『Music City Lovers 〜 Soundtracks For Comfortable Life』リリース。 17人の選曲家の“今”が聴こえる至福の18曲

(2016.07.11)

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“今”心が動いた音楽だけを

「決して過去を振り返るものではなく、このチャンネルの現在進行形の方向性を示すべき」。「usen for Cafe Apres-midi」15周年を記念したコンピレーション盤『Music City Lovers 〜 Soundtracks For Comfortable Life』のテーマについて、私の大切な友人であり、チャンネルのプロデューサーである橋本徹は、いつにも増して強い口調で語ってくれました。

「街の音楽を美しくしたい」。今から15年前の私は偉そうにもそんな言葉を残していたようです。当時、街のBGMといえば、一部の飲食店でようやくボサノヴァやジャズが流れはじめていましたが、まだまだ退屈なインストゥルメンタル・ミュージックやJ-POPのヒット・チャートが主流でした。音楽が大好きだった私は、そんな街に流れる音楽の基準値を少しでも高められたら……と、このチャンネルを構想し、必然的に橋本さんと出会うこととなり、2001年に「usen for Cafe Apres-midi」チャンネルが始まりました。それは17人の選曲者が毎シーズン100時間以上の選曲を、季節ごとに年9回更新するという、ほかに例を見ないチャンネルとなったのです。

選曲者は、このチャンネルで流すたった1曲を選ぶために、時には100枚以上もの新譜を聞くこともあれば、時にはレコード棚で手が真っ黒になるまで何千何万というジャケットをめくり、最近ではそれがパソコン上のライブラリーに置き換わったとしても、新しい音楽との出会いを求めて何十時間もクリックし続ける。おそらくこのチャンネルに集った選曲者全員が、毎回の選曲に対して決して手を抜くことなく、常に音楽に対して正面から向き合い、自分自身の音楽センスをアップデートしてきたからこそ、今こうして15年という通過点を迎えることができたと確信しています。

左から、10周年のコンピレーション盤、5周年のミニブック、3周年のミニブック
左から、10周年のコンピレーション盤、5周年のミニブック、3周年のミニブック

15周年を目前にこれからのチャンネルの向かうべき方向性に少し迷いがあった私は、彼のこの一言で目が覚める思いがしました。今ではすっかり記号化されてしまった一般的なカフェ・ミュージックの既成概念や型にとらわれることなく、このチャンネルでは、自分自身が生活の中で聴いて心地よいと感じる基準で、“今”心が動いた曲だけを素直にピックアップして流せばいいんだと。数日後、そんなテーマを伝えて全国の選曲仲間から集まったこの『Music City Lovers』に収められた素晴らしい曲の数々を聴きながら、そんな選曲にとって、もっとも大切な本質を改めて確信することができました。そして今この原稿を書きながら、世界一のロマンティスト吉本宏が選んだGiorgio Tumaの「My Last Tears Will Be A Blue Melody」が、ちょうどタイミング良く流れてきました。その美しく切ない旋律を聴きながら、幾多の困難を乗り越え、15年もの間、こうして素晴らしい音楽をタイムレスに街に届けられてきたことに対して、万感の想いがこみ上げてきてやみません。

「街に愛される音楽」

今回の『Music City Lovers』というタイトルにある、“City” =“街”とは、ずばりそこに存在する人の生活そのものだと私は考えます。つまり街に愛されるということは、何よりも先にそこで生活する人に愛されるということに他なりません。だからこそ、私たちは、17人という個性の違う生身の人間が、まずは“今”の自分自身が本当に素晴らしいと思える音楽だけを選び、それら選んだ曲と曲を、とことんこだわった曲順と曲間に編集しハンドメイドで流すことで、これからも「usen for Cafe Apres-midi」が「街に愛される音楽」であり続けたいと願っています。そしてそんなモノ創りの本質と、選曲に対する情熱は、この先世の中がどんなに変化しようと、決して変わることはないでしょう。

この原稿の最後に、『Music City Lovers』のライナーノーツに寄せられた各選曲家の想いあふれる文章の中から、心に響いたメッセージを抜粋して、皆さんに紹介したいと思います。

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心を動かされた音楽を、愛と情熱をこめて選曲する毎日から生まれたそれは、季節の移ろいや一日の時の流れを彩り、遠い記憶や大切な思い出を呼び起こしてくれる音楽であると同時に、今を生きる、何気ない日常に未来へのささやかな光を灯してくれる音楽。僕らの「街のBGMの基準値を上げる」試みはまだまだ続いていく。「usen for Cafe Apres-midi」は“生きているハンドメイド・チャンネル”なのだから。
(橋本徹)

愛聴してくれているリスナーや、これまで毎回クオリティーを下げることなく丁寧な選曲を続けてくれる、日本各地で活動している選曲家の皆さんに対する感謝の気持ち。いつも刺激をくれる音楽や、音楽好きの大先輩たちや仲間に出会えて、ほんとうに良かったと……。
(本多義明)

