クールジャパン? 気鋭のアート? 言葉を駆使しても表現しきれぬものは、この世にたくさんあるのです。

(2010.08.24)
第11回岡本太郎現代芸術賞にて岡本敏子賞を受賞した折に制作された、上田順平作「ウラシマピーターパン」。太陽の塔など岡本太郎へのオマージュ的パーツが見て取れる。写真/Kazuo Fukunaga ©Jumpei Ueda、Courtesy imura art gallery

「BASARA」。婆娑羅(中世南北朝期に流行した社会風潮)という言葉を源とする展覧会のタイトルだ。キュレートしたのは、現代美術家、天明屋尚氏。縄文スピリッツから端を発する原始的でダイナミックな文化。侘び、寂び、禅のもう片方に流れる日本の美学の系譜にスポットをあてたというものだった。氏が選び抜いた多彩なアート作品から、age嬢のデコ、族車、変わり兜、縄文土器、デコトラと時代と表現物が交差し、絢爛豪華かつ反骨精神を併せ持つ遺伝子が根底に流れ、ひとつの場と成り現れ出でた。それは連日の大入り満員。歓喜と狂乱の中、幕を閉じた。まるで4日間の夢の宴のように。
(於スパイラルガーデン スパイラル1階 2010年8月4日〜7日)

オープニングレセプションの開催された初日は2000名を超える来場者だったという。人、人、人で、作品も思うように見て回れぬほどの混雑ぶり。この日の目玉は、刺青師shige氏によるライブパフォーマンス。社会で言うところの、いわゆるモテタイプの男女が集結していた客層は興味深い。そんな彼らが陶酔するかのようにショーを見入る様子は、なんとも印象的だった。生きている人間の肌がキャンバスとなる。瞬間の潔い表現、迷いの許されぬアートなのだと表現するものもいる。

そんな熱気と人とで埋めつくされた展覧会場初日にて、導かれるように出会えたという偶有性。人と人の隙間を流れ、言葉を交わし触れ合うことの叶った作家は3人。この縁をリスペクトし、彼らのことをここに紹介させて頂こうと思う。

 

上田 順平

1978年大阪府生まれ。2004年ギャラリー16で初個展。『日韓現代陶芸—新世代の交感展』(愛知県陶磁資料館)などグループ展多数。2006年『京都府美術工芸新鋭選抜展』で工芸部門最優秀賞、2008年、『第11回岡本太郎現代芸術賞展』で岡本敏子賞を受賞。

取り扱いギャラリー

 
一見キュートな表情を見せるが、よく見ればあらゆる要素が連なるキッチュな作品を生む。祈りも、反抗も、悦びも、悲しみも、全てが表現されている。「美術」というカテゴリーのなかったいにしえの日本。明治以降、西洋文化と共に投入された考え方の一つにすぎない。ならば今、日本でしていることは何?浮かぶ疑問の果てに、今、此処でできることに無心に向う。

今後の予定

平成22年度五島記念文化賞 美術新人賞を受け、2010年9月から1年間の予定で、生命科学芸術学院(メキシコ・トルーカ)にて滞在制作予定。

 

左、作家上田順平さん。右、イムラアートギャラリーオーナー井村優三さん。中央には上田さんの作品「ツカイノモノ」が鎮座する。
言葉や形状からイマジネーションが連鎖されていくという。金太郎からクマ、クマがケンタウルス、ヘルメットが……と。無限性を示すかのよう。摩訶不思議な魅力の「キンタウルス」。Copyright:Jumpei Ueda、Courtesy imura art gallery

 

金 理有(キム リユ)

1980年 日本人の父、韓国人の母のもと大阪府に生まれる。2006年大阪芸術大学大学院芸術制作研究科修士課程修了。2005年同大学院研究員、非常勤助手を経て現在までに多数の個展、グループ展をこなす。「神戸ビエンナーレ2009」現代陶芸展準大賞受賞。『へうげもの十作』『イケヤン☆』メンバー。

取り扱いギャラリー

 
原初の土から生まれたように無垢でエネルギッシュな陶器。その制作ソースは、SF、漫画、ヒップホップ、古代祭器など。何者にも属さぬ曖昧性が強さに転じた時、その多様性を受け入れる(許す)がゆえの癒しが生まれる。大いなる他力に委ねる無私の姿勢が実に自由。純真さが愛しく、静けさが優しい。金理有の手を媒介し現れるのはそんな言葉の当てはまる作品群。

今後の予定

9月1日〜5日、韓国光州にて開催の「Art Gwangju」に参加。光州ビエンナーレに伴う初のアートフェアとなるもの。作家本人も現地滞在予定。
10月11日〜24日、『ニュートロン京都』にて巡回&新作展

左、アートギャラリー「ニュートロン」オーナー石橋圭吾さん。中、作家、金理有さん。目玉が印象的なオブジェは、数点揃うと益々生き物のようで楽しそう。
タイトル「破脳奮小鬼」。金属のような肌の陶磁器。祈りや守りのような文様は、宇宙エネルギーを現しているよう。宗教とアートがまだ一つだった頃を思わせる。
2009年から制作開始の楽焼茶碗。茶道の知識が駆使されたものではないのが逆に興味をそそるほど手に馴染み、味わい深さを余韻に残す。

 

上出長右衛門窯×丸若屋

丸若屋

代表を勤める丸若裕俊(まるわかひろとし)を中心に、日本のものづくりをテーマに「人が望む物は何なのか」「何処に向かうべきか」をメインコンセプトとしプロデュースとスタイリングを行う。時代の求める“作り手”と“売り手”そして“使い手”を探し育むことから、個々を一つの線で結ぶ為の架け橋迄、エッジの効いた感性でトータル提案する。
 

上出長右衛門窯

石川県の代表的伝統工芸「九谷焼」窯元。明治12年創業以来、手作業で丹誠込め仕上げる昔ながらの技法で続けられる。九谷特有の彩り鮮やかな上絵付けと深い発色の染付け、そして何より丈夫で美しい生地が魅力。

日本のものづくりに真心に向かい、問い続ける丸若裕俊氏。彼にプロデュースされるものは、美術、工芸、工業などカテゴリーにとらわれてはいない。進化を遂げる現代(いま)という時の中に無理なくそぐい、日々の営みへクールに「粋」を添えてくれる。「普通」の中にこそ美を見出す日本古来の感性が在ることはご存知だろうか。それが丸若屋には、息づいている。

今後の予定

丸若屋
越前漆による新商品「aisomo cosomo」 オンラインショップにて発売開始。
安らぐ質感や、目に潤いをもたらす色合わせ。高級なものだから大切にするのではなく、毎日の愛おしい存在として。江戸中期1803年創業の「漆琳堂」製。

上出長右衛門窯 
8月28日〜9月8日 笛吹展 『ギャラリーアルトラ』(金沢)にて。

 

髑髏という王道のアイコンを用いクラッシックな花詰めを施した菓子壷。絵付けは上出さんにより選ばれた鈴木朋子さん。全てが相まって堂々たる存在感を放つ。
左、今回の記事のきっかけを下さったウェブダカーポ編集長、小松勇二さん。右、長右衛門窯の次代を継ぐ上出恵悟さん。魅力的な作品を生む作家でもある。

 

幸運にも出会えたこの3者共に、各々の好奇心の矛先へ無心に向う姿を見る。その純粋さが、
移ろうこの世のありのままを受け入れる力となり、世界に流されない自由さを生むのだろう。
そして、その方が実は自然で楽な生き方なのだと。

これからも、それぞれが、それぞれの道を屈託なく歩むことだろう。どこかで出会ってみたいという方は、チェック要だ!