シルヴァン・ショメ『ぼくを探しに』公開中 紅茶とマドレーヌで『ぼくを探しに』
ポールの幼い記憶巡礼の物語。

(2014.08.13)
©  2013 EUROWIDE FILM PRODUCTION-PATHE PRODUCTION FRANCE 3 CINEMA-APPALOOSA DEVELOPPEMENT
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2歳で両親を亡くし、言葉を失った青年ポールの記憶巡礼の物語。

原題とまったく違う邦題タイトルは『失われた時を求めて』を少し意識しているのだろうか。マルセル・プルーストによるこの本の最も有名な一説「紅茶に浸してやわらかくなったマドレーヌごと、ひとさじのお茶を口に持っていったとたん子ども時代の記憶が一気によみがえる」エピソードをユニークな小道具として使いながら展開される物語。

音楽一家に生まれたポールは、2歳のとき目の前で両親を亡くしたショックから話せなくなってしまった青年。亡き母のふたりの姉に引き取られてピアニストとして育てられた。ポールの中に両親の記憶は残っていない。残された何枚もの写真だけが母の思い出だ。

姉たちが主宰するダンス教室で、好物のシューケットを食べながら黙々と演奏するポール、目下の目標はピアノコンクールで優勝すること。ピアノの練習とダンス教室での演奏、ときどき近所の公園で散歩するだけで日々淡々と暮らしている。ときどき母の写真を見ながら幸せだった赤ちゃんのころを想像するのが唯一の楽しみ。

そんなある日ポールは、自分のピアノの調律師に落とし物を渡そうと、彼を追って階下のある部屋に入ることに…。するとそこには謎の女性マダム・プルーストの緑の楽園が広がっていた。このマダム・プルーストこそ「紅茶とマドレーヌ」で遠い記憶の世界への扉を開いてくれる人だった…。

  • シューケットが大好物のポール ©  2013 EUROWIDE FILM PRODUCTION-PATHE PRODUCTION FRANCE 3 CINEMA-APPALOOSA DEVELOPPEMENT
    シューケットが大好物のポール © 2013 EUROWIDE FILM PRODUCTION-PATHE PRODUCTION FRANCE 3 CINEMA-APPALOOSA DEVELOPPEMENT
  • アニー&アンナ伯母さんとポール ©  2013 EUROWIDE FILM PRODUCTION-PATHE PRODUCTION FRANCE 3 CINEMA-APPALOOSA DEVELOPPEMENT
    アニー&アンナ伯母さんとポール © 2013 EUROWIDE FILM PRODUCTION-PATHE PRODUCTION FRANCE 3 CINEMA-APPALOOSA DEVELOPPEMENT
  • 母アニタ ©  2013 EUROWIDE FILM PRODUCTION-PATHE PRODUCTION FRANCE 3 CINEMA-APPALOOSA DEVELOPPEMENT
    母アニタ © 2013 EUROWIDE FILM PRODUCTION-PATHE PRODUCTION FRANCE 3 CINEMA-APPALOOSA DEVELOPPEMENT
  • マダム・プルーストの部屋 ©  2013 EUROWIDE FILM PRODUCTION-PATHE PRODUCTION FRANCE 3 CINEMA-APPALOOSA DEVELOPPEMENT
    マダム・プルーストの部屋 © 2013 EUROWIDE FILM PRODUCTION-PATHE PRODUCTION FRANCE 3 CINEMA-APPALOOSA DEVELOPPEMENT
この映画こそがマドレーヌと紅茶。あなた記憶の中の映画や本や音楽がよみがえる。

ポールが今いる現実の世界はダークグリーンやダークブラウンの濃い色合いと陰影が強い映像。ポールはメヌエットやワルツを弾き、コンクールのために練習するクラシック音楽が流れる。一方、記憶の中の映像はポップなミュージカル。サルサやタンゴ、マンボなどラテンのリズムに乗せた極彩色のカラフルな世界。さながら『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』の展開のように、まったく異なる2つの世界が交互に現れ、観るものみなを現実と夢、ふたつの世界への旅へと連れていってくれる。

