3月13日、林正樹さんのソロピアノ作品『TEAL』発売。浅葱色をイメージして生まれた
音の粒を楽しむための『TEAL』。

(2013.03.13)

『TEAL』は、2008年『Flight for the 21st』以来2枚目のソロピアノ作品。
5年が経ちピアニスト林正樹が導き出した新境地はピアノの生の音色と響きを大切にすること。
いつまでも聴き続けていたいと感じる作品が完成しました。

3年前の12月、「TEAL」という曲が完成し物語は始まった。

—— 『TEAL』はいつごろから計画していたのですか? またどういうアルバムにしようと思ったのでしょうか?

きっかけは3年前の冬、タイトル曲「TEAL」ができたこと。はっきりしたメロディというより曲が持っているイメージ、カラーを音として表現することができたと思いました。そのころからソロピアノを制作したいとずっと考えていました。

「TEAL」は構成がはっきりしない抽象的(でも難解ではない)な曲なのですが、その後ソロライブでのお客さんの反応を見て、バランスがいいと実感することができました。

「浅葱色」、自分にはそう見えるけれど、実は見る人によって色の見え方はきっとまちまちなんじゃないかな、と。音も同じで、聴いている人によっては自分に聴こえている音と違って感じているかも知れない……。そんなことを考えながら自分が一番好きな色を届けたいと思ってつくったのが『TEAL』です。

もうひとつ最近「間を奏でる」というユニットで演奏しています。PAを使わない楽器の生音にこだわったアンサンブルで、演奏者同士だけでなく、そこにいる全ての人と響きを共有する時間。

ふたつのことを通じて、ピアニッシモの中に広がるダイナミクスを体感してもらえる表現をすることができたと思っています。

今回のソロピアノでは音の粒が結晶となり、繊細な音の連なりになって聴こえる。聞くたびに異なる表情を見せ、繊細でいて大胆、メロディを偏重しない音と響きを楽しむアルバムです。

TEAL
林 正樹

2013年3月13日発売
2,500円(税込み)
レーベル:イーストワークスエンタティンメント

【Track List】
1. Teal ティール 
2. To 戸 
3. Improvisation 3 即興3 
4. Ume ga ka ni 梅が香に 
5. Minamo 水面 
6. Gentou 幻灯 
7. Ecosistema representado por cuentos infantiles 童話で書かれた生態系 
8. Improvisation 6 即興6 
9. Double Torus ダブルトーラス 
10. Rampo 乱歩 
11. Sashi 差し 
12. Mi 魅
All composed by Masaki Hayashi
18歳で参加した民謡歌手の伊藤多喜雄さんの南米ツアーが音楽家・林正樹の原点。

—— プロのピアニストになろうとしたきっかけは?

5歳でクラッシックを習い始めましたが教材に興味が持てなくて2年で辞めてしまったんです。小学校のころ電子ピアノが家に来て、ロックやポップスを独学でコピーして弾き始めるとこれが面白くて、日がなピアノを弾いている中学生時代でした。

高校1年生のときビル・エヴァンスを聴いて衝撃に近い感銘を受け、ジャズを一から勉強しようと思い始めたんです。

—— プロとして活動はいつ頃からですか?

ジャズ・ピアニストを目指してメーザーハウスで佐藤允彦さんに師事していた大学1年生のとき、ピアニスト国府弘子さんの紹介で民謡歌手の伊藤多喜雄さんの南米ツアーに参加することになりました。それがプロとしての活動の始まりです。

このときジャズの理論や奏法だけではうまく演奏できず、壁に当たりました。が同時に、壁にぶち当たることで「ジャズもタンゴもクラシックも音楽には壁がない」ことに気づいたんです。この経験をきっかけに、ジャンルを越えたさまざまなアーティストと積極的に共演し始めました。それが今の自分のスタイルに大きく影響していると思います。

—— 中西俊博さん、古澤巌さん、菊池成孔とペペ・トルメント・アスカラール、Salle Gaveau、田中信正さんとの連弾など。いろいろなスタイルのプロジェクトに参加されていますが、どれが本当の林正樹さんですか?

