『Dialogues』デュオ演奏をベースに新しい世界へ。 ふたりで親密な対話をするような
藤本一馬さんの優しい音楽。

(2012.12.05)

この春、来日したカルロス・アギーレ、ヘナート・モタ&パトリシア・ロバート、
日本を代表するバンドネオン奏者のひとり北村聡さんとともにつくった
優しくささやきかけるような美しいアルバム。
寒い冬に、暖かい部屋の中で温かいドリンクを片手に、
少し小さめのボリュームでずっとずっと聴きつづけたいような音楽です。

『Dialogues』が誕生するまで。

orange pekoeの藤本一馬さんが、ソロアルバム2枚目をリリース。ソロデビューアルバム『SUN DANCE(サンダンス)』とは少し趣の違う、よりしっとりとした『Dialogues(ダイアローグス)』についてお話をうかがいました。

― おそろしく美しいアルバムですね。いつから計画していたんですか?
「1枚目のアルバムをつくったとき、書き溜めていた楽曲の半分も入らなかったので、2枚目も同じトリオ編成で、と思っていたんです。けれど『SUN DANCE』ツアーを終えることから、2枚目のアルバムへの考え方が少しずつ変わり始めました」

― どんな風に変わったんでしょうか?
「まずベースとパーカッションだけでなく、ピアノやリード楽器などいろいろな音を入れたいなと思い始めました。ちょうど1年ぐらい前から、それまで共演したことのない人とデュオでライブをする機会が増えだして、新しい人とセッションするたびに新しい“なにか”を得ることが多くなったんです。そこで「ダイアローグ=対話」というテーマで、部屋でふたりでトークするように奏でる音楽をイメージしてアルバムをつくろうということになったのです。『SUN DANCE』が自然への讃歌という屋外での音楽という捉え方をすれば、『Dialogues』は内省的な室内での親密な音楽というか…」。

と、淡々と語るorange pekoeのギタリスト藤本一馬さん。ギターのテクニックがあまりにも素晴らしいので、つい演奏者としての魅力に目がいってしまうのですが、実は美しい旋律をつぎつぎと編み出す、魔法使いのような作曲家でもあります。前作にも、ギターの迫力に圧倒されるタイトル曲「SUN DANCE」の陰に隠れて、とても優しく柔らかい楽曲がいくつも散りばめられていました。ある人は「やじろべえ」で涙し、また別の人は「海への祈り」が美しいとため息をもらし、わたしは「こころの瞳」にぞっこん、などと聴く人それぞれに異なるフェイバリット曲を与えてしまうほど、完成された美しい楽曲ばかりが並んでいたのです。

ギターとピアノ、ギターとバンドネオン、デュオでの楽曲になるとそのメロディの美しさはさらに際立って、ふと流れてきただけで、それまで談笑していた人たちがはっとして一瞬会話を止め、「これは何?」と言わせてしまうような力を持っています。

音楽家たちとの対話(ダイアローグ)について。

今回のアルバムで“音楽の対話”をしたのはアルゼンチン・パラナのカルロス・アギーレ、ブラジル・ミナスのヘナート・モタ&パトリシア・ロバート、そしてバンドネオンの貴公子・北村聡さん。

―3組の音楽家と録音することになったのはどうして?
「これは偶然と言ってもいい、自然な流れなんです。カルロス・アギーレさんが2010年に来日したときにライブを見て感動し、フェアウェルパーティで初めて会いました。僕のファーストアルバムを気に入ってくれていると聞いていたので、いつか何か一緒にできたらいいなと漠然と考えていたところ再来日が決定しので、デュオでの録音をお願いしたらすぐにOKになったのです。また同時に来日したヘナート&パトリシアとも以前からぜひ共演したいと思っていて、今までに書いていた曲の中から彼らのイメージに合うと思った「Mundo Adentro」をわたして歌詞をかいてもらいました」

「Mundo Adentro」は、このエピソードを聞かなければ、最初からヘナート&パトリシアのハーモニーを想像して書いたとしか思えないほど、ふたりの音楽と共鳴するメロディです。質問したわたしが驚いていると一馬さんは―—

「そうですよね。じつはぼく自身も驚いたんです。とくにふたりをイメージして書いたわけではなく、自分ではとても気に入っていたもののorange pekoeで録音することはないだろう…と長く寝かせていた曲なんです。でも、いざ歌詞をつけてふたりのヴォーカルとギターを合わせると、あらかじめヘナート&パトリシアに歌ってもらうことが決まっていたんじゃないかと、自分でも思えました(笑)」

