Another Quiet Corner Vol. 193月17日bbaレーベル誕生。
第一弾はタウフィッキ・デュオ。

(2013.03.05)

2年前、微熱を持って始まった選曲会がついにレーベルに。

いよいよ『bar buenos aires』(以下bba)レーベルがスタートします。第一弾は、ギタリストのホベルト・タウフィッキとピアニストのエドゥアルド・タウフィッキのブラジル人兄弟によるデュオ作品『bate rebate』です。タイトルの意味は「打てば、響く」。題名通り互いの楽器の音が深く共鳴する作品です。

昨年『bar buenos aires – Viento, Luz, Agua』2枚目のコンピレイション制作をはじめたころ、ディレクターから「次はbbaレーベルを立ち上げたいですね」という話が出ました。コンピレイションのマスタリングをスタジオで行なっているとき、収録曲のひとつであるタウフィッキ兄弟の「Children’s Dance」が流れ始め、僕たちはこの曲の演奏と録音の素晴らしさに改めて耳を奪われたのです。

ブラジルのMPBシーンとは趣の異なる、クラシックやジャズを強く感じさせる演奏は、カルロス・アギーレとキケ・シネシのデュオを彷彿させます。そしてアルバム『bate rebate』には、「Children’s Dance」以外にも、クオリティの高い楽曲が並び、さらにアンドレ・メマーリがプロデュースを手掛けていたといううれしいサプライズもあり、「これはまさにレーベル第一弾として相応しい」と、4人の気持ちがぴたりと一致した夜でした。

『bate rebate』には、“ギターとピアノの響き”という邦題をつけました。彼らの音楽をシンプルかつダイレクトに伝えるためであり、僕たちがいつも選曲するとき、とても意識している繊細でナチュラルな音の響きが、この作品の魅力そのものであったからです。一音が鳴り出せば空気が澄み渡り、ギターとピアノが織り重なれば風や光や水の風景を思い描くことができます。二人が生み出す響きは、僕たちリスナーにささやかだけど豊かな体験をさせてくれます。

今回、『bate rebate』を国内盤として制作するにあたり、タウフィッキ兄弟にいくつか質問を送っていたのですが、忙しいスケジュールと重なり、残念ながら入稿に間に合うことがかないませんでした。その後、ホベルトから送られてきた回答は、音楽に対する真摯な姿勢が如実に現れたもので、僕たちがその音楽から感じていたイメージそのものでもあったのです。ぜひ、作品を聴きながら読んで頂きたいと思い、ここに特別に掲載します。


Roberto Taufic

Eduardo Taufic
《ホベルト・タウフィッキ スペシャル・インタビュー》

——— いつふたりは楽器を習い始めたのですか?

遊びでギターを触り始めたのは9歳のとき、11歳でギタースクールに入れられたけど、すぐ辞めちゃって……。クラシック音楽の厳しさが苦手だったんだ。まだ子どもで友だちと遊びたい時期だったしね。17歳になって独学で本気でギターを勉強し始め、時間をかけて独自の音階や手法を見つけ出したよ。エドゥアルドは10歳年下で、子どものころから音楽に情熱を持っていたんだ。彼はもともと音楽の才能があったし、僕の練習をいつも聴きにきていたよ。その後、ピアノのレッスンを始めたんだけど、僕と同様で独学。そして15歳のとき、プロのミュージシャンとしてブラジルの音楽家と一緒に演奏を始めたんだ。

エドゥアルド11歳、ホベルト21歳エドゥアルド11歳、ホベルト21歳

——— 二人の音楽はブラジル音楽という範疇でなく、ジャズ、クラシック、現代音楽(20世紀の)などさまざまな要素を含んでいると思いますが、ふたりに影響を与えた音楽家は?

そうだね、音楽に国境はない。演奏家、作曲者、アレンジャー、プロデューサーとしての僕らの経験は、さまざまな文化とスタイルに育まれて豊かになってきたと思う。始めはシコ・ブアルキ、ジョビン、ヴィニシウス、トッキ―ニョ、バーデン・パウエルなどのブラジルのポピュラー・ミュージック。その後パット・メセニー、チャーリー・パーカー、エイトールTP、リカルド・シルヴェイラ、ギンガ、ジャン=リュック・ポンティなどインストゥルメンタル音楽に夢中になったんだ。エドゥアルドも大きくなって僕が聴いているような音楽を聴くようになった。彼のフェイバリットはミシェル・ペトルチアーニとチック・コリア。その後はふたりともクラシック音楽に惹かれていき……その結果僕らの音楽は、ダイナミックさと自己解釈を交えて、より興味深くなったんじゃないかと思っているよ。メロディとリスナーの繊細な感受性とのダイレクトなコミュニケーションを特別なものだと思っている。いつも自分たちの演奏がみんなに与える色を探しているんだ。技術的に難しくても、シンプルに聴こえるのがよいと思っている。

***

——— どのように『bate rebate』は生まれたのですか? 

2008年に初めてデュオ・コンサートをしたんだ。その数週間前、父が亡くなり「ふたりで何かする」ことはとても意味があることになった。コンサートの結果は素晴らしく、観客はアメイジングだった。それをきっかけに、自分たちの作曲した楽曲だけで、『bate rebate』をレコーディングしようという流れになった。この決断はその後のコラボレーションワークのスタイル、作品の基礎を作るために重要なものになったと思う。

——— どのような経緯でアンドレ・メマーリがプロデュースすることになったのですか?
アンドレ・メマーリはぼくらの友人なんだけれど、プロフェッショナルで、オープンマインドで、びっくりするような音楽家。だからプロデュースをお願いするのと同時にレコーディングを見守ってくれるように頼んだんだ。もともと僕のソロCD 『Eles & Eu』を聴いて、なにか一緒にできたらいいねと言ってくれていたんだ。エドゥアルドはアンドレをピアニストとして尊敬していたよ。 

——— サンパウロにはさまざまな才能ある音楽家がいます。彼らのことをどう思いますか? また、あなたたちとはどんな関係にありますか?

