Book of the Year 2012
今年最高の本!

(2012.12.01)

「今年最高の本!」は、常に新刊に目配りしている新聞・雑誌の書評担当者の投票で、本当に面白かった本を決める企画。もともと雑誌『ダカーポ』の人気企画だったものですが、デジタル・マガジンとして再出発した『dacapo』が継続しています。本当に面白い本はなにか?

少女が出会った「東京裁判」 戦争を巡る追憶の物語

A みなさん、お久しぶりです。「今年最高の本!」の季節がやって参りました。雑誌『ダカーポ』で2000年にスタート、ウェブ版では今回が2回目となる「今年最高の本!」、今年も新聞・雑誌の書評担当の方にそれぞれ5冊ずつ、好評価の本をアンケート形式で挙げてもらいました。

A、B、C  お忙しい中、ご協力いただいた皆様、ありがとうございました!

B 去年起きた東日本大震災や原発事故の爪跡も消えず、日本の夜明けがまだ遠くに感じられる2012年ですが、どんな本が目立ったのでしょうか。

A 挙がったタイトルは昨年に同様、バラエティー豊かでしたね。ほんとにいろんなジャンルが選ばれていて目移りしますが、強いてキーワードを挙げると「戦後」に関わりがある作品がいくつかランクインしています。昨年は挙がらなかったミステリーが複数登場するのも今年の特徴です。またランキングには入らなかったものの、担当者さんの選出理由を見ると昨年と変わらず、「震災」「原発」「生き方」などを考えさせる本がやっぱり多い印象ですね。

B では、早速始めましょう。2012年、栄えある第1位は……。ジャンジャカジャーン! 赤丸急上昇中、赤坂真理さんの『東京プリズン』です。

A 主人公は、戦争を体験した親から生まれた戦争を知らない世代のマリ。40歳になったマリは、10代の時のアメリカ留学での体験がどうも心に引っかかる。その引っかかりとは何なのか? 彼女の探求はやがて母親の過去、日本の敗戦の過去につながっていきます。

C 『週刊文春』の清水陽介さんからは「少女マリが留学先で経験する『東京裁判』とも呼ぶべきディベートがもちろん最大の読みどころだが、16歳のマリと小説家になった大人のマリが時空を超えて感応するという構造が、まれに見る正面を切った戦争文学である本書に、小説の未知なる地平に挑むスリリングな現代性をも付与している」とのコメントをいただきました。
B 『産経新聞』の堀晃和さんは「『東京裁判』を独自の視点で描いた意欲作。『歴史のなぜ?』に鋭く切り込むだけでなく、少女の成長物語として描いた点が、多くの読者の共感を得たのだと思う」と、ヒットの要因を分析。敗戦後の「東京裁判」の謎に迫った作品です。

C 『週刊朝日』の奥村晶さんも、「とにかくスケールがでかい。現実と回想が入り乱れるSFチックな舞台装置がいい。異質な空間に身を委ねる快楽と不安とを同時に味わいつつ、母子の、天皇と国民の、そして、アメリカと日本の関係性を『学んで』しまう力作」とべたボメです。

A 最近は「戦後史」や「昭和史」について注目が集まっているよね。「今」という混迷の時代は、どのような歴史の道を歩んできた結果なのか。それを知りたいと思う日本人が増えたということではないでしょうか。

B読後、天皇制や日本国憲法について考えさせられる本ですね。この作品以外にも、ノンフィクション作品で注目を集めた書籍として、孫崎享さんの『戦後史の正体』、池田信夫さんの『「日本史」の終わり 変わる世界、変われない日本人』などがありました。
 

『東京プリズン』赤坂真理/河出書房新社/1,890円
発表!新聞・雑誌の書評担当者が選んだ2012年最高の本ランキング!
 1位  『東京プリズン』
 赤坂真理/河出書房新社/1,890円
2位 『64』
 横山秀夫/文藝春秋/1,995円
2位 『ソロモンの偽証』
 第I部 ~第III部 宮部みゆき/新潮社/1,890円
4位 『ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて』
 安田浩一/講談社/1,785円
4位 『飼い喰い――三匹の豚とわたし 』
 内澤旬子/岩波書店/1,995円
6位 『戦後史の正体』
 孫崎享/創元社/1,575円
6位 『奇貨』
 
松浦理英子/新潮社/1,365円
8位 『サブカル・スーパースター鬱伝』
 
吉田豪/徳間書店/1,680円
9位 『東京右半分』
 都築響一/筑摩書房/6,300円
9位 『屍者の帝国』
 伊藤計劃/円城塔/河出書房新社/1,890円
9位 『ニートの歩き方―お金がなくても楽しく暮らすためのインターネット活用法 』
 ファ(pha)/技術評論社/1,659円

 

時効間近の未解決事件に広報官が挑む!

