さざなみのように静かな波紋を残す映画『シスタースマイル ドミニクの歌』

(2010.07.03)

“全米ビルボードで1位を獲得し、レコードの売り上げはエルヴィス・プレスリーを超え、世界で300万枚のセールスを記録。日本でもペギー葉山、ザ・ピーナッツ、そしてNHK『みんなのうた』で歌われ注目を集めた「ドミニ~ク、ニクニク♪」”…とせっかく説明を受けたところで、正直これまでこの歌を一度も聴いたことのない私の心にはダイレクトに響かなかったのですが、映画『シスタースマイル ドミニクの歌』は、その明るい印象とはうらはらに、ある実在の女性の生き様を描いた、さざ波のように静かな波紋を残す作品だったんです。

1950〜60年代のベルギーを舞台に、セシル・ド・フランス演じる主人公シスタースマイルことジャニーヌが、自らの信念に従い、世間や家族とぶつかりながらも真っ直ぐ突き進む姿は、屈託のない無邪気さと時に露呈する精神的な未熟さとが背中合わせの不安定な危うさを、見事に体現しています。

今の時代では考えられないくらい当時のベルギーでは女性の自立が難しかったことや、著作権を巡る問題がまだ十分に整ってはいないことなど、考えさせられる要素はいくつかあるのですが、ジャニーヌが本当に求めていたのは、あらゆる事柄から自由であること以上に、自分に向けられた愛情を目に見える形で実感することに他ならない、と気付いた途端、そこに時代を越えた極めて普遍的なテーマが立ち現れるのです。

修道服姿の謎めいた「シスタースマイル」の後ろ姿が、世の人々の興味と関心を誘う、というレコード会社の戦略は見事に的中しましたが、修道院を去ったあと、ミニのワンピースにギターを抱え、夢だったステージへと飛び出すジャニーヌの後ろ姿も、今見ても十分通用する可愛らしさ。
ちょっぴりレトロなファッションを身に纏い、懐かしいナンバーの数々に彩られたシーンを駆け抜けるジャニーヌの日々は、演じたセシル・ド・フランス自身の持つ清々しさにも助けられ、どんな逆境に追い込まれても不思議と悲壮感を漂わせることなく、観る者を惹き付けて止みません。

「自分にはそれしか出来ないから」と、決して妥協する道を選ばなかったジャニーヌ。一度は華々しい成功を飾りながら、周りの「大人」たちに利用され、孤独で切ない生涯を送ったかのようにも写りますが、こうして「ドミニク」の歌が今でも世界中で歌い継がれ、私のようにこの歌を聴いたことのない世代にも映画という形で彼女の功績が伝えられることになったのは、単なる一発屋という括りでは語り尽くせない物語があるから。ジャニーヌから零れ落ちた「歌」という水滴は、その波形を少しずつ変えながら、川を流れてどこまでも果てしない海へと広がったのです。

 

ストーリー 

1950年代の終わり、ベルギー ブリュッセルの近郊。多くの若い女性たちのように、ジャニーヌ・デッケルスも自由を求めて自分の人生を見つけたいと思う女学生のひとりだった。そしてジャニーヌは、親の望む結婚や家業を継ぐことよりも、シスターになる道を選ぶ。厳格な修道院での生活の中、彼女の音楽の才能に気がついたシスターたちに励まされ、聖ドミニコの教えを歌にした『ドミニク』が誕生。その美しいメロディと歌声が話題となり、ジャニーヌは〈謎の歌うシスター〉としてレコードデビューを果たし、一躍大スターとなるのだが・・・。

 

『シスタースマイル ドミニクの歌』

2010年7月3日(土)より シネスイッチ銀座 ほか全国順次ロードショー

主演:セシル・ド・フランス、サンドリーヌ・ブランク、クリス・ロメ
監督:ステイン・コニンクス
音楽:ブルノ・フォンテーヌ
配給:セテラ・インターナショナル
原題:Soeur Sourire/2009年度製作/フランス=ベルギー/124分/カラー/ドルビーSRD/35mm/字幕:古田由紀子