これだけは見逃せない! 
この春、注目のアート展

(2012.02.27)
この春、アートの世界は、
ダ・ヴィンチ、フェルメール、セザンヌ、ポロックと、ビッグネームが目白押し。
いま何を見るべきか。注目のアート展を選んでみた。

この春開催のアート展では、ダ・ヴィンチ、フェルメール、セザンヌ、ポロックと、欧米ビッグネームの名を冠したものがまず眼を引く。内容的にもかなりの充実度で、ルネサンス期の天才からモダンアートの牽引者まで、幅広い時代の作家の作品を堪能することができる。

なかでも注目は『生誕100年 ジャクソン・ポロック展』。ポロック(1912-56年)の本邦初の回顧展で、国内所蔵の約30点すべてが一堂に会するほか、ニューヨーク近代美術館はじめ世界各地から重要作を集めている。『フェルメールからのラブレター展』ではフェルメール作品3点が出品され、《手紙を読む青衣の女》(1663-64年頃)は、修復を施された後の、 本国オランダに先駆けての世界初公開となる。『レオナルド・ダ・ヴィンチ 美の理想』展の目玉は《ほつれ髪の女》(1506-08年頃)。《モナ・リザ》と同時期、円熟期の傑作で本邦初公開となる。『セザンヌ-パリとプロヴァンス』展は、オルセー美術館をはじめとする約40の美術館から借り出した油彩、水彩、デッサンの約90点で「近代絵画の父」ポール・セザンヌ(1839-1906年)の画業の初期から晩年までを紹介する。

現代アートでは、女流作家による『松井冬子展 -世界中の子と友達になれる』と『イ・ブル展:私からあなたへ、私たちだけに』のほか、スイス出身の男女のユニットによる『Gerda Steiner & Jörg Lenzlinger -Power Sources』展でそれぞれ特徴ある作品世界に触れられる。このほか、「ヘレン・ファン・ミーネ『Dogs and Girls』」展、『杉本博司 ハダカから被服へ』展、『アーヴィング・ペンと三宅一生 Visual Dialogue』展などの写真展も注目だ。

以下、個々の展覧会について少し詳しく見ていこう。

開催中~5月6日(日)東京国立近代美術館

同展の目玉は33年前のイラン革命以来、門外不出となっていたテヘラン現代美術館蔵の《インディアンレッドの地の壁画》(1950)。最高傑作との評価もある作品だ。このほか、ピカソらの影響を受けた30年代の修行期の作品から、絶頂期を経て具象的イメージが画面にふたたび現れる晩期、1950年代までの約70点が出品されている。「アクション・ペインティング」と呼ばれる、床に置いた画布に絵具をたらす「ドリッピング」手法を用いた作品群でモダンアートの新たな地平を大きく切り拓いたポロックの全体像を把握する絶好の機会となる。


ジャクソン・ポロック|《インディアンレッドの地の壁画》|1950年|テヘラン現代美術館|Tehran Museum of contemporary Art


ジャクソン・ポロック|《ナンバー11, 1949》|1949年|インディアナ大学美術館|ⓒ 2011, Indiana University Art Museum

開催中~3月14日(水)Bunkamura ザ・ミュージアム

フェルメール作品は、《手紙を読む青衣の女》のほか、《手紙を書く女》と《手紙を書く女と召使い》の3作品。《手紙を読む青衣の女》はアムステルダム国立美術館での修復によって、「フェルメール・ブルー」が鮮やかに蘇った。
これらとともに、17世紀のオランダ社会におけるコミュニケーションという観点から、ピーテル・デ・ホーホら巨匠たちの作品を、「手紙を通したコミュニケーション」など4つのテーマに分けて紹介する。

なお、フェルメールの《真珠の耳飾りの少女》を含む「マウリッツハイス美術館展」が東京都美術館で6月30日より開催予定で、フェルメールファンはこちらも必見だ。


ヨハネス・フェルメール Johannes Vermeer|《手紙を読む青衣の女》“Girl Reading a Letter”|1663-64年頃|油彩・キャンヴァス|アムステルダム国立美術館、アムステルダム市寄託|ⓒ Rijksmuseum, Amsterdam. On loan from the City of Amsterdam (A. van der Hoop Bequest)

2012年3月31日(土)~6月10日(日)Bunkamura ザ・ミュージアム

《ほつれ髪の女》以外のダ・ヴィンチ作品としては、日本初公開となる若き日の習作2点が出品される。また、ダ・ヴィンチの代表作のひとつ《岩窟の聖母》を原型とし、ダ・ヴィンチとその弟子によって共同制作されたもうひとつの同名作品も日本初公開だ。ダ・ヴィンチ自身による未完成作との説もある話題の《アイルワースのモナ・リザ》もまた初公開で、さらに、《裸のモナ・リザ》等々、ダ・ヴィンチとその同時代の画家たちの作品、書籍や資料などを加えて約80点が展示される。