A では続いて、第2位の発表です。第2位は……同率で2作品がランクインです。まず1冊目は、横山秀夫さんの『64』。骨太の警察小説です。 B 横山秀夫さんの待望の新作。表題の「64」は、昭和64年にD県で発生した(架空の)少女誘拐事件をテーマにしていることに由来しています。

A 7年ぶりの新作ですから、ファンの方は「待ってました!」という気持ちでしょうね。

C 『週刊文春』の長谷川さんからは「横山秀夫7年ぶりの新作。警察小説全盛期の中、刑事部上がりの広報官を主人公に据えることで、刑事と管理職との間で揺らぐアイデンティティを描いた手法はお見事。組織に勤める全ての人へお勧めできる仕事小説でもある」と、本作のユニークな視点に注目しています。

B警察小説ですが、主人公は刑事ではありません。警察の人事・会計などを担う、警務部所属の広報官である主人公が、家族の前では見せない組織の苦悩、葛藤に苛まれながらも徐々に事件の真相に迫っていきます。

C 『読売新聞』の文芸担当・村田雅幸さんは「著者7年ぶりとなる新刊は、『警察小説の一つの到達点』と呼ぶにふさわしい1冊となった。舞台は、デビュー作『陰の季節』と同じD県警。主人公の三上は刑事から広報官へと不本意な異動をさせられただけでなく、娘の失踪をきっかけに、上司に弱みを握られる。広報官としてマスコミからも突き上げられ、組織の内外からの『負荷』に耐える三上の姿に共感する社会人は少なくないはずだ。後半は一転、ミステリーとして怒濤の展開となる。あれもこれも伏線だったのかと驚かされ、三上の決意には心揺さぶられ、最後に浮かび上がる、ある人物の切なる願いには涙を誘われる。7年という時間が、著者にとっても読者にとっても、待つに値するものだったと知らしめる傑作」とコメント。組織人の葛藤が、多くの読者の共感を呼んでいるようです。

A やはり、警察小説なのに刑事が主役ではないという設定には興味を惹かれますね。

B 刑事じゃない人が事件を解決する話っていうと、家政婦やキャビンアテンダント、新聞記者に雑誌の編集者とかも事件解決してるよね! 私ももしかしたら、事件を解決できるかもしれない……。

A、C ……。

『64』横山秀夫/文藝春秋/1,995円

 

宮部みゆき待望の新作は
社会問題をも突く意欲作
A 同率で第2位が並ぶ大接戦! もうひとつの第2位は、宮部みゆきさんの『ソロモンの偽証』第I部 〜第Ⅲ部です。

B 宮部みゆきさんの5年ぶりの現代ミステリー。クリスマスの朝に校庭で中学生の飛び降り死体が見つかるところから物語の第Ⅰ部が始まります。マスコミの過剰報道が展開される中、次々と増えていく犠牲者。そもそもクリスマスに発見された中学生は自殺なのか?他殺なのか? 第Ⅱ部は14歳の少女が教師に頼らず事件の真相究明に立ち上がり、隠された真実を暴くため学校内裁判を行おうとします。第Ⅲ部では緊迫の裁判がついにスタート、そこで明かされる意外な真実とは!?

A 3冊とも700ページを超すボリュームで読み応えもありながらも、続きが気になって仕方がない!

