Another Quiet Corner Vol. 23ある夏の休日。ステキな出来事は、
いつも音楽とともに。

(2013.07.08)

 

早いもので今年も半分が過ぎました。7月に入りまもなく梅雨も明けて、そろそろ本格的な夏がやってきます。僕も今年の夏はどんな音楽を聴いて過ごそうかなと考えはじめています。そういえば2011年の秋に「ピアノと過ごす秋の休日」というテーマで、音楽を選びコラムを書いたところ、嬉しい反響があったことを思い出しました。よって今回は「ある夏の休日に流れる音楽」と題して、「Quiet Corner」らしくいろんな音楽をセレクトしてみたいと思います。

【6:00am】 始まりはいつも優しいデュエット

早起きの休日。天気も快晴。軽くランニングを済ませて身も心もスッキリしたら、朝ごはんです。近くのパン屋で買ってきたバゲットに、バルコニーで摘んだハーブとツナをはさんでできあがり。先日、東京を訪れていた姫路のカフェの店主からいただいた焙煎したての豆でコーヒーを淹れて、さて今日一日どうやって過ごそうかと、あれこれ考えながら朝のBGMをセレクト。

4月にこのコラムでも紹介した『Bedroom Music Library』の続編『Livingroom Music Library』は、こんな休日のくつろいだ時間をイメージして選曲したコンピレーションです。1曲目に選んだアダム・ダニングとバーバラ・メンデスによる、きらめくようなデュエット曲「Never Really Know」が流れだすと、なんだか素敵なことが始まるような気分になります。ちなみに僕が今までに選曲したコンピレーション『In The Sunshine』ではドッチー・ラインハルトとデヴィッド・ローズ、『Pastoral Tone』ではルバ・メイソンとルベーン・ゴンザレスといったように、この2枚にも素敵なデュエット曲が冒頭に収録されていることに気づかれた人はいらっしゃいますか。

【10:00am】彼女からの手紙

先日親しい友人から、箱根に引っ越したという知らせをもらったので、車を借りてドライブがてらその新居へ。僕みたいな音楽好きにとってドライブに持っていくCDを選んでいるときほど楽しいことはありません。こんな晴れた日はラブリーなジャズ・ヴォーカルがいい、ということで僕がプライベートで作ったヘイリー・ローレンのベスト盤をセットして出発です。

実は先日、シアトルから彼女の直筆の手紙が届きました。手紙には「わたしの最新作『Simply Love』のサポートをしてくれてありがとう…」という内容が書かれていました。海外のアーティストからこのようなメッセージをメールでいただくことはたまにありますが、直筆の手紙でいただくことはなかなかありません。はい、すぐに彼女のファンになってしまいました(笑)。もともとヘイリーの作品にはどれも好きな曲がたくさん入っていて、最新作ではナット・キング・コールの「L-O-V-E」、セカンド・アルバム『After Dark』ではスティーヴィー・ワンダーの「Happier Than The Morning Sun」が心ときめくようなカヴァーでおすすめです。それに、彼女の作品は録音がとても良いのです。ヴォーカルや楽器の響きは柔らかくてナチュラルな質感です。きっと箱根の友人も気にいってくれると思います。

【2:00pm】マリン・フレイヴァーをひとふり

しばらくの間、友人宅でくつろいでいると、お互いの趣味の話で盛り上がってきました。ここ数年はまっているというカメラを片手に海を撮りに行こうと意気投合。BGMはもちろん海ジャケということで、先日プロダクション・デシネから世界初のCD化が実現したオランダのAORグループ、パートタイムの唯一のアルバム『In Time』をセレクトしましょう。

オランダのAORといえば思いつくのはエリック・タッグぐらいで、実はまったくこのアルバムのことを知りませんでした。ある日レーベル・オーナーの丸山さんから「ぜったい山本さん好きですよ」と教えてもらって、今回恐縮にもライナーノーツを書かせていただきました。

