アンドレ・メマーリと
彼の魔法の杖のこと。

(2011.05.13)


 

この4月に来日公演を大盛況で終えたばかりのブラジルのピアニスト、アンドレ・メマーリ。数々の素晴らしいアルバムのリリースや、今はなきHMV渋谷店にあった好コーナー『素晴らしきメランコリーの世界』をきっかけにじわじわと、しかし確実に浸透していった「静かなるムーヴメント」の影響などもあり、ここ最近注目度が急上昇したピアニストと言っていいだろう。僕が初めて彼の音楽を耳にしたのはそう古いことではないが、繊細さとダイナミックさが同居し、豊かな表現力で聴く者を魅了する彼のピアノの音色は、まさに「魅了」という言葉がぴったりの、心をぐっと引きつけ、夢中にさせられるものだった。

幼少の頃から宿す、ミナスとの繋がり。

そんなアンドレ・メマーリの楽曲からは、ミナス・ミュージックからの影響や、クラシックへの敬意を感じずにはいられない。

「ミナスの音楽は、ブラジル音楽のハーモニーやメロディ、現代性に欠かせないものですね。私は幼少の頃からとても強い繋がりを感じており、時間が経つにつれて、その思いも強くなるばかりです。ミナス・ミュージックは、ブラジル音楽に深く根ざし、崇められているのです。クラシックからは、美しい音の追求や構造のバランス、表現の幅と対位法などを会得してきました。ブラジルの人たちはミックスするのが好きなんです。それはあらゆるシーンで明確なことでしょう。その壁を超えた代表格としては、ヴィラ=ロボス。彼はクラシックとポピュラー音楽の双方における大きな遺産でしょうね」。

音楽は常に私の声

アンドレ・メマーリは、11歳の時には既に音楽家になる決意をしていたという。

「音楽は常に私の声なのです。感情や世界観を他と分かち合うためのコミュニケーションツールとして、これ以上いいものは見つかりません。作曲には、気候や自然、香り、記憶、愛や人との繋がり、ピアノの名器、名画、そしてときには醜悪さえもが糧となります。ピアノは私のアイデアを表現するすばらしいツールなのです。ときにオーケストラや室内楽グループを率いることもありますが、ピアノが最も私のアイデアを迅速かつ簡単に具体化してくれます。魔法の杖みたいにですね。ピアノは私の目と耳の内側を映していて、とっても深く繋がっていますよ」。

あらゆる点において期待以上、忘れられない経験をしたと語る今回の日本公演。見逃した方も、間近に見ることが出来た方も、そんな彼の素晴らしい「声」が収められた数々の名作CDに、ゆっくりと耳を傾けてみてはいかがだろうか?

 

Afetuoso

André Mehmari(アンドレ・メマーリ)
2,415円(税込み)/Céleste