C 『読売新聞』の村田さんからは「構想15年、執筆9年、原稿用紙にして4700枚という本作は、著者の新たな代表作と呼ぶべき大作だ。クリスマスの朝、雪の積もった中学校の校庭で、生徒が遺体で見つかる。自殺か、事件か。真実を解き明かそうと生徒たちは学校内裁判を開く。ミステリーだが、謎解きだけを楽しむ物語ではない。裁判を通し、社会と、そして自分と向き合い成長していく子供たち。その姿には、子供の持つ可能性を信じたい、命の大切さを伝えたいという著者の『祈り』が込められている。生きづらいこの世をサバイブする子供たちを力強く励ます物語」と熱いコメントも届いています。

A 『週刊東洋経済』の塚田紀史さんは「見事に現代日本の『時代』『社会』を切り取っている。それぞれの人物像も鮮明」と、現代日本との関連について言及されています。 B 今年は学校での事件、特にいじめを苦にして学校で自殺する生徒のニュースが相次ぎました。まさにこの小説は、時代を映す鏡と言えそうですね。

『ソロモンの偽証』第I部 宮部みゆき/新潮社/1,890円

 

4位2作品は
異色のドキュメンタリー

A さぁ盛り上がって参りました。続いて第4位は……ここでも2作品が同率です。まずは安田浩一さんの『ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて』。ここで初めてノンフィクション作品が登場です。

B 「ネトウヨ」という言葉を聞いたことがありますか? これは「ネット右翼」の略です。朝鮮や中国が嫌いで、朝鮮・中国びいきな人、会社、組織を主に2ちゃんねるなどのサイトで叩くような人のことを指します。特に最近では韓国叩きが目立ちますね。著者の安田浩一さんは、ネトウヨの中でも「在日特権を許さない市民の会」(在特会)のメンバーたちと向き合い続け、この本を書きました。

C 『日本経済新聞』の干場達矢さんは「『ネット右翼』の不可解な実態に切り込んだノンフィクションの秀作。何につけ『気分』に感染しやすい現代人の病理をシャープにえぐりだしている。2012年の不穏な空気感を見事にとらえた1冊だ」。本物のルポタージュがここにあり、とのご意見です。また『朝日新聞』の鈴木京一さんからは「ネット右翼といわれる『在日特権を許さない市民の会』のルポ。左翼的目線で上から裁断するのではなく、徹底的に彼らに寄り添う視点がよい」とのコメントをいただきました。 B ネット上の掲示板なんかを見ていると、よく嫌朝鮮、嫌中国の発言を見かけるよね。

A今年の夏にあったテレビ局に対する抗議デモなども、ネットからその動きは広まったようですね。

C 「顔が見えない批判者」はいったいどんな人なのか? ネットのタブーに挑戦した意欲作ですね。

A そして第4位2作品目は……これもドキュメンタリー。内澤旬子さんの『飼い喰い 三匹の豚とわたし』です! ところで二人は犬や猫を飼ったことある?

B 私は猫を2匹飼ってるよ。

C うちはマンションだからペット禁止で……。

A 筆者の内澤さんは紆余曲折しながらも家の軒先で3匹の豚を飼い始めたんだ。食べるためにね。

B、C えーっ!!

A 内澤さんは10年間に何度も国内外の屠畜場に出向き、家畜たちが肉になるまでを見続けたんだけど、ある時屠畜場にやってくる前の家畜に興味を持ちました。「彼らの『生前』の姿が知りたい」、その思いから豚を飼い始めます。

B 『週刊朝日』の奥村さんは、「自分で育てた豚を食べてみる。シンプルでプリミティブ(原始的)な欲望にまず感服。『大きく』『美味しく』が目的の家畜にも『性格』が存在し、愛情なくしては育てられないという、考えてみれば当たり前のことに気づかせてくれる」とコメントしています。

C 『週刊ポスト』の書評担当さんも、「『欲望』を満たすために、一つ一つ課題をクリアし、途中で挫折することなく初志を貫く徹底ぶりに感動、傍観者である自分の欺瞞ぶりに気づく。名前までつけて生活を共にした愛豚を食する場面は涙なくしては読めない」と。そう言われると、深いテーマな気がしてくる……。

B 『婦人公論』の角谷涼子さんは、「自ら三匹の豚を飼い、屠畜し、食べるまでのドキュメント。そんなことするなんて、気が遠くなるくらい、いちいちが大変だ。でも内澤さんは、する。『知りたい』から。到底まねできない(したくない)ことを実現して、イラストと文章にしてくれる。それを読ませてもらうのに、1900円はとっても安い」と推奨されています。

A この作品は、『PRESIDENT』編集部さんからも評価の声をいただきました。私たちは毎日「食べる」という行為を繰り返して生きています。植物や動物の命を食べるとはどういう行為なのかを、筆者の体験を通して考えさせます。豚1頭の卸値が2万〜3万円程度というのも驚きでした。

