ピエール・バルー主宰、世界初のインディーズ・レーベル『サラヴァ』50周年記念アルバム、イベント続々開催。

(2016.09.25)
『サラヴァ』黎明期 1970年代の頃。時代の流行、商品性を優先するのではなくアーティストの奥底にあるものを引き出すことを最も重視し、本当に人の心を動かすものは何かということを、自由人であるピエール・バルーは知っていた。
『サラヴァ』黎明期 1970年代の頃。時代の流行、商品性を優先するのではなくアーティストの奥底にあるものを引き出すことを最も重視し、本当に人の心を動かすものは何かということを、自由人であるピエール・バルーは知っていた。
映画『男と女』が発表から50年。映画のヒットでその名を世界的なものにした詩人でソングライターのピエール・バルーのインディーズ・レーベル『サラヴァ』も50周年。記念アルバム、コンサート、展覧会がこの秋、続々と開催!
サラヴァが蒔き続けてきた花粉の証し、『サラヴァの50年』

フランスで最も歴史のあるインディペンデント・レーベル『サラヴァ』。この”インディペンデント”という言葉の背景にある「自立していて何者からも(自分からも)束縛されず自由である」というポリシーを半世紀にわたって守り続けている稀有な存在だ。映画『男と女』の成功により得た資金をレーベル発足に使い~、というエピソードは有名だが、それにしても設立当初ならともかく50年間も続いているなど楽曲の印税収入だけでは不可能だろう。短期間に大きなセールスをあげた作品はないが、世界中で長きにわたって支持されてきたゆえのことだ。

『男と女』劇中アンヌの回想シーンで歌われた名曲『サンバ・サラヴァ』。録音はバーデン・パウエル宅で。左・バーデン・パウエル。中・ミルトン・バナナ、右・ピエール・バ ルー。
『男と女』劇中アンヌの回想シーンで歌われた名曲『サンバ・サラヴァ』。録音はバーデン・パウエル宅で。左・バーデン・パウエル、中・ジョルジ・ベン、右・ピエール・バルー。

ジャンル、国籍も違う音楽が『サラヴァ』の枠に入ると(またはピエールの美意識、感激と同化すると)、その音楽が持つ本来の息吹がはっきりと伝わってくる。つまりはピエールのセレクション基準とプロデュース力に、多くの音楽ファンが共感してきた。時代の流行、商品性を優先するのではなくアーティストの奥底にあるものを引き出すことを最も重視し、本当に人の心を動かすものは何かということを、自由人である彼は知っていた。

「スロービズの王様」と「何もしない年もあります」とある『サラヴァ』のロゴ。
「スロウ・ビズの王様」、サルヴァトール・ダリの名言「何もせずに過ごす時間を望むこともある」が謳われる『サラヴァ』のロゴ。

ITが文明から文化へと変貌し、それによって世界中のミュージック・ビジネスは大きく様変わりし、サラヴァの哲学はあるときは夢物語と言われる時期もあったが、現代において最も必要なオアシスであるというように、その評価も変化しているように思える。今の時代にこんなレーベルが存続しているということへのリスペクトだ。

そんな外からの評価はどこ吹く風で、詩人でもあるピエールは”花粉現象”ということを繰り返し話しており、それが外からの評価への回答にもなっている。曰く、「歌の風にのって花粉が遠くまで飛んでいき、肥沃な土地を見つけてまた花を咲かせる」。まさにピエール=サラヴァの哲学が、花粉となって世界中に飛散した。これが半世紀続いた大きな理由だろう。今回50周年を迎えるにあたって、その花粉がどのように引き継がれているかを形にしてみよう、というプロジェクトが昨年からスタートした。それがこのアルバム『サラヴァの50年』である。

 
フランス、日本、カナダから個性的なアーティストが参加

ひとことで言うと『サラヴァの50年』は、現代のアーティストにサラヴァのレパートリーを1人1曲新録音カヴァーしてもらおう、という企画。昨年暮れからフランスでリストアップが始まった。サラヴァのコネクションはワールドワイドに及ぶ。当初はブラジルの大物アーティストも複数リストアップされていたが、時間的制約もあり収録には至らなかったが、最終的に13アーティストが賛同、参加してくれた。

フランスのアーティストが大半であるが、これは結果的なことである。いずれも現代フレンチ・ポップス・シーンのトップ・アーティストばかりだ。ヴァネッサ・パラディの作品にも関わってきたアルバン・ドゥ・ラ・シモン、ジョルジュ・ブラッサンス集を作ったベルトラン・ベランとフランソワ・モレル、シアトリカルな魅力を放つジャンヌ・シェラル他、フランス音楽の過去から現代にいたるエッセンスのような人選といえる。