―北村聡さんとはどのような形でコラボが決まったんですか?
「聡くんとぼくは同い年、同じ関西人なんです。飲んだりする席では何度も会っていて(笑)、いつか一緒にライブをしようと言っていたんです。6月にそれが実現して『SARAVAH東京』でデュオライブをしました。ぼくにとってはバンドネオンとの共演は初めてで、手探りのライブでしたが録画映像を観てみるとこれがかなりいい! ということでその中で弾いた曲の中から2曲収録することにしました。2曲目の「Festivo」は聡くんの曲です」

この曲は文字通りバンドネオンとギターが対話しているような作品。6曲の収録曲の中に、北村さん作曲の作品を入れるということにうなずけるほど素晴らしい作品です。

藤本一馬×北村聡(バンドネオン)at SARAVAH 東京 © by Ryo Mitamura
ヘナート・モタ&パトリシア・ロバート

 

そしてこのアルバムの要となるのが、カルロス・アギーレとのデュオによる美しい2作品。アギーレさんが弾くのびのびとしたやわらかい即興演奏に一馬さんのギターの音色がふわりと重なり、イントロだけではっとするような美しさ。

—アギーレさんとの録音はどんな感じでしたか?
「おこがましいようですが、シンパシーを感じました。そしてアギーレさんの音は澄んでいるんです。とくに打ち合わせもなく、まずは曲を弾いて合わせいくような感じだったんですが、かれの弾くリズムに引っ張られるようにぼくもギターを合わせて……。アギーレさんの演奏に身を任せてリードを弾いているうちにアギーレさんの澄んだ世界に引き込まれていき、気づいたらあの2曲が収録できていたという感じでしょうか」

―「まだ見ぬ風景」ってアルゼンチンのことかしら。
「いつか行ってみたいですね。実はアルゼンチンの曲は6/8のものがとても多いんです。そしてぼくがつくった音楽も偶然6/8のものが多く、自分でも気づかないうちにアルゼンチンの感覚が内包されていたのかもしれないと思うと不思議な気持ちになります(笑)」。実はギタリスト大国アルゼンチンに、すでに熱心な一馬ファンがいるといううわさも届いています。

そして静かな対話の締めくくりにギターソロの最新曲を添えて『ダイアローグス』は幕を閉じます。いくつもの新しいことに挑戦しながら、偶然の出会いや流れを大切につくった『Dialogues』。大切な人と一緒に部屋の中で聴くのもいいかもしれません。

カルロス・アギーレと録音時のひとコマ。© by Ryo Mitamura


Dialogues
藤本一馬(Kazuma Fujimoto)

2012年12月5日発売 2,500円 (税抜) NKCD-1004 (qb001)
発売元: NRT / quiet border  販売元: BounDEE by SSNW


【RECORDING DATA】
藤本一馬/ Kazuma Fujimoto: Guitar

Carlos Aguirre: Piano (M1 & 4), & Vocal (M4)

Renato Motha & Patricia Lobato: Vocal (M3)

北村聡 / Satoshi Kitamura: Bandoneon (M2 & 5)

工藤精/ Kudo Show: Acoustic Bass (M3)

岡部洋一/ Yoichi Okabe: Percussions (M3)

【TRACK LIST】

1. The Pledge Of Friendship (Kazuma Fujimoto) feat. Carlos Aguirre

2. Festivo (Satoshi kitamura) feat. 北村聡

3. Mundo Adentro (Renato Motha/Kazuma Fujimoto) feat. Renato Motha & Patricia Lobato

4. まだ見ぬ風景 (Kazuma Fujimoto) feat. Carlos Aguirre

5. 空のように (Kazuma Fujimoto) feat. 北村聡

6. My Native Land (Kazuma Fujimoto)

【藤本一馬さん&北村聡さん デュオライブ情報】
SPIRAL RECORDS presents
『夜の演奏会』vol.18,19 −−Christmas Special

12月18日(火)藤本一馬×北村聡 12月19日(水)中島ノブユキ×中村潤
開場:20:30 / 開演 21:30 (両日共/ 演奏時間約30分)
ミュージックチャージ:1,500円+1Dオーダー
会場:Spiral Café(スパイラル1階)