B 一昔、二昔前だと農家でなくても自分の家の庭先でよく鶏を飼って食べていたといいますが、現在ではそのようなことをまずしませんし、家畜を飼っている農家でも育てるだけで屠畜までしているところは珍しいでしょうね。稀少な体験記といえそうですね。

『ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて』安田浩一/講談社/1,785円

『飼い喰い――三匹の豚とわたし 』内澤旬子/岩波書店/1,995円

 

戦後70年の日本とアメリカの関係を読み解く

C 続いて第6位。またも同率です!まずは孫崎享さんの『戦後史の正体』。元外交官の孫崎享さんが外務省の公文書を丹念に読み込んで書かれた本です。

B 11月中旬には20万部超の販売部数を記録した、ベストセラーの一冊ですね。

C 戦後史を高校生でも理解できるように書けないだろうかという考えのもと、終戦から日米安保締結、冷戦、9・11とイラク戦争後の世界の現状までを綴っています。新しい戦後史の入門書として、注目されています。

B 『週刊朝日』の前部昌義さんは「『対米自主路線』と『対米追随路線』のせめぎ合いを軸に戦後史を再構成した力作。吉田茂、岸信介、鈴木善幸はじめ歴代首相に対する従来の評価をひっくり返していくさまは見事だ。今後の国際関係を考えるために、戦後の力学を再検証するべき時期に来ていることを痛感させてくれた」と、従来とは異なる歴史観を評価されています。これからの日米関係、日本の外交、世界の行く末について考えさせられます。

A 本当にこれからの日本、世界はどこに向かっていくのでしょうか。この一冊を足場に、じっくり歴史を振り返ってみるのもよいかもしれません。

B 同率で第6位はもう一冊あります。松浦理英子さんの『奇貨』です。おお、これは一転、艶っぽい内容のようですね。

A こちらも宮部みゆきさんと同じく、松浦さんにとっては5年ぶりの新作です。私小説作家の中年男・本田は、同棲相手の女性・七島が他の女性と親しくなったことを知り、盗聴を始めてしまいます。「女の友人」を奪われる嫉妬とレズビアンの世界を覗く快楽……。登場人物の心理が複雑に絡み合いながら物語は進みます。

C 『日本経済新聞』の干場さんは「ことし最も面白かった小説。レズビアンの女性と同棲する中年男の複雑な内面の動きを巧緻に描き出す。人間関係の不思議をサスペンスたっぷりの物語に仕立てた手腕に脱帽。この著者5年ぶりの作品だが、今回もやはり期待を裏切らなかった」と。

A 『AERA』の伊藤隆太郎さんは、「今年も数多くの魅力的な小説にひたれる僥倖に恵まれた1年だったが、とりわけベテラン女性作家による数多くの傑作に満ちていたのが印象的だ。『犬身』以来5年ぶりとなるこの小説は、同性愛と異性愛がからみあい、絶妙なバランス感覚をかもす作品。小川洋子の12年ぶりの書き下ろし長編『ことり』も円熟の筆致による傑作で、どちらも同等に推したい気持ちだ」とおすすめしています。

B フクザツなオトコゴコロ……。私もとっても興味を引かれるわ〜(笑)。

『奇貨』松浦理英子/新潮社/1,365円
『戦後史の正体』孫崎享/創元社/1,575円

 

プロ書評家でプロインタビュアーの吉田豪が
ガチで「サブカル」と対峙する

A ドンドンいきますよ。第8位。吉田豪さんの『サブカル・スーパースター鬱伝』が選ばれました。

B 「サブカルは40歳を超えると鬱になる」って、本当なのか!? そんな悲しくも興味深いテーマを設定し、吉田さんが徹底的に聞きまくります。リリー・フランキー、大槻ケンヂ、杉作J太郎、菊地成孔、みうらじゅん、鈴木慶一、松尾スズキ、唐沢俊一等々、濃いぃ〜メンツへのガチンコインタビュー集です。

C サブカル好きにはおなじみの人選ですね。『朝日新聞』の鈴木さんは「『サブカルは40歳を超えると鬱になる』という命題について、リリー・フランキー、大槻ケンヂらにインタビュー。サブカルも大人になったのだなあと感じた」とコメント。しみじみしたものを感じられたのでしょう。

