進化するハイテク文具
デスクワークを楽にするのはどれ?

(2012.06.09)

少しでもデスクワークの効率を高めたいと思っているビジネスマンは多いだろう。そのような要望に応える文具が多数つくり出され、今も進化を続けている --「ハイテク文具」という観点から、そのトレンドと注目の商品について“文具王”の高畑正幸氏に話をうかがった。

文具の世界でハイテク的なものを大きく分けると、これまで十分進化しきっているところでさらに厚みを増しているものと、新しい世界が開けたばかりで、これから生命大爆発みたいにものすごく種類が増えて淘汰が始まるというジャンルがあります。

ここしばらくのトレンドとして明らかにあるのは、後者の、主にスマートフォン対応のものですね。ショットノート(キングジム)の販売数が100万冊を超えて、去年の末頃からいろいろなメーカーがスマホ対応グッズを大量に出してきています。

これまでのデジタルの筆記具などは、そのデバイスに慣れないといけないとか、それじゃないと書けないなどの制約がすごく大きかった。

また、デバイス自体の値段がすごく高かったりしたわけですが、それに対してショットノートやCamiApp(コクヨ)などのスマホ対応のノートは数百円で買えてしまう。

しかも、今までのお気に入りの筆記具で書けばいいので、道具に対して自分が合わせなければいけないところがほとんどない。入力の楽なところとデジタルの便利なところとが両立していて、デジタルだけれども敷居が低くて人にやさしい。

今までのデジタルのあり方はいろんな機能を詰め込む万能主義でしたが、文章を書きたい人は文章だけに集中しなさいと非常にデジタルの考え方が割り切れるようになってきて、大人になってきたな、とも感じますね。

ただようやくスタートラインに立った感じで、本格的な進化はこれから始まるのではないかと思っています。

ショットノート

手書きメモをデジタルメモに

スマホ対応のノートの中からあえてひとつ押すとしたら、ショットノートの存在はやはり大きいと思います。この分野を牽引してきただけあってよく出来ている。アプリも非常に楽に使えます。専用アプリを起動して撮影すると、書き込まれた日付をOCRで読んで検索可能にしてくれる。

この日付で分類するというのが重要で、紙の場合は、作成日がそのままではデータとして残らない。スキャンで取り込んだ日しか残らないのが致命的な問題でしたが、それを解消している。どのサイズのものでも縦横比が同じで、スマホのサイズにフィットしています。

ショットノート(キングジム) 写真のものにホワイトボードタイプを加えて全6タイプ。サイズも豊富に揃えている。左端がツインリングタイプ(LLサイズ)で630円(税込) スマートフォンで専用アプリを起動してノートを撮影すると画面ピッタリに取り込める。ノートの日付と番号をOCRで読み取って、ノートを多彩な機能検索で取り出すことができ、メールやEvernoteなどで送信・共有もできる
KYBER SmartNote(カイバースマートノート)

手書き文字を“人力OCR”でデータ化

OCRでは、このノートがすごいです。“人力OCR”と呼んでいますが、OCRをかけた後に、人の目で見て全文字正しいかチェックしている。走り書きで自分でも読めないようなものはダメですが、僕の文字の場合はほぼ間違いなく読んできます。ふつうのOCRソフトには手書き文字は難易度が高くてここまでは読めません。

レギュラーサービスというのもあって、お金を払えばふつうのノートでも同じことをしてくれる。これは非常に便利です。時間帯にもよりますが、速いときは1頁10分くらいでかえってくる。これは次世代の情報処理のアウトソーシングのひとつのあり方を示しているのではないかと思います。

KYBER SmartNote(オーリッド) クラシックシリーズ 右端:A6-V(タテ)Classic×3 pack 2,247円(税込) スマートフォンで専用アプリを起動し、購入したノートのQRコードで「アクティベーション」すると、ノートの頁数分、手書き文字をテキストデータ化するサービスを無料で利用できる。データは、メールや各種サービスと連動し、編集もできる
スマレコペン

ペンで囲んだ部分のみデータ化

ノートなどで必要な部分だけをペンで囲って専用アプリで撮影すると、その部分だけをデータ化してくれる。ペンの先端が二股に分かれていて、2本線で几帳面に囲ってあげる必要がありますが、新聞などの切抜きがわりに使えます。