また日本からは椎名林檎とカヒミ カリィが参加。椎名林檎からは、ピエールとフランシス・レイの名曲『白い恋人たち(13 jours en France)』を新しい日本語歌詞で、という申し出があった。『白い恋人たち』は日本語定訳はあるのだが、実は元の歌詞を忠実に対訳していない。彼女はその元詞をそのまま和訳するのではなく、まったく新しい日本語歌詞を創作した。様々な意味を込め、忍ばせ、という本来『白い恋人たち』が持っていたエッセンスそのものが新しい生命を得たとピエールも驚く仕上がりとなった。

さらに特筆すべきはマイア・バルーによるブリジット・フォンテーヌのカヴァー。2010年に発表した『KODAMA』でマルタン・メソニエをプロデューサーに迎えたが、今回もマルタンとの共同作業。『KODAMA』を通過したからこそ仕上がったサウンドで、モダンなサウンドながら最も70年代サラヴァ的なテイストに溢れている。

全体のプロデュースは名門スタジオ『Studio Acousti』のアラン・クルゾーが担当し、ピエールは実務上は介在していない。花粉を放つこと自体が彼の仕事であり、今回はそれがどのような根付き方をしたかを観察する立場だけ。そして、その収穫の豊饒さには大変満足しているようだ。

 
繋がっていくサラヴァの曲たちと、記念コンサート

その収穫は日本という土壌でもこの秋に体験できる。10月27日(木)には『一期一会』というタイトルでレーベル50周年記念コンサートが東京で予定されており、ここにはピエール自身も出演する。出演ミュージシャンは戸川純、中納良恵、中村 中、マイア・バルー、優河、渡辺 亮。バックは大友良英スペシャルバンドを始めとした精鋭たち。DJで大塚広子が参加。個性的ではっきりとした色があるアーティスト、ミュージシャンばかりで、それぞれがサラヴァのレパートリーばかりを歌い演奏するという、記念コンサートならではの内容である。これは種を明かすと、年明けに東京のバルー家宅で、アツコ・バルー、『サラヴァ東京』のソワレ、DJ大河内善宏、マイア・バルー、アキラ・バルー他が部屋で車座になって、いろいろアイデア交換したのがその始まりである(最終的にはソワレがまとめた)。

ピエール&サラヴァと日本人アーティストといえば、過去より高橋幸宏、清水靖晃、鈴木慶一etcという大御所たちの名前が挙がるが、今回は”繋いでいく”という言葉がひとつのキーワードとなり彼ら以降のアーティストに着目、新鮮かつ意外なようで実はまっとうな参加陣となった。

ピエール・バルー。時代を超えて愛される『サラヴァ』を育て上げた。
ピエール・バルー。時代を超えて愛される『サラヴァ』を育て上げた。

さらに10月15日(土)~11月6日(日)まで渋谷『アツコバルー arts drinks talk』では50周年記念展が行われ、ここでは展覧会やピエールも出演する「シエスタ(SIESTA=お昼寝)」ライヴ、さらにはピエール監督作品上映会なども行われる。このように同時多発的に騒ぎを起こすことをこよなく愛するサラヴァらしい、記念すべき秋になりそうだ。そしてこの50周年の宴も11月にはもちろん終わるわけであるが、サラヴァの宴はこれからも続いていくはずだ。半世紀をかけてこれだけ広がりを見せ、時代がその価値観に追いつこうとしている。そしてレーベルロゴには”スロウ・ビジネスの王様”。エスプリも効きすぎだろう。(敬称略)

 
●『一期一会 ~サラヴァレーベル 50周年記念コンサート』

日時:2016年10月27日(木) 開場: 18:30、開演: 19:30
会場:渋谷TSUTAYA O-EAST、東京都渋谷区 道玄坂2−14−8 
料金:前売 5000円 当日 5500円(税込・ドリンク代別途500円)  ともに整理番号付全席自由

出演:ピエール・バルー、戸川純、中納良恵(EGO-WRAPPIN’)、中村 中、マイア・バルー、優河、渡辺亮(ビリンバウ)
演奏:大友良英スペシャルバンド 大友良英 g、 江藤直子 p,el-p、近藤達郎 org,hca,acc、水谷浩章 b、芳垣安洋 ds
おおくぼけいと薔薇色シャンソン楽団 おおくぼけい p、山口宗真 sax,fl、うのしょうじ b、中島肇 ds
DJ大塚広子
問い合わせ : O-EAST 03-5458-4681
主催:ラミュゼ
企画制作:ウズマキ舎
制作協力:株式会社シブヤテレビジョン、サラヴァ東京、コアポート