A 『月刊宝島』の高岡洋詞さんは「サブカル者は40歳で鬱になる? 当時不惑直前の著者が、上記の本の伝で言えばすでに『ボケ』に回った、あるいは回りつつある先輩諸氏に語らせる『そのとき』は実にしんどく、かつ面白い。インタビュイーの教養に完璧に対応し、敬意を失わず、混ぜっ返しにも優しさがにじむ著者のインタビュアーとしての手腕にはいつもながらに感服」と、吉田さんの「聞き上手」っぷりを評価されています。

B 本当にサブカル好きは40歳を超えると鬱になるのか? その“答え”はいかに? 十人十色の含蓄あるメッセージが満載です。

『サブカル・スーパースター鬱伝』吉田豪/徳間書店/1,680円
東京の右側をディープに紹介

A それでは第9位の発表です。僅差の続く今回のランキングでは、なんと3作品がランクインです! まずご紹介するのが、都築響一さんの『東京右半分』です。

B その名の通り東東京、つまり下町を案内する一冊です。取材箇所は108カ所、図版は約1300点にものぼる徹底ぶりです。

C 下町といえば、何といっても今年オープンした東京スカイツリーに注目が集まりますが、ディープな下町の魅力はもちろんそれだけではありません。著者である都築響一さんは、下町のサブカルチャーやアングラ文化に飛び込み、何を覗いたのでしょうか。

A ポパイ、ブルータス誌の編集経験がある都築響一さんが、ブレずに自分の興味を持った対象を追いかけます。

C 『ソトコト』の小西威史さんによれば、「今、東京のクリエイティブなパワーバランスは、東へ、つまり右側に移動しつつある。そういう言い切る著者のディープな東京下町案内。錦糸町リトル・バンコクやふんどしパブ、民謡パブと、どれもおもしろすぎる」とのことです。

B ふんどしパブなんてあるんだ! 店員さんがふんどしを締めてるのか、それともお客さんが締めてるのか……。毎日お祭り気分が味わえるのかな。

A 第9位の2作品目は、伊藤計劃さんと円城塔さんの共著『屍者の帝国』です。

B 2009年に34歳で亡くなられた伊藤計劃さんの未完の原稿を、盟友の円城塔さんが引き継ぎ完成させた作品です。死者を復活させるフランケンシュタインの技術が全世界に拡散した19世紀末、シャーロック・ホームズの相棒でもあるワトソンが、秘密諜報員に!? 英国政府機関からの「密命」を受けアフガニスタンに向かう……という、聞いているだけでワクワクするようなSF作品です。

C 『週刊東洋経済』の塚田さんも、「時空を縦横に闊歩し、めっぽう面白くてずしりと重い傑作SF」と魅了された模様。

A 伊藤計劃さんが書いた冒頭30ページの原稿を円城塔さんが完結させた作品ですが、全く異なる作風の2人のコラボが相乗効果となっているようです。

B 登場人物は、文学史や歴史上の著名人のオンパレード。だから、歴史好きにも楽しめる一冊といえるわね。

A そしてとうとうラスト、第9位3作品目の発表です。今回最後にランクインされた作品は、phaさんの『ニートの歩き方―お金がなくても楽しく暮らすためのインターネット活用法』です。

B 就職難を乗り越え正社員になっても、60歳まで我慢の連続。身体が不自由になったところでようやく自由になれる、現代ニッポンの悲しさ。この作品は、「あくせく働かず、必要最低限の小銭を稼いで生きていく生き方もあるのでは」という問いかけを私たちにしています。

C 『東京新聞』の大日方公男さんからは「ニートと呼ばれる若者たちの誰もが自身をネガティブなイメージで捉えているわけではない。住まいをシェアし最低限の物を消費し、時間をゆっくり使って自分たちの生活や生き方を探り楽しみ、社会的な抑圧を制御しながら生きる若者たちも多い。勤勉で真面目な日本人は多いが、どんなに真面目に働いても不安から解放されず幸福になれない人々や若者たちがニート的生活を意味づけ方法化した本。そう言えば、われわれだってフリーターやモラトリアムとして好き勝手に生きてきた」とのコメントをいただきました。

A この作品に対しては『週刊アスキー』の書評担当者さんも「会社に勤めることができない人は無理して働くことなんかない。生き方なんて人それぞれでいい。働くことで得られる達成感や自己実現、社会とのつながりは、今ならネットで代替可能だという著者の考え方は目からウロコ」と、新しい「生き方の本」として評価されています。

