Another Quiet Corner Vol. 37 アンドレ・メマーリ / フランソワ・モラン『アラポラン』リリース。メマーリ&モラン、木や水を感じるピアノ&ドラムのデュオアルバム誕生。

(2014.12.06)
  
  
アンドレ・メマーリとフランソワ・モラン。

木々のざわめきや水のきらめきを感じさせるナチュラルな響きと、鮮やかな映像美を喚起される音楽に強く惹かれます。アンドレ・メマーリとフランソワ・モランは、そんな豊かな魅力をもった音楽家です。いままでにbar buenos airesのコンピレイションに収録したり、クワイエット・コーナーのディスクガイド本の中で、「Viento, Luz, Agua」と「Trav’lin’ Light」というテーマで、それぞれの作品を掲載したりしてきました。今回、その二人が一枚の素晴らしいデュオ・アルバム『Arapora』をリリースしました。

アンドレ・メマーリは現代ブラジル音楽、それも充実極まりないサンパウロ・シーンの中心人物であり、ピアニスト、作曲家、エンジニアといった多彩な才能を持っています。ブラジル音楽だけには留まらず、ジャズやクラシックなどさまざまなエッセンスを自在に取り入れて、次々にクオリティの高い作品を録音して、幅広い音楽ファンから支持を得ています。メマーリはbar buenos airesレーベルのアーティスト単体アルバムの第一弾、エドゥアルド・タウフィッキ&ホベルト・タウフィッキの兄弟デュオによる『Bate, Rebate』のプロデューサーでもあり、日本にも何度か来日して、その類まれな才能を披露しています。

フランソワ・モランはリオ在住のフランス人ドラマーで、2013年に発表されたファーストアルバム『Naissance』は、そのメマーリと、ルイス・ヒベイロ、ネイマール・ヂアスといったサンパウロの才能あふれる音楽家から、セルジオ・サントスやイヴァン・リンスなど豪華なゲスト陣も参加した傑作で、南米音楽ファンの間で大きな話題になりました。2014年には、パット・メセニー・グループの一員として有名なギタリストのナンド・ローリアが参加したボーナス・トラックを加え、さらにメマーリ自身によって新たなにマスタリングが施された形で、新生『Naissance』として生まれ変わりbar buenos airesレーベルから発売されました。

アンドレ・メマーリ(左)とフランソワ・モラン
アンドレ・メマーリ(左)とフランソワ・モラン
インプロヴィゼーションのイメージで語れない優雅なアルバム。

メマーリとモランはこの『Naissance』を通して、お互いの価値観や感覚を共有し、ふたりのシンパシーを形にするべく、即興をベースにしたデュオ・アルバム『Arapora』を完成させました。ピアニストとドラマーというデュオ編成(めずらしいです)を基本に、メマーリ自身の演奏によるギター、ベース、シンセの音を重ね、ダイナミックかつ繊細なアンサンブルを構築しています。収録された全13曲中8曲はインプロヴィゼーション(即興演奏)で録音され、メマーリによる美しい2曲の書下ろしをはさみ、さらにアントニオ・カルロス・ジョビンとキース・ジャレットという、彼らの敬愛する音楽家のカヴァー曲も収録しています。

インプロヴィゼーションと聞いて、難しくとっつきにくい印象を受けるかもしれませんが、ふたりの即興演奏はまるで楽譜が存在したかのように、ときにメロディアスで流麗。それぞれの楽器の繊細な響きや(特にモランのブラシ・ワークに注目)、メマーリの卓越した鍵盤さばき、そして二人がお互いに探りながら生みだされるインタープレイの数々にぜひ耳を傾けてほしいと思います。ブラジル音楽ファンだけではなく、ECMや北欧ジャズのように、透明感があって、幻想的なサウンドが好きな方にも自信をもっておすすめできます。もう少し早く発売されていたら、クワイエット・コーナーのディスクガイド本には、「Intimate Dialogue」という「親密な音の対話」を感じさせるデュオ作品を紹介しているページに載せていたと思います。

さて、今回はそんな素晴らしい作品を届けてくれたアンドレ・メマーリに特別にインタビューを行いました。メマーリ自身の音楽観、日本に対する思い、そしてモランとの出会い、アルバムへの想いなど、興味深い話を聞くことができましたので、ぜひお楽しみください。(インタビューは2013年11月)

