Another Quiet Corner Vol. 17 ナチュラルな音をゆるやかにつなぐ。
牧歌的という名の『Pastoral Tone』

(2012.12.24)

ずっと変わらず良質の音を伝えるディレクターと出会って。

「Quiet Corner」プレゼンツのコンピレーション第3弾『Pastoral Tone(パストラル・トーン)』が登場です。「パストラル」とは「田園風景」とか「牧歌的」という意味ですが、さらに広く“くつろぎの空間に溶けこむ音楽”という意味もこめて、ジャズ・ヴォーカル、シンガー・ソングライター、ブラジル、ラテンなど、ナチュラルな音の風合いが魅力的な20曲をゆるやかにつなげて一枚にまとめました。

パストラル・トーン……、フリーペーパー「Quiet Corner」の読者は何かピンとくるかもしれません。そう、このコラムでも紹介したジョー・バルビエリや、フリーペーパーの表紙を飾ったことがあるグレッチェン・パーラトなど、良質なアーティストを紹介している音楽レーベルの名前です

2009年、僕は初めてひとりで『In The Sunshine』というコンピレーションの選曲をしました。僕の好きなジャズ・ヴォーカルの作品ばかりを紹介していた音楽ディレクター高木さんに、コンピレーション制作を打診したところすぐにOKをいただけたからなのです。その高木さんが会社を移り、新たに立ち上げたレーベルが、この『パストラル・トーン』です。

高木さんの一貫して変わらないクオリティで音楽を紹介する姿勢に共感を覚えて、「Quiet Corner」の創刊号(2011.01)では、パストラル・トーンから発売されたばかりの女性ジャズ・ヴォーカルを集めて紹介したこともありました。当時、試行錯誤しながら不安な気持ちで発行したばかりのフリーペーパーについて、高木さんから「とてもいいですね。いろいろな音楽が掲載されているけど、ひとつの世界になっていますね」というメールを頂いたことは励みにもなりました。


グレッチェン・パーラト


ジョー・バルビエリ

サラヴァから、パストラル・トーンへ

高木さんは「パストラル・トーン」と並行して、フランスの名門「サラヴァ・レーベル」も担当しています。今年春にはサバービアの橋本徹さんが10年ぶりに選曲した2枚のサラヴァのコンピレーション『モンマルトル、愛の夜。』と『サンジェルマン、うたかたの日々。』がリリースされています。その情報が発表されたころ、高木さんから「クワイエット・コーナーでもサラヴァを選曲してみませんか?」という連絡が入りました。僕は思わず興奮を隠しきれず、その場で二つ返事、そして『Saravah for Quiet Corner』と名付けたコンピレーションを、今年5月に発売することになりました。このコンピレーションにすっかり満足した僕たちは「今度はパストラルの音源でもやりたいですね!」と意気投合。次なるコンピに向けて少しずつ準備を始めていきました。

タイトルは「パストラル・トーン」とすぐに決まりました。レーベルの名前のままですが「パストラル・トーン」という言葉の響きが気に入っていて、この音楽をイメージしてもらうためにはほかにないと考えました。

テーマは“くつろぎ”です。全体に流れるサウンド・テイストはなるべく統一させて、アコースティック楽器のやわらかな音色が印象的なジャズ~ブラジル~フォークを中心に選曲しました。そんなサウンドにヴォーカルはやさしく寄り添い、お部屋で聴いても、ドライブやパーティ、お店のBGMにしても、どんな空間にもすっと溶けこんでいくでしょう。


