6月8日billboard classics World Premium Robert Glasper Experiment ×Tomomi Nishimoto Symphonic Concertロバート・グラスパーがオーケストラとの共演で切り開くジャズの未来。

(2015.05.18)

1_top写

 
世界のポップ・シーンの中心にいるジャズ・ミュージシャン

ジャズはいまや世界のポップ・ミュージックの中心地だ。ジャズと言えば、良質で通を唸らせる高い音楽性というイメージの反面、馴染みの薄いリスナーには敷居が高くどこか埃っぽくも感じられる音楽、という時代も今は昔。21世紀のジャズは、ヒップでセンスがよく、ポップですらある。でも、最高にイノベイティブで、新しい時代を切り開いてもいる音楽。そして、いま、そのジャズの世界の中心にいるミュージシャンこそが本稿の主役であるジャズ・ピアニスト、ロバート・グラスパーなのだ。

試しにグラスパーと彼のバンド“ロバート・グラスパー・エクスペリメント”のメンバーが関わった近年の作品を挙げてみよう。そこには21世紀にポップ・シーンにおける重要作が顔を揃える。ケンドリック・ラマー『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』(2015年)とディアンジェロ『ブラックメシア』(2014年)という、近年の2大ブラック・ミュージック金字塔には、それぞれグラスパーと、エクスペリメントの元ドラマーのクリス・デイブが参加。そのデイブは21世紀最大のヒット作であるアデルの『21』(2011年)にも参加している。一方、グラスパーはナイジェリアの音楽家、シェウン・クティの『Long Way to the Beginning』(2014年)をプロデュース。あるいは、LAの気鋭プロデューサー、テイラー・マクファーリンの『Early Riser』(2014年)でもゲストに招かれている。

ここ日本でも、新作『Obscure Ride』が話題のceroや、ストリート・ヒップホップ・バンド、SANABAGUNなど彼らの影響を昇華した音楽にトライする若手があとを絶たない。ジャズ・ミュージシャンの作った音楽やその演奏がジャズの世界の外でもこれほどまでに大きな影響力を発揮することは、ここ数十年でもかなり稀なことだろう。

  • 2_j写真

  • 3_a写
  • >

自分に率直でいることがもたらした『ブラック・レディオ』の成功。

そんなグラスパーの評価を決定的にした作品は2012年の『ブラック・レディオ』だ。全編がエクスペリメントの演奏による同作は若い頃からヒップホップに親しみ、シーンに深く関わってもいたグラスパーの世代感が結実した作品として、第55回グラミー賞で最優秀R&Bアルバム賞に輝くなど高評価を得た。同作は「黒いラジオ」というタイトル通り、新時代のジャズを告げるものとして、同時代のジャズ・シーンに脚光を集めるきっかけともなった。

1978年アメリカ・ヒューストン生まれ。多くの優れた音楽家同様、グラスパーもまた音楽家の血筋で、プロのジャズ/ブルース歌手と教会の音楽監督として活動していた母親から大きな影響を受けた。幼い頃からゴスペルなどを演奏して育った彼は、ミュージシャンになるべくNYの大学に進学。学生時代はケニー・ギャレットらジャズ・ミュージシャンと演奏を重ねる一方、同級生のR&Bシンガー、ビラルとの交友を通してヒップホップ・シーンとも関わるようになる。コモン、モス・デフ、エリカ・バドゥ、ATCQのアリやQ-ティップ、そして、J・ディラ。彼らとの交友や演奏を通して、その影響を率直に吸収しグラスパーは成長していった。

2003年にはスペインのジャズ・レーベルよりデビュー作『Mood』をリリース。その後、名門<ブルー・ノート>と契約。2005年には2ndアルバム『Canvas』、2007年には3rdアルバム『In My Element』をそれぞれリリースした。ベースにヴィンセント・アーチャー、ドラムにダミアン・リードを加えたトリオの布陣も固まり、ジャズ・シーンの中で順調にその才能を開花させていった。