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Andre Mehmari interview 

*interviewed in 2013 November

Q. 僕はQuiet Cornerというフリーペーパーを作っていて、あなたの音楽を紹介してきました。今回のインタビューはそのウェブ版のAnother Quiet Cornerというページに掲載する予定です。これがそのフリーペーパーです。

A. (フリーペーパーを眺めながら) おー、カルロス・アギーレやゼー・ミゲル・ヴィズニッキも載っていますね。あとラファエル・マルティーニまで。これはとても素敵なフリーペーパーですね。

Q. ありがとうございます。では質問をはじめます。2011年のソロとしては初の来日ツアーを行って、何か大きな変化や影響はありましたか?

A. 大きな影響がありました。2011年の来日というのは、私のキャリアの中でも重要な出来事でした。音楽的にももちろんなのですが、感情的にも変化がありました。ちょうど、震災の直後だったので、多くの日本人が大変な思いだったはずです。けれど彼らは私の音楽をじっと聴いてくれました。これは私にとっても忘れられない来日公演です。日本に対する愛着心もその時に強くなりました。

Q. 今までの来日を通して、日本への興味はどのように深まりましたか?

A. とにかく日本には、音楽以外にも夢中になって熱狂してしまうものがたくさんありますし、毎回感動します。日本の文化はブラジルとまったく異なるのでとても刺激的なのです。あと、日本には最高品質のピアノがたくさんあります。これはピアニストである自分にとってとても重要なことです。今まで色んな国へ旅をしてきましたが、日本はとくにお気にりの国ですよ。

  
  

Q. 伊藤ゴローさんの『GLASHAUS』には、あなたやジャキス・モレレンバウムが参加したり、あと藤本一馬さんの『Dialogue』にはカルロス・アギーレが参加、『My Native Land』にはあなた自身が参加されましたね。近年、日本のミュージシャンと、ブラジルやアルゼンチンのミュージシャンの交流が良い形になっている状況を、どのような風に感じていますか?

A. その傾向はとても前向きなことだと考えています。私も密接な二人の関わり合いによる、デュオの演奏がとても好きです。実際に私もガブリエレ・ミラバッシやマリオ・ラジーニャともデュオ録音をしています。音楽というのは、深いレベルで言語的なコミュニケーションを可能にさせるものです。もしまとまった日数の滞在が可能になったら、ぜひ日本のミュージシャンたちと一枚の作品を制作してみたいですね。

Q. 日本のリスナーはいつもあなたの活動に注目しています。ちなみに僕はあなたがプロデュースを手掛けたエドゥアルド・タウフィッキとホベルト・タウフィッキ兄弟のアルバム『Bate Rebate』がとても気に入っています。

A. (bar buenos airesの国内盤のジャケットを眺めて)これはかわいいデザインですね。このアルバムが発売されたときに、彼らと一緒にライヴも行いました。二人は本当に素晴らしいプレーヤーです。

Q.今後、メマーリさんのソロ名義のアルバム制作の予定はありますか?

A. いくつかプロジェクトを抱えていますが、もうすぐエルネスト・ナザレ―のピアノ・ソロの作品を出す予定です。楽しみにしていてください。(編注:すでに発売されています)

Q.あなたが作る音楽にはイマジネーションをかき立てる魅力があると思います。たとえば晩年のアントニオ・カルロス・ジョビンのような、自然の風景を感じさせる魅力です。そのような豊かな音楽を生みだすイマジネーションがどこから湧いてくるのですか?

A. 私は頭や心で描いた音楽を、そのままリスナーに届けることを大切にしています。それはノイズやチリが混じっていない純度の高い音楽です。私も自然が豊かな場所で育ったので、私が作る音楽も自然と強い関係性を持っています。特に木々が大好きなので、実際に私のスタジオも森の中にあります。あと木に関してとても興味があるのでいま勉強しています。私の音楽を聴くと木々の香りを感じてもらえるかもしれません。ジョビンも海や浜辺が好きだったと思われがちですが、実はブラジルの湿地帯の森林が好きだったみたいですね。

