アスピディストラフライが紡ぐ、
小さな寓話の世界へ。

(2011.12.24)

シンガポールの男女ユニットAspidistrafly(アスピディストラフライ)は、
穏やかで透明感のある音楽と素晴らしいアートワークで知られています。
「キッチン」という別の名前で、デザインスタジオ、レーベルも持つふたり、
エイプリルとリックスが来日。お話をうかがいました。

Aspidistrafly(アスピディストラフライ)とキッチンの誕生。

Aspidistraflyはシンガポールの男女ユニット。ボーカルのエイプリルは27歳、ギターのリックスは5歳上。2人がAspidistraflyとして、音楽活動を始めたのが10年前というから、まだエイプリルがまだ17歳のとき。

「活動を始めたころ、コンピュータの宅録技術が出てきたり、インターネットが急激に発達しはじめたんです。新しいテクノロジーの魅力にとりつかれた僕たちは、エレクトロニカを中心に新しい音楽を作ることに夢中になっていました」と話すリックス。ふたりで音楽製作をし、アルバムのジャケット、ウェブサイト、PVを作るうちに数々のデザイナーやミュージシャンなどクリエイター、音楽関係者などとも親交が深まり、ウェブサイトを作ってほしいという依頼がいくつも舞い込んできたのです。

Aspidistraflyが作り出す美しい世界に、共感する人が知らず知らずのうちに増えていった結果でした。そこでエイプリルの卒業を機に「キッチン」スタジオを設立。ご存知、洗練された繊細なデザイン、ノスタルジックで甘やかな雰囲気と、どこかミステリアスな暗さを併せ持つ「キッチン」独特のアートワーク作りが始まりました。

「ロシアの映画が好きです。イングマール・ベイルマンやアンドレイ・タルコフスキーなど。アンティークも好きで、ファッションも雑貨もヴィンテージばかり集めています」というエイプリル。インタビューの日はヴィンテージワンピースにゴブラン織りのヴィンテージバッグをクールに着こなしていました。「Aspidistraflyは、ジョージ・オーウェルの小説から思いついた造語で言葉遊びのようなもの。響きがいいなと思ってつけたんです。本の中身とは一切関係なし(笑)」。

「キッチン」を始めたころから、ふたりの音楽は少し変化を始めました。最新作はとくにオーガニックでアナログなサウンドへ。「エイプリルはNico、Vasthi Bunyun、Linda Perhacs、The Carpentersといった70年代のフォークミュージックが大好きです。ぼくはWindy & CarlやFlying SaucerAttackなどの90年のアンビエント/ドローンギターに影響を受けています。今回はぼくたちのルーツに少しだけ戻ったような音楽になっています」

東洋と西洋の文化を取り入れて。

シンガポールは、東洋と西洋の文化の架け橋の役目を持っている場所。子どものころからどちらの文化も同等に身につけてきた2人が、影響を受けたのは日本の音楽。「友人たちUK音楽にハマっていたけど、人と同じことをするのがきらいなぼくたちは一部で盛り上がっていた日本の音楽に傾倒していったんです。最初はJポップから。でもいろいろと聴き込み、探しているうちに日本にはものすごくいい音楽がたくさんあるって気づき、さらに好きになっていきました」。

「日本人の奏でる音楽は、西洋人には真似できないような“はかなさ”と“独特の旋律”を持っていると思います。気づいていない人も多いと思うのですがアジアで作られるほかの音楽にも共通した感覚があると思います」とリックス。はかなさとメロディライン、西洋と東洋の間で育ったからこそその魅力にいち早く気づいたふたりは、その音楽を自分たちの音楽作りの中でも表現していきたいと考え、同時に、世界に紹介していきたいと思いました。その結果、デザインスタジオに続いて「キッチン・レーベル」をスタートすることになったのです。

「ぼくたちだけの新しい世界感を作りたいという思いの中で、ふたりが受けた東洋と西洋からの影響を組み合わせようとしています。ヨーロッパやアジアの伝統的音楽と同じようなサウンドではなく、シンガポールのようなコスモポリタンな街に住む新しいアジア人としての今までにない音楽……。その音楽作りを通じて、自分たちのアイデンティティ探しをしているようなものでもあります」。

「Landscape with a fairy」にまつわる話。

先日発売されたばかりの『A Little Fable』(小さな寓話)は、どこか知らない国の絵本のよう。絵本をめくっていくと最後にCDがついている、というとてもすてきなアートブックなのです。このアートブックと同時に作られた「Landscape with a fairy」のPVはまるでおとぎ話の短い映画のような美しい映像。

不思議の国のアリスみたいですねと訪ねると、エイプリルは「その映像は、アリスという名前のカフェで撮影したの。そのカフェは、不思議の国のアリスがコンセプトだから、そう感じたのかもしれないですね。でもわたしが最初に思い描いていたのは、ロシアの寓話のイメージなんです」と笑う。「もう7、8年も、わたしたちのアートワークを一緒に作ってくれているアーティストRika M. Orerryがスタイリングや映像作りを、写真家のMiu Nozakaがジャケット作りを手伝ってくれました。長い付き合いで、友人でもあるふたりはわたしの思い描いた世界をイメージ通りにカタチにしてくれたのです」とエイプリル。PVの中の森のカフェで、色鮮やかなビーチストーンを数えているのはエイプリル自身です。

この作品のもうひとつのサポーターは、Dominie Press(ドミニー・プレス)という印刷屋さん。「ドミニー・プレスは、思い通りの特別な加工をしてくれるうえ、古紙がたくさんストックされているの。少し黄ばんだ紙、ざらざらとした紙など。時間を経たものは美しさと味わい持っていて、キッチンの制作物にはその古さが欠かせないんです」と、エイプリル。「幸いなことに、みんなはつるつるピカかの真っ白い紙をほしがるから、古い紙はぼくらのためにちゃんと確保されているんだ(笑)」とリックス。

「私たちは自分たちのプロダクトにも年齢を重ねてほしいのです。時間とともに、美しく、自然と朽ちていってほしいのです」。

 

『A Little Fable』

Aspidistrafly
2011.12.15 on sale 2,500円
レーベル:KITCHEN. LABEL
販売:p*dis

レコーディングにはKyo Ichinose(ストリングス・アレンジ)、徳澤青弦(チェロ)、haruaka nakamura(アコースティックギター)、柳平 淳哉 from いろのみ(ピアノ)、ホナガヨウコ(ピアノ)、 Akira Kosemura(ピアノ)、 Janis Crunch(ピアノ/コーラス)などASPIDISTRAFLYと交流の深い才能豊かな日本人ミュージシャンがゲスト参加

 
【Track List】
01 A BLACK-NECKED SWAN
02 LANDSCAPE WITH A FAIRY
03 HOMEWARD WALTZ
04 COCINA
05 SEA OF GLASS
06 COUNTLESS WHITE MOONS
07 LANGUAGE OF FLOWERS
08 WOODEN ROOM
09 GENSEI
10 BLUE BONNET OF THE SEVEN STARS
11 DEAR SYLVAN
12 TWINKLING FALL

   
2012年もAspidistraflyが来日、東京、益子、富山、岡山、京都でライブを開催。
Aspidistrafly Japan Tour 2012