 
●『ヨーロッパ最古のインディーズレーベル サラヴァレーベル50周年記念展』

会期:2016年10月15日(土)〜 11月6日(日)
水〜土 14:00 〜 21:00、日、月 11:00〜18:00 
会場:『アツコバルー arts drinks talk』東京都渋谷区松濤1-29-1 渋谷クロスロードビル 5F
TEL:03-6427-8048
休館日:火
料金:500円(1ドリンク付き)

●『SIESTA』ライブイベント

各回 2500円(1ドリンク付)
会場:『アツコバルー arts drinks talk』東京都渋谷区松濤1-29-1 渋谷クロスロードビル 5F
出演:バスティアン・ラルマン、アルバン・ドゥ・ラ・シモン、シャルル・ベルベリアン 

日時:2016年10月15日(土) 17:00〜18:00 
 スペシャルゲスト:ピエール・バルー、優河

日時:2016年10月16日(日) 15:00〜16:00
 スペシャルゲスト:ピエール・バルー、ソワレ

●ピエール・パルー監督作品 上映会

各回:上映+ピエール・パルーによるトーク 1500円(1ドリンク付) 
限定30名 要予約

2016年10月21日 (金) 19:00〜21:00
日本初公開『ファミリーアルバム』(1976) 90分

2016年10月22日 (土) 14:00~16:00
日本初公開『ファミリーアルバム』(1976) 90分

2016年10月22日 (土) 19:00〜21:00
『サヴァ・サヴィアン』(1970)90分
出演:アレスキ・ベルカセム、エリ・ガルグイユ

2016年10月23日 (日) 14:00〜16:00
『サラヴァ』(1968)60分 ドキュメンタリー
出演:ピシンギーニャ、ジョアン・ダ・バイアーナ、バーデン・パウエル、パウリーニョ・ダ・ヴィオラ、マリア・べターニア
短編『アダム』(1994)20分 

2016年10月28日 (金) 19:00~21:00
日本初公開『ファミリーアルバム』(1976)90分  

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『サラヴァの50年 LES 50 ANS DE SARAVAH』

RPOP-10020 2592円 (税込み)
解説:松山晋也
2016年9月28日 日本先行発売

1.自転車/ベルトラン・ベラン
A bicyclette / Bertrand Belin
(Pierre Barouh / Francis Lai)

2. お前に生ませた子供/カヒミ カリィ&アルバン・ドゥ・ラ・シモン
Cet enfant que je t’avais fait / Kahimi Karie – Albin De la Simone
(Brigitte Fontaine / Jacques Higelin)

3. マフィーンに捧ぐ歌/カメリア・ジョルダナ
Ode to Maffen / Camélia Jordana
(Chic Streetman)

4. あたり前/フランソワ・モレル & ヨランド・モロー
C’est normal / François Morel – Yolande Moreau
(Brigitte Fontaine / Areski Belkacem)

5. 地球を取って/バスティアン・ラルマン
Décroche-moi la terre / Bastien Lallemant
(Pierre Barouh / Jean Claude Vannier)

6. やに/マイア・バルー
Le goudron / Maïa Barouh
(Brigitte Fontaine / Jacques Higelin)

7. 綱渡り/フランソワ・モレル
Funambule / François Morel
(Jean Roger Caussimon /Francis Lai)

8. あなたはもういない/ジャンヌ・シェラル & セブラン
Dommage que tu sois mort / Jeanne Cherhal – Séverin
(Brigitte Fontaine / Olivier Bloch Lainé)

9. ラスト・チャンス・キャバレー/オリヴィア・ルイス
Le kabaret de la dernière chance / Olivia Ruiz
(Pierre Barouh / Anita Vallejo)

10. テル・ミー/ベアーズ・オブ・レジェンド
Tell me / Bears of legend
(Jack Treese)

11. 13 jours au Japon ~2O2O日本の夏~/椎名林檎
13 jours au Japon ~Summer of Japan 2O2O~ / Sheena Ringo
(Pierre Barouh ; Adapted by Sheena Ringo / Francis Lai)

12. サンバ・サラヴァ/セブラン
Samba Saravah / Séverin / Samba Saravah
(Baden Powell De Aquino / Vinicius De Moraes / Pierre Barouh)

2016年 録音作