジャンルになっている。坂本さんみたいにビッグネームになる前の人で、本当に自分のやりたい音楽を発信できている人もたくさんいるはずです。それを勇気を持ってアピールできるアーティストやレコード会社があればいいんだけどね。

『アデュー世界戦争』 / 世武裕子

2012.6.6 発売
レーベル: sebumaroux records FAMC-081

収録曲

1. ウィンブルドン世界選手権
2. ニューヨークと呼ばれた場所
3. 台湾人と一杯のお茶
4. 故郷
5. 君に
6. サッドナイト・ダンス
7. アデュー世界戦争
8. 伝説のトリプルプレイ
9. 75002

エンジニア:関根青磁
ミュージシャン:ピーター・ルジツカ(ヴァイオリン)、マルコ・マッセーラ(ヴァイオリン)、西岡まり子(マリンバ)、棚橋俊幸(エレクトリックベース)、千葉広樹(アコースティックベース)、服部正嗣(ドラム)、太田智子、鈴木芳(コーラス ソプラノ)、梶浦知甫、福嶋あかね(コーラス メゾ・ソプラノ)

●『アデュー世界戦争』豆知識
・世武さんいわく「全篇ギャグ満載」のアルバムである。収録曲を弾いていると世武さんは大笑いしてしまう。ヒントは映画『奇人たちの晩餐会』のくだらないギャグ。
・『75002』の聞きどころは、世武さんのフランス語なまりの英語。曲中で連呼しているのは、パリ時代の友人の名前。
・ジャケットのイラストは似顔絵。左からバッハ、ベートーベン、ストラビンスキー、プーランク、世武さん。
・イラストは日仏学院103号室のペインティングを手がけたフランスのイラストレーター、イザベル・ボワノによるもの。ベートーベンのスカーフの赤、緑は世武さんのリクエストによるもの。
・イラストではバッハが「向こうに行こうよ!」と言っているのに、みんなに無視されている。一番エライのに。バッハが連れている犬のヨレヨレぶりにも注目。

CIA の調査官になる夢破れ
映画音楽家を志す。

ー世武さんが、音楽が面白い、と思いはじめたきかけというと?

世武 もともと音楽が面白いと思ってはじめたタイプじゃないんですよ。親にやらされた系です(笑)。ピアノは3歳から習わされていて。同時にフランス帰りの絵の先生について絵も習っていたので、小さい頃は絵描きになりたかったんです。中学に入る前に「君はフランスで絵を習うべき才能だ!」と言われて、その気になっていました。

でも親は古い人なので、フランスに行くなんてとんでもない、という感じで。音楽では、小学生の時から電子オルガンのコンクールに出て賞をとったりしていたので親は「この娘には音楽しかない。」という風になっていて、うんざりしていました。

そんな時映画に目覚めました。『ゴジラ』や『ジュラシック・パーク』に衝撃を受けて恐竜博士になりたい、と思ってました。フランスに留学していたので、「フランス映画に影響を受けて映画音楽を勉強するようになったの?」 とよく言われるのですが、私の映画好きのスタートは、王道のハリウッド映画です。スパイ映画を見ては「CIAに入りたい。」と思って図書館で自分なりにリサーチしたり。どうもCIA の調査官になるには アメリカ人じゃないとダメらしい、とわかって諦めた。そうやってアメリカ映画を観るうちに「フィルムメーカーになりたい。」という気になっていきました。でも、どうやってなったらいいかわからない。映画を観るといっても、田舎なので映画館では『ドラえもん』しかやってない(笑)。

親は音楽をやれ、と言うし、これは映画音楽家になったら、映画の世界に近づける、と思いつきました。映画監督になれなかったら映画音楽家になればよいじゃないか、と。

***

ー映画好きから、映画音楽家を目指すようになったんですね。

世武 小さい頃は、ピアノを習うことが嫌でした。ピアノの前に座ると鍵盤がズラっと並んでいて、「さあ、好きなようにどうぞ」とあるのに、レッスンでは、好きなように弾いてはイケない。楽譜通りに、みんなと同じことをやらないといけないことに腹を立てていました。それで、勝手に弾いていて怒られたりしてました。でも、小さい頃から、時間をかけてディープにピアノに接していたので、映画音楽家に興味を持つようになったのかもしれません。

***

ー映画音楽を意識するようになって、好きだった映画音楽作家というのは?