『イリュージョニスト』、『ベルヴィル・ランデブー』のアニメ映画監督シルヴァン・ショメが、『アメリ』のプロデューサーとタッグを組んでつくった初の実写長編映画で、脚本も音楽もすべて彼の手によるオリジナル。ストーリーは、自身の作品である『ベルヴィル・ランデブー』のサントラで使われた楽曲「アッティラ・マルセル」にインスピレーションを受けて書き上げたという。

またこの映画には、いろいろなフランス映画へのオマージュがぎっしり。オマージュといっても『ピアニスト』と『サルサ!』に対しては物申しながら、『ロシュフォールの恋人』や『家族の味見』にはコミカルにパロディ、『デリカテッセン』や『アメリ』、『ムード・インディゴ』にはアニメと実写の真ん中にある映像美に共感を持って、とベクトルはさまざま。もちろん観る人それぞれによって感じ方もきっとさまざま。マドレーヌと紅茶が、あなたの中に眠っているフランス映画の思い出の旅へと誘ってくれるかもしれません。

と同時に、フランス映画はあまり見ないという人もストレートに楽しめる作品。親子や家族の深い愛情や絆、本当の友情、フランスの日常生活におけるカラフルな風景やエスプリ、さらにはクリシェや人種差別へのユーモアたっぷりのジャブなど、トリビアをちりばめながらも、世界共通の「人の温かさ」と「本当の幸せ」について描かれていて、見終わった後はみんな優しい気持ちになれるはず。

  • アニー&アンナ伯母さん ©  2013 EUROWIDE FILM PRODUCTION-PATHE PRODUCTION FRANCE 3 CINEMA-APPALOOSA DEVELOPPEMENT
    アニー&アンナ伯母さん © 2013 EUROWIDE FILM PRODUCTION-PATHE PRODUCTION FRANCE 3 CINEMA-APPALOOSA DEVELOPPEMENT
  • 母アニタ ©  2013 EUROWIDE FILM PRODUCTION-PATHE PRODUCTION FRANCE 3 CINEMA-APPALOOSA DEVELOPPEMENT
    母アニタ © 2013 EUROWIDE FILM PRODUCTION-PATHE PRODUCTION FRANCE 3 CINEMA-APPALOOSA DEVELOPPEMENT
  • ポールとチェリストのミシェル、マダム・プルースト ©  2013 EUROWIDE FILM PRODUCTION-PATHE PRODUCTION FRANCE 3 CINEMA-APPALOOSA DEVELOPPEMENT
    ポールとチェリストのミシェル、マダム・プルースト © 2013 EUROWIDE FILM PRODUCTION-PATHE PRODUCTION FRANCE 3 CINEMA-APPALOOSA DEVELOPPEMENT
  • ポールの母と父 ©  2013 EUROWIDE FILM PRODUCTION-PATHE PRODUCTION FRANCE 3 CINEMA-APPALOOSA DEVELOPPEMENT
    ポールの母と父 © 2013 EUROWIDE FILM PRODUCTION-PATHE PRODUCTION FRANCE 3 CINEMA-APPALOOSA DEVELOPPEMENT

『ぼくを探しに』
監督・脚本・音楽:シルヴァン・ショメ
製作:クローディー・オサール
出演:ギョーム・グイ(アッティラ・マルセル、ポール)、アンヌ・ル・ニ(マダム・プルースト)、ベルナデッド・ラフォン(アニー伯母さん)、エレーヌ・ヴァンサン(アンナ伯母さん)、ルイス・レゴ(ミスター・コエーリョ)、ファニー・トゥーロン(アニタ/ママ)ほか

2013/仏/106分/カラー/フランス語/ビスタ/5.1ch/原題:ATTILA MARCEL/配給:トランスフォーマー/日本語字幕:岩辺いずみ/後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本

シネマライズ、シネ・リーブル池袋ほか全国上映中