Another Quiet Corner Vol. 22水玉模様のドレスはきっと…。
満月の夜に聴きたい音楽。

(2013.05.17)

5月は芦屋でプチbar buenos aires開催。

満月の夜に、芦屋『VERT』というお店で、「満月Pub」というなにやら面白そうなイベントが行なわれています。この間dacapoエリアナビ「大阪」でこのイベントに関する興味深いコラムが掲載されていました。

大阪で21回目を迎える「満月Pub」の”はなれ”さながらに毎満月の夜、芦屋で満月Pubを開催している『VERT』は、オーガニック・フードとワインを提供するお店とあって、BGMも食材にあわせたナチュラル&アコースティックな音楽。その選曲を担当しているのが、僕と一緒にbar buenos airesを主宰し、Quiet Cornerに毎回レビューを書いていただいている吉本宏さん。満月Pubでは、DJブースをつくって、イベントのテーマに合わせて選曲。4月は「朧月」をテーマに、セレクトをしたそうです。

以前から「関西に来たときはぜひ満月Pubで選曲してほしい」とお誘いを受けていたのですが、なかなか機会にめぐまれませんでした。が、ついに次回の「満月Pub芦屋」(5/25)に参加することになりました(移動プチbar buenos airesといったところでしょうか)。ということで、今回は“月夜に聴きたい”をテーマに、クワイエットな音楽をいくつか選びたいと思います。もちろん満月Pubでもこの中から選曲しますよ。


Photo by Fumie Kurosaka
芦屋『VERT』
夜の蝶とお月さま。

満月ということでまず思い浮かんだのはジョー・マンゴーの最新作『MURMURATION』です。彼女はスコットランドの女性SSWで、ヴァシュティ・バニヤンのサポート・メンバーとして知られています。ヴァシュティの来日ライブに行ったとき、ジョー・マンゴーはピアノやカリンバ、グロッケンシュピールなど多彩な楽器を演奏していたことが印象に残っています。この『MURMURATION』でも、さまざまな楽器を使いながら、トラッド・フォークをベースに素朴でナチュラルな音楽を聴かせてくれます。全編に渡って漂う幻想的な雰囲気も魅力的です。まるで古い物語の世界に迷いこんだような感覚になります。それを象徴するジャケットに描かれた円形の蛾の群れは、じつは月をイメージしているそうです(!) アルバムにはそのことを歌った「The Moth And The Moon」という曲も収録されていますので、ぜひ国内盤に封入された訳詞を読みながら聴いてみてください。(ちなみに僭越ながら、僕はライナーノーツを書かせていただきました)


ジョー・マンゴーの最新作『MURMURATION』

どのMoon Riverがお気に入りかというと…。

さて月をテーマにした曲といえば、やはり一番有名なのは「Moon River」ではないでしょうか? そう、ヘンリー・マンシーニが作曲をして、ジョニー・マーサーが歌詞を書いた名曲です。数多くのアーティストが取り上げていることでも有名で、ジャズ、クラシック、ポップス、カントリー、ボサノヴァなどジャンルも様々です。僕もこの曲が入っている作品を見つけると思わず手にしてしまうほど大好きです。

その中でも最近よく聴いているのが、カナダの女性ジャズ・ヴォーカリスト、メリッサ・スティリアヌゥの『Silent Movie』です。そのタイトルとおり、しっとり落ち着いた印象の作品で、「Moon River」は最後に収録されています。歌とピアノだけによるアレンジメントで、メロディの美しさが際立つシンプルなカヴァーです。曲が終わると、オルゴールがメロディを奏でるというさりげない演出も素敵です。この作品にはほかにもジェイムス・テイラー、ポール・サイモン、ジョニー・キャッシュ、さらにヴァネッサ・ダ・マタ、ジョアンナ・ニューサムなどバラエティに富んだ曲を取り上げているので要注目です。


メリッサ・スティリアヌゥ『Silent Movie』

5月25日の夜、ステキな出来事は起こるでしょうか。

フォーク~ヴォーカルと続きましたので、最後はピアノの作品を紹介しましょう。この世には数えきれないほどの月にまつわる曲が残されています。その中でも「Moon River」と同じくらい好きな曲が「Polka Dots and Moonbeams」です。「水玉模様と月の光」という、なんとも素敵なタイトルで、ビル・エヴァンスの名作『Moon Beams』に収録されていることで知られています。

元々は1940年にジミー・ヴァン・ハウセンとジョニー・バークが書いた曲で、フランク・シナトラがオリジナルとされています。ダンスパーティで偶然出会った女の子に一目ぼれして、彼女が着ていた水玉模様のドレスが月の光に照らされて輝いていた…というロマンティックな歌詞。そして何よりうっとりするくらい美しいメロディ。僕はこういった曲を聴くたびにスタンダードがスタンダードであるわけを強く感じます。エヴァンスのヴァージョンはもちろん最高ですが、その遺伝子を受け継ぐように敬愛をこめて奏でるのは、ピアニストのアーノルド・クロスです。この曲は澤野工房から発売されている『Appreciations』という作品に収録されています。ほどよく抑制をきかせたピアノ・タッチは、まるで夜空に輝く星屑のようです。きらきらと流れだすメロディとともにふと水玉模様のドレスを着た女の子が現れそうな…。5月の満月Pub芦屋は、ロマンティックな夜になりそうな予感がしています。


ビル・エヴァンス『Moon Beams』
アーノルド・クロス / 『Appreciations』
アーノルド・クロス / 『Appreciations』(店頭在庫のみ)

満月Pub芦屋
日程:2013年5月25日(土)17:00〜22:00
会場:VERT(芦屋市大桝町5-8-101)