キーワードは「発見」
夏休み見るべき映画ベスト10
(2012.07.30)
話題作が目白押し、2012年の夏休み。いったいどれを見たらよいのか悩ましいところ。映画を見る時には「発見」を大切にしている高野てるみさんが、夏休み映画ベスト10をセレクション。これさえ読めば、映画館に行ってガッカリ、なんてことはありません!
主演の俳優だけでなく脇役、端役に実は美男美女がいたり、バックに流れる音楽が絶妙だったり、思わず唸るようなストーリー展開を見せたり、「家族」や「仲間」といった普遍の題材を、どんな味つけで「料理」したか……五感を研ぎ澄ませて観ると、たくさんの驚きと発見が見つかり、幸せ気分もひとしおです。そんな目の付けどころで選んだ10本。「発見」「音楽」「アイロニー」「美男・美女」「ストーリーラインの上手さ」それぞれ2ポイントずつで採点、10点満点で上位得点作品からランキングしたものです。
やはり目立つのは、ドンドン進化している3Dがご自慢の映画たち。『アメイジング・スパイダーマン』や『ダークナイト ライジング』『アベンジャーズ』ほかアクション大作の迫力には魅了されますが3Dアニメ『マダガスカル3』も負けていません。
しかしそれらを制してトップでオススメは涙なしには見られないアウンサンスーチーさんのストーリーを描く『ザ・レディ アウンサンスーチー ひき裂かれた愛』。「鉄の女」と呼ばれるスーチーさんの固い信念と、それをサポートした家族愛を新たに発見できるはずです。
ベスト10以外での注目作品は、第22回小説すばる新人賞受賞の小説の映画化作品『桐島、部活やめるってよ』。ひとつの出来事を、5人の高校生の目から描く青春群像劇。映画部に所属する主人公が、幅を利かせた体育会系と戦うのですが、この抗争はいわば現代の『ウエスト・サイド・ストーリー』。ハリウッド映画にも迫る構成になっています。
このランキングをぜひ、お出かけの参考にしてみてください。
1位 | 『The Lady アウンサンスーチー ひきさかれた愛』 |
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2位 | 『アメイジング・スパイダーマン』 |
『マダガスカル3』 | |
4位 | 『ヘルタースケルター』 |
5位 | 『テイク・ディス・ワルツ』 |
6位 | 『Virginia/ヴァージニア』 |
7位 | 『ジョルダーニ家の人々』 |
8位 | 『誰もがクジラを愛してる。』 |
9位 | 『るろうに剣心』 |
10位 | 『ダークナイト ライジング』 |
注目 | 『桐島、部活やめるってよ』 |
『The Lady アウンサンスーチー ひきさかれた愛』
大発見!スーチーの強さの秘密は家族愛と音楽。
暗殺された父に代わって、軍事政権下の独立運動のリーダーとして活動するアウンサンスーチー。通算15年もの自宅軟禁の後、2010年に解放され自由を勝ち得た彼女の生き方は、世界中に勇気と希望をもたらした。『ジャンヌ・ダルク』、『ニキ―タ』などで強く美しい女性像を描き評価されたリュック・ベッソン監督久々の取り組みと、本人そっくりのミシェル・ヨーの熱演に注目。彼女を挫けさせなかった夫と息子たちの愛や、音楽の存在に、感動の涙が止まらない。
『アメイジング・スパイダーマン』
3D製クモの糸にからめとられる超・快感。
アメコミ作品原作、ハイクオリティなエンターテイメントを見せつけてくれる。3Dに慣れっこになった眼にも、クモの糸の美しさは秀逸。この夏ダントツの3D、絶対、味わうべし。ロマンチック度も高。監督・キャストが入れ替わったが、相変わらず美形揃いでうれしい。1作目でジェームズ・フランコを注目株と見抜いた私は、誕生の秘密を握る博士役、リス・エヴァンスに惹かれてしまう。Sサリー・フィールドが演じたことで、メイ伯母さんがいい女だったことに納得。
『マダガスカル3』
大人の女もトキメク、文句なしに楽しい3Dアニメ。
3D効果では、こちらも新鮮。キラキラしたラメ感が、体中にまとわりつく新体感。今年のカンヌ映画祭でも上映され、マダガスカルからNYに戻ろうとする主人公たちが、モンテカルロのカジノから、ローマ、ロンドンをサーカス団と巡り、観る者をヨーロッパ観光にご案内。おまけに、落ちぶれサーカス団が奮起して、胸のすくような芸も見せてくれる。エディツト・ピアフの歌が上手な、動物捕獲に命をかける鬼・女警部登場にも大笑い。子供にはおませ過ぎなくらい。3作目にしてオシャレに進化した。
『ヘルタースケルター』
ほぼ、全身整形。カリスマ・スターの情熱とは。
