話題の電子書籍
売れてる本はなにか?
(2012.09.03)
amazonのKindle、楽天のkoboの参入で本格化するといわれる電子書籍市場だが、実際にどんなものが売れているのだろうか。電子書籍ならではの売れ筋コンテンツとはどんなものなのか。電子書店大手BookLiveに聞いた。
BookLiveは凸版印刷グループの電子書店で、端末はPC、タブレット、スマートフォンに対応、フォーマットはXMDF、ドットブック、SpinMedia、ePUB形式等、日本の電子書籍ユーザーに幅広く対応している書店である。ユーザーの属性も、男性約60%、20~30代中心ということで、電子書籍市場全体の傾向と一致している。
まず電子書籍全体の売れ行きだが、BookLiveでは、売上は前年の数倍の規模に拡大しているという。売れ筋はランキング表を見ると一目瞭然だが、マンガが約70%、一般書籍が約25%、残りが写真集と雑誌。それでは、2012年上半期の売上ランキングを見てみよう。
2012年上半期BookLive 総合ランキング
1 | 『宇宙兄弟』 小山宙哉/講談社 |
---|---|
2 | 『うさぎドロップ』 宇仁田ゆみ/祥伝社 |
3 | 『ジパング』 かわぐちかいじ/講談社 |
4 | 『鋼の錬金術師』 荒川弘/スクウェア・エニックス |
5 | 『ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章 完全版』 藤原カムイ、川又千秋/スクウェア・エニックス |
6 | 『GIANT KILLING』 綱本将也、ツジトモ/講談社 |
7 | 『進撃の巨人』 諌山創/講談社 |
8 | 『インパクト』 坂田信弘、竜崎遼児/パーゴルフ |
9 | 『ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女(上・下合本版)』 スティーグ・ラーソン、ヘレンハルメ美穂・岩澤雅利訳/早川書房 |
10 | 『新宿スワン』 和久井健/講談社 |
ランキング表を見ると、まず10タイトルのうち、コミックが9タイトル、書籍は1タイトルのみだ。しかも講談社が5タイトルと半数を占める。これは電子書籍業界がまだまだ発展途上であることを示している。いまだ出版社の電子書籍への取り組みの足並みは揃わず、コンテンツも出揃っていない状況。そんな中で講談社は先行しており、こういう結果となった。
コミックの版元でいうと、白泉社は3月、集英社は4月、角川グループは8月から本格展開が始まっており、集英社は7月18日にiOS対応をスタート。7月単月の売上では『ONE PIECE』『ジョジョの奇妙な冒険』など集英社のタイトルが上位を独占した。コミック大手の本格参入で、下半期はランキングが一変するはずだ。
『宇宙兄弟』
4月1日からアニメ化、5月5日映画公開もあって大ヒット。もちろん紙でもベストセラーになった作品だが、BookLiveでは1月から6月までランキングトップを独占。現在18巻まで配信中。18巻は紙・電子同時発売だった。
『うさぎドロップ』
昨年7月にアニメ化、8月に映画化されたヒットコミック。BookLiveでは5月に1巻無料キャンペーンを行い、売上が上昇した。こうした無料キャンペーンは、リアルの書店にはない、電子書店ならではの販促展開だ。
『ジパング』
かわぐちかいじ作の青年コミック。上位2作と違うのが、購買層が30〜50代と年齢層が高いこと。タブレット、スマートフォンユーザーが読者の中心ということから、大人向けのコミックの人気も高い。全43巻配信中。
『鋼の錬金術師』
この作品の特筆すべきポイントは、すでに紙では完結していること。こうした、すでに完結した作品もデジタルで売上を伸ばすことができる。BookLiveでは、3月12日に配信スタート、現在20巻まで配信中。続巻が出るたびにストア内の「新着・話題の本」で取り上げ、安定的に売上を維持している。
『ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章 完全版』
これも紙ですでに完結している作品だが、電子書籍でも6月22日に全巻配信を完了。出揃ったところで、全巻購入という大人買いが続出し、ランキングが急上昇した。
