アルゼンチンから新しい風。
ギジェルモ・リソットの優しい音色。

(2012.05.18)

どの季節も傍にあるギターのメロディにゆかりを感じて。

1年前、初めてアルゼンチンを訪れた時、小さなレコードショップで『ソロ・ギターラ』と出会いました。ギジェルモ・リソットの瑞々しいギターの音色と丁寧に爪弾く姿、落ち着きと安らぎをもたらすあたたかい音の間や、作曲センスに惹かれ、日本に帰ってからというもの、アルゼンチン音楽の詳しい知識もないわたしにも感覚的に不思議とフィットしてお店や家で聴くたび想いが募っていきました。

晴れた爽快な薫風を感じる季節、また若葉や窓ガラスを静かにつたう雨降りの季節には、瑞々しいギターの一音一音が新鮮な気持ちにさせてくれました。眩しい太陽の光と蝉の音が響く季節には、丁寧で冷静な演奏スタイルが涼しげな風を届けてくれました。山々が彩りをおび夕焼けがなんとも美しい季節には、胸が切なくなるようなメロディに郷愁感を覚えました。柔らかなブランケットを膝に掛け温かな鍋を友人と囲む季節には、会話の途中ふと耳を奪われるような音色にみなが共通の感覚を抱いたものでした。

そんなふうに一年前から聴いていたアルゼンチン・ロサリオ録音の『ソロ・ギターラ』が日本盤としてリリースされることが決まった後で、ふだん何気なく感じていたことをあらためてきちんと聞くことになりました。その結果、彼との深い音楽のつながりを知ることとなったのです。

アルゼンチン伝統音楽のルーツと印象主義的ひらめきの魅力

12曲と1曲のボーナストラックを収めたアルバム『ソロ・ギターラ』は、自身の心の奥底や精神面とアルゼンチンの雄大な自然や平和とのつながりから作曲された作品と、自身がリスペクトし、影響を受けた音楽家や芸術家からインスパイアされ作曲した作品からなります。曲タイトルにある“rio”というのは故郷のロサリオに流れるパラナ河のことをさし、その美しさと流れをよく眺めては新たなひらめきや創造性を高めたそうです。

彼はアルゼンチンの伝統音楽について、「進化していくものであり、僕にとっては常に何かを生み出すもとになっています。異なるリズムの組み立てや関連し合った変化や、その瞬間ごとにすべてまとめ上げ演奏するのが好きです」と、アルゼンチン音楽家のアタウアルパ・ユパンキ、エドゥアルド・ファルー、フアン・ファルーが元々のルーツだと語ります。音の間や瞑想によって音楽がリスナーの精神に何かをもたらすことを大切にし、ブライアン・イーノやラヴィ・シャンカル、武満徹にも影響を受け、またビル・フリゼールのフォーク音楽へのアプローチや構成上のつながりにも興味を持っています。そんな彼の10年以上の作曲の中からの選び抜かれたのが本作になります。

繊細な美しい感性と束縛のない自然ななりゆきからの作曲をするのが天性のギジェルモ・リソットは#9の「Frida」でメキシコの女性画家フリーダ・カーロ(1907~1954)に捧げた作曲をしています。それは彼がメキシコでの国際ギターフェスティバルに招待された際、その会場が“CASA AZUL”というフリーダ・カーロの生まれ育った家だったため、彼女の壮絶な人生の重要な部分に焦点を置いた曲を書いたといいます。

その曲はフリーダがむごい現実をまるで浄化するかのように直視して描くシュルレアリスム的絵画のようで、ギジェルモ・リソットの「Frida」にはせつなさや虚無感、そして力強く美しい女性らしさが表現されています。この曲に用いたギターTAKAMINEへの彼の愛情は特別で丸みのある音で人間味を感じます。本作ではもう一種のギターを曲ごとに使い分け、サンタフェ州とエントレ・リオス州で有名なギターDIEGO CONTESTIによって、音の輪郭を描きその余韻が心に残ります。