そんなグラスパーがエクスペリメントを結成したきっかけはやはりヒップホップ。ケーシー・ベンジャミン(キーボード、ボーカル)、デリック・ホッジ(ベース)、そして前述のクリス・デイブという、初代メンバーが集まったのは2007年のモス・デフのセッションの際。同編成に手応えを感じたグラスパーはバンドを継続、2009年にはアコースティックな“トリオ”と、エレクトリックな“エクスペリメント”の演奏を半分ずつ収めた4thアルバム『Double-Booked』をリリースした。『ブラック・レディオ』でのブレイクはその延長線上に待っていたのだ。

 
クロスオーバーが開くジャズの未来、クラシックオーケストラとの共演

グラスパーがエクスペリメント、そして『ブラック・レディオ』で実現しようとしたこと。それは音楽面で妥協することなく、しかし、ジャズ畑を超えて広くリスナーの耳を集めることだった。「ジャズ・ファンには“今”が存在しないんだ。本当はもっと盛り上がるはずなのに、そうなっていない。大学の音楽科にいるような若者たちだとしても、たいていは僕らがやっていることを知りはしない。だからとにかく聴いてもらうために、できることをやってみたんだ。とは言っても、一部の人が“売りに走った”と言うようなことじゃなく、自分で楽しめることをね。」とグラスパーは語っている。

そもそもジャズの歴史には同じようにクロスオーバーを図った先達がいたことも忘れてはいない。「ロイ・エアーズ、ハービー・ハンコック、ドナルド・バード、グローバー・ワシントンといったジャズのバックグラウンドから出て来た人たちは、メインストリームにクロスオーバーすることに成功したんだけど、セルアウトしないで音楽性を保っている。」グラスパーの音楽はまさにそうした先達が世に放った音楽(多くは“フュージョン”と呼ばれた)の最新形でもあるのだ。

そんなグラスパーは来日ツアーを6月に予定しており、日本を代表するクラシック指揮者の西本智実率いるイルミナートフィルハーモニーオーケストラとの共演が決定している。クラシックとジャズ。2014年には、ポップ・ミュージシャンとのコラボを得意とするメトロポール・オーケストラと共演を果たしているグラスパーとは言え、意外な組み合わせにも思える。

しかし、振り振り返れば、他ジャンルとのクロスオーバーを恐れずに追求し、それによって“ジャズ”を多くのリスナーに開く意志こそ、グラスパーの音楽を形作してきたものだ。そのトライを楽しむ度量という点で彼ほどの適任もいないだろう。公演ではグラスパーにとって世界初演となるモーツァルトのピアノ曲の演奏も予定されており、一層興味が深まる。あるいは、この公演が彼の次作以降にどう繋がるのか。もしかして、次はジョージ・ガーシュウィンの現代版? と、気は早いがそんなことまで想像してしまうのだ。

【billboard classics World Premium Robert Glasper Experiment ×Tomomi Nishimoto Symphonic Concert】
2014.6.8(月) 開場18:00 / 開演19:00
会場:東京芸術劇場コンサートホール(池袋)
指揮:西本智実 出演:ロバート・グラスパー・エクスペリメント
管弦楽:イルミナートフィルハーモニーオーケストラ
チケット:SS席9,800円 S席8,800円(全席指定)
ローソンチケット tel:0570-084-003 (Lコード:33050) tel: 0570-000-407 Lコード不要/オペレーター対応
キョードー東京 tel: 0570-550-799
チケットぴあ tel: 0570-02-9999 (Pコード:261-596)
イープラス
東京芸術劇場ボックスオフィス tel: 0570-010-296(ナビダイヤル:10:00~19:00 休館日を除く)

【ロバート・グラスパー・エクスペリメント東京公演】
2015.6.2(火)~2015.6.5(金)
1st stage開場17:30 開演19:00 2nd stage開場20:45 開演21:30
会場:ビルボードライブ東京 (東京都港区赤坂9丁目7番4号東京ミッドタウン ガーデンテラス4F)
予約:03-5414-5861

【ロバート・グラスパー・エクスペリメント大阪公演】
2015.5.26(火)~2015.5.28(木)
1st stage開場17:30 開演18:30 2nd stage開場20:30 開演21:30
会場:ビルボードライブ大阪(大阪府大阪市北区梅田2丁目2番22号 ハービスPLAZA ENT B2)
予約:06-6342-7722

ビルボードライブ オフィシャルHP http://www.billboard-live.com/