スマレコペン(ナカバヤシ) メーカー希望小売価格 650円(税込) 新聞や雑誌などの任意の箇所をスマレコペンで囲み、スマートフォンで専用アプリを起動して撮影すると、囲われた範囲だけが切抜きデータ化されて保存・検索・編集ができる。メールやEvernoteにも連携。※新聞や雑誌から取り込んだデータは私的使用の範囲内でご利用ください。
Boogie Board (ブギーボード)Rip BB-3

思いついたときにメモできて保存も可

筆圧感知の電子ペーパーの画面で、書いたものがそのまま残る。電気はほとんど消費せずにメモをずっと掲示しておくことができます。消すときはボタンひとつで消去できる。デジタルなツールですが、保存ボタンを押して保存したデータはUSBケーブルでPCに転送することができます。筆談ツールとしても使えます。

Boogie Board Rip BB-3(キングジム) 14,800円(税込) 専用のスタイラスで書いたメモをPDF形式で保存。保存したデータは、USBケーブルでPCに転送して再表示できる
memopri(メモプリ)

デジタルメモ+プリント

メモしてボタンを押すとプリントされたものが出てきてそのまま貼れる。そしてすぐはがせる。要は付箋です。しかもその履歴が残る。デジタルのメモとしてはこのほかにマメモ(キングジム)などがありますが、マメモで書いたものをそのままプリントできるというようなものです。画面に表示されたキーボードで打ち込んで出すこともできるし、スマホから送られたデータをプリントする、プリンター部分だけのタイプもあります。

タップすると画面がいきなり立ち上がって、書いたものをプリントするだけという割り切った考え方で、デジタルですがやることのアナログ加減がいいですね。

memopri(カシオ) 左から:MEP-T10、MEP-U10、MEP-B10 オープン価格 MEP-T10は付属のタッチペンで手書きしたもの、ソフトキーボードで入力したものをプリントできる。カレンダーや時計機能も搭載し、USB接続でPCからも入力可能
ポメラDM100

文字入力に徹したデジタルデバイス

キーボードで入力するのが好きな人のためのデバイスで、打ちやすいフルピッチのキーボードと単色液晶画面で、テキスト入力以外の機能がほとんどありません。

面白いのは、でき上がったテキストの取り出し方。入力した文字がQRコードに変換されて、専用アプリを使ってスマホでこれを読み取る。ピントが合うと読み取り完了で、長文の場合は複数のQRコードに分割され連続で読み取ります。すると、スマホの画面に文字がぜんぶ出てくる。それをメールとかツイッターやEvernoteに1クリックで飛ばせます。一度、QRコードの絵にしてそれをもう一度デジタルに戻すという発想がすごい。

原稿を書いて、写真撮ってメールで送るまでがとてもスムーズに行える。PCを介する必要もなく、いらないところに気を使わないので、原稿に集中して書くという場合に向いています。

ポメラDM100(キングジム) メーカー希望小売価格 37,800円(税込) 開くと即起動し前回の画面が表示されるので素早く入力できる。電源は乾電池で、約30時間の長時間駆動
ピットレック

デジタルで名刺を整理&管理

キングジムという会社のすごいところは、あえて今、デジタルデバイスをWebやPCと連動させないでスタンドアローンでもありだと考えているところで、それがマメモとかのいいところなんですね。

このピットレックは、名刺を管理するのにデータがすべてテキスト化されてデータベースになっていなくても、結局見ることができればいいでしょという考え方でつくられていて、たくさんあった名刺をそのまま撮影して、その画像を探すのに必要な最小限の情報(名前と会社名)だけをOCRでデータ化して、検索できるようにするというものです。

ピットレックDNH10(キングジム) メーカー希望小売価格27,300円(税込) 名刺を内蔵のカメラで撮影すると会社名と氏名を読み取り、登録する。会社名・氏名・登録日など6通りの検索が瞬時にできる。専用ソフトを使い名刺データをPC上で編集可能
ScanSnap(スキャンスナップ)

