女性ピアニスト&作曲家・平井真美子さん、ソロピアノ新譜を発表。平井真美子『夢の途中』を聴いて
あなたはどんな情景を描きますか?

(2013.04.19)

風景の見える音楽

昨年の夏、ぼくが岡山でライヴイベントをはじめるきっかけをつくってくれた友人から「平井真美子のソロピアノ・コンサートを岡山でやりたいんだけど」という話をもらった。「平井真美子?」、彼女の音楽にまだ出合っていなかったぼくは、いささか戸惑った。

そして今年始め、彼女のソロピアノ2作目となる『夢の途中』の音源が届いた。果たしてそれはとても親しみ深いメロディに、熱情と現代感覚を内包した「しなやかさと力強さ」そして「風景の見える」素敵なソロピアノ・アルバムだった。

昨今ソロピアノ・アルバムは花盛り。ぼくが扱っているCDもピアノトリオより圧倒的にソロピアノが多い。でも不思議なことに女性のソロピアノ・アルバムは少ない。「しなやかさと力強さ」、一見相反するような両面を、これまでに出合ったぼくの好きな世界の女性ピアニスト&コンポーザーは持っている。そして風景の見える音楽は決まって長くつきあっていけるものだ。

6年前のまっさらな気持ちに

ピアノは小学校のころから習い始め、高校時代はミッシェル・ルグランや マイケル・ナイマンのつくりだす音に感動。それがいまの映画やTV、CMなど数々の映像への音楽提供へ少なからず影響を与えているのかもしれない。『白夜行』 をはじめとする映画音楽で彼女の音楽に出合った人もいるのではないかと思う。ぼくが彼女の仕事でいちばん耳にしているのがBS番組「にっぽん縦断 こころ旅」。火野正平さんが自転車で走るなにげない映像に寄り添うあの穏やかな音楽は、彼女の記憶の中の風景からインピレーションを得てつくられているという。

「心の中で、上を見て、下を見て、遠くを見て、近くを見て、景色を描いて物語をつくりながら作曲をします」。映像に添える曲づくりでないときも、音楽をつくるときはいつも心の中で映像を描くという。また視覚のみならず、「温度、湿度、匂い」にも注意を払っているという。なぜなら「音楽はそれらを表現してしまうから」。「こころ旅」の音楽から野山に咲く花々の香りや潮風を感じたのは気のせいではなかったのかもしれない。

そして6年ぶりに発表された平井真美子のセカンド・ ソロピアノ『夢の途中』。この作品は“いま”の自分を表現し、明日を見つめる道標のようなプライベートな作品であり、また「心の中のずっと深い場所で感じてほしいピアノアルバム」だという。

6年前、彼女が触れたあらゆることを「ピアノ日記」として書き綴り、仲間とともにつくった作品、ファースト・ソロピアノ・アルバム『Piano Diary』。その後は、映像作品への音楽提供に集中してきた彼女は、いつしかそうした状況でしか作曲できなくなり、内から沸いてくる表現したい物=「音」を見失っている自分に気づく。

そんな折、木彫作家・藤岡孝一氏と出会う。藤岡氏の作品はロマンティックで幻想的、親しみやすさとどこか憂いをもった素朴な木彫作品。自分らしい音づくりに煮詰まっていた彼女は、その作品と、偶然個展に居合わせた藤岡氏と話す機会を得て、心の深いところが動き出し、固まっていた感性の脈が流れはじめ、忘れていたものに気づかされたという。それは「身近なよろこび」だった。

そしてふと立ちどまり、『Piano Diary』のときと同じまっさらな気持ちで、“今”の自分を表現しようとソロアルバムづくり取りかかった。一つひとつ大切なもの「身近なよろこび」を詰め込んでつくりあげたのが『夢の途中』だ。