世武 映画を観ていて「ああ、この音楽いいな」というものを調べていくうちにガブリエル・ヤレドという名前が目に付くなりましようになりました。よいと思う作品の音楽は必ずといってよいほどガブリエル・ヤレドによるもので「この人はホントにすごい人にちがいない。」と思いました。

調べると『ベティ・ブルー』(’89 )などの音楽もやっている。日本人は『ベティ・ブルー』が大好きですが、この作品は、音楽もオーケストレーションでないのに、とてもよい。時代を感じさせるところもよかったです。

ガブリエル・ヤレドはフランス人でした。ピアノの先生も、フランスで音楽の勉強をしたら良いのでは?と薦めてくれました。実は私は、フランスにあまりよいイメージはなかったのですが、一度、電子オルガンのコンクールで受賞したご褒美にパリに連れていってもらったことがあり、その時の印象が意外と悪くなかったです。フランスも悪くないかな、と思っていた矢先、自分は、このまま日本にいたらいけない、と思うことがありました。

電子オルガンのコンクールによく出ていたのですが、その世界では、演奏者はみなテクニックを磨くことばかりに腐心していました。表現や熱とかいうものとは別のところで、綺麗に弾くこと、自分が好きな演奏家といかに同じように弾けるかを競っていました。そんなことに興味のない私はとても肩身が狭い思いをしていて、このままじゃいけない、これは海外に行かねば、と思いました。

デザインや、歴史など、興味を惹かれていたドイツに行きたいと思っていました。アメリカもいいと思いましたが、銃社会であぶないと、周囲に大反対されました。結局、海外行きを後押ししてくれる先生のいうフランス行きを決意しました。

落第のパリ、1年目。
映画音楽の巨匠から絶賛を受ける2年目。

ーパリには合計何年くらいいたのですか? パリはどんなところがよかった?

世武 パリには4年いました。エコールノルマル音楽院(École Normale de Musique de Paris)で2年、映画音楽の勉強。その後はオドレイ・トトゥなどが通っていた演劇学校クール・フローラン(Cours Florent)で映画の勉強をしました。

パリでは2区に住んでいたのですが、けっこう毎日事件の連続で面白かったです。パトカーに轢かれて「Pardon!」(フランス語でごめんなさい)だけで済まされたり(笑)。

***

世武 学校に行って1年目は、史上最低点といわれるくらいの点数で落第してしまいました(笑)。

もともと感覚でピアノを弾くタイプで、和声は苦手。そこを試験の時に指摘され、コテンパンにやられました。試験は、課題の映画作品に音楽をつけて、みんなの前で上映するものでしたが、私の作品は「意味がわからない。」「和声の基本から勉強し直すべき。」と言われてしまって。試験の審査員は学長を含む3人の音楽家の先生でした。審査のあと、学長のところに「これがわからないあなたがたの方がおかしい。」「映画が専門でない音楽家が、映画のことをわからないくせに審査するのはおかしい。」と談判に行ったら、日本人のくせに Discipline がない、と言われてしまいました。

これに懲りて、2年目は、とやかく言われないように、作品を作りました。テストの審査員の先生も、前年とはちがって映画監督や映画音楽家となっていて、私の評価は、とても良いものになりました。しかも、アントワーヌ・デュアメルという大映画作曲家が褒めてくれました。

デュアメル先生が私の作品を聞いて「この作品を作ったのは誰? 最初の一音を聞いただけでも、よい音楽を作る人だとわかる。」と言ってくれました。私が、去年落第しているとわかると「いくら作品の出来不出来があるとしても、落第とは考えられない、いったい何があったのか?」と学長にも異見してくれました。

でも、その時の私はアントワーヌ・デュアメルが何者かわからなかった(笑)。「あのデュアメルって人、髭長いけど、私を褒めてくれる、ええおじさんやなぁ 、あれは誰? 」と友達にいうと「ええーっ、君、すごいよ、『気狂いピエロ』の作曲家のアントワーヌ・デュアメルに褒められているんだよ!」と教えてくれました。

パリでは、大好きだったガブリエル・ヤレドに曲を送って、指導してもらえる機会もありました。パリのよいところは、そういうところです。日本みたいにまずマネージャーにブロックされてしまうことなしに、大きな才能に会えます。


フランスに4年間暮らした。今は NY、ベルリンに興深々。©2012 by Peter Brune

***

ー学校を出た後は、パリで映画音楽の仕事をやっていたの?

