『アイム・ソー・エキサイテッド!』主演 J・カマラインタビュー アルモドバル監督の映画は
あらゆる意味を変革する。
(2014.01.27)
SMの女王、人気俳優に殺し屋とひと筋縄ではいかない乗客、オネエのキャビンアテンダントたちを乗せた飛行機が着陸不能に! 『アイム・ソー・エキサイテッド!』は、スペインの鬼才ペドロ・アルモドバル監督のキッチュで楽しいブラック・コメディです。主演のハビエル・カマラさんにお話をうかがいました。
高校の先生の薦めで
俳優の道へ。
ー『アイム・ソー・エキサイテッド!』でハビエルさんは冗談好きでアルコホーリック。踊って観客を楽しませるぶっ飛んだオネエのキャビン・アテンダント、ホセラを演じています。同じペドロ・アルモドバル監督の『トーク・トゥ・ハー(Talk to Her)』(’02)では、自称ゲイの青年ベニグノを演じてらっしゃいましたがずいぶん印象が異なります。本当に同じ俳優さんなのかと目を疑いました。確かな演技力のたまものを思われますが、俳優としてのキャリアは?
ハビエル:僕の出身地はラ・リオハ州、スペインワインの産地として有名な地方だよ。父が葡萄農園をやっていたから農業高校に通っていたんだけど、歴史の先生に「君は俳優に向いている」と言われたことがきっかけでちょっと演技を勉強してみようかなという気になったんだ。それで州都 ログローニョの演劇学校に入って、はじめて演技のクラスに参加した時、鳥肌が立ってしまった。他の生徒が演技しているのを観ていただけなんだけど、「ここだ! これが僕のいたい世界だ!」と思ったんだ。
その後、マドリッドに出てきてスペイン王立演劇大学(Real Escuela Superior de Arte Dramático)で4年間演技の勉強をした。卒業後は舞台を中心に活動していたんだけどテレビドラマの仕事もするようになって1999~2001年に『シエテ・ヴィーダス(7vidas)』というコメディ・シリーズに出演したんだ。この作品で僕はコメディ俳優として認知されるようになったと思うよ。スペインでは僕はコメディ俳優として知られているんだ。だけど『トーク・トゥ・ハー』 みたいなシリアスなものも演る。日本のタケシ・キタノはもともとコメディアンだよね? でも映画ではシリアスな演技もする。きっとそんな感じで見られていると思うよ。もっとも「世界のキタノ」は、監督として知られた存在だけど。
テレビ出演がきっかけで
コメディの世界へ。
ー舞台俳優として充分な基礎メソッドを身につけて、劇場からテレビに進出して行かれたわけですね。コメディ俳優として知られていく中でどなたか目標にしたコメディアンなどはいらっしゃいましたか?
ハビエル:僕自身はコメディを目指していたわけでなくて、コメディ作品が僕のちょっと面白いルックスを利用したという感じかな。とはいっても60年~70年代のスペインには本当に面白いコメディの俳優がたくさんいたんだけどね。僕はコメディアンというよりも、なんでもできる俳優になりたいと思っている。コメディにとても魅力を感じているけどね。コメディはとても繊細な芸術だよ。
ーなんでも、というのは歌やダンスも含めてですか?
ハビエル:不思議なことにRESAD(スペイン王立演劇大学)ではダンスのクラスはなかったんだ。歌のクラスはあったけど。今回『アイム・ソー・エキサイテッド!』で披露したダンスは特別なことだよ(笑)。
ーでもあなたは『バッド・エデュケーション』の中で踊ってましたよね?
ハビエル:ああ、そうだった! 主人公イグナシオのもうひとつの顔であるドラァグクイーン サハラの登場をアナウンスするシーン。でも、あの時は用意されたダンスがあってそれを練習して踊ったわけではなく、インプロビゼーションなんだよ。もともと脚本には僕が踊るシーンはなかったんだけど、撮影が進むうちにペドロ(アルモドバル監督)が「ハビエル、ここで踊れよ!」と言って、つけ加えられることになった。
実はあのシーンはセリフも考え込まれた面白いものがあった。僕が演じるパカがマドリッド訛りで「サハラの登場です!」とやるんだ。Zがうまく発音できないから「サハラ」と言ってても「サラ」みたいに聞こえる。サハラ砂漠という意味にもとれるし、当時マドリッドにあった有名なクラブ『サラ』でもある。スペインの観客にはそれがわかるから面白がるよね。
暗喩が多く隠される
ペドロ・アルモドバル作品。
ーそのようにアルモドバル監督の作品はダブルミーニングや暗喩がたくさんありますよね。たとえば『アイム・ソー・エキサイテッド!』の乗客たちが乗り合わせる飛行機の航空会社の名前は「ペニンシュラ」です、Pennisが名前に入っており、しかもラストシーンでそのボディが白い泡で覆われるのはかなりエロティックな暗喩ではないでしょうか?
ハビエル:それはあまりに欲求不満な解釈じゃない?(笑) たしかにアルモドバル監督の作品は、ダブル・ミーニングが多いです。ダブルどころじゃないトリプルの意味があったりします。作品をよく観てほしいですね。
ー乗客たちが乗り合わせるペニンシュラ航空2549便の機体にある「Chavela Blanca(チャベラ・ブランカ)」という文字も、何かセクシュアルな意味があるのでしょうか?
ハビエル:チャベラ(Chavela)はペドロが敬愛するメキシコの歌手、チャベラ・バルガス(Chavela Vargas)から。ブランカ(Blanca)はペドロの大切な友達の名前です。「チャベラ・ブランカ(Chavela Blanca)」と合わせるとどことなくリズムのある響きの言葉になっているよね。
ー『アイム・ソー・エキサイテッド!』は一筋縄ではいかない登場人物、SMの女王、ドラッグ中毒のカップル、愛人関係に悩む俳優、処女を捨てたいあまりのオールドミス、ホモ&バイセクシュアルな乗務員の愛の形の図鑑さながらです。それだけでなくつらいことはアルコールやドラッグ、ダンスで忘れてしまおうというハチャメチャなブラックコメディです。これだけセックス、アルコール、ドラッグを前面に出したコメディというのも珍しいと思うのですが、スペインではどのように受け取られたのでしょう?
ハビエル:ご存知のようにスペインは今、経済的な困難に直面していて暗いムードが漂っている。だからコメディを作ることによってみんなに笑って行ってほしいという気持ちがペドロにはあったと思う。もちろんスペインの観客だけではなく映画を見る人みんなにね。ダブル・ミーニングやトリプル・ミーニングにしてもそうだけど、アルモドバル作品は先入観や偏見を乗り越えてあらゆる意味を変革していく。映画による変革ともいえるんじゃないかな。
『アイム・ソー・エキサイテッド!』
2014年1月25日(土)新宿ピカデリー、
ヒューマントラストシネマ有楽町他全国公開
出演:ハビエル・カマラ、カルロス・アレセス、ラウル・アレバロ、ホゼ・マリア・ヤズビック、ギレルモ・トレド、ロラ・ドゥエニャス、ホゼ・ルイス・トリーホ、セシリア・ロス、ブランカ・スアレス
監督・脚本:ペドロ・アルモドバル
製作総指揮:アグスティン・アルモドバル
音楽:アルベルト・イグレシアス
撮影:ホセ・ルイス・アルカイネ
美術:アンチョン・ゴメス
衣装デザイン:タチアナ・エルナンデス、ダヴィデルフィン
配給:ショウゲート
2013年/5.1ch/ビスタ/スペイン/90分/R15+
©EL DESEO D.A.S.L.U M-39978-2012