息をのんで見つめる暗闇の隙間に、時折差し込むまばゆい程の光。映画『闇の列車、光の旅』

(2010.06.19)

サンダンス映画祭で監督賞を受賞したほか、世界各国の映画祭に次々ノミネートを果たし、数多くの賞に輝いたのは、32歳の日系監督キャリー・ジョージ・フクナガの長編デビュー作『闇の列車、光の旅』。人気俳優ガエル・ガルシア・ベルナルとディエゴ・ルナがその才能に惚れ込み、製作を手掛けたことでも話題ですが、中南米社会が抱える深刻な移民問題を監督自ら身体を張って経験し、その事実をもとに新たなロードムービーとして構築した実力派監督の誕生に今、世界中が注目しています。

テーマは重く、年端もいかない子どもがギャングに入るための通過儀礼と称したリンチで蹴られて血だらけになっても、仲間として認められた嬉しさから思わず笑みをこぼすなど、目をそむけたくなるシーンもありますが、これらが実際に同じ時代を生きる人々の身に起きているということを知らずに、いかに自分たちが身の回りの問題ばかりにとらわれているかを突き付けられた思いがしました。

列車の屋根に一人座るカスペルに、後ろから近づきそっと食べ物を差し出すサイラ。強盗目的のギャングでありながらも結果的に彼女の命の恩人となった、群れを外れた狼のような孤独を抱える少年に、臆病な小動物のようなしぐさと獰猛な野生の眼差しをあわせもつ、多感な年頃の少女が惹かれてしまうのは無理もないこと。

「(追ってに殺されるのが)怖くないの?」と尋ねるサイラに、「生きるあてもないしな」と力なく首をふりながらも、「ただ“その日”が分からないのが困る」と吐露するカスペルの横顔には、諦めと同時に、微かな希望を抱いてしまう人間の苦悩が滲みはじめます。国境への旅の途中、徐々に打ち解けていくふたりの姿をドキュメントのように見守るうち、それがどんなに苛酷な状況であるかを忘れてしまうほど、きらめく瞬間がそこにはあります。

自分と一緒にいたら彼女まで破滅への道を辿るだけだとわかっているからこそ「面倒見切れない」と突き放す彼に対し、「頼んでないわ」と切り返すサイラの掛け値のない思い。

もはや、何が正しいとか正しくないとかでは語ることのできない状況下においては、自分のことに精一杯で家族の身すら守れないというのに、それでも一緒にいたいと願うサイラの一途さが胸に迫ります。

 

ストーリー

ホンジュラスに住む少女サイラ。よりよい暮らしを求め、父とアメリカを目指すことにした彼女は、移民たちがひしめきあう列車の屋根の上で、カスペルというメキシコ人少年と運命の出会いを果たす。彼は、強盗目的で列車に乗り込んだギャングの一員だったが、サイラに暴行を加えようとするギャングのリーダーを殺し、サイラを救う。裏切り者として組織から追われることになったカスペルと、彼に信頼と淡い恋心を寄せ、行動を共にするサイラ。国境警備隊の目をかいくぐり、組織の待ち伏せをかわしながら、二人は命がけで国境を目指すのだが―。

 

『闇の列車、光の旅』

6月19日(土)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国順次ロードショー!

監督:キャリー・ジョージ・フクナガ(長編初監督) 
キャスト:パウリーナ・ガイタン / エドガー・フロレス
製作総指揮:ガエル・ガルシア・ベルナル、ディエゴ・ルナ、パブロ・クルス 原題:Sin Nombre 
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2009 / アメリカ・メキシコ / シネマスコープ / ドルビーデジタル / スペイン語 / 96分 / PG-12 

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