西海岸の新星ルイス・コール、
その正体は果たして……。

(2013.05.08)

偶然がいくつも重なった夜

4月の第一木曜日、渋谷のバーでDJをするその日を見計らったかのように、自宅のポストに『ルイス・コール/アルバム2』のプロモ盤CDが届いていた。盤面がまっさらなのはいつものことだが、正体不明のアーティストとの初遭遇としては妙にふさわしいもののようにも映った。リリース資料の冒頭には、白黒モニターの画面キャプチャにも見えるサングラス姿のポートレート。不敵だが若い。若いから不敵なのか。悪くない第一印象。なぜか『マックス・ヘッドルーム』がシンクロし、ある種の毒気を想像させた。

テキストに目をやると、なかなか刺激的なワードが躍っている。L.Aに現れた超新星。ブライアン・ウィルソン・チルドレンであり、未来のベックであるという。ジェームス・ブレイクに比肩する存在にして、サンダーキャットや故オースティン・ペラルタの盟友とも説明されている。額面通りなら、巨大な原石を発見したことになる。話半分、意地悪に過小評価しても、その日のセットリストから外す理由はどこにも見当たらない。店の上質なサウンドシステムでその正体を見極めてやろうと、試聴もせずにCDケースに忍ばせた。
 
DJブースに入って一時間ほどで徐々に席も埋まってきた。プロモ盤が本来の役目を果たすにはちょうどいい頃合いである。再生ボタンを押すと、流れてきたのはシンフォニックなインストゥルメンタル。無味乾燥の白い盤面との極端な対比に軽く呆然とする。渋谷の小さな止まり木には似つかわしくない荘厳さ。しかし、ルイス・コールが超新星であるならば、その出囃子はこれくらい思わせぶりであってほしい。そんなことを考えていたら、扉を開けて入ってきたのが本作のリリース元NRTのオーナー氏で驚いた。久しぶりの再会がこのタイミングとは。なんという符合。そんな不意打ちに次の曲を選曲することも忘れ、解説付きで公開試聴がスタートした。

映像作家であることを納得させる映像的サウンドが広がる。

アルバムのほぼ全編にわたって作詞・作曲・アレンジ・演奏はもちろん、録音、ミックス、マスタリングにいたるまで、ルイス・コール自らが手掛けていること。音楽のみならず優秀なビデオ・アーティストでもあること。ならば、器用な自己完結型内弁慶かと思いきや、腕利きのセッションマンとして、西海岸の音楽シーンで引っ張りだこであること。実はブラジルのミナス新世代、アントニオ・ロウレイロらがルイス・コールをアイドル視していること、などなど。刺激的な解説を聞くうちに、その大器の横顔がはっきりと浮かび上がってきた。

ドラマーのリーダー作には個性的なものが多いが、ルイス・コールもその定説を裏切らない。気体のようなファルセットは美しくもあり、妖しくもあり。確かで豊かな骨格を感じさせるソングライティングとはまったくの好対照。ときに極端にも聴こえるローファイな音質処理もタイトなドラムに支えられ、破綻はない。大胆なようで雑ではなく、繊細ではあるが神経質ではない。その組合せの妙、さじ加減、切り口がきわめてユニークである。なんといっても特徴的なのは、曲のタイトルに「planet」「valley」「sand」「moon」「clouds」とあるように、景観が音に姿を変えたかのような映像的音世界がアルバム全編で展開されていることである。自身の音楽的バックボーンを散りばめるカットアップ感覚も映像手法を彷彿とさせるし、楽曲ごとのテンポやテイストが異なるのも、鮮やかな場面転換と捉えれば納得がいく。ひょっとすると、脳内イメージや心象風景が先に存在して、音は後付けのサウンドトラックなのではないだろうか。ルイス・コールが自作したPVを見ると、その感がさらに強まる。過剰に割れたドラムの音や生々しくざらついた質感がむしろ絶妙とさえ思えてくる。音と映像の両刀使いならではのクリエイティヴィティが明るい未来とさらなる衝撃を予感させる。

全11曲を再生し終えるまでのわずか30分で、アルコールと解説の助けがあったにせよ、それだけでは説明がつかないほど、鼓膜はすっかり熱を帯びてしまった。琴線に触れるどころか、がっしりと鷲掴みである。甘美なファルセットによって、すっかり腰砕けになった批判精神で未来のベックの正体を暴いてやろうと試みるも、いっそ清々しいほどの見事な惨敗であった。

Album 2
Louis Cole(ルイス・コール)
2013年5月8日発売 2,100円(税別)
レーベル:NRT / quiet border

【Track List】
1. Leaving The Planet
2. Below The Valleys
3. Grains Of Sand
4. It’s So Easy
5. You’ll Believe Me
6. Like A Match
7. Your Moon
8. You Will See
9. Clouds
10. Your Moon (Old Version)
11. V

All lyrics and compositions by Louis Cole except “Like A Match” by Jack Conte
Vocals, Drums, Keyboards, Guitar, Violin, Cello, Harp and Tambourine played by Louis Cole
Trumpet and Trombone on “You Will See” by Steve Cole
Additional Strings on “Leaving The Planet” and “You Will See” by Linda Cole
Recorded, Mixed, Mastered and Produced by Louis Cole

Loius Cole(ルイス・コール)

シンガー、ドラマー/マルチ・プレイヤー。1986年12月生まれ、LA在住。南カリフォルニア大学でジャズを学ぶ。また楽器演奏や作曲・アレンジの多くを鍵盤/管楽器奏者の父、スティーヴ・コールから学ぶ。ドラマーとしてBrad Mehldau, Larry Goldingsら現代最高のジャズメン、Flying Lotus主宰のレーベルBrainfeederからのリリースでも知られるピアニスト、Austin Peraltaらとセッションを重ねる。作詞・作曲・アレンジ、ほぼ全ての演奏と録音を自ら手がけ(録音もホームスタジオ)、ミュージックビデオも自身で制作。Brian Wilsonなどのポップス、Miles Davis, Tony Williamsなどのジャズ、Chopin, Bartok, Ligeti, Hindemith, Debussy, Stravinskyなどのクラシック/現代音楽、James Brown, Michael Jackson, James Chance, Boards of Canada, 竹村延和などの影響を独自に昇華する。女性シンガーGenevieve Artadiとのユニット<KNOWER>としても二枚のアルバムを発表。<KNOWER>名義の新作3rdアルバムを2013年4月にリリース予定。