B 著者のphaさんはニートといっても定職に就いていないだけで、ライター業などで最低限の収入を得て生活しています。必要以上のモノや金銭などを「持たない」生き方はシンプルで時代にマッチしているのかもしれないですね。

『東京右半分』都築響一/筑摩書房/6,300円
『屍者の帝国』伊藤計劃/円城塔/河出書房新社/1,890円
『ニートの歩き方―お金がなくても楽しく暮らすためのインターネット活用法 』ファ(pha)/技術評論社/1,659円
戦争、ドキュメント、ミステリー……
多ジャンルで豊作も
共通する「今をどう生きる?」という問いかけ

B 2012年の「今年最高の本!」は、昨年よりジャンルがより広範になり、小説が多くランクインする結果となりました。その小説の多くが、宮部みゆきさんの『ソロモンの偽証』を始め、「今を生きる」ことを考えさせるものでした。

A 昨年は、「東日本大震災と福島第一原発事故があり、時代の転換期となる2011年。2012年は、明るく温かい出来事とそれをテーマにした名著の誕生を切に願います」と締めました。あなたにとっての「2012年最高の本」は、どんな本だったでしょうか? それではまた、来年の年末にお会いしましょう!

新聞の書評担当者が選ぶ、最高の本ランキング

朝日新聞 ※順不同

  • 『「弱くても勝てます」: 開成高校野球部のセオリー』高橋秀実/新潮社/1,365円
  • 『ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて』安田浩一/講談社/1,785円
  • 『弱いロボット』岡田美智男/医学書院/2,100円
  • 『「語られないもの」としての朝鮮学校――在日民族教育とアイデンティティ・ポリティクス 』宋基燦/岩波書店/3,255円
  • 『サブカル・スーパースター鬱伝』吉田豪/徳間書店/1,680円

産経新聞

  1. 『鍵のない夢を見る』辻村深月/文芸春秋/1,470円
  2. 『共喰い』田中慎弥/集英社/1,050円
  3. 『東京プリズン』赤坂真理/河出書房新社/1,890円
  4. 『64』横山秀夫/文藝春秋/1,995円
  5. 『楽園のカンヴァス』原田マハ/新潮社/1,680円

東京新聞 

  1. 『限界集落の真実』山下祐介/ちくま新書/924円
  2. 『リスボン日記―寛容をめぐる詩的断想』横木徳久/思潮社/2,310円
  3. 『True Feelings―爪痕の真情。2011.3.12〜2012.3.11』初沢亜利撮影/三栄書房/2,800円
  4. 『ニートの歩き方―お金がなくても楽しく暮らすためのインターネット活用法 』ファ(pha)/技術評論社/1,659円
  5. 『脳はバカ、腸はかしこい』藤田紘一郎/三五館/1,260円

西日本新聞

  1. 『2666』ロベルト・ボラーニョ/)野谷 文昭 (訳)内田 兆史 (訳),久野 量一 (訳)/白水社/6,930円
  2. 『東京プリズン』赤坂真理/河出書房新社/1,890円
  3. 『脱ニッポン記――反照する精神のトポス』(上・下)米田 綱路/凱風社/2,940円
  4. 『リスボンへの夜行列車』パスカル・メルシエ/浅井 晶子 (訳)/早川書房/2,625円
  5. 『ふくわらい』西加奈子/朝日新聞出版/1,575円

日本経済新聞

  1. 『ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉』リンダ・グラットン/池村 千秋 (訳) /プレジデント社/2,100円
  2. 『ぼくはお金を使わずに生きることにした』マーク ボイル/吉田 奈緒子 (訳)/紀伊國屋書店/1,785円
  3. 『奇貨』松浦理英子/新潮社/1,365円
  4. 『農耕詩』クロード シモン/芳川 泰久(訳)/白水社/4,200円
  5. 『ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて』安田浩一/講談社/1,785円

読売新聞

  1. 『ソロモンの偽証』第I部 〜第Ⅲ部 宮部みゆき/新潮社/1,890円、『64』横山秀夫/文藝春秋/1,995円”
  2. (同率1位のため、2位はなし)
  3. 『きみはいい子』中脇初枝/ポプラ社/1,470円
  4. 『ふくわらい』西加奈子/朝日新聞出版/1,575円
  5. 『人間仮免中』卯月妙子/イースト・プレス/1,365円
総合週刊誌の書評担当者が選ぶ、最高の本ランキング

