話題の電子書籍 売れてる本は何か?
2012年、年間ランキング
(2013.01.11)
昨年夏、同じタイトルで、電子書籍の上半期売れ行きランキングを紹介した。楽天やアマゾンの本格参入など激動の電子書籍業界、半年経って市場はどう変わったのか。今回は年間ランキングを見てみよう。取材は、再度、電子書店大手BookLiveの協力を仰いだ。
この1年の電子書籍の動きを振り返ってみると、まず、楽天(kobo)とアマゾン(Kindle)の本格参入、その話題性によって、電子書籍全体への注目が高まった。また紙と電子の同時発刊が増え、話題作が最初からデジタルで読めるようになってきた。例えば、芥川賞や直木賞などは、ノミネートされた作品がそのまま電子化される動きが出ている。そうした相乗効果で、売上は前年に比べて数倍の規模で拡大したという。
また、電子書籍の売れ筋ジャンルを見ると、依然として書籍よりもコミックが売れている。コミック6割、一般書籍が3割、写真集、雑誌が1割といった構成で、電子書籍全体の売れ筋ランキングは、コミックのランキングとほぼイコールだ。
年齢層はコミックではやはり20~30代中心。男女比は電子書籍全体で男性7割、女性3割となっている。それでは、書籍とコミック、それぞれの年間売上ランキングを見てみよう。
2012年 年間BookLive書籍ランキング
1 | 『カンピオーネ!』 丈月城 / 集英社 |
---|---|
2 | 『悪の教典』 貴志祐介 / 文藝春秋 |
3 | 『のぼうの城』 和田竜 / 小学館 |
4 | 『スティーブ・ジョブズ』 ウォルター・アイザックソン 訳:井口耕二 / 講談社 |
5 | 『織田信奈の野望』 春日みかげ イラスト:みやま零 / ソフトバンククリエイティブ |
6 | 『ミレニアム』 スティーグ・ラーソン 訳:ヘレンハルメ美穂、岩澤雅利 / 早川書房 |
7 | 『お兄ちゃんだけど愛さえあれば関係ないよねっ』 鈴木大輔 イラスト:閏月戈 / メディアファクトリー |
8 | 『聖剣の刀鍛冶』 三浦勇雄 イラスト:屡那 / メディアファクトリー |
9 | 『ミニスカ宇宙海賊』 笹本祐一 / 朝日新聞出版 |
10 | 『逆説の日本史』 井沢元彦 / 小学館 |
書籍ランキングて見て気付くのは、ライトノベルの人気の高さ。1位の『カンピオーネ!』をはじめ、10本中、5本がライトノベルの作品だ。そして、『スティーブ・ジョブズ』を除くと、上位作品の大半が、テレビアニメ化や映画化など、メディアミックス展開されたものだ。やはり話題作が継続して売上を伸ばしている。
『カンピオーネ!』
神の力を得た魔術師『カンピオーネ』がさまざまな戦いに挑む、神話世界と現実世界が交差するバトルファンタジーだ。現在、13巻までライトノベルとして配信された注目の人気シリーズ。2012年7~9月テレビアニメ化され、今回堂々の1位となった。
『悪の教典』
ミステリー部門でトップを獲得。2012年11月にはコミック化に続いて、映画も公開された。主演は英語教師役の伊藤英明。実はこの英語教師が、共感性が欠如した殺人鬼だったというストーリー。「まるで出席を取るみたいに、先生はみんなを殺し続けたんだ。」「クラス全員、皆殺し。」など、衝撃的なキャッチコピーが話題になった。
『のぼうの城』
文藝部門のトップを獲得した作品。時は戦国、領民から「でぐのぼう」略して「のぼう様」と呼ばれ親しまれた、従来の将軍像にない新しい英傑像が提示された。 2012年11月映画公開。人気マンガ家、オノ・ナツメの表紙イメージで、普段は時代小説を読まない若い女性も本作を手に取ったといわれる話題の作品だ。
『スティーブ・ジョブズ』
ビジネス・IT部門のトップを獲得。紙媒体では前後編合わせて100万部を突破した本書は、2011年のランキングでも1位だったが、2012年も販売好調で4位に入った。死後の伝記の印象があるが、実際はもともと出版の計画があったものが、ジョブズの死によって前倒しでリリースされた作品。また、紙の本の品切れが電子書籍の売上を後押ししたという背景もあるという。
『織田信奈の野望』
「戦国武将が美少女になった世界」へタイムスリップした男子高校生の、恋と冒険を描いたコメディタッチのライトノベル作品。上半期はランキング外だったが、2012年7~9月にテレビアニメが放送されたことで売上が伸びた。現在、9巻までを配信中。
『ミレニアム』
