Another Quiet Corner Vol. 15 風・光・水を感じる……
情景が浮かぶ美しい曲をコンパイル。

(2012.11.21)

世界の繊細で美しい音楽を集めて。

仲間と一緒に主宰する「bar buenos aires」(以下bba)から、1年ぶり2枚目のコンピレイションがリリースされます。タイトルは“Viento, Luz, Agua”。スペイン語で“風、光、水”を意味する言葉です。その言葉の通り、音楽を聴いていると美しい情景が思い描けるような曲ばかりを集めました。

ちょうど1年前、僕たちは『バー・ブエノス・アイレス ~カルロス・アギーレに捧ぐ~』と題したコンピレイションCDを制作しました。そこには、カルロス・アギーレが書いた楽曲のカヴァーや、彼にまつわるアーティストの楽曲、そして初来日のために日本のファンへ向けて書いた「Hiroshi」を収録しました。中でもそのコンピに収めた、アルゼンチンのギタリスト、キケ・シネシの2曲「Seras Verdad?」と「Danza Sin Fin」は、どちらもカルロス・アギーレがピアノで参加した特別な楽曲でした。穏やかな響きと躍動感をもったギターと、純粋なまでの美しさを宿したピアノが織り重なった演奏に目をとじて耳を傾けると、そこには心地よい風が吹き、柔らかな光が差し込み、水が静かに零れるような風景が見えてきます。このナチュラルな音の響きに、僕たちは魅了されました。この2曲は言わば“Viento, Luz, Agua”という言葉の源流の音楽ともいえるかもしれません。


カルロス・アギーレ撮影のジャケット候補の写真

この春カルロス・アギーレは2度目の来日を果たしました。朋友であるキケ・シネシと共に。二人は、来日の日程とちょうど重なったbbaの選曲会に遊びにきてくれました。会場で伊藤ゴローさんの新作『GLASHAUS』の曲をかけていると、二人はすぐにその音に反応し、「これは誰?」とたずねてきました。その後も、僕たちがかける曲に大きく共感してくれる場面がいくつもありました。

思えば、カルロスが初来日した際、ウェルカム・パーティのライヴ後に彼に敬意をこめて選曲したパット・メセニー&ライル・メイズの「September Fifteenth」に、カルロスがうなずき「ブラーヴォ!」と言ってくれたこともありました。そんな体験を通じて、僕たちは、自分たちが純粋に好きな音楽が、カルロスとキケの感覚と深いところで確実につながっていることを実感しました。

そうしたカルロスたちとのつながりを感じさせる「世界の繊細で美しい音楽」を集めることで、新たなコンピレイションCDをつくりたいと思い、第2弾の制作に取りかかりました。ここに収録された楽曲は、普段の選曲会で好んでよくかけ、問い合わせの多い曲の中から選びました。前作とは異なるのは、アルゼンチンの音楽だけではなく、ブラジル、イタリア、アメリカ、ノルウェー、スウェーデンなどさまざまな国の音楽を選んでいる点です。それらの個々の作品の音の雰囲気や残響を大切にしながらゆるやかに音をつなぐと不思議と一体感が生まれてくるのです。

Vient, Luz, Aguaの楽曲を紹介。

それでは今回のコンピレイションの聴き所を簡単に紹介しましょう。冒頭はまさに風を吹かせるような瑞々しいピアノ・タッチに心惹かれる、ブラジル出身NY在住のピアニスト、エイジ・ガルシア。カルロス・アギーレも耳を傾け聴き入った、イタリアのバンドネオン奏者のダニエル・ディ・ボナヴェンチュラの色彩豊かなアンサンブル。ブラジルのシンガー、イタマラ・コーラックスが歌うジョアン・ジルベルトの愛娘にささげたワルツから、北欧の澄んだ空気感を漂わせ、ヒルデ・ヘフテのやさしいスキャットが安らかな気持ちにさせてくれるビル・エヴァンスのカヴァーは、続けてワルツ・ナンバーをセレクトしました。そしてアンドレ・メマーリ&アミルトン・ヂ・オランダ~セバスチャン・ベナッシ~ホベルト&エドゥアルド・タウフィッキという、研ぎ澄まされた美意識を感じさせる流れは、僕たちが思い描いている“風、光、水”の純粋な音の世界を表現できたのではないかと思っています。

ビル・エヴァンスの名曲「Peace Piece」のイントロを引用した、ミナス音楽のマエストロ、ヴァグネル・チゾが奏でるクラシカルなサロン・ジャズからエディ・ゴメス&ザリウス・アルヴィンによるルイス・エサの「Dolphine」のカヴァーへの架け橋は、bbaのもうひとりの柱である偉大なジャズ・ピアニスト、ビル・エヴァンスへのオマージュでもあります。

選曲は終盤へ向けてより深みを帯びてきます。アルゼンチンの若きギタリスト、マリオ・ヤニキニがていねいに紡ぐカルロス・アギーレの名曲や、前作にも収録した故ルイス・アルベルト・スピネッタの代表曲「Laura Va」は、アルゼンチンのピアニスト、エイドリアン・イアイエスの哀愁漂うヴァージョンを追悼の意をこめて選びました。SHAGRADA MEDRAから、コキ・オルティスのECMの音響を彷彿させるスピリチュアルな名品をはさんで、最後には前作同様に特別な楽曲を用意しました。

それは、キケ・シネシとカルロス・アギーレによる新録「Andando」です。5月の来日公演で披露され、多くの観客に絶賛された曲です。オリジナルのギターソロ・ヴァージョンはキケ・シネシの『Danza Sin Fin』に入っていますが、カルロス・アギーレとのデュオは、このコンピレイションのみで聴くことができます。

今年10月、アルゼンチン・パラナのアギーレ邸で「Andando」を録音。© by Nobuhiko Nakamura
カルロスのピアノと音を重ねるキケ・シネシ。© by Nobuhiko Nakamura

このように、“Viento, Luz, Agua”は僕たちが普段感じていることを選曲を通して表現した一枚です。このCDを手にとっていただいた皆さんが、自由にそれぞれの楽曲を楽しんでいただけたらこの上なく幸せです。また収録された楽曲のアーティストにも興味をもっていただけたら、彼らの作品も探してみてください。そして、お時間があればbar buenos airesの選曲会にも気軽に遊びに来てください。そして気になる曲がかかったら、遠慮なく「これは誰の曲ですか?」と聞いてください。

V.A / bar buenos aires
– Viento, Luz, Agua

2012年11月24日発売 
2,400円(税込)RCIP-0181
レーベル:Inpartmaint

【Track List】
01. Little Bells For Jane / Age Garcia Trio

02. Pa’l Que Se Va / Pablo Juarez

03. Orizzonte / Daniele Di Bonaventura

04. Valsa (Bebel) / Ithamara Koorax & Juarez Moreira

05. Children’s Playsong / Hilde Hefte

06. Menino Hermeto / Hamilton De Holanda & Andre Mehmari

07. Preludio Para Una Mariposa / Sebastian Benassi

08. Children’s Dance / Roberto Taufic & Eduardo Taufic Duo

09. Baleen Morning / Balmorhea

10. El Aroma De Un Beso / Mingui Ingaramo

11. Fernanda / Wagner Tiso

12. Dolphin / Eddie Gomez & Cesarius Alvim

13. The Moon, The Satrs And You / Nils Landgren

14. Snowflakes / Olga Konkova

15. Romanza / Mario Yaniquini

16. La Nina / Coqui Ortiz

17. Andando / Quique Sinesi & Carlos Aguirre