アンドレ・メマーリはブラジル音楽界に大きな影響を与える存在だ。ルシアナ・アルヴェス、シコ・ピニェイロも友人で、ファビオ・トーレスなど新世代と言われる多くの音楽家とも一緒にプレイし、真剣に音楽を作ることを楽しんだりしているよ。仲間たちみんなの血の中に「MPB」が流れていて、彼らとの交流から生まれる“ワールド・ミュージック”はただただ素晴らしいよ! 僕らは音楽をつくるとき、簡単に成功しようとは考えない。クオリティや品格を下げることは一切せず、本当の芸術が必要なものだけを考えたよ。サンパウロの音楽仲間たちと共通しているのは、自分たちの作品への愛と献身かな。 

ホベルト21歳
エドゥアルド11歳

——— CDを聴くとふたりがまるで自分たちの前で演奏してくれているかのような錯覚に陥ります。レコーディングするときに一番大切なもの、一番気にしていることはなに?

ふたりならではのサウンドとアイデンティティ、楽器の演奏法を持っているよ。音楽への、そしてお互いへのリスペクトを持ちながら、常にふたりの音色とアイデアをミックスしようと試みているんだ。僕らはそれぞれほかの作品へも参加していて、その経験が自分たちのサウンドづくりにとても役立っていると思う。『bate rebate』のレコーディング中、エンジニアは、スタジオで演奏した段階で、サウンドはもう既にできあがっている!と驚いたんだ。だからレコーディングは、ふたりの演奏をいかにそのままの音でCDに反映するかということがテーマだった。エンジニアがしたことは周波数の音域を調節することだけ。それから、僕らはコンサートホールで大勢の観客の前で演奏しているとイメージしながら、それだけのエネルギーを持って弾いたんだ。このレコーディングは特別な体験になったよ! あなたが「まるで自分たちの前で演奏してくれているかのような」音に気づいてくれてとってもうれしいよ。ミックスをしたエドゥアルドは、ナチュラルな印象を残したままにしたからね。 

——— あなたとエドゥアルドは対話するように演奏していますね。ほかにもさまざまなギターとピアノのデュオがあります。あなたちにとって、トリオでも、ソロでもなく、デュオでプレイするということはなにか重要な意味がありますか?

2人の人による会話って「話すこと」より「聞くこと」の方が重要じゃないかな。『bate rebate』はまさにそう。お互いの話をじっくり聞き、刺激し合って対話は続いて行き、やがてふたりがひとつになる…。僕は、イタリア系アメリカ人サックス奏者であるジャンカルロ・マウリーノとの『Um Abraço』や、イタリア人ギター奏者ルイージ・テッサローロとの『Strings Game』『Painting with Strings』など、デュオでいくつかのCDをつくっているけれど、デュオはパーフェクトな音楽のあり方だと思う。もちろんソロで弾くのも好きだよ。だってソロは自分の感情を隠すことが一切できないからね。ソロは、言ってみれば「自分との対話」かな。 

***

——— 次のデュオアルバムの予定はある?

もちろん。まず今年はホベルト・メネスカルに捧げるアルバムをつくる予定。それからオーケストラでも何かをつくろうと思っているんだ。「ギターとピアノが対話する」という自分たちのプレイスタイルをキープしつつ、例えば数名のシンガーを入れたり、外国の楽器を入れたりするなど…。もう一つのアイデアは、ナタール(二人の所在地)にダンスカンパニーをつくって『bate rebate』の音楽をベースにダンスパフォーマンスを創ること。プランはいっぱいあるんだ。 

——— では最後に日本のリスナーになにかメッセージをぜひ。

すべての音楽家と同様に、自分たちの芸術を世界中のみんなとシェアしたい、愛と感動を音楽に詰めこんでみんなと触れあいたいと思っている。作品が人々の心に届いて音楽の生命力を感じて、感情が開かれた時にこそ芸術が完成すると信じている。日本には芸術をリスペクトする温かくフレンドリーな人たちがたくさんいると思う。そんな特別なあなたたちと、僕らの音楽を分かち合えることは本当に名誉なこと。いつか直接お会いしたいと願っています。 

『bate rebate 〜 ギターとピアノの響き』

Roberto Taufic & Eduardo Taufic Duo
(ホベルト・タウフィッキ&エドゥアルド・タウフィッキ・デュオ)
2013年3月17日発売 2,400円(税込み) RCIP-0185



Roberto Taufic(Guitar) Eduardo Taufic(Piano)
プロデュース: André Mehmari
ゲスト: André Mehmar(Accordion on 12) Luciana Alves(Vocal on 18)
2011年ブラジル / サンパウロ録音

【Track List】
01. Children’s dance
02. Lembranças
03. Quando vem do coração
04. Brasil express
05. Ficou o amor
06. Choraminguando
07. Bate e rebate
08. Bicho solto
09. Passeando
10. Real picture
11. Nosso chão
12. Sobre as nuvens
13. Êta danado!
14. Falação
15. Deu gato na cabeça
16. Assenza
17. De tanto amar
18. É assim