彼女の風景とあなたの風景を共有してほしい

同時に、これまで出会ってきた音のスペシャリストたちとともにつくりあげた作品でもある。調律、エンジニア、映画やCMなどの録音で一緒に音づくりをしてきたスペシャリストとともに「さらに先に見えてくる世界」を目指したという。彼女のためだけに調整してもらったスタンウェイ・ピアノを、初めてのホールに持ち込み、自分の音を見つける。ステージに置かれたピアノに向けられた12本のマイクで録った音を、曲ごとの世界にあわせて、繊細にミックス調整して仕上げる。彼らとの音づくりの緊張感が今回のアルバムに対する感度をさらに高めたという。音楽は出会いでもある。そうした人と人の繋がりによって、ピアノの響きがより何層も何層もドラマティックなものとなっていく。

そうして編まれた14の調べは、1曲ごとにさまざまな表情を見せてくれる。感じるままに心の向くままに、その時その時の自分に正直に、心がどんどん変化していく瞬間や、時には荒っぽく本能で生まれた曲たちを、もう1人の自分がその世界とじっくり向き合い、磨き上げて音を彼女は紡いだという。

この6月彼女は「Piano Diary Tour 2013 summer ~夢の途中~ 」と題してツアーを行う。温度や香りや湿度など五感をイメージして作曲しピアノで描く“彼女の風景”と、聴衆ひとりひとりが五感で感じとり思い描く“それぞれの風景”。それはまったく違うものかもしれないが、きっと共鳴する何かが生まれるはず。生の演奏を彼女と共有して、五感に訴える音楽をぜひ感じてみてほしい。

レコード屋の悪いくせ、誰にどのようにアピールすればいいのかと始めは考えてしまった。だがしばらくしてそれは杞憂だったことに気づかされる。カルロス・アギーレ・グルーポのファースト・アルバムがそうだったように、素晴らしい音楽の花は、手から手へ少しずつ自然にその種が蒔かれていくのだと。

夢の途中 / 平井真美子
2013年4月7日発売 ¥2,940 (税込み)
レーベル:ノーヴァスアクシス

all compositions & played, produced by Mamiko Hirai

【Track List】
01.プレリュード
02.ボクのところへおいで
03.回転木馬
04.あの木の下で
05.留守番ETTY
06.夢の途中
07.黒の夢
08.鏡
09.虹のキセキ
10.留守番ETTY、その後
11.雲
12.おばあちゃんのおまじない
13.shining girl
14.next door

平井真美子 Piano Diary Tour 2013 summer 〜夢の途中〜

6月13日(木)浜松 ハーミットドルフィン
http://www.orange.ne.jp/~okaba/hirai.html
開場18:30/開演19:30  前売 3,000円/当日 3,500円 (ドリンク別)
メール予約はHPから

6月15日(土)名古屋 5/R Hall & Gallery 音楽ホール
開場18:30 /開演19:00 前売/当日3,000円(自由席/当日券同額/未就学児入場不可)
予約&問:織音工房 orionkobo@gmail.com

6月16日(日)神戸 旧グッゲンハイム邸
神戸のカレーショップ『みみみ堂』が出店します。
開場13:30/開演14:30 前売/当日3,000円(自由席/当日同額) 
予約&問:旧グッゲンハイム邸 guggenheim2007@gmail.com

6月22日(土)東京 めぐろパーシモンホール 小ホール
レコーディングで使用したスタインウェイD-274, No.478190 “Newburg”でのスペシャルライヴ
開場17:30 / 開演 18:00   前売/当日 3,500円(指定席/未就学時入場不可)
予約:チケットぴあTel.0570.02.9999 [Pコード 197-010] 
ローソンチケットTel.0570.084.003 [Lコード 74605] 
イープラス  めぐろパーシモンホール

6月29日(土)岡山 日本福音ルーテル岡山教会
開場18:30 / 開演19:00 料金:前売2,500円 / 当日3,000円(自由席)
予約&問:moderado music  moderadomusic@gmail.com 

Total information:ノーヴァスアクシスticket@novusaxis.com Tel.03-6310-9553