チリー・ゴンザレス（以下ゴンザレス）——ジェーン・バーキンが、いち早くその才能に目をつけ、自身のアルバム『ランデ・ヴー』のプロデューサーに抜擢し、彼の才能は高く評価された。2004年に発表されたピアノ作品集『ソロ・ピアノ』は、エリック・サティやキース・ジャレットを彷彿させる、深く美しい静けさに引き込むポスト・モダン・クラシックの名盤とされ、その評価を決定的なものにする。ピアニストとしてはもちろん、プロデューサー、ソングライターとしてビョーク、ダフト・パンク、ドレイク、ジェイミー・リデル、ボーイズ・ノイズなど錚々たる、そして幅広いアーティストたちが彼の才能に惚れ込み、いくつもの驚くべきプロデュースやコラボレーションを実現してきた。

その後、彼はグラミー賞にノミネートされたファイストの『レット・イット・ダイ』や iPod nano のCM に使用された同アーティストの楽曲 「1,2,3,4」をプロデュース。Apple社の故スティーヴ・ジョブスもお気に入りだったようで、自身のアルバム『アイヴォリー・タワー』から 「Never Stop」 が iPad のCM に使用され、その人気は不動のものとなった。自身のソロ作品ではヒップホップからエレクトロ、ロック・オペラを制作したかと思えば、ステージではギネス記録（27 時間連続ライブ演奏記録）を塗り替え、2011 年にはオーケストラにラップを組み合わせた『The Unspeakable Chilly Gonzales』をリリース。オーケストラをバックにラップまで披露している。

そして、この唯一無二の音楽家であり、間違いなく現代の音楽シーンを代表する最高級のエンターテイナーであるゴンザレスは、再び自らの音楽の原点であるピアノと向き合い、大ヒットとなった『ソロ・ピアノ』の発表から８年、待望の続編となる『ソロ・ピアノⅡ』を完成させた。

2011 年12 月、ゴンザレスは自身のピアノをパリのスタジオに移し、一人スタジオに籠る。そして代表作にしてポスト・クラシカル・モダンの名盤『ソロ・ピアノ』のリリース以降、8 年間に渡って書き貯めてきた100 曲以上に及ぶメロディの中から厳選した楽曲のレコーディングを開始した。

アルバム・タイトルが示す通り、“ピアノのみ” という最もピュアで、最も繊細なレコーディング作業は延々と続けられ、ゴンザレスは楽曲の持つエッセンスが十二分に録音できるまで、幾度となく演奏を繰り返した。

そして完成したアルバムからは、実際の自分像を越える音楽家／エンターテイナーとして、他のすべてのアーティストに挑戦するようかのように、絶えず卓越さを追求し続けるゴンザレスの姿がみてとれるだろう。確かな演奏能力に裏打ちされ、クラシックの構築美とジャズの躍動感を自在に行き来するその類稀な感性を極限にまで研ぎ澄ませたゴンザレス。今作は、前作同様、心地良い浮遊感に浸る柔らかさと美しさ、そして癒しを纏い、そしてより軽やかに、より深く聴き手の胸へと染み入るメロディを収録。この『ソロ・ピアノⅡ』には、まさにゴンザレスしか奏でることができない14篇の珠玉のピアノ旋律の結晶が収められている。

どこか遠い記憶のなかで聴いたことがあるような…、一度聴いたら忘れられない、その静寂に潜む圧倒的なまでに普遍的な美が、眠りに耽る聴き手の耳をそっと起こしていくだろう。チリー・ゴンザレスは再び、その有無を言わさぬその才能を今作で証明し、また世界中のリスナーを魅了するだろう。