例えばこんな音楽がふと街角で流れてきたら、どんなに素敵なことだろうと、思うことがあります。何気ない日常や、他愛もない空間に、一瞬にして幸福を運んできて笑顔の花を咲かせる、音楽にはそんな魔法の力があるような気がします。
(山本勇樹)

カフェで1杯1杯コーヒーを入れるように、1曲1曲大切に選び抜く。そこにいる居心地よさと、現在進行音楽より、少し先の音楽がここにあると感じることができる、という気持ちになる「また来たいカフェ」を考えながら、選曲するための旅にまた出かけてきます。
(渡辺祐介)

いまだに自分の中でうまく消化しきれないというか、聴くたびに違う風が吹くのです。聴いた瞬間に心奪われる経験って毎日のように新しい音源を探し求めていてもそうそうあるものじゃありませんが、もしセレクターとしてこのチャンネルに関わっていなかったらその機会はもっと少なかったはず。
(添田和幸)

街は人の生活のあるところ、というニュアンスで捉えてもらえればいいだろうか。自分と同じように暮らしている人たちのハッピー&ブルーに寄り添うような音楽。そしてささやかな喜びが届けられていれば……。
(waltzanova)

チャンネルの軌跡、さらに未来の姿がこのミントの「Grace」という作品の中にしなやかに表現されていると思います。「Grace」という言葉の意味も「優美」や「気品」「しとやかさ」ということで、すべてにおいて手作りで丁寧に作られているこのチャンネルにぴったりな言葉ですね。
(高橋孝治)

橋本徹さんが北海道でDJされたときにかけたインパクトも大きく、必ずしもビートを強調する曲をセレクトしない「さじ加減」に、僕の選曲は強く影響を受けました。
(FAT MASA)

水の都ヴェネチアで生まれた「Call Me」は30年もの時を経て、貴方のスピーカーから鳴っている。ようやく始まったジジ・マシンと僕たちとの関係を、一緒に、じっくりと深いものとしていきたい。
(中村智昭)

音楽の持つ楽しさや優しさ、心地よさ、そして言葉にできない不思議な力をみなさんと共有できればと思って……。そしてすべてが“Be Good”になることを祈って。
(小林恭)

“記憶にささやきかける音楽”。僕が選曲をするときに心がけているのは、リスナーの記憶の断片に残り、遠い記憶を呼び起こすような音楽を選ぶということだ。
(吉本宏)

「静かなるイノヴェイション」は、ハンドメイドの温度を保ちながら着実に深化し、様々に空間を彩っていくことでしょう。
(中上修作)

1曲ごと注意深く選曲するこのチャンネルでは、リスナーの大切な時間を引き受け、親密に寄り添うものとして音楽と向き合っている。
(武田誠)

自分の中で「完成形」と思われた選曲も数年経てば古臭く感じることがある。これは時代の変化によるものであり、「最も変化に適応できる種が生き残る」としたダーウィンの言葉ではないけれども、選曲において時代感を持つことは大切なことだと思う。
(三谷昌平)

遠く離れた大切な友人に手紙を書くような気持ちで丁寧に選曲をすること。目に映る四季の機微を「音楽の絵葉書」にして、大切な人に届けられたらどんなに素敵なことだろう……。
(富永珠梨)

タイムリーにしてタイムレス。このチャンネルが果たすべき役割を僕はそう捉えている。時流を追うのではなく、作る。むしろ追いつかせるくらいの気概さえ持って。
(高木慶太)

Saravah! 

 

V.A.『Music City Lovers〜Soundtracks For Comfortable Life』
2016年7月10日発売 2,300 円(税別)
レーベル:アプレミディ・レコーズ

【Track List】
01. 3 Days / Rhye
02. Box Of Things / Lori Cullen
03. Sweet Things / Mocky
04. Ain’t Got No Soul / Geoffrey Williams
05. The Rhythm Changes / Kamasi Washington
06. You’ve Got A Friend / Jesse Fischer & Soul Cycle feat. Gretchen Parlato
07. When I Become My Own Friend / Warmth
08. Grace / Mint
09. Time To Send Someone Away / José González
10. Call Me / Gigi Masin
11. Be Good (Lion’s Song) / Gregory Porter
12. My Last Tears Will Be A Blue Melody / Giorgio Tuma
13. Children Of Light / Israel Varela Trio
14. You Don’t Love Me / Whinnie Williams
15. Sunshine Seas / New Zion w. Cyro
16. The Sleeper / The Leisure Society
17. 24-25 / Kings Of Convenience
18. By Your Side / Nicholas Krgovich
 

♪ 『Music City Lovers』に収録しきれなかった選曲をアプリで聴けます。
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