Fukuoka RePublik: Vol.3
Tamas Wells ‘Volatility of the Mind’ Tour 2014
タマス・ウェルズ再来日。心を穏やかにする歌をたずさえて。

(2014.05.21)
Photo by Ryo Mitamura
Photo by Ryo Mitamura
5度目の来日を果たす “天使の歌声”。

「タマス・ウェルズの新譜聴きました?」今年の3月、とある打ち合わせの席で、RePublik:を主宰する河崎政芳さんは私にそう話しかけました。RePublik:は、国内外のアーティストが行うツアーの福岡公演を招聘するなど、河崎さんを中心にインディペンデントに活動する団体で、私も発足当初から携わっています。「いや、まだ聴いてないです。タマス、新作出したんですね。ちょっと久々ですね」「とても良いアルバムですよ。今年、来日ツアーが予定されているので、福岡公演もどうかなと検討中です」。

タマス・ウェルズはオーストラリア・メルボルン出身のシンガー・ソングライター。2006年から6年間はHIVに関するNGO活動のためにミャンマーに滞在していたアーティストで、この間、三枚のアルバムをリリースしました。それらは《ミャンマー三部作》と称され、いずれもアコースティックな楽器編成と繊細でイノセントなメロディ、一度聴いたら忘れられないソフトで透き通るような“天使の歌声”で多くのリスナーを魅了しました。そして 2014年、地元メルボルンに戻り作り上げた新作『On the Volatility of the Mind』を引っさげ、タマス・ウェルズは6月に5度目の来日公演を行います。

ツアー初日は我々RePublik:が主催する福岡公演。冒頭の河崎さんとのやり取りのあとすぐに私は新作『On the Volatility of the Mind』を聴き、この作品の素晴らしさを実感しました。タマス・ウェルズ初となる福岡でのライブ、それに主催者として関わることができる喜びはもちろんのこと、リスナーとして立ち会えることにとてもワクワクしています。

  • Photo by Ryo Mitamura
     
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ミャンマー三部作完結。故郷オーストラリアで作り上げたニューアルバム。

タマス・ウェルズ通算5枚目となるアルバム『On the Volatility of the Mind』。《ミャンマー三部作》をはじめ、これまでに彼の作品に触れたことがあるリスナーならそのサウンド面での変化に驚かされるはずです。柔らかな口笛の旋律と四つ打ちのドラムが印象的な「A Riddle」でピースフルに幕を開ける今作では、アコースティックギターや生ピアノといった馴染みある楽器は封印され、代わってエレクトリックギターやシンセサイザーが登場。空間的で奥行きあるエフェクト処理が全体的に施され、以前に増してより暖かみあるサウンドに仕上がっています。この音楽的変化は、ミャンマーからオーストラリアに活動拠点を戻し、これまでの何倍もの時間をレコーディングに費やしたことが影響しているのでしょう。個人的には、ミャンマーに移住する前に作られた彼のデビュー作『A Mark On The Pain』に近い印象を受けました。

しかし、これまで以上に親しみ易くポップなメロディが並んでいるにもかかわらず、聴き進むに連れ、作品の色合いは徐々に翳りを帯びて行きます。人間の心のダークサイドに迫るような歌詞、“気持ちの揺らぎ”を示唆するアルバムタイトル、そして深紫色のジャケットのアートワーク。喩えるなら1970年代のシンガー・ソングライター作品のように、曲の世界観と作り手との距離が近く、歌を通して自己と対話する作者自身の姿が映し出されています。

最後に収められた、静謐なピアノと儚げな歌声が深い余韻を残す弾き語り「I Left That Ring on Draper Street」は、パーソナルでメランコリックな今作を象徴するナンバーです。 《ミャンマー三部作》の完結編となる2010年作『Thirty People Away』から三年半。丁寧にしたためられた手書きの手紙のような愛情溢れる一枚を、ぜひ聴いてみてください。

メランコリーで美しく、心が穏やかになるタマス・ウェルズの音楽。

この4月から、河崎さんと私は福岡LOVE FMで新しく音楽番組を始めました。番組のタイトルは《music for quiet life》。これまでにRePublik:主催の公演に出演したアーティストの楽曲のほか、bar buenos airesをはじめとする昨今の「静かなる音楽」ムーヴメントと共鳴するような、“ジャンルや国境を越え、メランコリーで美しく、心が穏やかになる音楽”を紹介しています。楽曲を通して伝わってくる音楽家たちの生々しい感性や気高く逞しい表現力、技術や経験や音楽性の幅広さ、またはオリジナリティやチャレンジ精神。それらを総動員して成し遂げた、表現者自身の情熱に満ちた思いに触れ、強く心を揺さぶられた感覚をリスナーの皆さんと共有したいと思っています。

タマス・ウェルズが新作『On The Volatility Of The Mind』で描いた儚くも優しい歌は、まさに“ジャンルや国境を越え、メランコリーで美しく、心が穏やかになる音楽”そのものだと感じています。誰もが経験する気持ちの葛藤や何かを決断するときに生じる“心の揺らぎ”を主題に、長い時間をかけて新たな音楽的アプローチも試みながら、自己の内面と静かに向き合ったタマス・ウェルズ。今回の来日公演では、緩やかなバンドアンサンブルを堪能するとともに、繊細な音楽から滲み出す彼の心の声に、静かに耳を傾けたいと思います。

★LOVE FM Transit Radio(WED)-music for quiet life- 毎週水曜20:00-21:30生放送でお届け

  • Photo by Ryo Mitamura
     
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【Tamas Wells ‘Volatility of the Mind’ Tour 2014】
福岡公演
2014年6月26日(木)19:00開場 / 20:00開演
会場:papparayray -パッパライライ
料金:前売 3,500円 / 当日 4,000円(共にドリンク代別途)
主催:Republik オンライン予約受付 RePublik

神戸公演
2014年6月27日(金)19:00開場 / 19:30開演
会場:旧グッゲンハイム邸
料金:前売 4,000円 / 当日 4,500円
メール予約受付:Lirico ticket@inpartmaint.com (件名を「6/27」とし、公演日/お名前/連絡先/人数をメールください)

東京公演
2014年6月28日(土)17:00開場 / 17:30開演
会場:神谷町・光明寺 (港区虎ノ門3-25-1)
料金:前売 4,000円 / 当日 4,500円
メール予約受付:Lirico ticket@inpartmaint.com (件名を「6/28」とし、公演日/お名前/連絡先/人数をメールください)

東京公演
2014年6月29日(日)16:30開場 / 17:00開演
会場:原宿・VACANT
■料金:前売 4,000円 / 当日 4,500円(共にドリンク代別途)
■PA: 福岡功訓(Fly sound)
メール予約受付:Lirico ticket@inpartmaint.com (件名を「6/29」とし、公演日/お名前/連絡先/人数をメールください)
eチケット:tixee

『On the Volatility of the Mind(オン・ザ・ヴォラティリティ・オブ・ザ・マインド)』
Tamas Wells (タマス・ウェルズ)

2014年3月13日発売 2,200円(税別) LIIP-1518
レーベル:Lirico

【Track List】

01.A Riddle
02.Never Going to Read Your Mind
03.I Don’t Know Why She Burned up All Those Greylead Drawings
04.Benedict Island (Part One)
05.A Snake Bite at the Quarry
06.Bandages on the Lawn
07.Benedict Island (Part Two)
08.The Treason at Henderson’s Pier
09.A Servant of the Crown
10.An Appendix
11.I Left That Ring on Draper Street