深瀬鋭一郎のあーとdeロハスアトランタはアートでいっぱい!
世界に先駆けた空港アートなど。

(2012.12.28)

日食に思いを馳せる。

ロンドンの後、アトランタ、ケイマン、バンコック、デトロイト、ワシントン等 を巡っていました。≪あーとdeロハス≫的にみて、それぞれに面白い点がありました。すっかり年の瀬になってしまいましたが、今回はアトランタのアート状況 をご紹介しようと思います。

アトランタでは滞在時期が夏至を跨いだので、5月 21日に東京で金環日食を撮影(写真1)した勢いで、夏至の日の入りを撮影してきました(写真2)。ちょうど夜9時頃に日没でした。日食の時もアマテラス神話などの太古に思いを馳せていたのですが、日没でもアメリカ大陸をインディアンが闊歩していた頃に思いを馳せて厳粛な気持ちとなりました。


アトランタの夏至-日没No3©深瀬鋭一郎(写真2)
実はアートで埋め尽くされている
ジョージア州アトランタ。

ジョージア州アトランタと聞いて、何を連想されるでしょうか。アメリカ南部で一番大きい都会(人口42万人)。1996年のアトランタ・オリンピック開催地(写真3)。コカコーラやCNN発祥の地。ハリウッド映画≪風とともに去りぬ≫の舞台。 公民権運動の指導者であったマーティン・ルーサー・キングJr.牧師やジミー・ カーター大統領の出身地。いずれも正解です。

もっとも、アトランタに、センテニアル・オリンピック公園や、ワールド・オブ・コカコーラ博物館、CNNスタジ オ、キング牧師国立歴史地区などがあることを知っていたとしても、この街が実はアートで埋め尽くされていることを知る人は少ないかもしれません。


1996年のアトランタ・オリンピック開催地アトランタ。オリンピック記念公園の五輪噴水。(写真3)
ウッドラフ・アート・センター内の
ハイ美術館。

例えば、ウッドラフ・アート・センター(Woodruff Art Center、写真4)の一部をなすハイ美術館(High Museum of Art、写真5)は、19世紀および20世紀のアメリカ美術、ヨーロッパ美術、装飾美術、モダン・アート、コンテンポラリー・ アート、写真など11,000点の作品を所蔵するアトランタ随一の美術館です。1928 年にハイ家が美術作品の展示用に寄贈した個人の邸宅を美術館にしたのが始まり で、1983年にリチャード・マイヤーの設計によって新築・改装され、レンゾ・ピ アノが設計した新館を2005年に建築しました。ニューヨーク近代美術館(MOMA) と提携して現代美術にも力を入れています(日本で言うところのいわゆる≪借りもの展≫が多いのですが……)。


ウッドラフ・アート・センター(Woodruff Art Center、写真4)

ハイ美術館(High Museum of Art、写真5)
アトランタ空港のほぼ全体が、
美術館。

さらに、皆さんが驚かれるのは、アトランタ空港のほぼ全体が、美術館水準の作品で溢れ、事実上の公立ギャラリーとなっていることでしょう(写真6)。アト ランタ空港によれば、≪空港で美術館水準のアートを観ることができることに驚 き、喜んだ旅客からのレターが常に沢山届いている≫とのこと。一番役に立つの は、出発遅延の際に、その時間を利用してアート鑑賞が出来るため、旅客が時間 を無駄にしたという気持ちにならないことだそうです。筆者の眼から観てもこれ は、旅客の経験の幅を広げ、ひいては市民の文化度を高めることにも貢献してい るように伺われます。


アトランタ空港の通路(写真6)
交通局の基金を最初に
アートに対して交付したアトランタ空港。

アトランタ空港のアート・プログラムは、年1-2百万ドル(78-156百万円)の美術品購入・維持予算のほか、特別予算として、建設費の1%を企画開発局が管理するアーティスト向け費用(engage artists)に充てています。これは、社会資本建設費の1%をアートプログラムに充てるアトランタ市の制度に沿ったもので す。例えば、本年5月に開業した新国際線ターミナルでは、総工費5.5億ドル (430億円)を要したので、うち5.5百万ドル(4.3億円)がアート予算に充てら れることになります。

1970年代後半からの空港アート(art-in-airports)ムーブメントの嚆矢として、 アートに対して交通局の基金を最初に交付したのがアトランタ空港でした。ただ、 専門のスタッフを手当することなく開始したため、空港への最初の常設展示作品の導入後は、しばらく休眠状態に陥ってしまったそうです。1996年のアトラン タ・オリンピックのため市を挙げて準備を始める時にようやく再活性化したとい います。現在では、専門スタッフを確保し、展示替え、常設作品の発注制作、音 楽ライブの3つの仕組みを活用することによって、プログラムの活性度を保って いるとのことです。

出典:”Airport Art Programs Find Creative Ways to Survive Tough Economy, ” Rebecca Douglas, Airport Improvement Magazine – September-October 2009

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アメリカの空港アート・プログラムとしては、アトランタ空港のほか、1998年に 国際線ターミナルでアート&カルチャープログラムを創設したアルバニー空港、 2006年にアートプログラム基本計画を策定したサンディエゴ空港、サンフランシ スコ空港、オーランド空港、サンアントニオ空港などが知られています。これら とは比較にはならない小規模ではありますが、日本でも空港アートは存在します。 例えば、筆者が過去にアドバイザーを務めた「ANA Meets Arts」は若い芸術家たちを支援しようという社員の提案を実現する取り組みの一つとして、羽田空港 北ピア・ラウンジで2006年に始まった展示プログラムです。成田空港内にもギャ ラリーやパブリック・アートはあります。

今回アトランタ空港で印象深かったのは、≪リサイクル・ランウェイ(Recycle Runway)≫という展覧会でした(写真7、8)。アーティストであり、環境教育家 でもあるナンシー・ジャッド(Nancy Judd)女史が様々な廃物を利用してドレスなど服飾品を制作し、展示するもので、アルバカーキ空港(2007-2008)、ピッ ツバーグ空港(2008-2009)、フェニックス空港(2010)での展示に続いて、ア トランタ空港でも開催されたものです。このコラムでは紙幅の関係上、多くの画 像は紹介できませんが、日本の空港でも開催できると良いですね。是非公式ウェ ブサイトを覗いてみてください。

Recycle Runway公式ウェブサイト


ナンシー・ジャッド『リサイクル・ランウェイ(Recycle Runway)』展。(写真7)

スチュワーデスの制服もリサイクル品で制作。(写真8)