ギジェルモ・リソットの人間性と音楽性に通じる心

そもそもアルゼンチン盤『ソロ・ギターラ』との出会いは、カルロス・アギーレをはじめとするアルゼンチンのモダン・フォルクローレ音楽への関心とアルゼンチン伝統料理の興味からブエノスアイレスへの旅で行った、パレルモのレコードショップでした。

全曲オリジナルのギターソロの奥深くてシンプルなその音色にとても惹かれたので、日本で多くの方に聴いていただきたいと思いました。ところが残念なことに2005年録音のこの作品は発売元のロサリオのレーベルでは廃盤となっていて、日本から取り寄せることができませんでした。そこで、もしかするとギジェルモ・リソット本人がいくらか持っているかもしれないと思い、すべてのいきさつを伝えメールをしてみました。

彼はとても喜んでくれましたが、すまなさそうに手元にも在庫がないことをつげて、現在は自身の音楽活動のためにバルセロナに移住し、ソロのギタリストとしてだけでなくデュオ、トリオとしての作曲、コンサート、またプロデューサーとしても取り組んでいることも教えてくれました。

「音楽も言葉も練習あるのみ!」と多くの音楽家仲間に恵まれ学ぶことを喜びとしています。そしてちょうど連絡を取った前日にアルゼンチンのモダン・フォルクローレ音楽家のアカ・セカ・トリオのバルセロナ公演でメンバーと会っていた話をしてくれて、偶然わたしもブエノスアイレスで彼らのライヴを観たことを伝え、ふたりでひとしきり盛り上がったのです。

美しいパラナ河が流れるロサリオ出身の彼は故郷の心象風景と伝統音楽フォルクローレを胸の奥に抱きながら、独自の音への探求の最中であるようです。彼への想いは近しいのだけど雲の上のような尊い気持ちでもあり、『ソロ・ギターラ』を聴いていると裸足の彼がそっとそばで弾いてくれているような、いつまでもあたたかい気持ちになるのです。

ソロ・ギターラ(Solo Guitarra)

ギジェル モ・リソット(Guillermo Rizzotto)

2012年5月16日発売 2,300円(税込み)
2005 年アルゼンチン/ロサリオ録音

※ボーナストラックは 2011 年バルセロナでのライヴ録音

【Track list】

01. Y se escucha el rio
02. Carnavalito
03. Pieza n 2
04. La Vida
05. Huayno solo
06. Trayendo algo nuevo al alma
07. Rio solo
08. Zamba sola
09. Frida
10. Permaneces en mí
11. Chaya sola
12. Tonada final
13. Naturaleza en tu vientre / Bonus track

【Guillermo Rizzotto Biography】

ギジェルモ・リソット

1980年生まれ、アルゼンチン・サンタフェ州ロサリオ出身、作曲家、編曲 家、プロデューサー、ギタリスト。12歳でギターを始め、16歳オリジナル曲でコンサートに参加。 1999年ロサリオ音楽学校卒業。現在はスペイン・バルセロナ在住。 カルロス・アギーレ主宰のレーベルShagrada Medraの作品『Eco de ausencia』(2003年)に ギター参加、リリアン・サバ、ホルヘ・ファンデルモーレ、フアンチョ・ペロネなどと共演。10年以上 の作曲を吟味した初のオリジナル・ソロ・アルバム『Solo guitarra』(06年)を発表。バルセロ ナへ移住後、自身のレーベル「Olga Records」を主宰し、歌手デビッド・デ・グレゴリオとの共 作『Brillo』(08年)、フルート奏者パブロ・ヒメネスとの共作『El paso del tiempo』(09年)を 発表。ベルギー、フランス、ルクセンブルク、アルゼンチンなど国をまたぎ、美術館でのフェスティバルや修道院、ギャラリーでの親密な演奏など幅広く活躍している。また、アルゼンチン出身ギ タリストの御大ファン・ファルーからも称賛され、共演も果たした実力派ギタリスト。