会田桃子さんや小松亮太さんとの出会いでタンゴの奥深さや面白さを知りました。同様に共演するすべてのアーティストから多くの刺激を受けています。自然にユニットでの活動が増えていき、それぞれを全部楽しんできました。ユニットでやっているときはミュージシャンとの対話を楽しんでいます。自分なりに提案しながらユニットとしての音を作っていて、どれも自分の音楽だと思っています。

参加しているユニットではより存在感を増し、サウンドもさらに進化を続けている。また舞台音楽、テレビ番組のテーマ曲など音楽家として活動の場を広げている。一方自身がリーダーを務めるSTEWMANもCD発売をきっけかに多くのファンに支持され、今後のリーダー・プロジェクトには関心が高まっている。

林正樹の新境地「間を奏でる」

—— 自身のプロジェクトに関しては、どういった世界を表現したと思っていますか?

さまざまな人との活動を続けて、ここ数年でたどり着いたことがPAを使わない楽器の生音にこだわったアンサンブル「間を奏でる」というプロジェクト(堀米綾/Harp、磯部舞子/Vln、織原良次/FretlessBass、小林武文/Perc、林正樹/P)。自分と同様にここ数年で感じることは「繊細な音を楽しむお客さん」が増えてきたことです。自分のやりたいことをわかってくれるお客さんがいることが心からうれしい。そこでCDでは味わえない生の音の素晴らしさをライブで伝えていきたいと強く感じるようになりました。演奏者同士だけでなく、そこにいる全ての人と響きを共有する時間。ピアニッシモの中に広がるダイナミクスを体感していただきたいと思っています。

「生音を楽しむ」ことの重要なファクターが「即興」です。その空間にマッチした響き(音)を出そうと考えています。セッションでも、演奏する人同士が音を感じながら、その場で最高の音を出すのが即興の面白さ。本来は客観性をもって演奏したいのですが、最近では、そのとき感じたことを素直に感じるままに演奏してもいいのかなと考えるようになったんです。自分でもそのときまで何が飛び出すかわからない、それをきっとお客さんも楽しんでくれるんじゃないかと感じ始めました。

—— 4月3日東京オペラシティリサイタルホールでも即興が聴けますか?

『TEAL』に収録している楽曲を中心に演奏を予定していますが、即興も演奏したと考えています。自分のなかでは弾いている時のピアノの響き、音のエネルギーを感じながら新たに生まれる音楽の循環を会場のみなさんと一緒につくっていけたらと思っています。

2013年4月3日(水)
『TEAL』発売記念ピアノソロコンサート

会場:東京オペラシティ リサイタルホール
時間:18:30会場 19:00開演 
料金:前売3,000円/当日3,500円

2013年4月14日(日)
林正樹 ソロピアノ at 古民家SHIKIORI

時間:16:30開場 17:00開演
料金:前売/当日3,500円

★ そのほかのライブは
林正樹さんのホームページ より

林正樹(はやし・まさき)

1978年東京生まれ。独学で音楽理論の勉強を中学時代より始める。その後、佐藤允彦、大徳俊幸、国府弘子らに師事し、ジャズピアノ、作編曲などを学ぶ。慶応義塾大学在学中の1997年12月に、伊藤多喜雄&TakioBandの南米ツアー(パラグアイ、チリ、アルゼンチン)に参加し、プロ活動をスタート。現在は自作曲を中心に演奏するソロピアノでの活動や、自己のグループ「林正樹STEWMAHN」、田中信正とのピアノ連弾「のぶまさき」、生音でのアンサンブル「間を奏でる」などの自己のプロジェクトのほかに「菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール」「田中邦和&林正樹 Double Torus」「Salle Gaveau」「エリック宮城EMBand」「Archaic」「クリプシドラ」など多数のユニットに在籍中。長谷川きよし、古澤巌、小松亮太、中西俊博、伊藤君子、ROLLY、牧野竜太郎をはじめ、多方面のアーティストとも共演。近年「Salle Gaveau」のヨーロッパツアー、田中信正とのピアノ連弾ユニットでパリ、トルコツアーを行うなど活動の場所を国外にも広げている。NHK「ハートネットTV」「ドキュメント20min」などのテーマ音楽も担当する