世武 短編映画に音楽をつけたりしていました。映画音楽が難しいのは、いくらよい映画音楽を書いても、作品自体がダメだと評価されない。結局他人だよりになってしまう。フランスは日本以上に友達社会なので、知り合いが知り合いを呼んで仕事をしている、といういうようなところがあります。映画を作る知り合いはたくさんいても、よい映画の作り手にはなかなか出逢うことができませんでした。

当時の私は PC を使っての音作りができなかったので、低予算の映画プロジェクトの音楽を頼まれた時など「楽譜で(作品を)提出されても困っちゃうんだよね〜。」ということがありました。

これは一度日本に帰って、実績を作って、アーティストビザなどをとってからまたパリに帰ってきた方がよい、と考え帰国しました。

ーそれ以降フランスへは? 

世武 1年に1度は行くようにしています。1ヶ月などの長めのステイで。

ー日本に帰国してからは、映画音楽の仕事をしていたのでしょうか?

世武 日本に帰ってきてからは、東京造形大の学生の映画製作作品に音楽をつけたり、自分でも出演したりしていりました。

ー出演もしていたの?

世武 今、考えるとアホみたいですけど、音楽を作ることが当たり前すぎて飽きてしまっていて。いつも曲を書くのがつまらない。飽き性なんですね(笑)。たとえば、自分の顔って、毎日同じじゃないですか。それってつまらない。でも、演技していると、同じ顔だけど、自分とは違う人の人生に行ける、というのが面白い。そして、その人の人生って一体何なのか真剣に考えるという行為も面白い。それで、映画のオーディションをいろいろと受けていたんですけど、日本の芸能界って、だいたい応募資格が22歳までで。「ああ、ムリだどうしよう〜、芽が出るには、とりあえず音楽をやろう。」と考えて、録音したのが1 stアルバムです。

表現者としては
裸足で山を駆けまわるタイプ。

ーその後、その音源は『おうちはどこ?』としてBadNewsレコードから発売されますね。世の中の反応は、どうでしたか?

世武 1 stアルバムは、自分がやりたい音楽をやるけど、みなに聞いてもらえるようにしないといけない、ということで、自分の中ではやわらか目、親切な感じで作ったんですね。あんまりフィジカルな作りではない。でも、それがのちのち一緒に仕事することになるクリエーター系の人たちに買ってもらえたことがよかったです。

私は表現者のタイプとしては、ヒールの靴を履いてドレスでクールに決めのではなく、裸足で走り回るタイプ。それで2ndアルバム『Lili』では歌ったんですけど。

ー歌で言うなら『good morning world 』のアプローチは面白かったね。世武さんのミュージシャンとしての愛と洒落、遊び心がギュッとつまった曲ですね。

世武 あれは、歌というより、私の声を楽器として使った感じで。ああいうものは、これからもやって行きたいです。

***

ー映画音楽はじめ、映像音楽もたくさん手がけられてますが、今、映像の仕事を一緒にしてて面白い監督はいますか?

世武 廣木隆一監督の次の作品の音楽をやらせていただいていて、それが楽しいです。昨年、私が音楽を担当した映画『家族 X』(吉田光希監督)が縁でやることになった作品です。

『家族 X』で音楽が流れるのは最後の2分なのですが、それを見てた映画プロデューサーの北原京子さんが廣木監督に推薦してくれました。北原さんは、今、私が尊敬するふたりの女性のうちのひとりです。もうひとりは、矢野顕子さんです。

廣木監督はすっごいチャーミングな人ですね。お洒落な黒ずくめの装いでクリエイターの空気を出していらっしゃるのですが、実は話すと面白いし、テンポが良くて。おっとりしている方なのに、ツッコミは迅速なんですよ。人間的にも魅力的ですが、私は監督の映像からうねり出てくるパワーというか、生々しさが好きです。エロ、という意味ではなくてね。(笑)

今後ももっと一緒に色々なものを作っていきたいなぁと思っています。本当にこんなすごい出会いの機会を与えてくれた、北原さんにも監督にも、制作チームにも感謝ですね。

ー映画音楽と自分のオリジナル作品の作る作業というのは全然ちがうものですか?