こちらはラメならぬ、原色世界。原作・岡崎京子、監督・蜷川実花、主演・沢尻エリカが生み出すセンセーショナルな存在のカリスマ・スター りりこの過酷で一途な生き様は、多くの女性たちの心をつかんでやまない。若さ、美しさへのあくなき欲望が生み出す戦慄の事件。物語は原作に忠実だが、シーンの一つひとつに、監督の思い入れが込められ、アート感覚溢れるエンタテインメントとしても堪能できる。脇を固める桃井かおりの上手さに拍手、寺島しのぶのここまでやるかのプロ魂に圧倒される。
『テイク・ディス・ワルツ』
女子のホンネむき出し。可愛い欲望にドッキリ。
『マリリン 7日間の恋』でモンローに上手に“化けた”ミシェル・ウイリアムズ。この作品でもかなりマリリンしている。生まれたての様な顔と幼女の様な所作で男子を惑わす。うーむ、美人じゃないけど隅に置けないぞ。で、結婚生活は平和だが、何かが足りない。その何かを埋めるがごとく新たな男子の登場。彼を相手に、女の肉体的かつ精神的願望が可愛らしく描かれ、よその家庭を覗き見する様な快感で最後まで観てしまう。が、まさかの展開。観ているこちらも自分の中の女の業を炙り出されるよう。
『Virginia/ヴァージニア』
巨匠コッポラが生んだ、美少女ヴァンパイア。
この春公開のティム・バートン監督『ダーク・シャドウ』、9月半ば公開、岩井俊二監督『ヴァンパイア』と吸血鬼映画が立て続けなのは、究極のアンチエイジング、ヴァンパイアが持つ永遠の生命への憧れから? 92年に『ドラキュラ』を映画化したフランシス・F・コッポラ監督も再び挑戦。ヴァル・キルマー演じるオカルト作家が出会うエル・ファニングの美少女ヴァンパイアぶりがコッポラのゴシック・ミステリーの世界を輝かせる。怪談小説の権威、エドガー・A・ポーのお出ましもあり興味深い。
『ジョルダーニ家の人々』
家庭は家族によって滅ぼされるものなのか?
オペラや歌舞伎なら当たり前の長さ。その調子で夏休みだから、映画館でじっくり6時間39分を使っても損はない。羨ましいくらい家族の絆を大切にするのがイタリア人たち。恵まれたローマの中産階級の家庭に突然訪れた悲劇。末息子の自動車事故死から、母親は精神の安定を崩し、一家は離ればなれになっていく。幸せの象徴とされる家庭や家族の存在を今の時代に問う問題作。登場人物一人ひとりが、日ごと訪れる運命の中、家族の一員としてあがく姿に胸が熱くなるのはなぜだろう。
『誰もがくじらを愛してる。』
エコorエゴ? クジラ救助のためにひとつになる人々。
ラブ・ロマンスならお任せのドリュー・ヴァリモアが挑んだ環境もので、今回の「愛」はクジラに向けられた。88年アラスカ州で起き、世界的に報道されたクジラ親子救出の実話がベース。ドリューはグリーンピースの自然環境保護活動メンバー役。奔走する姿がジュリア・ロバーツがアカデミー賞主演女優賞を獲得した『エリン・ブロコビッチ』の演技とダブる。沖へ戻れなくなったクジラが酸素を求め海面から顔を出す。その時の鳴き声が、環境破壊をこれ以上繰り返さないでという願いに聞こえた。
『るろうに剣心』
人として、人斬りを辞めた流浪人の生き方。
大河ドラマ『龍馬伝』で名をとどろかせた大友啓史監督による時代劇が、スクリーンで堪能できる。『龍馬伝』で岡田以蔵を演じた佐藤健がベストセラー・コミック『るろうに剣心』の主人公、緋村剣心として登場。必殺の腕を持つ剣心だが、明治時代になって決して人斬りはしないと心に誓い、新たな人生を歩むのだが、動再び決戦を強いられることに。侍の美学を体現するにふさわしい若さと美しさを持つ佐藤健あってこそ、この映画は際立つ。彼の美しさと魅力のすべてに酔いしれる。
『ダークナイト ライジング』
あきらめないヒーローの確固たる美学。
89年にティム・バートン監督『バットマン』誕生。以来、23年の歳月を経て、7本目にあたるのが本作。05年の『バットマン ビギンズ』より、監督クリストファー・ノーラン、主演クリスチャン・ベールのコンビが生まれ、『ダークナイト』シリーズへと。『スパイダーマン』が父を追い求め、自分の強さに悩むボーイズ・ヒーローなら、『バットマン』は強さを常に自問し追求する大人のヒーロー。超ド級テロリスト、ベイン演じるトム・ハーディーの美貌が終始マスクで覆われているのはちょっと残念。
PICK UP!
『桐島、部活やめるってよ 』
全編に漂う、トホホな笑いと映画愛。
新しい時代の青春映画とのふれこみだ。が、なんの、なんの、部活に命がけ、そこには恋も渦巻き、となると、立派な普遍的青春もの。そのへんに、むしろ好感が持てた。原作は第22回小説すばる新人賞受賞の、映画と同名のベストセラー小説。体育系部活のエース、桐島なる男子生徒が部活を辞るという情報から、騒動が巻き起こる。終始見下されている映画部に属するトホホな主人公には、神木隆之介。明らかに映画オタクなのだが、彼を象徴的に配した本作の隅々には映画への愛が散りばめられていた。