梵(ぼん)な道具を聴いてみる。 第十一回立春:雨後に射しこむ柔らかな光線。
小春の木陰に神の使いが舞い降りる。

(2013.02.04)

「梵(ぼん)な道具を聴いてみる」第十一回は、朝鮮の鳥にまつわる古物をご紹介。鳥は古より韓紙や白磁の陶肌に数多く描かれる人気のモティーフであり、農村では幸運を願い鳥に似た木片を長い棒に差し玄関に立てたりする。人が祈りを羽ばたかせる時、鳥が報らせてくれることとは。

朝鮮絵画の中の鳥。

朝鮮のみならず、古より鳥は東アジア全般で人気のモティーフである。鳥が象徴する事柄について全容を網羅することは本紙面では不可能なので、朝鮮半島の文物に絞って検証したい。

古くは高句麗の障壁画、墳墓の壁画などにも鳥は登場しているが朝鮮独自の発展を見るには、朝鮮時代まで時計の針を進めねばならない。北宗時代の山水画家、李成(りせい)と郭煕(かくき)により創始され、その後脈々と朝鮮の山水画家にも描かれた『瀟々八景図』の中の「平沙落雁」に早くも鳥が羽ばたく姿を確認できるが、これは風景画の一部であり鳥を願いの対象としていない。しかし朝鮮時代中期(1550年頃〜)になると朝鮮ならではの画風を持った花鳥画が描かれ始め、朝鮮時代後期(1700年頃〜)には民衆画家により描かれた所謂「民画」も登場、十長生(じっちょうせい=中国の神仙思想。日、水、松、鶴、亀、鹿、不老草の7つに山、雲、月、石、竹のどれか3つを加えた10個の不老長生の象徴物のことを表す「長生」を元に、アミニズム(自然崇拝)を内包しながら朝鮮独自に再構成・発展した吉兆の象徴)を組み合わせた十長生図や儒教の徳目を図形化した文字絵へと結実してゆく。
 

描かれた鳥が象徴するもの。

朝鮮絵画にはキササギや鶴、鳳凰、鷹が多く描かれてきた。中でもキササギは、邪気を祓いあらゆる霊力の象徴とされる虎とペアで登場することが多く、松の木枝にとまり虎に吉報を知らせる使途として描かれ、鷹は三災(水災/火災/官災)を啄(ついば)んでくれる守護的存在として護符などに描かれてきた。つまり鳥は幸運を運んできてくれるかけがえのない存在、また祈りを天に運んでくれる使途として民衆に愛されてきた。例外こそあるが、時代が進むにつれ吉兆や学門の達成、その他あらゆる成就を願う「世のため人のため」絵画へと変化するさまは、儒教精神が開いた豊かな朝鮮文化の証ともいえよう。また絵画とは違うが、韓国の田舎の風景に接する時に民家の前に立てかけられた鳥のような形をした木を目にすることがある。これは「ソッテ」というもので、鳥の形をした木片を探し求め長い棒で玄関に立てかけておくことで幸運を運んできてくれるという。民家によっては2羽3羽と中空に羽ばたいており、とても心和む風景である。

古物の中の鳥。

写真の古物は全て韓国のものだ。鉄のスタンドで立てている木の鳥は上記の「ソッテ」。風雨で荒れた木肌が灰色に変色し、なかなか味わいのあるオブジェに仕上がっている。また、詩を連ねた古書籍の隙間にこんなにも楽しい鳥が舞っているのは、まさしく道具屋冥利に尽きるものだ。結婚式で使用する絹製の刺繍飾りの中には十長生のキャラクタとして鶴が登場、可愛い色使いと相俟って人気のある古物である。

白磁の肌に呉須や鉄で描かれた鳥もお見せしたかったが、いみじくも私の手許には早々に舞い込んではくれない。想いが羽ばたく刹那、初春の柔らかな光が降ってくることを願って(写真の巣箱も韓国のもの。白磁に描かれた鳥が早く舞い込むよう座右に置いているものです)。

立春に聴きたい音楽

『鳥の歌〜ホワイトハウス・コンサート』 パブロ・カザルス

「これから短いカタルーニャの民謡「鳥の歌」を弾きます。私の故郷のカタルーニャでは、鳥たちは平和(ピース)、平和(ピース)、平和(ピース)!と鳴きながら飛んでいるのです。」と語ったあとチェロの歴史的名手は、そっとボウを動かし始めた。

時は1971年10月24日、今や伝説的となった「国連デー」でのパフォーマンス。上記の名台詞を含んだ音源はCD化されていないが、国連デーに遡ること10年前、パブロ・カザルスがピアノのミエチスラフ・ホルショフスキ、 ヴァイオリンのアレクサンダー・シュナイダーを従えてホワイト・ハウスで演奏した実況録音盤は魂が揺すぶられる名盤だ。音質は決して褒めることはできないが、ここで演奏される「鳥のうた」は一種瞑想しているような、国連デーとはまた違った「特別な何か」を感じさせる(コンサートの2年後に暗殺されてしまうケネディ大統領へのレクレイムと聴けなくもない)。

政情不安の時代に生きたカザルスが「鳥の歌」に託した想いとは、一体どのようなものだったのだろう。

レーベル:ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル

Bon Antiques展示会情報

2月17日(日)大江戸骨董市に出店。
時間:9:00〜16:00(雨天の場合は中止)
場所:東京国際フォーラム前広場