『GIANT KILLING』
『モーニング』連載のサッカー漫画。最新24巻まで配信中。これも最新刊は紙、電子同時発売。ちなみに講談社の作品は、6月29日〜8月31日の間、「講談社 夏☆電書」という電子書籍販売キャンペーンの一環として、BookLiveが全タイトル50ポ イントバックの施策を行った。
『進撃の巨人』
『別冊少年マガジン』連載のファンタジー&バトルコミック。「このマンガがすごい」2011年版オトコ編第1位の作品。映画化も予定されている話題作。第6巻まで配信中。電子最新刊は、BookLiveが1週間独占先行配信した。
『インパクト』
40〜50代から絶大な支持があるゴルフコミック。現在29巻まで配信中。おもしろいことにこの作品、紙では在庫切れを起こしているが重版せず、販売を紙から電子に移行した。紙で在庫を維持していくにはコストがかかるが、電子版ならリスクなし。今後、一定部数は紙でも売るが、あとは電子で、という展開が増えていくだろう。
『ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女(上・下合本版)』
ようやく書籍のタイトルが登場。2月10日公開の映画『ドラゴン・タトゥーの女』の原作として大ヒット。映画公開にあわせて2月に売上が急上昇した。
『新宿スワン』
『ヤングマガジン』連載、新宿歌舞伎町の裏社会を描く青年コミック。現在30巻まで配信中。『講談社 夏☆電書2012 マンガ300ページを一気に立ち読み!!』に無料立ち読み版を収録したことが奏功。売上を伸ばした。
2012年上半期BookLive 書籍ランキング
1 |
『ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女(上・下合本版)』 スティーグ・ラーソン、ヘレンハルメ美穂・岩澤雅利訳/早川書房 |
---|---|
2 |
『スティーブ・ジョブズⅠ』 ウォルター・アイザックソン、井口耕二訳/講談社 |
3 |
『逆説の日本史』 井沢元彦/小学館 |
4 |
『すべての仕事を紙1枚にまとめてしまう整理術』 高橋政史/インプレスコミュニケーションズ/クロスメディア・パブリッシング |
5 |
『スティーブ・ジョブズⅡ』 ウォルター・アイザックソン、井口耕二訳/講談社 |
6 |
『ミニスカ宇宙海賊』 笹本祐一/朝日新聞出版 |
7 |
『妖怪アパートの幽雅な日常』 香月日輪、佐藤三千彦画/講談社 |
8 |
『這いよれ ! ニャル子さん』 逢空万太、狐印/ソフトバンククリエイティブ |
9 |
『お兄ちゃんだけど愛さえあれば関係ないよねっ』 鈴木大輔、閨月戈イラスト/メディアファクトリー |
10 |
『共食い』 田中慎弥/集英社 |
ここで書籍だけのランキングも見ておこう。電子書籍の売れ行きの一般的な傾向として、同じタイトルなら電子の売上は紙の5%程度といわれている。紙でヒットした作品が電子でも上位に来るのが基本だが、やはり電子ならではの傾向が見て取れる。
特筆すべきは、6、8、9位に入った3タイトル。ライトノベルと呼ばれるジャンルの作品だ。ジャンル別の売上を見ると、1位がライトノベル・ティーンズノベル、2位が文芸、3位がビジネス・IT、4位がミステリー、5位に歴史・時代モノが入る。このランキングでも、ライトノベルが3作品、2、4、5位がビジネス・IT、4位に歴史モノが入っている。
4位の『逆説の日本史』は、BookLiveが力を入れている作品。現在14巻と巻数も多く、3、4、6月と定期的に続巻を配信、そのたびにプロモーションをかけて、安定的な売れ行きを保っている。
もうひとつ、ランキングには入ってないが、BookLiveは、デジタル・ネイティブのコンテンツ作りにも注力している。『まんがで学ぶ成功企業の仕事術』シリーズだ。これはソフトバンク、ワタミなど、人気企業を題材にしたビジネスマンガ。読者の多いコミックでビジネスジャンルのコンテンツ開発をするという意欲的な取り組みである。電子書店は膨大な作品を限られたスペースで告知する難しさがある。売れ行きには、書店側のプロモーション効果も大きく影響する。