世武 自分の音楽というのは自分の表現ですが、映画音楽の仕事には自分のエゴはありません。

監督はなんでこのショットを撮るのか、この脚本家はなぜ、このセリフを書くのか、演じているこの俳優さんは何を思ってこう演じているのか、この登場人物は何を思ってこれをやったのか、最終的に主人公は今、なぜこの顔をしているのか、その目の感じはいったい何なのか、などを考えながら作ります。どっちかというと、映画の中で演技をする感じに似ています。

音を作り出したら途中でやめられない。

ー音作りはどのようにしているのですか?

世武 音楽作りは、とてもエネルギーを消耗するので、やろう! と決めた時にやります。自分を追い込んで、マウンドに上がるという感じです。

普段の生活には音楽を持ち込みたくないので、家に CDプレーヤーもありません。このアルバムのミックスのチェックもいったいどうやっているのか、とミキサーさんに怒られましたけど(笑)。

ーミュージシャンによっては、毎日常に、なんとなく曲のことを考えていて、積み木のように積み重ねていく人もいるみたいです。

世武 私は音楽は、一部分ずつ作ったりはできないんです。例えば、いいリフ考えた! みたいな作り方ができないんです。だから歌ものに向いていないんだと思います。一気に音楽が出てくるので、メロディーを聴かせるというような考え方はないです。

ーそうですか。僕は、今回のアルバムの1曲目『ウィンブルドン世界選手権』や2曲目の『ニューヨークと呼ばれた場所』はちょっとづつ積み重ねて行って作ったのかと思いました。

世武 ちがいますね、全部で4時間くらいで作りました。曲を書き始めたら最後まで行かないと、という感じです。スパンとしては長いが1曲1曲としてはすごい短いです。


©2012 by Peter Brune
ジャンルにとらわれず、
常に新しいものが評価される世界へ向けて。

ー世武裕子さんはArtist’s Artist、アーティストからも評価されるアーティストですが、今後やっていきたい活動、こういう人とやっていきたいというイメージありますか?

世武 まず、やっぱり映画音楽をやりたいです。自分が好きな映画監督の作品をやっていきたい。邦画はあんまり見ないのですが、邦画だったら是枝裕和監督や、西川美和監督とか。このふたりは、これまでの作品を観ていると、私みたいなタイプの音楽をつけない人です。ギターとか多いし、私の感じではないのはわかるんですけど。「世武さんのこと、好きそうだよね。」という感じじゃない人と一緒にやりたいです。塚本晋也監督や諏訪敦彦監督ともやってみたいし、世界のクロサワともやってみたかったです(笑)。クロサワでも黒沢 清監督は、おこがましい言い方かもしれませんが、将来、私が成熟して行った時に、何か一緒にできるような、何か近いものを感じます。

それから、すごくニューヨークに行きたいです。このあいだの矢野顕子さんのライブがすごすぎた、というのもあるのですが。

今、東京でやっと、やりたい音楽を突き詰めるというシフト、リズムが自分で作れるようになってきたのですが、それがすごく窮屈になってきた。もっと自由に、思う存分に音楽したいのに、それも他のアーティストとともに音楽したいのに、それができない感じです。

どうして NY なのか、NYで活動したいのか自分でもよくわからないのですが、何かがある感じがします。これまで行った中で、ビジネスも含めて面白いと感じた都市は、NY とベルリンだけです。

ローマも好きですが、行ったらずっと「アイスクリームおいしいよ。」で、音楽やらなくなっちゃう感じがします(笑)。モロッコも面白いですけど、ビジネスで行くところではない。

***

ーでも、この『アデュー世界戦争』を聴いている限り、世武さんとアメリカ、NYって、どうもピンと来ないなぁ。

世武 パリが好きだと思われがちですが。私の音楽はフランスじゃないんです。フランスはやはり伝統的だし、技術的におぼつかない、不完全な魅力をどれだけ自然体に出すか、ということがよいとされる。ところが、私は、縦線大好きで、ちょっとそういう感じではないです。