AERA

  1. 『奇貨』松浦理英子/新潮社/1,365円
  2. 『やっかいな放射線と向き合って暮らしていくための基礎知識』田崎晴明/朝日出版社/1,050円
  3. 『失脚/巫女の死 デュレンマット傑作選』フリードリヒ・デュレンマット/増本浩子(訳)/光文社/1,100円
  4. 『プリンセス願望には危険がいっぱい』ペギー・オレンスタイン/日向 やよい(訳)/東洋経済新報社/1,680円
  5. 『「あらすじ」だけで人生の意味が全部わかる世界の古典13』近藤康太郎/講談社/940円

サンデー毎日

  1. 『戦後史の正体』孫崎享/創元社/1,575円サンデー毎日
  2. 『ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて』安田浩一/講談社/1,785円
  3. 『64』横山秀夫/文藝春秋/1,995円
  4. 『深読み! 日本写真の超名作100 』飯沢耕太郎/パイインターナショナル/2,625円
  5. 『愉快な本と立派な本 毎日新聞「今週の本棚」20年名作選(1992〜1997)』丸谷 才一/池澤 夏樹/毎日新聞社 /3,675円

週刊朝日 ※順不同

  • 『飼い喰い――三匹の豚とわたし 』内澤旬子/岩波書店/1,995円
  • 『東京プリズン』赤坂真理 /河出書房新社/1,890円
  • 『希望の国』園子温/リトル・モア/1,575円
  • 『おもかげ復元師』笹原佳似子/ポプラ社/1,260円
  • 『戦後史の正体』孫崎享/創元社/1,575円

週刊アスキー ※順不同”

  • 『閉じこもるインターネット――グーグル・パーソナライズ・民主主義 イーライ・パリサー/井口 耕二(訳)/早川書房/2,100円
  • 『機械より人間らしくなれるか?: AIとの対話が、人間でいることの意味を教えてくれる』ブライアン クリスチャン /吉田 晋治 (訳) /草思社/2,940円
  • 『ニートの歩き方―お金がなくても楽しく暮らすためのインターネット活用法 』ファ(pha)/技術評論社/1,659円
  • 『2100年の科学ライフ』ミチオ・カク/ 斉藤 隆央 (訳)/NHK出版/2,730円
  • 『中の人 ネット界のトップスター26人の素顔 』古田雄介/アスキー・メディアワークス/1,050円

週刊現代

  1. 『小澤征爾さんと、音楽について話をする』小澤 征爾 /村上 春樹/新潮社/1,680円
  2. 『ソロモンの偽証』第I部 〜第Ⅲ部 宮部みゆき/新潮社/1,890円
  3. 『エリア51 世界でもっとも有名な秘密基地の真実』アニー・ジェイコブセン/ 田口俊樹 (訳)/太田出版/2,520円
  4. 『屍者の帝国』伊藤計劃/円城塔/河出書房新社/1,890円
  5. 『野球小僧』島村洋子/講談社/1,575円

週刊東洋経済 ※順不同”

  • 『ソロモンの偽証』第I部 〜第Ⅲ部 宮部みゆき/新潮社/1,890円
  • 『日本近代史』坂野潤治/ちくま新書/1,155円
  • 『自滅する選択―先延ばしで後悔しないための新しい経済学』池田新介/東洋経済新報社/1,890円
  • 『屍者の帝国』伊藤計劃/円城塔/河出書房新社/1,890円
  • 『海賊と呼ばれた男』(上・下)百田尚樹/講談社/1,680円

週刊文春

  1. 『K』三木卓/講談社/1,575円
  2. 『東京プリズン』赤坂真理/河出書房新社/1,890円
  3. 『ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて』安田浩一/講談社/1,785円
  4. 『64』横山秀夫/文藝春秋/1,995円
  5. 『わたしがいなかった街で』柴崎友香/新潮社/1,470円

週刊ポスト ※順不同”

  • 『飼い喰い――三匹の豚とわたし』内澤旬子/岩波書店/1,995円
  • 『島へ免許を取りに行く』星野博美/集英社インターナショナル/1,575円
  • 『空の拳』角田光代/日本経済新聞出版社/1,680円
  • 『火山のふもとで』松家仁之/新潮社/1,995円
  • 『二十五の瞳』樋口毅宏/文藝春秋/1,470円


