摘んで束ねて、活けて愛でて。淡くも気高いパープルを基調に、散華に至るまでの「花」の豊かな表情。ひとりの女性を中心に展開する「映像」は、その場にある光と真摯に向き合いながら多彩な手法で撮影され、停止したどの場面も丹念に描かれた一枚の絵のよう。ピアノの音色は有機的なロケーションで、無機質な場面では音響的で不穏なアプローチ⋯と、映像を彩る「音楽」のコントラストが、モデルの心象の輪郭をくっきりと捉える。

2015年の晩秋のリリース以来、南青山『ル・アンジェ教会』を皮切りに、主要都市の教会や書店の巡回を続ける『For』。フラワーアーティストの篠崎恵美、フォトグラファーの新田君彦、作曲家・音楽プロデューサーの小瀬村晶による、映像・音楽・写真集からなる本作は、散漫なコラボレーションものとは一線を画す、濃密な20分の感覚の旅である。

CharaやACOのPVや、ブランドのルックブックなど、花を自在に操るアーティストとして充実の時を過ごす篠崎。そして国内外で若き音楽プロデューサーとして名が響く小瀬村。旧知の間柄だったふたりが、普段の“クライアントありきの仕事”とは別の仕方で、作品製作を模索したのが始まり。そこに、篠崎が営む『edenworks』での仕事を通じて認め合っていたフォトグラファーの新田が加わり、アウトプットは映像と決まった。

9つのシークエンスから成る本編は、光があふれ返る草原から無機質な直線の世界まで、シチュエーションをダイナミックに変えながら展開する。無表情でドーリーな主人公が、花を媒介として少しずつ感情を発露させていく“のびやかな姿”が、シーンとともに浮かび上がってくる。

「見る人の状況や感情によって捉え方が変わる作品。あえて解説は入れなかった」との言葉通り、説明はわずかに帯に書かれたひとつめの「Purple」から最後の「Then」まで9つのタイトルと、小瀬村による短い散文のみ。感想を深める補助線としては最適な余白の残し方で、見るたびに自分の気持ちの現在地を素直に確認させてくれるかのようだ。

「この作品と全国を回りながら、懐かしい再会や新しい出会いを多くもらえた。人を繋げる媒体として、作品が育っているのが嬉しい」。そう笑顔で話す３人の旅はまだまだ続く。