レオナルド・ダ・ヴィンチ|《ほつれ髪の女》|1506-08年頃|パルマ国立美術館蔵

2012年3月28日(水)~6月11日(月)国立新美術館

セザンヌの父の別荘のために描かれた最初期の連作作品「四季」(1860-61年頃)をはじめ、《サント=ヴィクトワール山》(1886-87年)や《りんごとオレンジ》(1899年頃)などを経て、晩年に至るまでの作品を、「北のパリ」と「南のプロヴァンス」の対比からとらえ直す構成。これにより、「南北」間の頻繁な移動がセザンヌの画業に与えた影響を探る。出品作のひとつ、《3人の水浴の女たち》(1876-77年頃)はマティスが長らく所有していた作品で、マティスが「セザンヌの作品のなかで第1級の重要性をもつ」「ここから私は自分の信念と忍耐とを汲み上げた」と語ったことでも知られる。


ポール・セザンヌ|《りんごとオレンジ》|1899年頃|オルセー美術館|ⓒ RMN (Musée d’Orsay) / Hervé Lewandowski / distributed by AMF

開催中~3月18日(日)横浜美術館

現在注目の画家、松井冬子の出発点となった《世界中の子と友達になれる》(2002年)や重暗い情念を画面全体から放射する《夜盲症》(2005年)などの代表的な作品のほかに下絵とデッサンを加えた約100点によって、その全貌を伝える。3月からは初の挑戦となる映像作品も公開。


松井冬子|《世界中の子と友達になれる》|2002年|絹本着色、裏箔、紙|作家蔵(横浜美術館寄託)

開催中~5月27日(日)森美術館

韓国を代表する現代アーティスト、イ・ブルの、初期から現在まで20 年間以上にわたる作品群を総覧するはじめての展覧会。生命/身体をめぐる思考を喚起する異形の立体作品から、生成途中の建築/都市をとらえたかのような作品まで、幅広いレンジをもつ作品群の迫力は傑出している。  


イ・ブル|《出現》(部分)| 2011年|「リアル・ユートピア—無限の物語」展 2006-07年、金沢21世紀美術館での展示風景|所蔵:金沢21世紀美術館|撮影:中道淳/ナカサアンドパートナーズ

開催中~5月6日(日)水戸芸術館

ゲルダ・シュタイナーとヨルク・レンツリンガーによる過去最大規模の個展。そのポエティックとも言える作品世界は、鑑賞者が作品の一部となって鑑賞するための仕掛けやアイデアにあふれ、また、ジャンルの枠を越えた多角的な切り口によって、自由に見て参加して楽しめるのが特徴だ。


ゲルダ・シュタイナー&ヨルク・レンツリンガー|《High Water》|2011年|photo: Mick Vincenz

開催中~3月31日(土)ギャラリー小柳

ミーネはオランダの女性写真家。女性と犬のポートレイト作品を中心とした20点によって構成される。少女を撮った作品は、女性らしい傷つきやすさのなかに強い内奥も感じさせる彼女たちのたたずまいが印象的だ。犬を被写体とした作品では、堂々たる立ち姿に人間的な表情も写し取ってユーモラスさもにじませる。


Hellen van Meene|Untitled|2010年|ⓒ Hellen van Meene / Courtesy of Gallery Koyanagi


Hellen van Meene|Untitled|2011年|ⓒ Hellen van Meene / Courtesy of Gallery Koyanagi

2012年3月31日(土)~7月1日(日)原美術館

シャネルや川久保玲など、20 世紀を代表するデザイナーが手がけたファッションを撮影した「スタイアライズド スカルプチャー」シリーズを中心に、「ジオラマ」や「肖像写真」シリーズなどから選ばれた写真作品を加えて構成。「ハダカから被服へ」という人類史的な軸を浮き上がらせる。


杉本博司|《類人》|1994 年|ゼラチンシルバープリント|ⓒ Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi

杉本博司|《スタイアライズド スカルプチャー 003[川久保玲 1995]》|2007年|衣装所蔵:公益財団法人京都服飾文化研究財団|ゼラチンシルバープリント|ⓒ Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi

開催中~2012年4月8日(日)21_21 DESIGN SIGHT

三宅一生と写真家、ペンの視覚的対話に焦点を当てて構成。ペン撮影のISSEY MIYAKEコレクション250点超の写真の中から選ばれた148点を31mの壁にプロジェクター6台で投影して見せるほか、ペンのオリジナルプリントやスケッチ、さらに、ペン撮影、田中一光デザインによる、1987年春夏 – 99年秋冬のISSEY MIYAKEコレクションのポスターなども紹介する。


『アーヴィング・ペンと三宅一生 Visual Dialogue』展会場(1Fロビー)|Photo: Masaya Yoshimura