総合月刊誌の書評担当者が選ぶ、最高の本ランキング

クーリエ・ジャポン ※順不同

  • 『訣別 ゴールドマン・サックス』グレッグ・スミス/徳川 家広(訳)/講談社/1,995円
  • 『外資系金融の終わり―年収5000万円トレーダーの悩ましき日々』藤沢 数希/ダイヤモンド社/1,680円
  • 『「日本史」の終わり 変わる世界、変われない日本人』池田 信夫/ 與那覇 潤/PHP研究所/1,680円
  • 『武器としての交渉思考』瀧本哲史/星海社新書/903円
  • 『名妓の夜咄』岩下尚史/文春文庫/750円

月刊宝島

  1. 『一億総ツッコミ時代』槙田雄司/星海社新書/861円
  2. 『サブカル・スーパースター鬱伝』吉田豪/徳間書店/1,680円
  3. 『俺に似たひと』平川克美/医学書院/1,680円
  4. 『検証 福島原発事故 官邸の一〇〇時間』木村英昭/岩波書店/1,890円
  5. 『間抜けの構造』ビートたけし/新潮新書/714円

ソトコト

  1. 『信念 東浦奈良男 一万日連続登山への挑戦』吉田智彦/山と渓谷社/1,575円
  2. 『街場の文体論』内田樹/ミシマ社/1,680円
  3. 『東京右半分』都築響一/筑摩書房/6,300円
  4. 『非道に生きる』園子温/朝日出版社/987円
  5. 『山伏と僕』坂本大三郎/リトル・モア/1,365円

ダ・ヴィンチ

  1. 『七夜物語』(上・下)川上弘美/朝日新聞出版/1,890円
  2. 『わたしがいなかった街で』柴崎友香/新潮社/1,470円
  3. 『楽園のカンヴァス』原田マハ/新潮社/1,680円
  4. 『最果てアーケード』小川洋子/講談社/1,575円
  5. 『雪と珊瑚と』梨木香歩/角川書店/1,575円

  1. 『独立国家のつくりかた』坂口恭平/講談社現代新書/798円
  2. 『プロメテウスの罠: 明かされなかった福島原発事故の真実 』朝日新聞特別報道部/学研パブリッシング/1,300円
  3. 『どん底 部落差別自作自演事件』高山文彦/小学館/1,995円
  4. 『世界珍本読本―キテレツ洋書ブックガイド』どどいつ文庫/社会評論社/1,470円
  5. 『オカルト 現れるモノ、隠れるモノ、見たいモノ』森達也/角川書店 /1,575円

日経WOMAN

  1. 『光圀伝 』冲方丁/角川書店/1,995円
  2. 『何者』朝井リョウ/新潮社/1,575円
  3. 『幸福な日々があります』朝倉かすみ/集英社/1,470円

婦人公論

  1. 『かっこうの親 もずの子ども 』椰月美智子/実業之日本社/1,680円
  2. 『聞く力―心をひらく35のヒント 』阿川佐和子/文春新書/840円
  3. 『仙台ぐらし 』伊坂幸太郎/荒蝦夷/1,365円
  4. 『小説講座 売れる作家の全技術 デビューだけで満足してはいけない 』大沢在昌/角川書店/1,575円
  5. 『飼い喰い――三匹の豚とわたし 』内澤旬子/岩波書店/1,995円

PRESIDENT ※順不同”

  • 『鉄のあけぼの』(上・下)黒木 亮/毎日新聞社/1,575円
  • 『飼い喰い――三匹の豚とわたし 』内澤旬子/岩波書店/1,995円
  • 『東京右半分』都築響一/筑摩書房/6,300円
  • 『復興の書店』稲泉 連/小学館/1,470円
  • 『ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉』リンダ・グラットン /池村 千秋 (訳) /プレジデント社/2,100円

文藝春秋 ※順不同”

  • 『東京プリズン』赤坂真理/河出書房新社/1,890円
  • 『ある男』木内昇/文藝春秋/1,680円
  • 『トリュフォーの手紙』山田宏一/平凡社/2,520円
  • 『正岡子規』ドナルド キーン /角地 幸男 (訳) /新潮社/1,890円
  • 『ピダハン―― 「言語本能」を超える文化と世界観』ダニエル・L・エヴェレット/屋代 通子 (訳)/みすず書房/3,570円