左:『モンマルトル、愛の夜。』
右:『サンジェルマン、うたかたの日々。』

『Saravah for Quiet Corner』
パストラル・トーンで描いたストーリー

というように耳なじみのよいコンピレーションに仕上がりましたが、同時に音楽リスナーにとってはひとつ指針となればという思いをこめて、僕なりにストーリーを織り込みました。その象徴となるのが、グレッチェン・パーラトです。前述のように、彼女は以前Quiet Cornerでも特集を組んだことがある、僕も大好きなニューヨークのジャズ・ヴォーカリストです。彼女はジャズ・ヴォーカリストにしては珍しくブラジル、フォーク、ソウルからヒップホップまで、軽快に飛び越えてしまうフットワークをもっています。彼女が2010年に発表した、『The Lost And Found』では、共同制作のプロデューサーに、ヒップホップ世代のジャズ・ピアニストとうたわれるロバート・グラスパーを迎え、絶品のオリジナル楽曲に混じって、マイルス・デイヴィス、ウェイン・ショーターといったジャズ・レジェンドや、シンプリー・レッド、ローリン・ヒルといった90年以降のロック〜ソウルを取り上げています。このコンピでは、アラン・ハンプトンというクレア&ザ・リーズンズでの活動でも知られるシンガー・ソングライターと共演した「Still」を選びました。

シンプルな音作りの中にも、フォークとジャズが絶妙にブレンドされ、牧歌的でありながらモダンな感性に彩られたリズム・セクションをバックに、グレッチェンとアランの親密な掛け合いに心が躍ります。まさに『パストラル・トーン』の核となる曲です。


右、左:ブックレットなどに使われた写真


右、左:残念ながら不採用の写真の一部

もうひとつの仕掛けは、ほかのアーティストの関係性。前曲のケイト・マクガリーと後曲のレベッカ・マーティンはニューヨークのブルックリンを代表するオールラウンドな存在で、言ってみればグレッチェンの先輩。

さらにレベッカは2曲目のアリッサ・グラハムとデュエットしているジェシー・ハリスとは、以前にワンス・ブルーというユニットを組んでいた仲。最近では、レベッカはグレッチェン、そして20曲目のベッカ・スティーヴンスと一緒にグループを結成してツアーをしているという情報もあります。最後におまけで、グレッチェンは12曲目のサラ・ガザレクとはお茶友だちだそうです(笑)。

HMVのウェブサイトに掲載された高木さんと対談に詳しく書かれていますが、僕も高木さんも好きな音楽のルーツ、というか通奏低音ともいえる、グレッチェンたちをずっとさかのぼって、たとえばローラ・ニーロやキャロル・キングといった、ソウルとフォークとジャズを往来するようなシンガー・ソングライターたち、または60年代のマイルス・デイヴィス・クインテットの影を、このコンピに見つけていただくことができればとても幸いです。

今回はとくに女性にも手にとってほしいという願いもあり、モデルの雅子さんに推薦コメントをお願いしました。ナチュラルに紡がれた文章から、まるで心地よいメロディが流れてきそうな、そんな素敵なコメントをここに掲載いたします。

「最初に聴いたのは時が静止したかのような夜更け。それから透明な朝の空気の中で。いつもいつでも、どこでもどんなときにでも、やさしく音が寄り添う。」 雅子/モデル

『Pastoral Tone』スペシャルサイトはこちら

V.A. 『Pastoral Tone』
2012年12月19日発売 1,800円(税込)
レーベル:ヤマハミュージックアンドビジュアルズ / パストラル・トーン

【Track List】
1. E Com Esse Que Eu Vou / Luba Mason
2. Watching The Sky / Alyssa Graham
3. Diamoci del Tu / Joe Barbieri
4. Jobim / Carmen Cuesta
5. La Casa Di Tom / Toni Melillo
6. Say Love / Bergitta Victor
7. Saudosismo / Margret
8. Flor de Lis / Kate McGarry
9. Still / Gretchen Parlato
10. The Space In a Song to Think / Rebecca Martin
11. Do What You Gotta Do / Kellylee Evans
12. The Lies of Handsome Men / Sara Gazarek
13. Moon River / Carolyn Leonhart
14. So Far Again / Christine Tobin
15. Close to You / YUSA
16. The Fool On The Hill / Celso Fonseca
17. Be Like Him / Torun Eriksen
18. Telescope / Erin Bode
19. Crepuscule / Claire Elziere
20. Each Coming Night / Becca Stevens