ディモンシュ20周年、好みは移り変わっても、変わらないことは。

(2014.06.23)
著書『鎌倉のカフェで君を笑顔にするのが僕の仕事』について。

ぼくが鎌倉でカフェを始めたのは、20年前の1994年4月26日。当時は、ちょうどドゥ・マゴやフロールといったフレンチスタイルのオープンカフェが話題になっていた一方で、純喫茶がどんどん街から姿を消していった時代でした。スターバックスが日本にやってくる前で、数年後にカフェブームが来るなんて思ってもみませんでした。そんな時代に何でカフェだったのかというと、20代の前半で、見たり、聞いたり、食べたりして、吸収したものを、自分なりに表現したかったからで、その表現の場として選んだのが、パリで体験したようなカフェでした。店側の効率や経営を重視するあまりに、お客さんにとって心地良い店が少ないと感じたので、自分だったらメニューやBGMにもこだわった店作りができると強く信じていたのです。今から考えてみれば、社会や飲食経験の未熟な26歳の青年が、失敗を恐れずよく決心したものだと思います。個人でカフェを開業するのは大変なことで、家族や親戚の援助なしでは、スタートすることはできなかったでしょう。フランソワ・トリュフォー監督の映画『日曜日が待ち遠しい!』の原題ヴィヴモン・ディモンシュを店名に決めてオープン日を迎えました。

あれから20年。独立を決めてから、現在に至るまで、たくさんの方々にお世話になり、今日も同じカウンターに立っています。素人同然で始めた仕事ですが、ぼくにとってカフェのマスターというのは天職です。お店をやっていくうえで数えきれないほどの嬉しいことがありました。一方で、予想もできないハプニングもたくさん経験してきました。それらの事柄は、この春にミルブックスから発売された『鎌倉のカフェで君を笑顔にするのが僕の仕事』に記してあります。店をここまで継続できた大きな原動力はお客さんの笑顔です。それは、これからも変わらないことでしょう。

  • 1994年、オープン当初の店内
  • 1994年、オープン当初の外観
  • 『鎌倉のカフェで君を笑顔にするのが僕の仕事』
好きなことが移り変わることを楽しむ20年。

先日、渋谷のBar Bossaの林伸二さんとトークショーを行ったときに、林さんから「堀内さんは変わっていく」と指摘され、自分のことながら「嗚呼なるほど」と納得してしまいました。確かに、この20年間にぼくの興味は変わっていきました。店名からもわかるようにフランスが大好きで始めたディモンシュ。オープン当時のBGMはフランス映画のサウンドトラックだったのですが、ボサノヴァと出会ってから、一気にブラジル音楽へ舵をきりました。ブラジル音楽の中でも、ボサノヴァから始まりMPBへ移っていき、定休日には中古レコードを買い集めるのが楽しみでした。そして2002年のブラジル旅行を機にポップスやアシェーといった現地で流行っている音楽にも興味を持ちはじめ、リオやバイーアのカーニヴァルにも参加するほど熱をあげていました。併行してブラジルのソウルミュージックに注目してイベントを毎月開催していたこともありました。

ここ数年はサンパウロのダニ・グルジェルに夢中です。ダニはミュージシャンでありながらカメラマン、デザイナーと、いくつもの才能を持つクリエイター。ぼくがダニに惹かれているのは、彼女の創り出すクリエイティブな部分が、ぼくが知っているブラジルのミュージシャンの中で、自分の感性に一番しっくりきたからです。デビュー・アルバムからファンだったぼくは、2012年で遂にシアトルで彼女のライブを体験しました。そして翌13年にダニの新たなユニットであるダニ&デボラ・グルジェル・クアルテートで初来日。ブラジル音楽をジャズのハーモニーと即興で演奏するスタイルは、終演後のお客さんを感動と笑顔に包んでいました。

  • 2013年、ダニ&デボラ・グルジェル・クアルテートin bar buenos aires (SARAVAH東京にて) Photo by cherrychillwill width=
    2013年、ダニ&デボラ・グルジェル・クアルテートin bar buenos aires (SARAVAH東京にて) Photo by cherrychillwill
  • 2013年、ダニ&デボラ・グルジェル・クアルテートin bar buenos aires (SARAVAH東京にて) Photo by cherrychillwill width=
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  • 2013年、ダニ&デボラ・グルジェル・クアルテートin bar buenos aires (SARAVAH東京にて) Photo by cherrychillwill width=
    2013年、ダニ&デボラ・グルジェル・クアルテートin bar buenos aires (SARAVAH東京にて) Photo by cherrychillwill
  • 2013年、ダニ&デボラ・グルジェル・クアルテートin bar buenos aires (SARAVAH東京にて) Photo by cherrychillwill width=
    2013年、ダニ&デボラ・グルジェル・クアルテートin bar buenos aires (SARAVAH東京にて) Photo by cherrychillwill
  • 2013年、ダニ&デボラ・グルジェル・クアルテートin bar buenos aires (SARAVAH東京にて) Photo by cherrychillwill width=
    2013年、ダニ&デボラ・グルジェル・クアルテートin bar buenos aires (SARAVAH東京にて) Photo by cherrychillwill
  • 2013年、ダニ&デボラ・グルジェル・クアルテートin bar buenos aires (SARAVAH東京にて) Photo by cherrychillwill width=
    2013年、ダニ&デボラ・グルジェル・クアルテートin bar buenos aires (SARAVAH東京にて) Photo by cherrychillwill
ダニの選ぶ「新しい作曲家」たち『コーヒー&ノヴォス・コンポジトーレス』。