書類をガンガン減らせるドキュメントスキャナー

自炊派と言われるような、ものすごくたくさん取り込む人はS1500がおすすめです。取り込みのスピードと取り込みのフィーダーの性能とできた画像のバランスとかが、総合的に、いま個人で買える価格帯のスキャナーの中では抜群にコストパフォーマンスが高い。今すぐ見る必要はない書類はぜんぶまとめてスキャンして、たとえばEvernoteに飛ばしてしまうみたいな使い方ができる。

初めての人であれば、S1300iが若干スピードが劣りますが小さめでデスクにも置けるのでいいかなと思います。出張とか仮設事務所とかで使うならば、さらに小型のS1100という機種も出ています。USBケーブル1本でバスパワー駆動するので、外出先や営業車の中でも作業可能です。

ScanSnap S1300i(PFU)オープン価格 A4カラー両面原稿を毎分12枚・24面で読み取る
フリクション

何色で書いてもきれいに消せる

ふつうの文房具も、もちろん進化をしていて、ペンでは「フリクションボール3」をいまよく使っています。1本で黒赤青の3色、手帳などに色分けして書けるので便利です。フリクションのインクは特殊で書き味とかに好き嫌いはありますが、書いたものが消せるというのが何よりすごい。黒だけならシャーペンでもいいですが、赤とか青で消せるものはなかなかない。しかも簡単にきれいに消せます。熱で消える原理なので、ドライヤーなどで一気に消すことも可能です。ちなみに、-20°以下になるとまた色がもどるので、コールドスプレーやフリーザーで復活させるという裏ワザもあります。

フリクションボール3(パイロット)各色 630円(税込) ボディ後部の専用ラバーでこすると摩擦熱で色が消えるため消しカスが出ない。フリクションシリーズでは、ボールペンのほかに、蛍光ペン、カラーペンも出ている。※証書類・宛名書きには使用できません
フィットカットカーブVaimo11(バイモ11)Premium C.D. NOTEBOOK

さらに進化を続ける文具たち

ハイテクと言うべきかどうか分かりませんが、最近お勧めなのはフィットカットカーブ(プラス)というハサミです(下のポートレート写真を参照)。ふつうのハサミでは切り進めるとだんだん刃の開く角度が小さくなりますが、これは刃元から先端まで、刃と刃の交点の角度がつねに30°くらい。角度を一定に保つために刃がカーブしています。先端部分でもよく切れてストロークを長く使えるので切るのが楽。分厚いものや硬いものでも薄くて軟らかいものでも、先端部分までよく切れます。地味だけれどものすごい進化しているものの好例ですね。

直近の新しいものではないですが、Vaimo11というホッチキスはコンパクトながら40枚まで片手で綴じられます。細くて長い針を使うことで軽く貫通するようになってますが、細くて弱い針がくしゃっとつぶれないようにさまざまな工夫をしています。あと、二重にてこが入っていて、押す力が従来の半分ですむ。Vaimo80は80枚まで綴じられます。いままでの大型ホッチキスだと1回立ちあがって押していたのが、これだと片手で押すだけで綴じることができます。

Premium C.D. NOTEBOOK に使われているA.Silky 865 Premiumという紙は、平滑度が異常に高く他のノートと明らかに手触りが違います。やりすぎるくらいやってしまったという感じですが、ボールペン、万年筆のすべり心地が明らかに軽く、書き味が半端ではないです。シャーペンや鉛筆向きの、クリーム上質紙モデルもあります。

Vaimo11 FLAT(マックス) 各色 メーカー希望小売価格 1,575円(税込、専用ホッチキス針1箱付き) 握りの部分の体積を15%カットしてスリム化したVaimo11 STYLEもある
Premium C.D.NOTEBOOK(アピカ) A5サイズ:赤‐5㎜方眼罫、青‐横罫 各色 945円(税込)その他無地タイプもあり、サイズも各種揃っている

■「文具王」高畑正幸 プロフィール

(たかばたけ・まさゆき)文房具メーカー勤務。テレビ東京の番組『TVチャンピオン』の全国文房具通選手権に出場し、1999年、2001年、2005年に行われた文房具通選手権に3連続で優勝し「文具王」の座につく。