Photo by Ryo Mitamura
Photo By Ryo Mitamura

Q.フランソワ・モランとのデュオ『Arapora』の制作する経緯を教えてください。

A. フランソワがソロ・アルバムの『Naissance』を制作するときに、私にレコーディングの話を持ち掛けてくれて、そこから彼との交流が始まりました。そのレコーディングの際に、彼と二人でインプロヴィゼーションの演奏をしました。その時は何も打ち合わせをしないで演奏したのですが、結果的に40分くらいの演奏になって、とても満足のいく内容でした。これが『Arapora』を制作するきっかけになりました。また今回インプロの他に、私のオリジナル曲も収録していますが、これは私が15歳くらいの時に作った曲です。ちなみにそのうちの「Corale」は、実はフランソワは一度も聴いていない状態で録音に挑みました。しかし結果的にいい録音になったので、後から私がベースを重ねて完成させました。

A.『Arapora』はどういう意味なのですか?

Q. 「アラポラン」は町の名前です。でも私が想像で作った町です。私が住んでいる町の名前が「マイリポラン」といいます。けれど「アラポラン」を作曲したときは違う町に住んでいたので、名前を似せようと思ったわけではなく、偶然なんです。

A. あなたは様々なミュージシャンとデュオの録音をしていますが、フランソワ・モランとは何か特別なものを感じましたか?

Q.私とフランソワは音楽への愛着の仕方が似ています。『Arapora』は、だからこそ完成した作品だと思います。あとドラマーとのデュオはめったにないので、レコーディングも楽しかったです。たまにお互いに楽器を取り換えて演奏したりしました。私がドラムを叩いて、フランソワがピアノを弾いたりして、もちろん録音はしなかったですけど、そうすることで理解を深め合うことができました。

  
  

A.キース・ジャレットの「Memories Of Tomorrow」カヴァーを選んだのはなぜですか?

Q. この曲は『ケルン・コンサート』という伝説のインプロヴィゼーション・アルバムに収められているので、今回インプロヴィゼーションをベースとした作品をつくるにあたり、この素晴らしい作品に敬意を払って「Memories Of Tomorrow」をカヴァーしました。

A.とても美しいカヴァーですね。ちなみにエグベルト・ジスモンチやミルトン・ナシメントなど、アルバムやステージでいろいろなカヴァー曲を演奏していますが、ご自身が演奏したい曲とはどのような曲ですか?

Q. まずはピアノのアレンジで演奏が可能かどうか、だからジスモンチの曲はもちろん可能です。あとミルトンのいくつかの曲に関してはピアノの宇宙の中で美しく響くものがあります。ただし、私は一度もカヴァーという言葉を使ったことがありません。あくまでも個人的な視点でその曲を見つめているので、いわばアレンジをしている感覚に近いかもしれません。そしてその曲の中核の部分は、失うことがないように心掛けています。

Q. では最後に『Arapora』の発売にあたり、リスナーへのメッセージをお願いします。

A. この『Arapora』はまず日本で先行して発売されます。これは私の日本のリスナーに対してのリスペクトです。そして可能であればフランソワとともに日本のステージでこの音楽を演奏したいです。

Photo by Ryo Mitamura
Photo by Ryo Mitamura

『Araporã(アラポラン)』
André Mehmari – François Morin(アンドレ・メマーリ / フランソワ・モラン)

2014年12月7日発売 2,300円(税別) RCIP-0216 レーベル:Inpartmaint

【Track List】

01. IMPROVISO Mehmorin 1 (André Mehmari / François Morin)
02. IMPROVISO Mehmorin 2 (André Mehmari / François Morin)
03. CORALE (André Mehmari)
04. IMPROVISO Mehmorin 3 (André Mehmari / François Morin)
05. IMPROVISO Mehmorin 4 (André Mehmari / François Morin)
06. IMPROVISO Mehmorin 5 (André Mehmari / François Morin)
07. ARAPORÃ (André Mehmari)
08. IMPROVISO Mehmorin 6 (André Mehmari / François Morin)
09. AMOR EM PAZ (Antonio Carlos Jobim)
10. IMPROVISO Mehmorin 7 (André Mehmari / François Morin)
11. LUAR SOBRE AS RUÍNAS DO VELHO CASTELO (Rentaro Taki)
12. IMPROVISO Mehmorin 8 (André Mehmari / François Morin)
13. MEMORIES OF TOMORROW (Keith Jarrett)