全世界で6000万部の売上を記録した驚異のミステリー三部作の第一部。海外ミステリー最大のヒット作品。上半期でも書籍ランキングで1位を獲得し、ここでも6位にランクイン。紙の本では上下巻あり、厚くなってしまうが、電子書籍ではまとめて配信。その分安くなったことも売上にもつながったようだ。
『お兄ちゃんだけど愛さえあれば関係ないよねっ』
このライトノベルは、とある事情で離れ離れになっていたものの再び一つ屋根の下で平穏に暮らすことになった、ブラザーコンプレックスの妹と兄の学園ドタバタラブコメディ。2012年10月からアニメ放映中の人気シリーズで、海外向けの翻訳もされている。現在、8巻まで配信中。
『聖剣の刀鍛冶』
2009年にコミック化、アニメ化、ラジオ放送などのメディアミックス展開された人気ライトノベル作品。元貴族令嬢の騎士、鍛冶屋の青年、青年の助手の女性が織りなす、恋と友情と戦いの中で、主人公が成長していく物語だ。2012年の7~9月の3カ月間、1巻を無料配信した。その効果もあって、着実に読者を増やした。現在14巻まで配信中。
『ミニスカ宇宙海賊』
ミニスカートの船長服をまとった女子高校生が、免許を受けた「合法的な」宇宙海賊の船長として活躍する物語。2012年1~6月までテレビアニメで放送されたライトノベル作品。上半期の6位から9位に落としたものの根強い人気で、現在9巻まで配信中。
『逆説の日本史』
現在も『週刊ポスト』にて連載中の日本史の常識を覆す人気シリーズだ。上半期では3位にランクインした。現在は電子書籍版が連載に追いついている関係で、新原稿のストックができるのを待つ状態にある。出版すれば確実に売れる作品である。現在、15巻まで配信中。
さて次に、コミックの総合ランキングを見ていくことにしよう。
2012年 年間BookLiveコミックランキング
1 |
『ジョジョの奇妙な冒険』 荒木飛呂彦 / 集英社 |
---|---|
2 |
『ONE PIECE (カラー版/モノクロ版)』 尾田栄一郎 / 集英社 |
3 |
『宇宙兄弟』 小山宙哉 / 講談社 |
4 |
『NARUTO―ナルト― (カラー版/モノクロ版)』 岸本斉史 / 集英社 |
5 |
『るろうに剣心―明治剣客浪漫譚― (カラー版/モノクロ版)』 和月伸宏 / 集英社 |
6 |
『キングダム』 原泰久 / 集英社 |
7 |
『鋼の錬金術師』 荒川弘 / スクウェアエニクス |
8 |
『GIANT KILLING』 作:綱本将也 画:ツジトモ / 講談社 |
9 |
『新世紀エヴァンゲリオン』 マンガ:貞本義行 原作:カラー・GAINAX / 角川書店 |
10 |
『DRAGON BALL』 鳥山明 / 集英社 |
コミックの状況を見てみると、上半期、講談社作品がランキング上位を占めていたが、遅れて配信を始めた集英社作品が急伸、ランキングを一変させた。集英社の好調は、実はカラー版配信が寄与している。往年の人気作品を紙で読んだ世代が、カラー版の発売で、あらためて電子版を複数巻まとめ買いするといった傾向が顕著だった。
1位になった『ジョジョの奇妙な冒険』をはじめ、『ONE PIECE』『NARUTO』『るろうに剣心』など、集英社はモノクロ版を出す一方で、カラー版を用意したことで、新たな需要を喚起することに成功した。
『ジョジョの奇妙な冒険』
強敵との死闘を個性的な表現方法・独特の不気味さで描き、唯一無二の世界観を築き上げた作品だ。紙媒体のシリーズでの単行本は100巻を超え、累計発行部数は2012年2月時点で6324万部の大ヒット作。連載25周年を記念して、さまざまなイベントが開催された。
『ONE PIECE (カラー版/モノクロ版)』
「海賊王」を目指すルフィーを中心とした仲間たちが、海軍や海賊たちとあいまみえる冒険活劇。原作のコミックはテレビアニメ、映画、ゲームなどの、メディアミックスで展開されて、ロングセラーの国民的人気作品として2位にランクインした。モノクロ版の配信に3巻ほど遅れるが、カラー版も出されており、その迫力は必見だ。
『宇宙兄弟』
上半期ランキング1位だった『宇宙兄弟』は3位にランクイン。日本人初の宇宙飛行士という夢を追いかける兄弟の姿を描いた物語。2012年4月からテレビアニメ放送中で、2012年5月に小栗旬、岡田将生主演で映画も公開され話題になった。現在、19巻まで配信中。
『NARUTO―ナルト― (カラー版/モノクロ版)』