さて内容は1981年の録音ながら、あまり商業的なサウンドに走ることなく、ほどよいジャジー&ソウルな雰囲気を醸しだして好印象を与えてくれます。例えるならレミュリアとかマッキー・フェアリーのようなハワイ産AORをほうふつさせるメロウなマリン・フレイヴァーが全編に渡って漂っています。そしてボサノヴァやロックステディのリズムを取り入れたりして、マイナー盤ながらサウンド・アレンジのクオリティは高いです。それに何といっても青い海と白い雲と赤いロゴを配したまぶしいトリコール・カラーのジャケット・デザインが素敵過ぎますね。

【6:00pm】いつもチェットのささやきとともに

夕日が沈む海を背にして一路帰宅の途へ。買ったばかりのお気に入りのリネンのストライプ・シャツに着替えて、友人が営むカフェのオープニング・パーティへ。すでに店内は多くの人で大盛況。まずはワインに詳しい友人も絶賛のイタリア産ワインを堪能。すっきりした口当たりと程よい甘さが、店主が作るこだわり料理の味を引き立たせます。「料理やワインの好みと、音楽の好みは通じるものがある」と、いつか尊敬する先輩から言われたことがふと頭をよぎり、すると店内のスピーカーからはジョー・バルビエリが歌う「Let’s Get Lost」が流れてきました。

今年はチェット・ベイカーの没後25年ということで、イタリアのジョー・バルビエリが敬愛をこめて吹き込んだカヴァー集です。誰もが認める相性抜群の二人の関係に、さらにフランスよりマルシオ・ファラコとステイシー・ケントが客演として参加したことは、サプライズというよりは納得の境地です。もしかしたら彼らも同じ味覚をもった音楽家なのかもしれません。そうそう、チェットといえば今秋に「Quiet Corner」で大きな企画を立てています。近々アナウンスする予定ですのでお楽しみに!

【11:00pm】夜更けのアコースティックギター

すっかり夜も更けて。楽しかった一日を振り返りつつ帰宅。こんな静けさを取り戻した夏の夜は静かなギターの音色が聴きたくなります。アンニュイな表情を浮かべる美女に惹かれるこの一枚は、ローリンド・アルメイダ、ハワード・ロバーツ、トミー・テディスコといったウェストコースト・ジャズを代表するギタリストが集まってボサノヴァを演奏した作品です。ブラジルからは女性ギタリストのホジーニャ・ヂ・ヴァレンサが参加しているのも注目です。

60年代のキャピトル盤らしい洗練されたイージー・リスニング・ジャズの仕上がりで、静かなヴォリュームでも弦の音色はマイルドに響き、深い夜に相応しい音楽だと思います。そういえば先月、満月Pubに参加するため芦屋を訪れた際、友人の家で聴かせてもらった、古いトランジスタ・アンプと英国製のスピーカーが生み出す、艶やかな音色を思い出し、このギターズ・アンリミテッドもあのセッティングで鳴らしたら最高かも、と想像しながら今宵はこの辺で寝床に入ることにします。

● Another Quiet Corner vol.4 「ピアノと過ごす秋の休日」を読む。
 

Another Quiet Cornerとは

このコラムはHMVフリーペーパー『Quiet Corner』編集長・山本勇樹さんが、『Quiet Corner』で書ききれなかった音楽を伝えてくれる連載です。2009年HMV渋谷店にできた「心を静かに鎮めてくれる豊潤な音楽」をジャンルや国籍に関係なくセレクトした伝説の売り場「素晴らしきメランコリーの世界」が、アルゼンチンの音楽家カルロス・アギーレと共鳴する音楽を聴くというbar buenos aires選曲イベントへと繋がりました。イベントごとにつくられた幻のフリーペーパー『素晴らしきメランコリーの世界』が、2011年春「Quiet Corner」と名前を変え、同じコンセプトで静かだけではない豊かでQuietな音楽を紹介し続けています。