ダニのもうひとつの魅力は紹介者という側面。09年のセカンド・アルバムはダニ・グルジェル&ノヴォス・コンポジトーレス名義でリリースしています。ノヴォス・コンポジトーレスとは「新しい作曲家たち」という意味。デビューして間もない同世代の才能溢れるミュージシャンたちと作り上げたアルバムでした。ダニというファインダーを通して紹介されたアーティストたちは、現在のサンパウロのMPBシーンで活躍しています。その集合体は新しいムーヴメントのようでした。

「あれから5年後のダニは、どういったアーティストを紹介してくれるだろう?」コンピレーション・アルバム『コーヒー&ノヴォス・コンポジトーレス』の企画はそういう考えから始まりました。カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ20周年記念アルバムというタイトルは付いていますが、ダニが選曲するCDを聴きたかったというのが本音です。CDの選曲は初めてというダニがセレクトしたのは、サンパウロだけではなくブラジル全土のノヴォス・コンポジトーレスの楽曲でした。ほとんど国内盤として初めてCD化された音源で、流通の問題で日本へ輸入されていなかった作品からも選ばれていました。それだけではなく、ダニの録り下ろしの新曲が3曲含まれています。8月末にリリースされる新作『Luz~光』から日本へのトリビュートソング「太陽のあるところ(テーハ・ド・ソル)」はダニ&デボラ・グルジェル・クアルテートとして。あと2曲は09年以来のダニ・グルジェル&ノヴォス・コンポジトーレス名義で、若手アーティストを迎えて録音しました。ジャケットの写真もダニによるものです。

『Coffee & Novos Compositores』selected by Dani Gurgel
『Coffee & Novos Compositores』selected by Dani Gurgel
20周年を記念するコンピレーション
『鎌倉のカフェから〜café vivement dinache 20th anniversary』を制作中。

『鎌倉のカフェから〜café vivement dinache 20th anniversary』は、昨年秋にブラジルに行ったときの音楽体験を元に選曲をしました。約2週間の滞在期間でバイーアのコーヒー農園の見学と買い付け、サンパウロのカフェ巡り、夜はライブと、フルに5年振りのブラジルを体感してきました。ライブではノヴォス・コンポジトーレスとサンパウロのジャズを浴びるように聴くのが目的だったので、9本のライブで目的を達成することができました。このアルバムに収録しているダニをはじめジアナ・ヴィスカルヂ、チアゴ・ヴァルゼー、ヴァネッサ・モレノ&フィ・マロースティカは実際にライブを観てきたアーティストです。ほかにもライブ会場で出会ったト・ブランヂレオーニやブルーノ・ピアッツァ、ヴァギネル・バルボーザの曲もセレクトしています。サラ・セルパはポルトガル出身のジャズシンガーで、NYで活躍していますが、彼女のことを教えてくれたのはダニでした。ブラジル滞在期間中に、3日間ダニの自宅に宿泊させてもらい、ダニと旦那さんでドラマーのチアゴ・ハベーロと長時間に渡り音楽の話しをした時に話題になったのがサラ・セルパだったのです。その時にダニに聴かせてもらったのが「プライア」という美しく静かなスキャットの曲でした。二人ともブラジル音楽はもちろんですが、欧米の現代のジャズシーンもチェックしていたのが印象深かったです。

このコンピレーションの選曲は、20年前の自分だったら想像もつかなかったことでしょう。聴いている音楽が違っていたとしても、自分が感じたことを表現したいということには変わりはありません。

  • 『鎌倉のカフェから』2014年08月27日(水)発売予定

V.A.『鎌倉のカフェから – café vivement dimanche 20th Anniversary -』
発売予定日:2014年08月27日(水) RBCP-2787 JAN:4545933127876 発売元:Rambling RECORDS

【Track List】

1. Mãe E Só / Pedro Altério E Bruno Piazza
2. Pererê / Wagner Barbosa
3. Prata De Pirata / Giana Viscardi
4. Bem Viver / Thiago Varzé
5. Her Song / Tó Brandileone
6. Flor do Medo / Bruna Caram
7. Uma Ligeira Impressão / Vinicius Cardeloni
8. Praia : Beach / Sara Serpa
9. Brincando com Theo / Amilton Godoy & Léa Freire
10. The Rain Stays Mainly In Jamaica Plain / Sara Serpa, Matthew Sheens & Jihye Kim
11. Relatividade / Vanessa Moreno & FI Maróstica
12. Aos Mestres Baixistas Do Samba-Jazz / Sidiel Vieira Quinteto
13. Tergiversar / Dani Gurgel
14. Viola Enluarada / F To G
15. Carrossel / Leo Versolato
16. Menino do Interior / Bruno Mangueira

café vivement dimanche
神奈川県鎌倉市小町2-1-5 Tel.0467-23-9952
営業時間:8:00~19:00 木曜、第2・4水曜定休