Another Quiet Corner Vol. 18 B.Evans、K.Jarrett、そしてシネシ。
デュオに魅せられて、ついに……。

(2013.02.06)

昨年5月の静かなる熱狂が1枚のアルバムになった。

このコラムでも度々紹介している、アルゼンチンのギタリスト、キケ・シネシは読者の方々にはもうお馴染みですね。昨年の5月、彼はカルロス・アギーレとともに来日しました。その時のステージを録音した『Live in Sense of Quiet Guest: Carlos Aguirre』という楽しみにしていたライブ盤が、ついに発売されました。この作品には、キケ・シネシの美しいギターを堪能できるソロ演奏と、カルロス・アギーレをピアノに迎えた親密なデュオ演奏が収録されています。孤高に徹したキケ・シネシのソロも充分に魅力的ですが、やはりカルロス・アギーレとのデュオには特別な音楽の魔法が宿っていると思います。

実はここ数年、僕は、“ふたり”という空間にとても惹かれています。ソロでもなく、トリオでもなく、それ以上でもなく、ふたり(=デュオ)が生みだす音楽。今回は、キケ・シネシとカルロス・アギーレを入り口に、僕がおすすめする……というか、最近夜深い時間によく聴いているデュオ作品を紹介します。


Quique Sinesi © by Ryo Mitamura
理想のデュオ、ビル・エヴァンス×ジム・ホール。

“デュオ”と聞いてまず思い浮かぶのはこの二人です。ビル・エヴァンスとジム・ホール。言わずとも知れたジャズ界を代表するピアニストとギタリストです。彼らが1962年に発表した『UNDERCURRENT』は、今もなおデュオによるジャズの名盤として根強い人気を誇る一枚です。彼らはこの作品で、それこそ底流にあるお互いの感性の一致を見つけたのか、1966年にさらにデュオで『Intermodulation』を発表します。僕はこちらの方を長く愛聴しているのですが、緊張感を漂わせながら演奏を繰り広げる『UNDERCURRENT』に対して、『Intermodulation』はくつろいだ印象があります。音数も前作に比べると少なくなっています。“多くを語らずとも深い理解がある演奏”とでもいうべきか……。この作品は僕が理想とするデュオ演奏といっても過言ではありません。

ピアノ×ベースの優しい音。

ピアノとギターはデュオにおける定番の編成ですが、ピアノとベースというデュオ編成も、実はそれ以上に多く存在します。つまりピアノ・トリオからドラムを除いた編成です。日本ではピアノ・トリオ至上主義とも呼ばれるくらい、ジャズ・ファンはピアノ・トリオが大好きです。そのためドラムレスの作品は手に取りにくいのが現状です。しかし、夜遅くにあまり音量も出すことができない環境では、ドラムレスの方がやさしく響くことがあります。

ECMを代表するピアニスト、キース・ジャレットがベーシストのチャーリー・ヘイデンを組んで録音した『JASMINE』は、そんな静かな夜更けが似合う作品です。キース・ジャレットは比較的作風の幅が広いピアニストですが、『JASMINE』はバラード・スタンダード集ということで、例えば『MELODY AT NIGHT WITH YOU』といった美しい旋律に包まれた作品を愛する方も(とくに女性にぜひ)聴きやすい作品です。あと、チャーリー・ヘイデンはキース・ジャレットのほかにも、いろんなピアニストとデュオ作品を録音しています。キューバのピアニスト、ゴンサロ・ルカルカバとの『NOCTURNE』や、アメリカの伝説のピアニスト、ハンク・ジョーンズとの『STEAL AWAY』、ギタリストのパット・メセニーとの『BEYOND THE MISSOURI SKY』など、これらすべて機会があればぜひ聴いてほしいと思います。

デュオ好きが高じて……。

ピアノとベースといえば、昨年にプロダクション・デシネから発売された、スウェーデンの女性ピアニスト、モニカ・ドミニクと、彼女の弟であるベーシスト、パレ・ダニエルソンによる『TOGETHERNESS』も仲睦まじい関係が音に現れた温かい作品です。僕が気に入っているのはこの作品のラストに置かれた2曲です。ミッシェル・ルグランの「YOU MUST BELIEVE IN SPRING」と「WHAT ARE YOU DOING THE REST OF YOUR LIFE?」です。うっとりするようなメロディーが夢見心地にさせてくれます。そういえばプロダクション・デシネは、ブラジルのヴァグネル・チゾとマルシオ・マラルドとのデュオ作品も紹介していましたね。こちらはエンニオ・モリコーネやアルマンド・トロヴァヨーリのようなイタリアン・サントラを彷彿させる、ロマンティックで切ない楽曲が満載です。

紹介したいデュオ作品はまだまだありますが、字数も尽きてきたのでまたの機会に書かせていただきます。最後にすこし告知をさせていただきます。友人らと一緒に主宰する選曲会「bar buenos aires」が3月にレーベルを発足することになりました。僕たちが大好きなアーティストの作品を紹介していくつもりです。レーベル第一弾のCDは、ブラジル出身のRobertoTaufic(ホベルト・タウフィキ/ピアノ)とEdouardo Taufic(エドゥアルド・タウフィキ/ギター)の兄弟によるデュオ作品です。そう、秋にリリースしたコンピレーション『bar buenos aires – Viento, Luz, Agua』にも収録した、とてもとても美しい曲です。こちらも改めてこのコラムで詳しくみなさんに紹介したいと思います。