しかしフランス語はできるので、フランス、パリを HUBに面白いところに行けたらよいなと目論んでいるところです。

NYがいいなあと思うところは、日本の、人に干渉してくる社会に疲れてきているからだと思います。フランスもある意味そうなんですけど、人間関係がベタベタしている。

NYくらい大きいところに行くと、「自分でどうにかしろよ」という感じだと思うんです、そういうところでストイックにやっていくのも好きだし。

ミュージシャン友達のコトリンゴちゃんにきいたところでは、NYでは新しいことをやってなんぼ、違うことをやって評価される街だそうです、そういうところがいいなあと思います。「世武さんの音楽は今までにないジャンルなので、難しいです。」といわれてしまうところでやるのは、実は辛いです。そういう前提がないところに行けたら、もっと面白いし、自分も面白いことができると思うんです。

『ザ・バッド・プラス(The Bad Plus)』『スクエアプッシャー(Squarepusher)』『スクール・オブ・セブンベルズ(School of Seven Bells)』とか、大好きですし『シガー・ロス(Sigur Rós) 』の ヨンシー・ビルギッソン、トム・ヨークのバンド『アトムス・フォー・ピース(Atoms for Peace)』も気になるし、どんどん世界に行って、面白い音楽と出会いたいです。

***

ー7月には『アデュー世界戦争』発売のツアーがありますが、今後ライブでこういうことやりたいというのはありますか?

世武 これまでライブで集客力がないことが悩みでした。いろんな人のライブを見て思ったことは、ライブでは、もう少しエンターテイメント性のあることをやらないといけない、と。それじゃ、華やかに、わ~っと弾く曲作ろうと思って、8曲目『伝説のトリプルプレイ』を作ったんですが、これをやり出してから自分でもとっても面白くなってきたので、こういうのをライブでもっとやりたいです。

それから、マリンバという楽器に興味があるので、マリンバの曲を書きたいです。

『アデュー世界戦争』はどちらかというとライブ感がない作品です。作り込んで練習しました、というような感じに聞こえてしまう。実際は即興もあったりするのですが。自信を持って「聞いて下さい!」といえる作品になりましたが、次回は、ライブでのパワーが CD で伝わるようなものを作りたいです。

『75002』Music Video

■世武裕子 プロフィール

(せぶ・ひろこ)ミュージシャン、作曲家、映画音楽作曲家。滋賀県生まれ。幼少よりピアノ、電子オルガンを習い、数々のコンクールで受賞。映画音楽作曲家を目指し、パリ・エコールノルマル音楽院映画音楽作曲科、演劇学校クール・フローランで映画、演技を学ぶ。在学中に『ベティ・ブルー』『イングリッシュ・ペイシェント』のガブリエル・ヤレド、『気狂いピエロ』のアントワーヌ・ドュアメル、の映画音楽の両巨匠に絶賛される。帰国後の’08年、1st アルバム『おうちはどこ?』でデビュー。’10年”2nd アルバム『Lili』、’11年、Google Chrome 「Google でもっと。Chrome でストリートライブ」の TVCF に出演、音楽をも手がけ、その フルバージョン音源は1st シングル『Good Morning World!』に収められた。同年秋には吉田光希監督『家族 X』、Bee TV ドラマ『3枚目のボディガード~僕はキミだけを守りぬく』(MATSU from EXILE 主演)の音楽を担当。『3枚目のボディガード』はオリジナル・サウンドトラックも発売された。’12年6月6日『アデュー世界戦争』発売。ジャンルを超え、現代の 音を像づくる作曲家として注目を集めている。好きな映画監督はミヒャエル・ハネケ。好きな色はみどり。広島カープ、落合博満 元・監督のファン。

世武裕子ホームページ


©2012 by Peter Brune
■ライブスケジュール

2012年7/21 (土) サラヴァ東京

世武裕子『アデュー世界戦争』9回裏、ノーアウト満塁からの伝説のトリプルプレイ・ツアー

7/7(土) 広島 音楽喫茶ヲルガン座
7/8(日) 岡山 城下公会堂
7/19(木) 神奈川 THUMBS UP
8/18(土) 東京 JZ Brat