『ONE PIECE』と並ぶ「週刊少年ジャンプ」の看板作品。主人公ナルトは歴代の勇者、火影の名を受けつぎ、先代を越える忍者を目指して、仲間を守るため、どんどん強くなっていく。『ドラゴンボール』の後継作品として認知され、フランスでは書籍全体の週間売上で1位になるなど、ヨーロッパでも熱狂的な人気を誇っている。現在、62巻まで配信中。
『るろうに剣心―明治剣客浪漫譚― (カラー版/モノクロ版)』
2012年8月に実写映画公開。本作公開に連動する形で、作者のセルフリメイクとなる『るろうに剣心 -キネマ版-』を連載。カラー版の配信も相まって、新しいファン層を獲得した。少年コミックにしては珍しく男女半々位の読者がいる。現在は全28巻を配信中。
『キングダム』
中国の春秋戦国時代を舞台に、将軍を目指す少年と、後の始皇帝となる少年の活躍を描いた物語だ。2012年6月からテレビアニメ放送中でラジオドラマ化や、ゲームにもなっている人気作品。現在、26巻まで配信中。
『鋼の錬金術師』
『月刊少年ガンガン』に連載されていた錬金術が存在する架空の世界を舞台としたファンタジーだ。上半期4位にランクインした作品は電子書籍でも12月に最終巻が配信された。『るろうに剣心』同様に少年コミックにしては女性の読者が多い作品となっている。現在、全27巻配信中。
『GIANT KILLING』
『モーニング』連載のサッカーコミックで、過去に「とらのあなコミック&ノベル大賞」、宝島社「このマンガがすごい!」、「講談社コミック賞」など、さまざまなマンガ賞を受賞している人気作品だ。現在、25巻まで配信中。
『新世紀エヴァンゲリオン』
このコミック作品だけは、単行本よりも早く電子書籍として配信されている。30代読者が多いBookliveの中にあって、20代読者に圧倒的な支持を受けている。映画ファンが、そのまま電子版の読者となり、ロングセラー作品となっている。11月には最新巻が発売され、売上も好調。現在、13巻まで配信中。
『DRAGON BALL』
国内外で人気を博した『ドラゴンボール』が、10月に配信を開始した。2カ月足らずでベスト10入り。配信開始と同時に実施した、59(悟空)人に1人が当たる、全巻分ポイントバック企画も大盛況だった。現在、全42巻配信中。
最後に、12年下半期限定のランキングを掲載する。下半期のコミックランキングは、年間ランキングと全く同じ顔ぶれである。下半期のランキングが年間ランキングに色濃く反映されていることからも、電子書籍が着実に、拡大、定着していることがわかる。
2012年 下半期BookLive書籍ランキング
1 | 『カンピオーネ!』 丈月城 / 集英社 |
---|---|
2 | 『悪の教典』 貴志祐介 / 文藝春秋 |
3 | 『のぼうの城』 和田竜 / 小学館 |
4 | 『織田信奈の野望』 春日みかげ イラスト:みやま零 / ソフトバンククリエイティブ |
5 | 『聖剣の刀鍛冶』 三浦勇雄 イラスト:屡那 / メディアファクトリー |
6 | 『グイン・サーガ』 栗本薫 / 早川書房 |
7 | 『新世界より』 貴志祐介 / 講談社 |
8 | 『ワーク・シフト 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図<2025>』 リンダ・グラットン 訳:池村千秋 / プレジデント社 |
9 | 『お兄ちゃんだけど愛さえあれば関係ないよねっ』 鈴木大輔 イラスト:閏月戈 / メディアファクトリー |
10 | 『ミニスカ宇宙海賊』 笹本祐一 / 朝日新聞出版 |
2012年 下半期BookLiveコミックランキング
1 |
『ジョジョの奇妙な冒険』 荒木飛呂彦 / 集英社 |
---|---|
2 |
『ONE PIECE (カラー版/モノクロ版)』 尾田栄一郎 / 集英社 |
3 |
『宇宙兄弟』 小山宙哉 / 講談社 |
4 |
『NARUTO―ナルト― (カラー版/モノクロ版)』 岸本斉史 / 集英社 |
5 |
『るろうに剣心―明治剣客浪漫譚― (カラー版/モノクロ版)』 和月伸宏 / 集英社 |
6 |
『キングダム』 原泰久 / 集英社 |
7 |
『鋼の錬金術師』 荒川弘 / スクウェアエニクス |
8 |
『GIANT KILLING』 作:綱本将也 画:ツジトモ / 講談社 |
9 |
『新世紀エヴァンゲリオン』 マンガ:貞本義行 原作:カラー・GAINAX / 角川書店 |
10 |
『DRAGON BALL』 鳥山明 / 集英社 |