Hauschka / Abandoned City 3/18リリース音譜で建築された観念を、
生き物へと変貌させたハウシュカ。

(2014.03.13)
Photo by Ryo Mitamura
Photo by Fuminari Yoshitsugu
現代音楽とポピュラー音楽の接点を拡張する音楽的な試み。

音楽には歴史がある。その起源をどこに求めるかというのは諸説あるだろうが、ロック、ブルース、ジャズ、クラッシック、民族音楽等、簡単に思いつくジャンルを挙げるだけでも幾重にも蓄積された歴史の存在を容易に想像することが出来るであろう。だからこそ、音楽家が自分自身を歴史の中にどう位置づけるかということは、先人達への敬意を表することであり、音楽の歴史を生きるということになるのだ。ドイツ人のピアニスト兼作曲家、ハウシュカの音楽を聴いていると、彼がいかに西洋人として西洋音楽の歴史を生きることに自覚的であるかということがよく分かる。現代音楽とポピュラー音楽の接点を拡張するような彼の音楽的な試みには、クラフトワークやノイなど、クラウトロックの先人たちの歩みと、バロック以降のクラッシック音楽の歴史を同時に生きるような複眼的な視座が含まれている。そもそも歴史とは点や線で存在するものではなく、重層的なウネリとして存在しているものなのだ。そして、ハウシュカの音楽からは常にそのウネリの造形がシルエットのように立ち上っている。

  • Photo by Fuminari Yoshitsugu
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  • Photo by Ryo Mitamura
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音符で建築された観念が、生き物へと変貌を遂げる。

そんなハウシュカの2014年作となるのが『Abandoned City』だ。このアルバムに収録されている楽曲のタイトルは全て世界各地に実在する人気のない町の名前とのこと。つまり「捨てられた街」がテーマとなっている。そのためか、前作『Salon Des Amateurs』のような華やかな世界観ではなく、うらぶれた廃墟のような装飾をはぎ取った生々しい喪失感で彩られている。気高く力強いピアノの音と、キーボードで作られたチープなドラムの音が奇妙なバランスを描くことで、端正なフォルムを美しく歪めたような印象だ。音楽的にはクラスターやノイのようなクラウトロックの系譜に連なるミニマル・ミュージックの構造を持っていながらも、トランス的な快楽ではなく、退廃的な陶酔へと導くクラッシック作品のような性質を持っている。そして、退廃へと向かうロマンチシズムと同時に、安らかな祈りのような感性も息衝いていて、廃墟とそこからの再生が時間軸ではなく、作曲家の内面を通して描かれていくような観念的な世界も伺える。ここでハウシュカの代名詞とも呼べるプリペアード・ピアノが果たす役割は大きい。SSWにとっての歌声のような存在であり、理知的なハウシュカの作品において、強烈な息吹を吹き込むフィジカルを担っているとも言えるであろう。このプリペアード・ピアノが音符で建築された観念を音の生き物へと変貌させていくのだ。

  • Hilary Hahn & Hauschka Photo by Mareike Foecking
    Hilary Hahn & Hauschka Photo by Mareike Foecking
  • Hilary Hahn & Hauschka Photo by Mareike Foecking
    Hilary Hahn & Hauschka Photo by Mareike Foecking
「捨てられた街」、西洋音楽の歴史を歩く。

ハウシュカの根底に流れているのは西洋音楽へ対する絶対的な信頼だろう。早坂文雄や武満徹は東洋人が西洋音楽に取り組むことへの矛盾と葛藤を作品へと込めたが、ハウシュカには西洋音楽へ対する葛藤がない。端正なフォルムを提示し続ける彼の音楽には迷いがないのだ。このことがハウシュカの圧倒的な個性となっていると言えるであろう。全てを見下ろすことの出来る神が、天上から音楽を描いているような西洋音楽の1つのありかたを常に実践しているのである。だからこそ、ハウシュカの音楽を聴くとヨーロッパという土壌を強く意識させられる。なんとなくクラッシック、なんとなくポピュラー・ミュージックという受け止め方では許されないような、西洋音楽の広大な歴史が聴き手の前に迫ってくるのである。

冒頭にも書いたことだが、音楽には歴史がある。そして、優れた音楽からは、歴史が聴こえてくる。その歴史とは音楽家にとっての履歴書みたいなものかもしれない。『Abandoned City』に耳を傾けていると、一人の音楽家が西洋音楽の歴史の中を悠然と歩いていく姿が見えてくる。

Abandoned City(アバンダンド・シティ)
Hauschka(ハウシュカ)
2014年3月18日発売 2,500円(税抜)WINDBELL four 123-124
レーベル:WINDBELL

Abandoned Cit

【Track List】

Disc 1
01. Elizabeth Bay
02. Pripyat
03. Thames Town
04. Who Lived Here
05. Agdam
06. Sanzhi Pod City
07. Craco
08. Bakersville
09. Stromness
10. El Hotel del Salto (Bonus Track)

Disc 2 Bonus Disc “I close my eyes”
01. i am walking
02. from house to house
03. to an empty mall
04. can you dance for me
05. into the dawn
06. they made us leave
07. hope they come back
08. my family lived here
09. in happysadness
10. where am i when i’m old

日本盤、欧州盤初回限定製造のスペシャルエディションのみの追加収録