Another Quiet Corner Vol. 32
女性ジャズ・ヴォーカリスト集『Floral Voices』リリース。
春本番、ぱっと花咲くような、
女性SSWの音楽を集めて。

(2014.04.02)
 
軽やかなジャズ・ヴォーカルのコンピレーション。

やっと東京には春一番が吹いて暖かい季節になりましたね。あっという間に桜の花も満開です。僕はいつも春になると、衣替えをするように、音楽も軽やかで心地よいものを聴きたくなります。そんな春のことを思いながら、少しずつ選曲していた一枚のコンピレーションがようやく完成しました。

クワイエット・コーナーがお贈りする第7弾のコンピレーションです。ぱっと花咲くような音楽を集めたので、タイトルは『Floral Voices』と名付けました。収録曲はすべて女性ヴォーカリストで、長年聴いてきたお気に入りから、ここ最近夢中になっている曲まで、18曲を慎重に選びました。意外ですが女性ジャズ・ヴォーカルだけのコンピは、今回が初めてです。以前からずっといつか作りたいと思っていた念願が叶いとてもうれしく思っています。またジャズ・ヴォーカルに関しては定評のあるビクターの作品なので、アーティストのラインナップを見ただけでわくわくする人もおおいのでは。こんな豪華なアーティストの共演でありながら、クワイエット・コーナーのファンのみなさんがニヤリとするような技あり選曲も心掛けました。

* * *

オープニングはカナダのエミリー・クレア・バーロウが歌う「Haven’t We Met」。ケニー・ランキンが書いた名曲のカヴァーで、きらきらと眩い光が射してくるような爽やかなヴァージョンです。この企画の第一段階から1曲目に入れることを決めていました。新しい出会いが訪れる季節に相応しい曲ではないでしょうか。8曲目にも彼女が歌うバート・バカラックの「Raindrops Keep Falling On My Head」のカヴァーを収めました。以前に作った『Come Rain Or Come Shine』には、現代のチェット・ベイカーと評されるリンカーン・ブライニーのヴァージョンを収録しましたが、やはりバカラックの曲はジャズとの相性の良さを感じさせます。そうそう、エミリーといえば、昨年、カナダのヴィブラフォン奏者のピーター・アップルヤードが同郷の女性ヴォーカルたちを迎えて録音した『Sophisticated Ladies』という作品に参加しているんです。ちなみに国内盤はMUZAKから発売されていて、ライナーノーツを書きました。機会があればぜひこちらも聴いてみてください。

続いて以前、このコラムでも紹介したことがあるヘイリー・ローレン(彼女から直筆の手紙をもらってファンになってしまいました)はスティーヴィー・ワンダーの「Happier Than The Morning Sun」と、ナット・キング・コールの「L-O-V-E」を選びました。「Happier Than The Morning Sun」といえば、すぐに思い出すのはニック・デカロが名作『Italian Graffiti』に収録したカヴァー・ヴァージョンです。僕もずいぶんジャズを聴いていますが、女性ジャズ・ヴォーカリストのカヴァーはとても珍しいのではないでしょうか。ヘイリーのステージを実際に観たときに、歌の上手さに驚いたことがあります。ポップスやボサノヴァの曲も見事に歌いこなせるのですが、“ジャジー”という一言で片づけるにはもったいない才能を持っていると思います。

  • エミリー・クレア・バーロウ 提供/ビクターエンタテインメント
    エミリー・クレア・バーロウ 提供/ビクターエンタテインメント
  • ヘイリー・ローレン 提供/ビクターエンタテインメント
    ヘイリー・ローレン 提供/ビクターエンタテインメント
クワイエット・コーナーらしい変化球もプラス

そして思い入れいっぱいの個人的イチオシ・ヴォーカリストがアンジェラ・ガルッポ。ここでは「Tea For Two」と「Moon River」というスタンダード・ソングを選びました。この2曲が収録された、彼女の昨年のアルバム『I Feel For You』は何度も聴いても素晴らしいと感じる一枚です。仕事柄たくさんの女性ジャズ・ヴォーカリスト曲を聴きますが、本当にたまにビビッ!と僕のアンテナが反応します。彼女はまさにそういうビビッときた存在。まだデビューしたばかりですが、今から次回作が楽しみで仕方がないのです。「Tea For Two」といえばブロッサム・ディアリーが歌ったヴァージョンがよく知られています。けれどガルッポも彼女に負けず劣らず、キュートな歌声が印象的。柔らかなブロッサムのヴァージョンに比べると、彼女の方がリズムに乗っていてグルーヴィーで、間違いなくハイライトの一曲です。「Moon River」は、これまで僕が選曲したコンピレーションにも収録しています。『Pastoral Tone』にはキャロライン・レオンハート、『寄り添う音、重なる想い』にはメリッサ・スティリアノウ、3者甲乙つけがたいステキなヴァージョンを収録しましたので、聴き比べてもらえるとうれしいです。

最後に、クワイエット・コーナーらしい変化球な曲も入っているので、すこし駆け足になりますが紹介しましょう。オランダのSSWベニー・シングスがプロデュースを手掛けたジョヴァンカのポップなフェイク・サンバ「I Remember」と「I Will Wait」。その透明感のある歌声はミニー・リパートンを彷彿させます。そしてフェアグランド・アトラクションのヴォーカリストであるエディー・リーダーのソロ曲「Dragonflies」は、イギリスのグラスゴー出身の彼女らしい、トラディショナルなフォーク・タッチのサウンドが特徴的で、ゆったりとしたワルツが夢見心地な気分を誘います。彼女自身もこの曲については「子守唄のように作った」と語っていました。さらにこれはたぶんジャズ・ファンにはあまり知られていない、ドイツ出身のインディーの女の子デュオBOYです。80年代のチェリーレッド・レーベルが発売されたネオアコに通じるメランコリックなギター・ポップで、コンピの中でもいいアクセントになっていると思います。

春になるとあちらこちらでいろんなイベントがあると思います。大切な人や友人に花束を贈るような感じで、このCDを選んでもらえるととてもうれしいです。僕も音楽好きの友人にサプライズでプレゼントする予定です。

  • アンジェラ・ガルッポ  提供/ビクターエンタテインメント
    アンジェラ・ガルッポ 提供/ビクターエンタテインメント
  • エディー・リーダー 提供/ビクターエンタテインメント
    エディー・リーダー 提供/ビクターエンタテインメント

Floral Voices V.A.
2014年03月26日発売 1,944円(税込)
レーベル:ビクターエンタテインメント

01. Haven’t We Met / Emilie-Claire Barlow
02. Happier Than The Morning Sun / Halie Loren
03. I Remember / Giovanca
04. Poinciana /Elizabeth Shepherd
05. Triste / Sophie Milman
06. Tea For Two / Angela Galuppo
07. Bamboo Shoots / Cyrille Aimee
08. Raindrops Keep Falling On My Head / Emilie-Claire Barlow
09. S Wonderful / Sidsel Storm
10. L-O-V-E / Halie Loren
11. Almost Twelve / Cassandra Wilson
12. Once I Walked In The Sun / Jane Monheit
13. Strawberry Fields Forever / Karen Souza
14. Waltz For Pony / BOY
15. Dragonflies / Eddi Reader
16. I Will Wait / Giovanca
17. Like A Lover / Hilary Kole
18. Moon River / Angela Galuppo